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自賠責保険適用否認交通事故について不法行為責任を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 2月25日(金):初稿
○「軽微な事故のため原告の治療に因果関係が認められないとした地裁判決紹介」で、自賠責保険適用外として損害賠償請求が棄却された事案を紹介していました。交通事故の相談を受けていると、たまに、自賠責保険から適用を否認されたとの事案があります。殆どの場合、事故が極めて軽微で車両に生じた衝突痕も殆ど認められないか、ごく、僅かしかない事案です。

○それでも身体に与えられた衝撃が大きく、頚椎捻挫等で治療を継続しており、事故が無ければ必要がなかった治療費等が認められないのは納得出来ないと主張されます。自賠責から保険適用を否認された事案を覆して自賠責保険適用を認めさせることは極めて困難で、車両に残された擦過痕等から車両に加わった衝撃等について、専門家の鑑定等が必要になります。

○このような事案で、自賠責保険会社では無く、加害者本人に約80万円の損害賠償請求訴訟を提起して、民法709条の不法行為責任を認めて約60万円の支払を命じた令和3年5月17日福岡地裁判決(自保ジャーナル2103号135頁)を紹介します。自賠責保険適用を否認されると交通事故限定弁護士費用特約も使えません。自賠責保険適用には形式的に交通事故の存在が必要なところ、自賠責保険適用を否認されると交通事故が存在しないことになるからです。

○この事案を受任し、判決を勝ち取った弁護士各位には、その使命感及びご努力に敬意を表します。

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主   文
1 被告は,原告X1に対し,64万0298円及びこれに対する平成28年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告X1のその余の請求を棄却する。
3 原告X2の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,原告X1に生じた費用の5分の1と被告に生じた費用の20分の3を原告X1の負担とし,原告X2に生じた費用と被告に生じた費用の20分の7を原告X2の負担とし,原告X1に生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告X1に対し,80万8000円及びこれに対する平成28年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,46万3000円及びこれに対する平成28年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,原告X1(以下「原告X1」という。)が運転して駐車し,原告X2(以下「原告X2」という。)が同乗していた普通乗用自動車と被告が運転する普通乗用自動車が衝突した交通事故に関し,原告らが,被告に対し,不法行為又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,原告X1については,損害金80万8000円及びこれに対する不法行為の日(交通事故の日)である平成28年6月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告X2については,損害金46万3000円及びこれに対する平成28年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

2 前提となる事実(証拠を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)

         (中略)


3 争点及び争点に関する当事者の主張

         (中略)

【被告の主張】
ア いずれも否認し,争う。原告らは,本件事故により傷害を受けていない。

イ 本件事故は,被告車の後部が,原告車の側面に軽く接触したという極めて軽微な事故で,接触(衝突)による原告車及び被告車の移動はない。原告車の損傷は軽微で,変形や凹損はなく,被告車も原告車と同様に損傷は軽微で修理をしなかったほどであった。なお,原告車の修理代が30万円となったのは,部品の取替えをしたために高額になったにすぎない。

 本件事故は,軽く横から接触された程度であるから,座席に座っている運転者又は同乗者が身体を振られたり,頭をシートベルトにぶつけたり,身体が後ろ側に振られるような衝撃は発生していないし,若干の衝撃があったとしても,その衝撃は横方向から来たもので,首の過伸展や過屈曲は発生しない。

ウ 診断書や診療録によれば,原告らにはいずれも受傷を裏付けるような骨折・血腫等の異常所見は認められていない。原告らが初めて医療機関を受診したのは,本件事故から約1週間後であり,本件事故により傷害を負ったのであれば,事故当日又は翌日には受診したはずであり,1週間も経過してから初めて受診したというのは極めて不自然である。

エ 原告X1は,医療機関において,両首筋から肩にかけての痛み,背中から腰にも徐々に症状が出てきた旨を訴えていたが,本件事故の態様と整合しない。原告X1は,初診時に両肩の痛みを訴えるなどしていたのに,整骨院では,右肩の施術を行っただけで,左肩の施術を全く行っておらず,原告X1の供述は信用に値しない。原告X1は治療開始後に症状の悪化を訴えているが,そのような状況は考え難く,事実と異なる申告がなされた可能性も否定できないし,医師から2週間後の受診を指示されていたのに,その後,その医療機関を受診していないのも極めて不自然である。

 加えて,自動車損害賠償保険金に関しても,原告らが本件事故により受傷したことは否定されている。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提となる事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 車両の損傷状況

         (中略)

2 争点1(原告らが本件事故により傷害を負ったか)について
(1) 原告X1について
ア 前記1の認定事実によれば,原告X1は,本件事故の1週間後に整形外科病院を受診し,頚部捻挫,腰部捻挫と診断され,その後,整骨院において,これらの症状に加え,右肩関節捻挫と判断され,治療や施術を受けたことが認められる。

