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通勤災害とされる交通事故事件には弁護士費用特約使えないとした地裁判決紹介

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令和 2年 2月15日(土):初稿
○自動車保険契約に付された弁護士費用特約に基づく弁護士費用相当額の保険金請求事件において,弁護士に委任した損害賠償請求事件に係る交通事故が労災保険法上の通勤災害に該当する場合,当該事故による障害は上記特約の免責条項に定める「労働災害により生じた身体の障害」に該当するとして,免責を認めた令和元年5月23日大阪地判決(判タ1466号163頁、判時2428号114頁)関連部分を紹介します。

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主    文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,26万6718円及びこれに対する平成30年9月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,勤務先からの帰宅途中に交通事故に遭い,加害者に対して損害賠償を請求するに際して弁護士に委任し,弁護士費用を負担したとして,被告との間で締結していた自動車保険契約に付されたいわゆる弁護士費用特約に基づいて,被告に対し,着手金19万4400円(消費税込み),報酬7万0702円(消費税込み)及び通信費等1616円の合計26万6718円(以下「本件弁護士費用等」という。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を請求したのに対し,被告が,前記交通事故による損害は,労働災害により生じた身体の障害によるものであるから,保険金を支払わない場合に該当する等と主張して,支払を拒んでいる事案である。

2 前提事実

         (中略)

4 争点に関する当事者の主張
(1)本件弁護士費用等の請求につき,本件免責条項が適用されるか否か

(被告の主張)
ア 本件事故が通勤災害に該当することは争いがないところ,本件免責条項にいう「労働災害」には,業務災害及び通勤災害のいずれをも含むから,本件弁護士費用等の請求は,本件免責条項の適用がある。したがって,被告は,本件弁護士費用等相当額の保険金の支払義務を負わない。

イ 本件特約は,被害を被った被保険者の被害回復ないし権利保護を図ることを目的としているところ,労働者災害補償制度による給付ないし補償が行われる人身事故については,被保険者が損害賠償請求の手続を取るまでもなく,同制度の利用により一定の給付ないし補償を迅速に受けることができることから,本件特約による補償の対象外としたものである。なお,同様の理由により,物的損害については,本件特約による補償の対象としている。

(原告の主張)
 本件免責条項にいう「労働災害」とは,いわゆる業務災害のみを指し,通勤災害を含まない。よって,本件弁護士費用等の請求に本件免責条項の適用はない。

(2)仮に,本件免責条項の適用がない場合,支払われるべき弁護士費用額

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件弁護士費用等の請求につき,本件免責条項が適用されるか否か)について

(1)本件免責条項には「労働災害」との文言が使用されているところ,本件保険契約及び本件特約上,その文言の意味は定義されていない。よって,「労働災害」がいわゆる業務災害のみを指すのか,業務災害及び通勤災害のいずれをも含むのかは解釈によらざるを得ない。

 なお,業務災害とは,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡を指し(労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号),通勤災害とは,労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡を指す(労災保険法7条1項2号)。

(2)本件免責条項は,いわゆる約款であるから,個々の顧客の意思や約款条項についての理解,個々の契約についての特殊事情等は考慮せず,一律の基準に従って解釈すべきである。また,その解釈は,平均的な顧客の合理的な理解可能性を前提とすべきであって,約款の作成者たる企業の意思に拘束されるものではなく,当該文言の意味や当該約款の他の規定,法律との関係等の客観的な要素を考慮してすべきである。

(3)本件特約の文言による解釈本件免責条項は,本文に「労働災害により生じた身体の障害。」と記載されており,ただし書きとして「ただし,ご契約のお車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中に生じた事故による身体の障害を除きます。」と記載されている。

 このうち,ただし書きの内容は,労働災害のうち契約にかかる車両に搭乗中に生じた身体の障害を除くとするものであるところ,仮に,「労働災害」が業務災害のみを指すとすれば,ただし書き部分は,業務に従事中に契約にかかる車両に搭乗している場合を想定しているものということになる。業務中に,労働者が,自らが自動車保険契約を締結している車両を運転するという場合は,いわゆるマイカー通勤をし,通勤に使用した自らの車両を業務にも使用するという場合として考えられなくはないが,いわゆるマイカー通勤よりも公共交通手段を利用する通勤方法をとる労働者の方が多いと考えられること,仮にマイカー通勤をしたとしても,自らの車両を業務にも使用するという業務内容はまれであると考えられることなどを踏まえれば,前記のような自らの車両を業務に使用するという業務形態は多いとはいい難い。そうすると,敢えてかかる場合を想定して,ただし書きを設けるとは考え難い。

 他方,「労働災害」が業務災害及び通勤災害のいずれをも指すとすれば,ただし書き部分は,いわゆるマイカー通勤をした場合の通勤途上の事故を想定したものと考えられ,一般的に多数あり得る事故形態であるといえるから,ただし書きとして,かかる規定を設けたことも首肯できる。

