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社会保険負担金損益相殺後素因減額説を採用した地裁判決紹介

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令和 3年12月14日(火):初稿
○交通事故損害賠償請求事件で素因減額と障害年金受給額の損益相殺が問題となっている事案があります。この問題については「素因減額と損益相殺による控除の前後関係に関する判例紹介」で詳しく説明しています。

○ポイントを復習すると以下の通りです。
20%の素因減額が必要な事案で、全損害額1000万円で、被害者が300万円の公的給付を受けていた場合は次の通り
控除前減額説
(1000万円×0.8=)800万円-300万円=500万円
控除後減額説
(1000万円-300万円=)700万円×0.8=560万円
となり、控除時期が損益相殺後だと手取額60万円多くなります。被害者にとっては、損益相殺後素因減額が当然の要求です。

○この相殺後素因減額説を採用した判例として平成13年10月17日大阪地裁判決(交民集34巻5号1403頁)該当部分を紹介していましたが、素因減額部分についてさらに詳しく紹介します。

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主   文
一 被告は、原告に対し、金1653万0117円及びこれに対する平成8年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告の請求

(一)被告は、原告に対し、金5639万9414円及びこれに対する平成8年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
(二)訴訟費用の被告負担
(三)仮執行宣言

二 被告
(一)請求棄却
(二)訴訟費用の原告負担

第二 事案の概要
 本件は、交通事故にあった原告が、加害車両の運転者であり、運行供用者である被告に対し、自賠法三条及び民法709条に基づいて損害賠償(人損)を請求した事案(以下、本件交通事故という)である。
一 争いのない事実
(一)本件交通事故の発生

         (中略)

第三 争点に対する判断
一 争いのない事実
、証拠(甲1ないし16、58、64ないし69、75、76、乙1ないし18、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(各認定事実の部分に、網羅的ではないが、関係の強い書証を掲記した。)
(一)頸椎後縦靭帯骨化症について
 頸椎後縦靭帯骨化症は、頸椎椎体、椎間板の後面にあり脊柱管の前壁をなす後縦靭帯が肥厚、骨化し、他椎間にわたり連続性に発症すれば、頸椎の運動制限が起こるほか、骨化が増大し脊髄を緩徐に圧迫すると脊髄症状を引き起こし、外傷等がなくても終には重篤な四肢麻痺を起こす慢性進行性の疾患であり、厚生省指定の難治性疾患の一つである。脊柱管前後径に対する骨化巣の厚みの割合を狭窄率と呼び、40パーセントを超えると脊髄症が発生しやすい。その症状は、頸椎可動性の減少、肩凝り、頸部痛がみられることがあるが、重要な障害は圧迫による脊髄症の麻痺症状である。自然発症が大部分であるが、転倒などの軽微な外傷を契機として発症する例や不幸にも脊髄損傷となる例がある。一般に脊髄症は緩徐に進行するが急激に悪化する例もある。受診時に多くの者は手指のしびれ、巧緻運動障害、下肢の痙性麻痺による歩行障害を主訴とする(乙5、6)。

         (中略)

二 争点(一)(事故と原告の症状との因果関係の有無、後縦靭帯骨化症による素因減額の可否)について
 前記認定事実(争いのない事実も含む。)に基づいて判断する。原告は、本件事故前から頸椎後縦靭帯骨化症(連続型)に罹患し、手指のしびれ、頸部の可動性低下、頸部痛等の症状が発現しつつあったとはいえ、大阪労災病院では経過観察をするのみで直ちに外科的治療が必要であるとは判断されておらず、現実に、工事現場で作業に従事することも可能であった。

本件事故は、関係車両の損傷の程度は激しいものではないとはいえ、停止直前だった原告車が前車に追突しながらも、被告車の追突後、約3・1メートル前進しており、停止していた前車をも約1・9メートル前進させていること、玉突き衝突のため原告が二度の衝撃を受けていること、原告の頭部が座席のヘッドレストにより保護されず、後ろに曲がるようになったこと等考慮すれば、本件事故が原告に与えた衝撃も、相当程度のものであったと認められる。

そして、原告は、本件事故後、頸髄損傷の傷害を負い、前記認定の後遺症が残存して、工事現場での作業に従事することができなくなっているのであるから、本件交通事故と原告の症状に相当因果関係が存在することは明らかである。

