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軽微な事故のため原告の治療に因果関係が認められないとした地裁判決紹介

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令和 3年 9月25日(土):初稿
○自動車同士の接触・衝突事故で、車輌の毀損状況が軽微な擦過痕等しかなく車両に加わった衝撃も軽微とされる場合、車両に乗車中その事故のために傷害が生じたと主張しても、自賠責から自賠責保険が適用になる自動車事故とは認定されない場合があります。そのような事故での損害賠償請求相談を受けることがたまにありますが、自動車の毀損状況から接触・衝突を推定し、身体に受ける衝撃は軽微ではなく傷害との間に因果関係があると主張・立証しなければなりません。通常、車輌の毀損状況が軽微な擦過痕等しかない場合は、極めて困難です。

○原告車両と被告車両とが衝突した交通事故に関し、原告が被告に対し人身損害を被ったとして、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案で、本件事故による衝撃はごく軽微なものであり、本件事故により、原告は、原告車の運転席側ドア辺りで右足及び右肩辺りを打ち付けたと認められない上、本件事故による明らかな外傷所見もないのに、各医療機関において、原告の訴える自覚症状に対し、消炎鎮痛処置及びリハビリが行われたにすぎないことからすれば、本件事故の外力が原告に加わることにより原告が受傷したとは認められず、本件事故と原告の治療との間には相当因果関係が認められないなどとして、原告の請求を棄却した令和2年11月27日大阪地裁判決(自保ジャーナル2087号122頁)を紹介します。

○自賠責保険会社が、自賠責保険適用の交通事故とは認められないとする場合の定型文言は以下の通りです。
自賠責保険(共済)は,被保険者(被共済者)の賠償責任を填補することを目的とする賠償責任保険です。したがって,自賠責保険(共済)の認定対象となるためには,損害として請求された内容(治療)と事故との間に,社会通念上相当といえる因果関係が存在することが必要であり,この点は請求者側が立証責任を負っています。
 具体的には,傷害の存在や,その傷害・治療が事故を原因とする一連のものであること等について,医学的所見や事故発生状況に関する資料等によって,客観的に証明されることが必要です。
 この点、本件では ………の状況で、事故後の治療と本件事故との間の相当因果関係は認められません。


○自賠責保険会社からこのような認定を受けると、これを覆すことは極めて困難で、車両に残された擦過痕等から車両に加わった衝撃等について、専門家の鑑定等が必要になり、事故と傷害との間の、「社会通念上相当といえる因果関係が存在すること」の立証が必要になります。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告は,原告に対し,252万5034円及びこれに対する平成29年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は,原告車両と被告車両とが衝突した交通事故に関し,原告が被告に対し人身損害を被ったとして,民法709条に基づき,損害賠償及び遅延損害金の各支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1)事故の発生

 原告車両と被告車両との間で,以下のとおりの交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
ア 日時   平成29年7月10日午後4時30分頃
イ 場所   大阪府守口市<以下略>先路上(以下「本件事故現場」という。)
ウ 原告車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)
エ 被告車両 普通貨物自動車(以下「被告車」という。)
オ 事故態様 後退した被告車が原告車の左側面に衝突

(2)責任原因
 車両の運転者が,後退を開始させる際には,後方の状況を十分に確認し,自車の後方に他車が接近している場合には他車との衝突を回避し得る状況になった後に後退を開始すべき義務があるにもかかわらず,被告は漫然と被告車の後退を開始させた過失により本件事故を発生させたものである。
 よって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。

(3)通院状況(なお,相当因果関係については争いがある。)
ア a整形外科
 平成29年7月10日から同月26日まで(実通院日数9日)
イ bクリニック
 平成29年7月28日から平成30年2月20日まで(実通院日数92日)

(4)自賠責保険の判断
 原告が,被告が契約する任意保険会社の担当者に対し,病院を転院する旨を告げたところ,同担当者は,転院後の治療費の支払を拒否し,同任意保険会社において,自賠責保険に対し,いわゆる事前認定を申請したところ,自賠責保険は,下記のとおりの理由を付して,本件事故と相当因果関係が認められる治療として,a整形外科における平成29年7月10日の治療のみ認定し,同月12日以降の治療については,自賠責保険の認定対象外と判断した。その後,原告は,同判断に対し,異議申立てをしたが,同判断は覆らなかった。

       記

 「自賠責保険(共済)は,被保険者(被共済者)の賠償責任を填補することを目的とする賠償責任保険です。したがって,自賠責保険(共済)の認定対象となるためには,損害として請求された内容(治療)と事故との間に,社会通念上相当といえる因果関係が存在することが必要であり,この点は請求者側が立証責任を負っています。

 具体的には,傷害の存在や,その傷害・治療が事故を原因とする一連のものであること等について,医学的所見や事故発生状況に関する資料等によって,客観的に証明されることが必要です。


