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自賠責保険金請求行政書士報酬一部を暴利行為とした地裁判決紹介

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令和 4年 4月13日(水):初稿
○行政書士である被告に自動車損害賠償責任保険の死亡保険金の請求手続等の事務を委任する契約を締結し、同契約に基づいて被告に報酬300万円をを支払った原告が、高額に過ぎる報酬を原告から受領した被告の行為は暴利行為であり、また、弁護士法72条が禁止する非弁行為に当たるなどとして、不法行為に基づく損害賠償として、支払済み300万円に慰謝料100万円と弁護士費用40万円の合計440万円を請求しました。

○これに対し、報酬金300万円と弁護士費用19万円た事案において、自賠責保険金請求書類作成適正手数料として10万円を差し引いた290万円とその1割相当の29万円の弁護士費用を合計した319万円の支払を認めた令和3年3月11日神戸地裁洲本支部判決(判時2509号○頁)関連部分を紹介します。

○被告行政書士は、自賠責死亡保険金として約3000万円を回収し、報酬として1割相当額の300万円を受領しました。自賠責保険金請求手続での当事務所での報酬基準は「交通事故事件弁護士費用と取扱例等」以下の通りで、その基準で3000万円回収した場合93万円です。判決は、行政書士としての書類作成適正報酬額は10万円とし、それを超える290万円を暴利行為としました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,319万円及びこれに対する平成29年2月3日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 事案の概要等
1 請求

(1) 被告は,原告に対し,金440万円及びこれに対する平成29年2月3日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言

2 事案の概要
 原告は,行政書士である被告との間で自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)等の請求事務を委任する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した者である。本件は,原告が,被告に対し,被告が,本件契約締結以前に原告は弁護士との間で交通事故に関する示談交渉について委任契約を締結していたにもかかわらず,弁護士との委任契約を解除するよう強引に勧めた上,被告との間で高額に過ぎる無効な報酬の合意を含む本件契約を締結させ,300万円という高額な報酬金を請求して受領する暴利行為に及んだなどと主張して,不法行為に基づき,損害賠償金440万円(前記報酬金相当額300万円,慰謝料100万円及び弁護士費用40万円)及び不法行為の日(前記報酬金の支払日)である平成29年2月3日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。

3 前提事実(当事者間に争いのない事実,括弧内に記載した証拠〔枝番号を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

         (中略)

(6) 本件契約の締結(甲3,被告本人)
 原告は,平成28年10月6日,被告に対し,本件事故に関する自賠責保険等の請求事務を委任した(本件契約)。本件契約には,次の内容が含まれている。なお,これらは,いずれも被告が自賠責保険の請求事務について受任する際定型的に用いている契約条項であった。
ア 原告は被告に対して交通事故被害に関して自賠責保険等の請求事務を委任するものとする。

イ 原告は被告に対して本件契約締結後,引受金(当面の交通費・通信費)として現金で3万円を支払うものとする。ただし,完結までの期間が長期にわたり,交通費・通信費が3万円を超過している場合には,原告・被告は誠意をもって協議し,引受金として総額10万円(上記3万円を含む)の範囲内で支払う。なお,交通費等が10万円を大幅に超過する特殊な事案が発生する場合には事前に原告・被告はお互いに誠意をもって,協議するものとする。

ウ 原告は被告の自賠責保険等請求事務については,請求事務に関係する書類の増大・複雑多様・難易等保険金請求事務としての特殊性に鑑み,よって保険会社等より原告に支払われた保険金等の金額の10%を支払うものとする。(以下「本件報酬条項」という。)

(7) 自賠責保険の請求及び支払(甲7,11,12)
 被告は,平成28年11月1日,本件契約に基づき,原告等のために,受取人を原告として,三井住友海上火災保険株式会社に対し,本件事故に係る自賠責保険の被害者請求を行った。三井住友海上火災保険株式会社は,原告に対し,平成29年1月31日,自賠責保険金3000万7790円を支払った。