 頸椎後縦靭帯骨化症は、原告の現場での作業に大きな支障を及ぼすものではなかったとは言え、現に症状の発現がみられていること、脊柱管の狭窄率は50パーセントを超えるもので、脊髄を相当圧迫する程度であり、それほど重くない外傷によっても大きな神経症状を引き起こす可能性が非常に高い状態にあったこと(乙五)、本件事故の態様、原告の後遺障害の程度等前記認定の諸事情によれば、原告が罹患していた後縦靭帯骨化症が後遺障害の程度等本件の損害拡大に相当の寄与をしているというべきであり、本件事故によって原告に生じた損害の全部を被告に負担させることは公平を失することになるから、民法722条2項の規定を類推適用し、損害賠償額を定めるにあたり、原告が罹患していた頸椎後縦靭帯骨化症を斟酌し、損害額の5割を被告に負担させるのが相当である(最高裁第三小法廷平成8年10月29日判決、交通事故民事裁判例集29巻五号1272頁は、頸椎後縦靭帯骨化症の症状が発現していなかった事案についても、民法722条2項を類推適用して、損害の額を定めるにあたり、同疾患を斟酌すべきであるとした事案である。)

         (中略)

(六)逸失利益 4046万9862円(請求額4385万5848円)
ア 原告の主張
(ア)基礎収入 年収600万円(事故2年前の平成6年の年収)
 休業損害についての主張と同旨。

(イ)労働能力喪失率 92パーセント(併合四級)

(ウ)労働能力喪失期間 10年(中間利息の控除は、年五パーセントの割合の新ホフマン係数7・9449による。)
600万円×0・92×7・9449=4385万5848円

イ 被告の主張
(ア)基礎収入 休業損害についての主張と同旨。
(イ)労働能力喪失率 原告は、四級相当の労働能力喪失率と同等の喪失率ではない。
ウ 当裁判所の判断
(ア)基礎収入 569万6800円(症状固定時の平成10年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計による男子労働者の全年齢平均年収)
 原告の事故前の収入、職業、年齢等を考慮すれば、後記労働能力喪失期間を通じて上記の収入を得る蓋然性が認められる(賃金センサスの年度を変更した他は、休業損害についての判断と同じである。)。

(イ)労働能力喪失率 前記認定の原告の後遺障害の程度(被告は、原告の後遺障害が自賠責保険の後遺障害等級4級に該当すること自体は争っていない。)、職業等からすれば、労働能力喪失率は、92パーセントと認めるのが相当であり、これより低い労働能力喪失率とすべき事情は認められない。

(ウ)労働能力喪失期間 10年(原告の年齢からすれば、原告主張の10年間は、労働能力喪失期間と認められる。中間利息の控除は、年五パーセントの割合のライプニッツ係数7・7217による。)
569万6800円×0・92×7・7217=4046万9862円
 なお、原告は、リビングセンターの代表取締役として事故前と同程度の給与を得ているが、原告の症状に照らせば、原告自身の相当の努力と、従前のように現場に出て作業すること等は不可能な状況下で原告の収入を確保するため、労務対価以外の分も含めて支給を受けるようにしたことの結果であるから、逸失利益を減少させるものではない(労務対価以外の分は、労働により得る収入ではない上、リビングセンターの業績に大きく左右され、同社が存続する限りにおいて得られるに過ぎない不安定なものであるから、逸失利益を減少させる事情として考慮すべきではない。)。

(七)入通院慰謝料 200万円(請求額250万円)

(八)後遺症慰謝料 1600万円(請求額1650万円)
 原告の傷害の部位、程度、入通院状況、後遺障害の内容、程度、本件の事故態様等本件における一切の事情を考慮し、上記入通院慰謝料及び後遺症慰謝料が相当と判断した。

(九)本訴請求外の被告の既払分
ア 川村義肢への支払 3万5680円(原告が明らかに争わない。)
イ オリエンタル義肢への支払 2万2859円(同上)
 弁論の全趣旨によれば、これらの支払は、本訴請求外の損害の填補分と認められるが、素因減額後に損害の填補を認めるため、ここで計上した。

(10)小計 6866万0436円

(11)素因減額(5割)後 3433万0218円

(12)損害填補後の残額 1523万0117円
損害の填補として
 自賠責保険からの支払 1889万円(争いなし)
 その他
  大阪厚生年金病院への治療費 15万1562円(甲四)
  川村義肢への支払 3万5680円(原告が明らかに争わない。)
  オリエンタル義肢への支払 2万2859円(同上)
合計 1910万0101円を控除
 なお、原告は、自賠責保険以外からの損害の填補として68万3153円を主張しており、甲4によりその内訳は、大阪厚生年金病院への治療費につき、保険会社が支払った15万1562円と社会保険が負担した53万1591円であると認められるところ、社会保険負担分については、素因減額前に填補を認めるため、当初から損害額として計上せず、素因減額後の損害の填補とも扱わないこととする。

(13)弁護士費用 130万円(請求額認容)
 本件事案の内容、審理経過、認容額から上記額を相当と判断した。

(14)合計 1653万0117円

五 以上によれば、原告の本件請求は、上記四(14)の金額及びこれに対する平成8年7月30日(事故日)から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないから棄却する。
裁判官 藤澤孝彦

以上:4,228文字

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