 この点,本件は,丁字路交差点において,前が詰まってしまい後退したP2様運転車両が後続のP1様運転車両に衝突した事故ですが,P1様運転車両の物的損害は,提出のカラー写真上,軽微なものと捉えられます。このような事故態様,物的損害の程度等からすると,本件事故によって、P1様の身体に医療機関での治療を要する程度の外力が加わったとは直ちに認められません。

 上記の事情に加え,a整形外科発行の診断書上,レントゲンによる異常所見や神経学的異常所見が認められていないこと等も勘案すれば,本件事故によって『頸椎捻挫,右足関節捻挫』の症状が生じたものとは捉えられません。 
 したがって,事故後の治療と本件事故との間の相当因果関係は認められないものの,a整形外科における平成29年7月10日初診時の治療については,検査治療として認定可能と判断し,上記結論のとおりです。」

2 争点
(1)事故状況

(原告の主張)
 原告車が,被告車の後方を走行していたところ,被告車が進行方向左の路地に左折するために左の方向指示器を出し減速したことから,原告車も被告車に続いて減速した。その後,被告車は,左折を開始したことから,直進しようと考えていた原告は,被告車が左折していく速度と同程度の速度で直進していたところ,被告車がブレーキを掛けて停車するや否や,突然,被告車が後退を開始した。原告は,被告車が停車するのに合わせて原告車を停車させることはできたが,被告車との衝突を回避することはできず,被告車の右後方が,原告車の左側面に衝突した。

(被告の主張)
ア 現場の見分状況書添付の交通事故現場見取図(略)は,道路幅員や車両の大きさなどが実際のスケールと著しく異なっており,本件事故現場の道路状況等,本件事故現場の見取図としては,別紙図面(略)が適切である。

イ 被告車が,左折する途中の〔1〕地点で停止した時に,原告車は,[ア]地点で一旦停止し,その後,原告車は,[イ]地点まで進行した。被告車は,〔1〕地点から〔2〕地点まで後退し,その後部右角が原告車左後部ドアに衝突した。

(2)原告の受傷の有無及び治療の相当性
(原告の主張)
ア 衝突の衝撃で,原告車の左側が浮き上がった状態になり,原告車が右側に傾くような状態になったことから,原告は,原告車両の運転席側ドア辺りで右足及び右肩辺りを打ち付けた。

イ 原告車は,左後部座席ドア全体を損傷し,板金修理では対応できない程のへこみであったことから,同ドア全体の交換を余儀なくされている。そのような損傷を生じさせる程度の衝撃があったのであるから,原告にむち打ち損傷を生じさせるに十分な衝撃があったことは明らかである。

ウ 原告は,本件事故の処理が終わるや否や,直ちにa整形外科を受診し,右足の痛みと肩の痛みを訴えるとともに,原告を診察したP3医師も,頸椎捻挫及び右足関節捻挫と診断している。bクリニックに転院した初診時である平成29年7月28日にはスパーリングテストやジャクソンテストのいずれもが陽性反応を示しており,原告はその後もリハビリや右肩に注射を打ってもらうなどの治療を継続したものの,痛みが治まらない状況が続いたため,自賠責保険が本件事故と治療との因果関係を否定する判断をした平成29年11月2日以降も,治療を継続し,平成30年2月5日に症状固定と診断されたから,それまでの間治療が必要であったことは明らかである。

(被告の主張)
ア 被告は,丁字路交差点を左折するに当たり,別紙図面〔1〕地点から切り返すために後退し,同〔2〕地点で原告車に衝突して停止した。この衝突により,被告車は損傷しなかった。原告車の損傷状況も,原告車の左側面にわずかな接触痕が認められるだけで,大きく凹損した痕跡は認められない。本件事故による衝撃は極めて軽微なものであって,それによって原告車の左側が浮き上がった状態になり,原告が原告車の運転席側ドア辺りで右足及び右肩辺りを打ち付けたとは到底考えられない。

イ a整形外科への通院のうち,第2回目以降の受診については,本件事故との相当因果関係を否認する。同外科の初診時の診療録では,単なる自覚症状が記載されているだけであり,神経学的テストも実施されていない。レントゲンの結果ストレートネックが認められたというが,本件事故とは無関係である。

ウ bクリニックへの通院については,本件事故との相当因果関係を否認する。同クリニックの診断書には,「外傷性頭痛,外傷性頸部症候群,胸腰背部・骨盤部打撲,両肩放散痛」が記載されているが,このうち外傷性頸部症候群以外は,前医であるa整形外科の診断書には認められない症状が新たに追加されていて不自然である。外傷性頭痛,胸腰背部・骨盤部打撲については,診療録にそれらを裏付ける記載が認められない。

(3)過失相殺

              (中略)


(4)原告の損害
(原告の主張)

              (中略)


