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健康保険組合傷病手当金損益相殺後素因減額説を採用した地裁判決紹介

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令和 3年12月15日(水):初稿
○「社会保険負担金損益相殺後素因減額説を採用した地裁判決紹介」に続いて、健康保険組合からの傷病手当金について、素因減額前に控除した平成26年6月23日京都地裁判決(交通事故民事裁判例集47巻3号709頁、自保ジャーナル1930号114頁)関連部分を紹介します。

○後遺障害等級第7級と認定し、その理由を原告は、症状固定時点で、原告の頚椎部の可動域は、C5/6の前方固定術により、主要運動である屈曲・伸展について参考可動域(屈曲60度、伸展50度)の2分の1以下(屈曲30度、伸展20度)に制限されており、これのみでも「せき柱に運動障害を残すもの」として8級に該当するところ、これに両上肢の筋力低下や手指の運動障害等による動作・作業制限があることを加味したとしています。

○素因減額40%が認定される理由を、原告には、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見があり、本件事故を契機として、頚椎症性脊髄症の症状を発現するに至ったものと認められるとし、上記変性所見の程度は、C5/6の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を要するほどであったことが認められ、証拠(乙五)によれば、原告は、本件事故以前の平成8年にも、頚椎症性脊髄症と類似の病態である第2胸椎黄色靱帯骨化症を発症し、椎弓切除術を受けていることが認められる。これらの事実を併せてみれば、原告の変性所見は、一般的な加齢変性の程度を越えるものであり、既往症に当たるとしています。

○原告は、健康保険組合から傷病手当金として34万1910円の支払を受けたことが認められとして、これを損害合計額2602万5846円から控除した残額に40パーセントの素因減額を行っています。

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主   文
一 被告は、原告に対し、429万5507円及びこれに対する平成22年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを100分し、その13を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請

 被告は、原告に対し、3300万円及びこれに対する平成22年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、原告が普通貨物自動車を運転していたところ、前から後退で進行してきた被告の運転する普通乗用自動車に衝突される事故(以下「本件交通事故」という。)に遭い、これによって受傷し、損害を被ったとして、被告に対し、民法709条又は自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告が負った損害の賠償及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求した事案である。
一 前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる。)

         (中略)


第三 争点に対する判断
一 争点(1)(後遺障害)について

(1)掲記の証拠によれば、原告の症状経過は、以下のとおりであることが認められる。

         (中略)

(2)上記のとおり、原告の頚部に、外傷に起因する骨折・脱臼等の器質的異常所見は認められないものの、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見が認められ、その程度は、C5/6の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を要するほどであり、神経学的にも、本件事故後から一貫して、腱反射の異常や病的反射が認められ、頚部痛、上肢の痛み、しびれ、脱力、知覚鈍麻等、脊髄圧迫に起因する症状が現れていることからして、原告には、本件事故を契機に頚椎症性脊髄症の症状が発現したものというべきである。

 そして、症状固定時に原告に残存した各種症状、とりわけ両上肢の筋力低下、手指の運動障害、頚椎部及び左肩関節の可動域制限に、C5/6の前方固定術やC4、5、6の後方椎弓形成術による脊柱の変形障害を含めて、原告には、神経系統の後遺障害が生じているということができ、証拠(甲12、原告)によれば、上記後遺障害により、労務は軽作業に限られる上、細かな作業は困難であることが認められる。

 以上によれば、原告の後遺障害は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの」として、7級に該当するというべきである。


(3)これに対し、被告は、原告に残存した両上肢の筋力低下は軽度であり、苦痛は伴うものの日常生活は自立しており、元の就業に服することが許可された状態にあったから、原告の後遺障害は、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」として、9級の限度であると主張する。

 しかし、前記のとおり、症状固定時点で、原告の頚椎部の可動域は、C5/6の前方固定術により、主要運動である屈曲・伸展について参考可動域(屈曲60度、伸展50度)の2分の1以下(屈曲30度、伸展20度)に制限されており、これのみでも「せき柱に運動障害を残すもの」として8級に該当するところ、これに両上肢の筋力低下や手指の運動障害等による動作・作業制限があることを加味すると、被告が主張する後遺障害等級は採用できない。

二 争点(2)(素因減額)について
(1)前記のとおり、原告には、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見があり、本件事故を契機として、頚椎症性脊髄症の症状を発現するに至ったものと認められる。
 そして、証拠(乙1、6)によれば、本件事故後3日ないし5日の頚椎レントゲンや頚椎MRIでも、上記変性所見部分に骨折、脱臼、出血巣等の外傷所見はなかったことが認められ、上記変性所見は、いずれも本件事故前から存在したものと認められる。

