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人身傷害保険金は先ず被害者過失割合部分充当とした最高裁判決紹介

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令和 4年 3月31日(木):初稿
○「人傷保険会社の自賠責保険金回収を加害者弁済とした高裁判決紹介」の続きで、その上告審令和4年3月24日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)全文を紹介します。

○「人傷保険会社の自賠責保険金回収を加害者弁済とした高裁判決紹介」で、「(被害者)Xの損害額は弁護士費用を除いて341万1398円と認定し、Xの過失割合30%部分は102万3419円と認定しましたので、XはYに対し、Yの過失割合部分238万7978円請求でき、ここから既払金98万7697円と、人傷保険金保険金111万0181円と自己過失割合部分102万3419円の差額8万6762円を差し引いた131万3519円の支払が認められて然るべき」と記載していました。

○令和4年3月24日最高裁判決は、その趣旨と同様に解釈して、人身傷害保険について保険会社が被害者に対して自賠責保険分を含めて一括払することを合意した場合においても,人傷保険会社が自賠責保険から支払を受けた損害賠償額相当額を被害者の損害賠償請求権の額から控除することができないとして、高裁判決を変更して156万円の支払を認めました。

○この最高裁判決は、過失相殺が存在する交通事故損害賠償請求における人傷保険金の意味について、先ず被害者の過失割合部分損害に充当されることを確認した極めて重要な判決です。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)上告人の控訴に基づき第1審判決を次のとおり変更する。
 被上告人は,上告人に対し,156万3978円及びうち140万7804円に対する平成30年5月31日から,うち14万円に対する平成29年4月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人の附帯控訴を棄却する。
2 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人宮田卓弥ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,交通事故によって傷害を受けた上告人が,加害車両の運転者である被上告人に対し,民法709条又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償を求める事案である。本件においては,上告人の夫との間で人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結していた保険会社が,上記交通事故によって生じた上告人の損害について,自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払として金員を受領していることから,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から上記金員に相当する額を全額控除することができるか否かが争われている。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成29年4月25日,普通乗用自動車を運転中,交差点において,被上告人運転の普通乗用自動車と衝突し,頸椎捻挫等の傷害を受けた(以下,この事故を「本件事故」という。)。

(2)本件事故により上告人に生じた損害の額(弁護士費用相当額を除く。)は,合計341万1398円であるが,本件事故における上告人の過失割合は3割であることから、上記割合により過失相殺をすると,上告人が被上告人に対して賠償請求することができる損害金の額(弁護士費用相当額を除く。)は,238万7979円となる。

(3)上告人は,本件事故によって生じた損害について,平成29年6月までに,被上告人が締結する対人賠償責任保険契約に基づく保険金23万8237円の支払を受け,平成30年3月12日には,自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として75万円を受領した。 

(4)上告人の夫は,本件事故当時,三井住友海上火災保険株式会社(以下「訴外保険会社」という。)との間で,人身傷害条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており,上告人は上記条項に係る被保険者であった。

(5)本件約款中の人身傷害条項及び基本条項には,要旨,次のような定めがあった。
ア 訴外保険会社は,被保険車両の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者等に生じた損害に対して,保険金(以下「人身傷害保険金」という。)を支払う。

イ 訴外保険会社の支払う人身傷害保険金の額は,人身傷害保険金額を限度として,本件約款所定の算定基準に従い算定された損害額(その額が自賠責保険から支払われる金額を下回る場合には,自賠責保険によって支払われる金額となる。また,賠償義務者があり,かつ,判決又は裁判上の和解において,賠償義務者が負担すべき損害賠償額が上記算定基準と異なる基準により算出された場合であって,その基準が社会通念上妥当であると認められるときは,その基準により算出された額のうち,訴訟費用等を除いた額となる。)から,人身傷害保険金の請求権者に対して自賠責保険によって支払われた金員等の既払額を差し引いた額とする。

ウ 上記アの損害が生じたことにより人身傷害保険金の請求権者が損害賠償請求権その他の債権を取得し,その損害に対して訴外保険会社が支払った人身傷害保険金の額が上記イの損害額の全額に満たない場合には,上記債権の額から,人身傷害保険金が支払われていない損害の額を差し引いた額の限度で,上記債権が訴外保険会社に移転する(以下「本件代位条項」という。)。

