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令和 3年 7月20日(火):初稿 |
○保険会社は、事故から1週間程度過ぎてからの治療開始でも、その治療と交通事故の因果関係を否認することが多いのですが、なんと事故から2ヶ月後に治療を開始した事案で、その治療と交通事故の因果関係を認めた令和2年6月4日神戸地裁判決(交通事故民事裁判例集53巻3号617頁)関連部分を紹介します。 ○判決は、原告夏子は、本件事故により身体が揺さぶれれていること(甲16)、本件事故の翌月には倦怠感のあること、6月の診断においても「頚部痛が増しており」と訴えており以前から頚部痛があったことが窺えること、本件事故後に頚部を損傷するような出来事があったとは認められないこと等に照らせば、原告夏子の頚部痛が本件事故によるものであるとしても不自然ではないとして因果関係を認めています。 ○そして、原告夏子の本件事故当時の年齢(82歳)に照らして、平成29年賃金センサス女子学歴計70歳以上の平均賃金である317万0900円(日額8687円)を基礎収入とするのが相当とし、原告夏子の通院日(65日)について20%の労働能力喪失分を休業損害と認め、さらに通院慰謝料として109万円を認めています。 ****************************************** 主 文 (中略) 2 被告丙川は、原告夏子に対し、31万4431円及びこれに対する平成29年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (中略) 事実及び理由 第1 請求 (甲事件) (中略) 2 被告丙川は、原告夏子に対し、93万0330円及びこれに対する平成29年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、高速道路上で、原告春男運転の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)と被告丙川運転の大型貨物自動車(以下「被告車両」という。)が2度接触した事故(以下、先の事故を「本件第1事故」、後の事故を「本件第2事故」といい、2つの事故を併せて「本件事故」という。)について、原告車両の所有者兼運転者である原告春男が、被告丙川に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づく損害賠償として原告春男に生じた人的損害51万4400円及び民法709条に基づく損害賠償として原告春男に生じた物的損害45万7396円の合計97万1796円及びこれに対する本件事故の日である平成29年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求め、原告車両の同乗者である原告夏子が、被告丙川に対し、自賠法3条に基づく損害賠償として、原告夏子に生じた人的損害93万0330円及びこれに対する本件事故の日である平成29年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金を求める事案(甲事件)と、被告車両の所有者である原告会社が、原告春男に対し、民法709条に基づく損害賠償として、被告車両に生じた物的損害合計38万0872円及びこれに対する本件事故の日である平成29年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金を求める事案(乙事件)である。 2 争いのない事実等 (中略) 3 争点及び争点に対する当事者の主張 (中略) (3)原告夏子の人的損害 (原告夏子の主張) ア 通院状況等 原告夏子は、本件事故により頚部捻挫等の傷害を負い、その治療のため、B整形に平成29年4月26日から平成30年1月19日までの間、合計65日通院した。 イ 治療費等 43万5275円 B整形等における治療費等は、合計43万5275円であった。 ウ 休業損害 67万2830円 原告夏子は、本件事故による受傷の通院のため、家事に従事することが困難になったので、下記の休業損害が発生している。 (ア)基礎収入 377万8200円 平成29年賃金センサス女性全年齢平均 (イ)計算 377万8200円÷365×65 エ 通院慰謝料 109万円 上記アの通院治療に対する慰謝料として。 オ 既払い金 135万1775円 原告夏子は、本件事故による人的損害に対する補填として、原告春男の付保する保険会社から人身傷害保険金135万1775円を受領している。 カ 弁護士費用 8万4000円 (被告丙川の主張) ア 通院状況等 否認ないし争う。 原告夏子の頸部痛については、本件事故と相当因果関係はない。 イ 治療費等 否認ないし争う。 ウ 休業損害 否認ないし争う。 たとえ、休業損害が発生するとしても、基礎収入としては平成29年賃金センサス70歳以上女性の317万0900円を用いるべきである。 エ 通院慰謝料 認める。 オ 既払い金 認める。 カ 弁護士費用 否認ないし争う。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 本件事故の態様等について (中略) 3 原告夏子の人的損害 (1)通院状況等 ア 証拠(甲11の1から11の11)によると、原告夏子は、本件事故により神経症及び頚部痛の傷害を負い、その治療のため、B整形に平成29年4月26日から平成30年1月19日までの間、合計65日通院したことが認められる。したがって、上記全通院を本件事故と相当因果関係のある通院治療と認める。 イ これに対して、被告らは、原告夏子の頚部痛については、本件事故から約2か月後に治療が開始されており、本件事故による傷害とは認められないと主張する。しかしながら、原告夏子は、本件事故により身体が揺さぶれれていること(甲16)、本件事故の翌月には倦怠感のあること、6月の診断においても「頚部痛が増しており」と訴えており以前から頚部痛があったことが窺えること、本件事故後に頚部を損傷するような出来事があったとは認められないこと等に照らせば、原告夏子の頚部痛が本件事故によるものであるとしても不自然ではなく、被告らの主張は採用できない。 (2)治療費等 43万5275円 証拠(甲11の1から11の14)によれば、原告夏子のB整形等における治療費等は、合計43万5275円であったことが認められる。したがって、同金員を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (3)休業損害 11万2931円 ア 休業損害の存否 証拠(甲16、原告夏子本人、原告春男本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告夏子は、本件事故当時、原告春男と同居し、専業主婦であったことが認められる。これに加え、前記認定の原告夏子の通院状況を考慮すれば、原告夏子の家事労働について、休業損害を認めるのが相当である。 イ 休業損害の額 (ア)基礎収入 原告夏子の本件事故当時の年齢(82歳)に照らして、平成29年賃金センサス女子学歴計70歳以上の平均賃金である317万0900円(日額8687円)を基礎収入とするのが相当である。 (イ)休業期間と労働能力喪失率 前記認定の原告夏子の通院状況に加え、原告夏子が、本件事故前に足の手術を受け通院していたこと(原告夏子本人)を考慮すれば、原告夏子の通院日(65日)について20%の労働能力喪失があったと認めるのが相当である。 (ウ)計算 8687円×65日×0.2 (4)通院慰謝料 109万円 原告夏子の受傷状況,通院状況に照らして、上記(1)の通院治療に対する慰謝料として109万円を認めるのが相当である。 (5)既払い金 135万1775円 原告夏子が、本件事故による人的損害に対する補填として、原告春男の付保する保険会社から人身傷害保険金135万1775円を受領していることについて、当事者に争いはない。 (6)小括 そうすると、原告夏子の本件事故による人的損害は、上記(2)、(3)、(4)の合計163万8206円に1(2)ウの過失割合を掛けた147万4385円から(5)の既払い金のうち原告春男の過失割合分を控除し金額を控除した28万6431円となる。 (7)弁護士費用 2万8000円 弁論の全趣旨によると、原告夏子は、本件事故による損害を請求するために弁護士に委任し本件訴訟を提起したことが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として上記(6)で認定した損害の約1割にあたる2万8000円を認めるのが相当である (8)結論 以上によると、被告丙川は、原告夏子に対し、自賠法3条に基づく損害賠償として31万4431円及びこれに対する本件事故の日である平成29年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金を請求できることとなる。 以上:3,497文字
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