イ 本件事故の態様についてみると,原告が原告車を駐車中,被告車が後退してきて,被告車の後部と原告車の左側部が衝突したもので,原告車の左側部については,フロントフェンダーやフロントドアパネル等に損傷が生じており,被告車の後部についても修理はされていないが,損傷がなかったわけではないことからすると,衝突時に上記損傷が生じる程度の衝撃はあったものといえる。原告X1は,本件事故後,概ね,一貫して,車が下から突き上がるような強い衝撃があり,身体が振られ,頭がシートベルトにぶつかった旨説明し(乙2の2,甲16,原告X1本人),その説明内容としては,原告X2の説明内容とも整合し,前記の事故態様や車両の損傷状況とも矛盾しない。そうすると,本件事故の際に,原告車及び被告車に移動が起きていなくても,原告X1が説明する程度の衝撃が生じたとしても,不自然なものではない。

ウ 原告X1の症状の経過についてみると,原告X1は,受診先の医師や調査会社に対し,概ね,本件事故直後には特段の症状を感じなかったが,翌日頃から,両頚筋から肩にかけての痛み,背中から腰部にかけての痛みが出て,吐き気も感じるようになった旨を説明しており,特段の変遷や矛盾はない。
 この点,被告は,原告X1が本件事故から約1週間後に医療機関を受診したのは極めて不自然である旨を主張する。

 上記の症状の経過をみると,より早期に病院を受診することが考えられるところではある。しかし,証拠(甲8,16,乙1,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,当時,生命保険外交員として勤務し,有給休暇を取得して整形外科医院を受診したことが認められるところ,仕事の都合で通院する時間を確保することができなかったことや被告側の保険会社からの連絡を待っていたこと等の事情により,約1週間後の受診になった旨を説明している。上記の症状の内容や程度を踏まえると,あり得ないことではなく,これをもって,上記の症状等がなく,症状等の訴えが虚偽であったとすることはできない。したがって,被告の上記主張をにわかに採用することはできない。

 そうすると,原告X1に生じた上記の症状は本件事故時の衝撃により引き起こされたものと推認することができる。

エ 初診後の治療等の経過をみると,原告X1は,初診日(平成28年6月23日)の2日後(同月25日)に○○整骨院を訪れ,頚部や腰部の痛みに加え,右肩の痛みも訴え,頚部捻挫,右肩関節捻挫,腰部捻挫と判断され,これらにつき施術が行われたことが認められる。この点,右肩関節捻挫については,整形外科病院では診断されていなかったものであるが,原告X1は,初診時に,医師に対し,両頚筋から肩にかけての痛みを訴えており,整骨院訪問時に右肩関節の痛みを訴え,同捻挫と判断されたとしても何ら不自然ではなく,本件事故により現れた症状の一つと推認することができる。

 この点,原告X1は,本件訴訟において,本件事故後の痛みの内容や程度につき,曖昧な供述となっている部分はあるが,上記の推認を左右するものとはいえない。

オ 以上の検討を踏まえると,原告X1が頚部捻挫,腰部捻挫,右肩関節捻挫と診断されたことにつき,本件事故の態様からみて上記の傷害が生じても不自然ではなく,症状の経過や治療等の経過をみても,原告X1が上記の傷害を負ったとすることに整合することからすると,原告X1が,本件事故により,前記の傷害を負ったものと認めるに十分であるといえる。

 この点,前記1の認定事実によれば,本件では,自動車損害賠償保険金の請求につき,本件事故と原告X1の治療との相当因果関係が認められないとして,認定対象外と判断されている。その理由としては,双方の車両に衝突に伴う移動が認められないことや明らかな変形等が認められないことから,治療を要する程度の外力が加わったとは直ちに認め難いこと,本件事故による受傷を裏付けるような骨折,血腫等の外傷性の異常所見が認められないこと等が挙げられている。

 上記の理由とされた事情自体を否定するものではないが,前記アからエまでの検討を踏まえると,自動車損害賠償保険金の請求につき,認定対象外とされたことをもって,原告X1が本件事故により前記の傷害を負ったことを覆すに足りるとはいえない。

カ 以上によれば,その他の被告の主張を踏まえても,原告X1が,本件事故により,前記の傷害を負ったものと認められ,同傷害と本件事故との相当因果関係を認めることができる。

(2) 原告X2について
 前記1の認定事実によれば,原告X2においても,○○クリニックで,腰部捻挫,両肩甲部筋筋膜炎の診断を受け,治療を受けたことは認められるところ,本件訴訟において,原告X2と連絡が取れず,同人の供述を得られない状況においては,原告X2に生じた症状の経過や受診までの状況,その後の具体的な治療経過や快復状況等が明らかではない。

 そうすると,原告X2について,腰椎捻挫及び両肩甲部筋筋膜炎に係る治療と本件事故との間の相当因果関係を認めることはできない。
 したがって,原告X2の請求については,その余の争点を判断するまでもなく,認めることはできない。