(8) 被告への報酬の支払(甲8,弁論の全趣旨)
 被告は,平成29年2月3日,原告に対し,本件契約に基づく保険金請求の報酬として,300万円の支払を請求した。原告は,同日,被告に対し,同報酬として300万円を支払った(以下「本件報酬」という。)。なお,原告は,本件報酬以外に,前記(6)イの引受金3万円を被告に対し支払っている。

4 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 不法行為の成否

 (原告の主張)

         (中略)

(2) 損害額
(原告の主張)
ア 財産的損害 300万円
 原告は,強引な勧誘により締結され,暴利行為または非弁行為に該当する本件契約に基づいて,報酬として300万円を支払っており,同額の損害を被った。

 暴利行為論は,悪質な取引そのものから被害者を解放する機能があることからすれば,報酬として相当な額を超える部分を損害とするのではなく,全額を損害と考えるべきである。また,被告は,本件契約に基づいて業務を行っているものの,遂行した業務に対する報酬として相当な額を損害額から控除することは,当事者の合意に基づかない報酬請求を認めることになるから,委任契約は無償が原則であり,受任者は特約がなければ報酬は請求し得ないことに照らし,相当ではない。

 また,被告が強引な勧誘をせず,原告が本件解除をしなければ,d法律事務所が自賠責保険の保険金請求を行い,その報酬は付保会社の弁護士費用特約から支払われた蓋然性が高いことに照らしても,300万円全額を損害とすべきである。

イ 慰謝料 100万円
 一連の経過を踏まえると,被告は,原告が被った財産的損害のほかに,精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべき義務を負うものと解され,その額は100万円が相当である。

ウ 弁護士費用 40万円

(被告の主張)
ア 本件契約が暴利行為に当たるとしても,高額に過ぎる部分を修正すれば足りる。また,被告は,本件契約に基づいて業務を行っているから,公平の観点からは,遂行した業務に対する報酬として相当な額を損害額からから控除することが相当である。被告は,前記(1)ア記載の業務等を行っており,少なくとも150万円が控除されるべきである。

イ 財産的損害が賠償されれば原告の損害は回復し,精神的苦痛も慰謝されるのであるから,財産的損害の賠償を超えて,別途慰謝料の支払を命じる必要性はない。

ウ 弁護士費用は争う。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実,後掲の証拠(枝番号を含む)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 原告は,平成28年7月または8月頃,Aが任意保険を契約していた保険会社である損害保険ジャパン株式会社(以下「本件保険会社」という。)から電話があった際,担当者から「弁護士さんがきちっとしてくれてますか。早く進んでますか」と尋ねられ,「あまり進んでないです」と答えた。この電話の中で,同担当者は,「いつでも弁護士さんを替えていいですよ」と述べた。(甲15,23,原告本人)

(2) 原告は,出海仏具店に仏具を買いに行った際,同店店員に対し,保険会社から紹介された弁護士に本件事故について依頼をしているが,話が進んでいないなどと述べた。同店員は,平成28年9月30日,原告に対し,本件事故を目撃した人物としてFを紹介した。原告は,同年10月1日,Fと会い,Fは交通事故に詳しい人物として被告を紹介した。原告は,同日,Fと共に被告事務所に行って,本件面談に至った。Fは,本件面談に至る前,被告に対し,原告に関し,5月の交通事故について一向に進んでないので何とかしてくれないか,などと述べた。(甲23,原告本人,被告本人,弁論の全趣旨)

(3) 被告は,本件面談において,原告に対し,d法律事務所との委任契約に関し,原告が「全然1円ももらってないですよ」と述べたのに対し,「それはあかんわ」と述べ,原告が「かえられるの?」と尋ねたのに対し,「もう断ったらええだけですわ」,「悪いけど,先生,何もしてくれてないんで,私また別の先生頼むなりしますんで,お断りしますいうて,はっきり言ったらええ」と述べた。また,被告は,「悪い弁護士・・・あかんです。もしかしたら癒着しとる可能性もある。もう,そんなもん,相手にしたらあかん」などとも述べた。