 さらに、前記のとおり、上記変性所見の程度は、C5/6の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を要するほどであったことが認められ、証拠(乙五)によれば、原告は、本件事故以前の平成8年にも、頚椎症性脊髄症と類似の病態である第2胸椎黄色靱帯骨化症を発症し、椎弓切除術を受けていることが認められる。これらの事実を併せてみれば、原告の変性所見は、一般的な加齢変性の程度を越えるものであり、既往症に当たるということができる。

 以上によれば、本件事故後の原告の症状経過及び治療経過について、原告の上記既往症による影響は否定できず、損害の公平な分担の見地から、損害賠償の額を定めるに当たっては、上記既往症を斟酌し、素因減額を行うのが相当である。


(2)次に、素因減額の程度について検討する。
 前記認定のとおり、本件事故は、前からの逆突であるものの、原告が窓から上体を出して後ろを向いていたところに、後退してきた被告車に追突されており、原告として予想や防御が不可能であったことからすれば、原告車及び被告車に生じた損傷が軽微であったこと(乙7ないし12)を考慮しても、そのことをもって原告の体に対する衝撃が軽微であったとは言い難い。

 もっとも、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の既往症がなければ、外傷性の頚椎捻挫にとどまり、時間の経過とともに次第に緩和する経過をたどったはずのところ、原告の症状は、むしろ次第に多様化し、本件事故直後の頚部痛や左上肢痛の訴えから、左手指のしびれ、感覚鈍麻、脱力感が加わり、手術後には右手指にしびれと感覚鈍麻が出現する経過をたどっており、このような徐々に進行する脊髄症状を発症し、治療が長期化するとともに、前記のような後遺障害を残すに至ったのは、上記既往症の影響によるところが大きいと言わざるを得ない。
 以上を総合すれば、40パーセントの素因減額が相当である。


 これに対し、原告は、本件事故前に脊髄症状は全くなく、整形外科にかかったこともなかったと主張し、これに沿う証拠(甲9、10の1・2)を提出する。しかし、本件事故前に無症状であったことが、本件事故後の症状に対する既往症の影響について先に認定したところを左右するものではない。

三 争点(3)(原告の損害)について
(1)治療費 95万8722円

         (中略)

(5)逸失利益 1242万2136円
 証拠(甲1、原告)によれば、原告は、昭和37年12月19日生まれの女性であり、本件事故当時、1人暮らしであったことが認められるから、本件事故当時の年収183万5485円をもとに算定するのが相当である。
 原告の後遺障害が7級に該当することは前記のとおりであり、これによる労働能力喪失率は56パーセントと認めるのが相当である。
 原告は、症状固定時48歳であるところ、就労可能年数は19年であり、これに対応するライプニッツ係数は12・0853である。
 したがって、逸失利益は、下記計算式により、1242万2136円となる。
(計算式)
183万5485円×56%×12.0853=1242万2136円

(6)入通院慰謝料 190万円
 前提事実記載のとおり、症状固定日までの原告の入院期間は34日間、通院期間は599日間であり、うち実通院日数は124日であることが認められ、これに前記原告の症状経過を併せてみれば、入通院慰謝料としては上記金額が相当である。

(7)後遺障害慰謝料 1000万円
 前記原告の後遺障害の内容及び程度にかんがみれば、後遺障害慰謝料としては上記金額が相当である。

(8)小計 2636万7756円
 前記(1)ないし(7)の合計

(9)既払金 34万1910円
 証拠(乙4の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、健康保険組合から傷病手当金として34万1910円の支払を受けたことが認められる。

(10)残額 2602万5846円
 前記(8)の小計から前記(9)の既払金を控除した残額

(11)素因減額後の残額 1561万5507円
 前記(10)の残額に、40パーセントの素因減額を行った後の残額


(12)既払金 1171万円
 当事者間に争いのない事実及び証拠(乙15)によれば、原告は、下記の支払を受けたことが認められる。
〔1〕自賠責保険より 1080万2469円
〔2〕被告の任意保険より 90万7531円

(13)既払金控除後残額 390万5507円
 前記(11)から前記(12)の既払金を控除した残額

(14)弁護士費用 39万円
 本件訴訟の審理経過及び認容金額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては上記金額が相当である。

(15)合計 429万5507円
 前記(13)と(14)の合計

四 結語
 よって、主文のとおり判断する。裁判官 上田賀代

以上:4,382文字

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