第三 争点に対する判断
1 争点(1)(事故状況)につい

 証拠(略)によれば,以下の事実が認められる。
 本件事故現場は,黄色実線の中央線のある南北道路と東西道路とが交差する丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)であり,道路,車線及び歩道の幅員等,本件事故現場付近の状況は,別紙図面のとおりである。

南北道路の北行き車線上において,被告車が先行して走行し,その後方を原告車が走行していたところ,被告車が本件交差点を左折するために左の方向指示器を出して減速し,原告車も減速した。被告車が左折する先の東西道路内には,東向きに進行しようとしていた対向車が存在していたため(証拠(略)の現場の見分状況書添付の交通事故現場見取図の[A]の自動車である。別紙図面には記載はない。),被告車は,左折途中の別紙図面〔1〕地点で停止し,原告車も同[ア]地点で一旦停止した。

被告車後部は,南北道路北行き車線に残り,同車線幅員の半分ないし3分の1程度を塞いでいたため,原告車は,被告車の横を通過させるべく発進し,反対車線(南行き車線)にはみ出して進行しようとしたところ,反対車線上の対向車が接近してきたため,同[イ]地点で停車した。

他方,被告車は,ハザードランプを点滅させ,同〔1〕地点から半クラッチの状態でゆっくりと後退し,同〔2〕地点に至って,同[ア]地点に停止していた原告車の左後部ドア付近に,被告車の後部右角を接触衝突させて停止した。

原告車左後部ドア付近には,やや幅のある線状の擦過痕3ヶ所が生じるとともに,わずかなへこみが生じた。被告車の後部右角にはへこみ損傷は存在せず,被告車後部右角で,上記の原告車の擦過痕に対応する高さ付近に,本件事故の接触衝突時についたとみられるかすかな接触痕らしきものがかろうじて窺える程度である。

2 争点(2)(原告の受傷の有無及び治療の相当性)について
(1)上記認定の事故状況からすれば,本件事故は比較的軽微な事故というべきであり,原告が主張するような,原告車と被告車との衝突時に,原告車の左側が浮き上がった状態になり,原告車が右側に傾くような状態になったとは認められない。

 原告は,本件事故時,左後部ドア全体を損傷し取り替えざるを得ない程度の衝撃があったと主張するが,上記認定の軽微な損傷でそのような衝撃があったと認めることはできない。
 そうであれば,原告が,本件事故により,原告車の運転席側ドア辺りで右足及び右肩辺りを打ち付けたと認めるに足りない。


(2)原告は,本件事故後,a整形外科へ通院し,頸椎捻挫,右足関節捻挫との診断を受けている。しかしながら,同外科の初診時の診療録では,XP検査の結果,本件事故とは無関係なストレートネックが認められているものの,本件事故による受傷を裏付けるような腫脹・皮下出血等の明らかな外傷所見は認められず,単なる原告の自覚症状が記載されているにとどまり,神経学的テストすら実施されていない。同外科医師の診断書には,上記傷病名により,平成29年7月10日から約1週間の加療見込みであり,同日の交通事故で受傷したとの本人談によることが記載されており,原告の自覚症状の外に上記診断をするだけの根拠が乏しいことが示されているというべきである。

(3)原告は,bクリニックにも通院し,平成29年7月28日の初診時に右肩が上がらない,首,右足に痛みありとの自覚症状,ジャクソンテスト及びスパーリングテストがいずれも陽性,右上肢に痺れがあり,XP検査上,頸椎C6/7狭小化が認められるとして,外傷性頭痛,外傷性頸部症候群,胸腰背部・骨盤部打撲,両肩放散痛との傷病名の診断がされ,前医であるa整形外科での診断とは異なる傷病名が追加されてはいるが,それらが外力によるものであることを裏付ける所見はなく,右肩に関節注射をしたほかには,初診時からは消炎鎮痛処置が,平成29年8月からはリハビリが追加され,これらが続けられたにすぎない。

(4)そうすると,本件事故による衝撃はごく軽微なものであり,本件事故により,原告は,原告車の運転席側ドア辺りで右足及び右肩辺りを打ち付けたと認められない上,本件事故による明らかな外傷所見もないのに,各医療機関において,原告の訴える自覚症状に対し,消炎鎮痛処置及びリハビリが行われたにすぎないことからすれば,本件事故の外力が原告に加わることにより原告が受傷したとは認められない。

 したがって,本件事故と原告の治療との間には相当因果関係が認められないものの,本件事故直後のa整形外科における初診日の治療に限っては,社会通念上相当と認められる検査治療として,相当因果関係が認められる。


3 争点(3)(過失相殺)について

              (中略)


4 争点(4)(原告の損害)について


              (中略)

5 まとめ
 上記検討によれば,原告の損害は既に填補し尽くされたことになるのであるから,原告の被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求は理由がない。

第四 結論
 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第15民事部 裁判官 寺垣孝彦
以上:6,454文字

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