(4) 原告は,平成28年10月2日または3日,本件保険会社の担当者に電話し,d法律事務所への委任を解約して支障がないか確認するとともに,別の弁護士の紹介を依頼した。原告は,同月3日,d法律事務所に電話し,本件解約の申入れをした。(原告本人,甲23)

(5) 原告は,平成28年10月6日,原告の印章を持参して被告事務所を訪れ,本件契約を締結した。(甲3,原告本人,弁論の全趣旨)
 なお,原告は,同日,被告への依頼を断ろうと思って被告の事務所を訪れたのに,被告から大声で「どないすんねや」,「早く署名しろ」などと言われて本件契約に至った旨主張し,原告本人はこれに沿う供述をする。

しかし,原告は,本件面談から間もなく本件解約をして本件契約へ至っているところ,こうした経緯によると,原告は,本件面談を経て,d法律事務所への依頼を断って被告に依頼することとしたと考えるのが合理的である。また,原告が被告への依頼を断ろうと思ったのであれば,わざわざ印章を持参して被告事務所を訪れる必要は乏しく,不自然である。以上によれば,原告の主張及び供述は採用することができない。

(6) 被告は,平成28年10月31日,本件契約に基づき,所定の書式を用いて,請求者(被告)の住所,氏名及び電話番号,被害者(A)の氏名,受取人(原告)の金融機関の口座等を記載して,自賠責保険の支払請求書兼支払指図書を作成し(以下「本件請求書」という。),同年11月1日,三井住友海上火災保険株式会社に対し本件請求書を送付した。

被告は,本件請求書の他,同保険会社に対し,被告が本件事故の現場を訪れて同年10月26日に作成した事故発生状況報告書,本件事故の現場付近の地図,本件事故の交通事故証明書,原告等及びGの委任状や印鑑登録証明書,死亡届,葬儀費用に関する資料,Aの源泉徴収票,原告の確定申告書の控え,原告らの戸籍全部事項証明書等の書類も提出した。(甲11)

(7) 日本行政書士連合会が,会員から無作為抽出した6652名に対し実施した平成27年度報酬額統計調査(回収数2055,回収率30.9%)の結果,自賠責保険請求に関する行政書士の報酬額については,32件の回答があり,その平均額は13万2119円,最小値は5400円,最大値は54万円,最頻値は10万円であった。(甲13,乙27)

 本件保険会社の個人用自動車保険における弁護士費用特約では,「法律相談・書類作成費用保険金」(行政書士が行う法律相談及び書類の作成が含まれる)の上限は10万円と定められている。(甲18)

(8) 本件保険会社は,自賠責保険の死亡事案の被害者請求に当たり,提出が必要な書類として,請求書の他に,請求者の印鑑証明書,交通事故証明書,事故発生状況説明書,確定申告書(控),戸籍(除籍)謄本,委任状,損害を証明する領収書等を挙げている。(甲20)

2 争点(1)について
(1) 前提事実及び前記1の認定事実によれば,本件契約において被告が受任した事務は自賠責保険の請求事務であるが,同事務は,定型的な書式に必要事項を記入して請求書を完成させた上,保険会社が定型的に提出を求める書類を添付して提出するというものである。被告が作成した本件請求書について,被告が記入をしたのは,関係者の住所氏名等の情報や,振込先口座の情報といった形式的な内容に過ぎない。

このように定型的であり,格別の裁量的判断を伴わないという事務の性質によると,300万円という本件報酬の額は,著しく過大で業務に見合わないものと認められる。そして,被告は,官公署に提出する書類等を作成することを業とする行政書士である一方,原告は一般の会社員であった者であることからすると,被告は,原告の自賠責保険の請求に関する経験や知識の乏しさに乗じて,前記のように著しく過大で業務に見合わない報酬を受領したものといわざるを得ない。以上によれば,被告が本件報酬条項に基づいて原告から300万円を受領したことは暴利行為であり,不法行為が成立するものと認められる。