(6)上告人は,本件事故に関して,平成29年5月6日,訴外保険会社に対し,本件保険契約に基づき,対人賠償保険金及び人身傷害保険金を請求した。その際,上告人が訴外保険会社に提出した請求書(以下「本件保険金請求書」という。)には,〔1〕対人賠償保険金の請求で,自賠責保険金相当額との一括払により保険金を受領した場合は,自賠法に基づく保険金の請求受領に関する一切の権限を訴外保険会社に委任する旨,〔2〕人身傷害保険金を受領した場合は,その額を限度として上告人が有していた賠償義務者に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の請求受領権が訴外保険会社に移転することを確認する旨の各記載があった。

 上告人は,同月31日,訴外保険会社から,自ら自賠責保険に直接請求するという方法がある旨の説明を受けた上で,人身傷害保険金について,訴外保険会社が自賠責保険による損害賠償額の支払分を含めて一括して支払うことを承諾した。

(7)上告人は,平成30年5月24日,訴外保険会社に対し,本件保険契約に基づく人身傷害保険金を受領するに当たり,「保険金のお支払いについての協定書」(以下「本件協定書」という。)を提出した。本件協定書には,上告人が,本件事故による上告人の被上告人に対する損害賠償請求権は,自賠責保険への請求権を含め,受領した人身傷害保険金の額を限度として訴外保険会社に移転することを承認する旨の記載があった。

(8)上告人は,本件事故によって生じた損害について,訴外保険会社から,平成30年5月15日までに14万6683円,同月30日に96万3498円の各支払を受けた(以下,これらの金員を「本件支払金」という。)。本件約款所定の算定基準に従い算定された本件事故によって生じた上告人の損害額(209万8418円)は,本件保険契約における人身傷害保険金額の限度内であり,本件支払金は,上記損害額から,上告人が受領した上記(3)の既払額(被上告人が締結する対人賠償責任保険契約に基づく保険金23万8237円と自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として受領した75万円の合計額)を控除した額と同額であった。本件支払金の全額が人身傷害保険金であるとした場合には,本件代位条項に基づき訴外保険会社が代位取得する上告人の債権の範囲は8万6762円である。

(9)訴外保険会社は,その後,本件事故について,自賠責保険から上告人の傷害による損害賠償額の支払として83万5110円(以下「本件自賠金」という。)を受領した。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を一部認容すべきものとしたが,その際,上告人が自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として受領した75万円は支払時における損害金元本に対する本件事故の日からその支払日までの遅延損害金にまず充当されるという上告人の主張について,特段の理由を示すことなくこれを排斥し,上記金員の全額を上告人の損害金元本に充当する旨判断した。

 上告人は,自賠責保険に直接請求することもできるという選択肢を示されながら,訴外保険会社が自賠責保険金を含めて保険金を一括して支払うことを承諾し,上告人が人身傷害保険金を受領した場合は,その額を限度として上告人が有していた自賠責保険金の請求受領権が訴外保険会社に移転することを確認したのであるから,上告人と訴外保険会社との間では,上告人が訴外保険会社から受領する保険金には自賠責保険金が含まれるとの合意があったものということができる。

また,本件協定書によれば,上告人は,訴外保険会社に対し,受領した人身傷害保険金の限度で自賠責保険金の受領権限を委任したものと解される。そうすると,訴外保険会社は,上告人の委任に基づき本件自賠金の支払を受けたものであり,上告人は,これに先立ち本件支払金を受領したことにより本件自賠金の支払を受けたことになると解すべきである。したがって,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から本件自賠金に相当する額を全額控除することができる。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)本件約款によれば,人身傷害条項の適用対象となる事故によって生じた損害について訴外保険会社が保険金請求権者に支払う人身傷害保険金の額は,保険金請求権者が同事故について自賠責保険から損害賠償額の支払を受けていないときには,上記損害賠償額を考慮することなく所定の基準に従って算定されるものとされている。