3 争点2(原告らの損害の発生及び額)について
 前記2のとおり,原告X1につき,本件事故により頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負ったものと認められることから,原告X1の損害につき,検討する。
(1) 治療費 21万1942円
ア 証拠(甲2,5の1及び2,6の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,平成28年6月23日,30日,同年7月28日に,○○クリニックにおいて,上記の傷害の治療を受け,その治療費及び薬剤費等として合計8万6852円を要したことが認められる。
 上記の治療費及び薬剤費等は,上記の傷害の治療として必要かつ相当なものと認められるから,本件事故との間に相当因果関係が認められる。

イ 証拠(甲7の1から3まで,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,平成28年6月25日以降に合計3日,同年7月に合計6日,同年8月に合計14日,○○整骨院において,頚部捻挫,右肩関節捻挫,腰部捻挫につき施術を受け,その施術料として合計17万5440円を要したことが認められる。

 上記の施術料と本件事故との相当因果関係について検討すると,前記1の認定事実によれば,原告X1は,○○整骨院において,頚部,右肩関節,腰部の痛みを訴えるなどし,その治療として施術を受けたものと認められ,整骨院での施術については,○○クリニックの医師の許可もあったものと認められる。そして,整骨院での施術により,原告X1の自覚症状の緩和や改善が進んだものとうかがわれ,およそ2か月程度で通院を終えており,施術の効果があったものと推認される。

 したがって,整骨院における施術についても,概ね,必要性及び相当性を認めることができるものの,原告X1は,前記のとおり,平成28年8月になって,施術を受ける回数が増加し,同年7月の倍以上となっており,同年8月の施術については,本件事故と相当因果関係が認められるのか,検討を要する。

 この点,原告X1は,通院開始から約1か月後に,被告側の保険会社から治療費等を負担しない旨を伝えられ,治療等を受けるのを一旦控えたところ,吐き気,頭痛等の症状が悪化した旨供述する(原告○○本人)。前記1の認定事実によれば,原告X1は,平成28年7月20日に整骨院で施術を受けた後,同月28日に整形外科病院を受診した際に,症状の悪化を訴えており,上記の供述に整合するところはある。もっとも,吐き気,頭痛の症状に対して,整骨院への通院頻度を増加させる必要性,相当性があったといえるかは疑問がないではない。そうすると,原告X1の上記供述を踏まえても,平成28年8月の施術については,本件事故と相当因果関係が認められるのは,その5割程度にとどまるものというべきである。

 以上によると,本件事故と相当因果関係が認められる施術料としては,平成28年6月分2万8080円,同年7月分4万6660円,同年8月分の5割相当額5万0350円の合計12万5090円であると認めるのが相当である。

(2) 通院交通費 1188円
 証拠(甲5の1及び2,甲7の1から3まで,甲17)及び弁論の全趣旨によれば,治療及び施術を受けていた当時の原告X1の住所地(○○)と○○クリニックとの距離は,約5.2km,上記の住所地と○○整骨院との距離は約1.5kmであると認められる。
 そうすると,○○クリニックへの通院交通費は,次の計算式により,468円と認められる。
 (計算式)5.2km×3日(通院日数)×15円×2=468円

 また,○○整骨院への通院交通費については,前記(1)のとおり,平成28年8月の施術については,本件事故と相当因果関係が認められるのは,その5割程度である7日分にとどまるものというべきである。したがって,次の計算式により,720円と認められる。
 (計算式)1.5km×16日×15円×2=720円

(3) 休業損害 8959円
 証拠(甲8,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件事故当時,○○において,生命保険外交員として勤務しており,○○クリニックで本件事故に係る傷害の治療を受けるため,1日(平成28年6月23日)休業したこと,原告X1の基礎収入は,次の計算式により,1日8959円であることが認められるから,本件事故と相当因果関係のある休業損害としては,8959円と認められる。
 (計算式)(44万5000円+10万1549円)÷61日≒8959円

(4) 傷害慰謝料 36万円
 前記1の認定事実により認められる,本件事故の態様,原告X1の受傷内容,治療経過(前記のとおり,平成28年8月の施術につき,本件事故との相当因果関係を5割程度と考えると,治療及び施術を受けた期間としては,平成28年6月23日以降,概ね2か月程度。),その他本件に現れた事情を踏まえ,傷害(入通院)慰謝料として36万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(5) 弁護士費用 5万8209円
 原告が訴訟代理人弁護士に委任して本件を追行したことは記録上顕著であり,訴訟の難易,審理の経過等に照らせば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては,5万8209円を相当と認める。

4 よって,原告X1の請求は64万0298円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,原告X2の請求は理由がないから棄却することとし,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
 福岡地方裁判所第5民事部 (裁判官 有田浩規)
以上:6,903文字

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