 被告は,日本行政書士連合会中央研修所作成の資料(乙1)を根拠として,同連合会も報酬額算出方法として成功報酬による手法を認めている旨主張する(なお,同資料において成功報酬による手法が考えられる例として示されているのは,制度資金融資申請や,国民生活金融公庫の各種申請であり,自賠責保険の請求ではない。)。しかし,仮に行政書士の業務に関し成功報酬を定め得たとしても,300万円という本件報酬の額が著しく過大で業務に見合わないことを何ら否定するものではない。

 また,被告は,本件事故の現場で測量し本件事故現場の図面を作成したり,自賠責保険会社の逸失利益に関する審査ミスを防ぐなどしており,本件報酬が高額に過ぎるとはいえない旨主張する。しかし,結局のところ,これらの業務も,前記のとおり,定型的な書式に必要事項を記入して請求書を完成させた上,保険会社が定型的に提出を求める書類を添付して提出するという範疇を超えるものではないから,被告がそのような業務を行っていたとしても,前記認定を左右するものではない。

(2) 原告は,本件解約を薦めてまで被告に依頼するよう勧誘するなどしたことは,強引な勧誘であるから,こうした勧誘も不法行為に当たる旨主張する。
 確かに,本件面談における被告の発言の中には,癒着している可能性があるなどと,根拠もなくd法律事務所を貶めるものや,本件解約を勧めるものがある。しかし,前提事実及び前記1の認定事実によれば,原告は,本件面談に至る以前から,知人に対しd法律事務所の事務が進行しない旨述べたり,本件保険会社に対してもd法律事務所への委任を解約し他の弁護士へ依頼することの可否を確認したりしていたのであり,被告の勧誘以前からd法律事務所に対し,相当の不満を抱いていて,委任の解約も検討していたものと考えられ,被告は,Fを通じて,原告がd法律事務所に対し不満を有していることを知っていたと認められる。

さらに,被告の発言は,原告が弁護士をかえられるのかと尋ねたことに対する回答という側面もある。そうすると,本件面談における被告の発言は,原告の意向に同調してされたものと考えられるのであり,原告の解約の意向を後押ししたとはいえるものの,強引な勧誘であり不法行為が成立するとまでいうことはできない。

3 争点(2)について
(1) 前提事実及び前記1の認定事実によれば,原告は,本件報酬として300万円を支払っているが,一方で,被告に自賠責保険の請求を代行してもらったという経済的利益を得ており,本件報酬全額に相当する損害が生じたとはいい難い。日本行政書士連合会が大規模に実施した調査によると,自賠責保険請求の報酬の平均額は13万2119円,最小値は5400円,最大値は54万円,最頻値は10万円であったこと,本件保険会社の個人用自動車保険における弁護士費用特約では,行政書士が行う法律相談及び書類の作成費用の上限は10万円とされていること,原告が本件報酬以外に引受金3万円を被告に対し支払っていることを踏まえると,原告に生じた経済的損害は,290万円と認めるのが相当である。

(2) 被告が本件報酬条項に基づいて原告から300万円を受領したことは暴利行為であり,不法行為が成立する
ことは前記のとおりである。もっとも,この暴利行為によって原告が精神的苦痛を受けたとしても,財産的損害が回復されれば慰謝されるものと考えられるから,慰謝料は認められない。

(3) 本件事案の難易,認容額その他諸般の事情を勘案すると,原告の弁護士費用相当額の損害は,29万円と認めるのが相当である。

4 よって,原告の請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
 神戸地方裁判所洲本支部 (裁判官 平工信鷹)

以上:6,975文字

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