このことからすれば,訴外保険会社と保険金請求権者との間で,人身傷害保険金について,訴外保険会社が保険金請求権者に対して自賠責保険による損害賠償額の支払分を含めて一括して支払う旨の合意(以下「人傷一括払合意」という。)をした場合であっても,本件のように訴外保険会社が人身傷害保険金として給付義務を負うとされている金額と同額を支払ったにすぎないときには,保険金請求権者としては人身傷害保険金のみが支払われたものと理解するのが通常であり,そこに自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれているとみるのは不自然,不合理である。

加えて,本件代位条項によれば,人身傷害保険金を支払った訴外保険会社は,人身傷害保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が,被害者について社会通念上妥当であると認められる判決等の基準により算出された過失相殺前の損害額に相当する額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の賠償義務者等に対する債権を代位取得するものとされているので,本件のように被害者の損害について過失相殺がされる場合には,訴外保険会社が人身傷害保険金の支払により代位取得することができる上記債権の範囲は保険金支払額を下回ることとなる。

この場合において,人傷一括払合意により訴外保険会社が支払う金員の中に自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれるとして,当該支払分の全額について訴外保険会社が自賠責保険から損害賠償額の支払を受けることができるものと解すると,訴外保険会社が,別途,人身傷害保険金を追加払しない限り,訴外保険会社が最終的に負担する額が減少し,被害者の損害の填補に不足が生ずることとなり得るが,このような事態が生ずる解釈は,本件約款が適用される自動車保険契約の当事者の合理的意思に合致しないものというべきである。

 また,本件保険金請求書では,対人賠償保険金の請求において自賠責保険金相当額との一括払により保険金を受領した場合には,自賠法に基づく保険金の請求及び受領に関する一切の権限を訴外保険会社に委任するものとされているのに対し,人身傷害保険金を受領した場合には,その額を限度として上告人が有していた賠償義務者に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の支払請求権が訴外保険会社に移転することを確認するものとされており,対人賠償保険金の受領の場合と人身傷害保険金の受領の場合とで異なる説明内容となっている。

さらに,本件協定書においても,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権及び自賠責保険への請求権は,上告人が受領した人身傷害保険金の額を限度として訴外保険会社に移転することを承認するものとされている。人身傷害保険金の受領に関する上記各書面の説明内容と本件代位条項を含む本件約款の内容とを併せ考慮すると,上記各書面の説明内容は,訴外保険会社が本件代位条項に基づき保険代位することができることについて確認あるいは承認する趣旨のものと解するのが相当であり,上告人が訴外保険会社に対して自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任する趣旨を含むものと解することはできない。

人傷一括払合意をしていたことは,上記の解釈を左右するものとは解し難く,そのほか,人身傷害保険金の支払を受けるに当たり,上告人が訴外保険会社に対して自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したものと解すべき事情も存しない。

 以上によれば,本件においては,上告人が訴外保険会社に対して自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したと解することはできず,訴外保険会社が上告人に対して本件支払金を支払ったことにより自賠責保険による損害賠償額の支払がされたことになると解することもできない。

本件支払金は,その全額について,本件保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものといえるから,訴外保険会社は,この支払により保険代位することができる範囲において,自賠責保険に対する請求権を含む上告人の債権を取得し,これにより上告人は被上告人に対する損害賠償請求権をその範囲で喪失したものと解すべきであり,その後に訴外保険会社が本件自賠金の支払を受けたことは,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の有無及び額に影響を及ぼすものではない。

 したがって,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から,訴外保険会社が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできないというべきである。


(2)なお,被上告人の損害賠償債務は,本件事故の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものであるところ(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),自賠責保険から損害賠償額の支払として受領した金員が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであり(最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁参照),上告人が自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として受領した金員について,本件事故の日からその支払日までの上告人の損害金元本に対する遅延損害金に充当することが否定される理由はない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
 そして,前記事実関係等及び上記4に説示したところによれば,156万3978円(弁護士費用相当額14万円を含む。)及びうち140万7804円に対する本件支払金の支払日の翌日である平成30年5月31日から,うち14万円に対する不法行為の日である平成29年4月25日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の請求は,理由があるから,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 安浪亮介 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也 裁判官 岡正晶 裁判官 堺徹)
以上:6,721文字

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