 よって,本件免責条項の本分とただし書の内容からすれば,「労働災害」には,業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれると解することが自然である。

(4)労災保険法の文言を踏まえた解釈労働者が被った災害に対する補償を行う制度としては労働者災害補償制度があり,労災保険法,国家公務員災害補償法,地方公務員災害補償法等が設けられている。このうち労災保険法は,業務災害に関する保険給付と通勤災害に関する保険給付の種類を区別しているが(労災保険法12条の8第1項,同法21条参照),いずれについても保険給付の対象としている(労災保険法7条1項参照)。

なお,国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法においても,補償の種類を区別した上で(国家公務員災害補償法9条及び地方公務員災害補償法25条参照),いずれも補償の対象としている(国家公務員災害補償法1条及び地方公務員災害補償法1条参照)。
 これらからすれば,労災保険法にいう「労働者災害」は業務災害及び通勤災害のいずれをも含むものと解釈できる。

 確かに,労災保険法が最初に施行された当時は,保険給付の対象は業務災害のみであったから,この点に着目すれば厳密な意味における労働者災害には業務災害のみが含まれると考えることも不可能ではないかもしれない。しかしながら,労災保険法において保険給付の対象に通勤災害が加えられたのは昭和48年に公布施行された改正によるものであり,同改正以後40年以上が経過した現在においては,労働者災害には業務災害のみならず通勤災害も含まれるという認識が一般的に浸透しているといえるから,労災保険法の改正の経緯を踏まえても,労災保険法にいう労働者災害に業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれるという解釈は,平均的な一般人が合理的に理解できる解釈であるといえる。

 そして,本件免責条項の「労働災害」という文言は,労働者災害とは字面上は異なるが,平均的な一般人がこの文言を聞いた場合に両者に違いがあると感じるとは考え難く,いわゆる労災という認識を持つことが通常であろうと解される。そうすると,「労働災害」という文言に,業務災害及び通勤災害のいずれもが含まれるという解釈は,平均的な一般人にとって,合理的に理解できる解釈であるといえる。

(5)労働安全衛生法の文言を踏まえた解釈労働安全衛生法は,労働災害とは,労働者の就業に係る建設物,設備,原材料,ガス,蒸気,粉じん等により,又は作業行動その他業務に起因して,労働者が負傷し,疾病にかかり,又は死亡することをいうと定めており(労働安全衛生法2条1号),同法で定義されている労働災害は,本件免責条項にいう「労働災害」と字面上,同じ文言である。

 この点,労働安全衛生法の目的は,職場における労働者の安全と健康を確保するとともに,快適な職場環境の形成を促進することである(労働安全衛生法1条)。かかる目的は,災害を被った者に対して必要な保険給付を行って保護を図ろうとする保険契約の目的とはその内容を異にするし,上記労働安全衛生法の目的に照らせば,その射程範囲が職場すなわち業務を行っている場所に限られることは必然であって,同法にいう労働災害に通勤災害は含まれようがない。

 そうすると,労働安全衛生法における労働災害が業務災害のみを指すことと,本件免責条項の「労働災害」に業務災害及び通勤災害のいずれをも含むと解釈することとは,何ら矛盾しない。

 なお,前記(4)では,労災保険法における労働者災害の解釈を本件免責条項の「労働災害」を解釈する際の参考としたが,労災保険法は保険に関する法律であって,災害を被った者に対して必要な保険給付を行うことによって保護を図るという目的は保険契約と共通するから,この点も矛盾しない。

(6)以上からすれば,本件免責条項の「労働災害」に業務災害及び通勤災害のいずれをも含むという解釈は,平均的な顧客にとって不測の解釈ではなく,合理的に理解することが可能なものといえるし,顧客に不測の不利益を与えるものでもないといえる。また,被告の説明する労働者災害補償制度による給付が得られる場合には,一定の補償が迅速に得られることから免責事由としたという本件免責条項の制度趣旨も一定の合理性を有する。
 よって,本件免責条項の「労働災害」には,通勤災害をも含むものと解する。
 したがって,本件弁護士費用等の請求には,本件免責条項の適用があるから,被告は保険金支払義務を負わない。


(7)なお,原告は,現実には,労災保険の適用を嫌う事業主が多いことから,労災保険による補償を前提として免責を定めている本件免責条項自体が的外れなものであること,被告は,現在は本件免責条項を設けておらず,被告以外の保険会社においても同様の規定を設けている会社はないことなどを主張するが,本件免責条項の無効まで主張するものではないと解され,本件訴訟は,あくまで,本件免責条項が有効な約款であることを前提として,「労働災害」の解釈が争点となっているものであるから,これらの原告の主張は,前記判断に影響を及ぼさない。

2 したがって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 安田仁美) 

別紙
(44)自動車事故弁護士費用特約

第1条 (略)

第2条(保険金を支払う場合)
(1)当社は,被保険者が次のいずれかに該当する偶然な事故により被害を被ること(以下「自動車被害事故」といいます。)によって,保険金請求権者が損害賠償請求を行う場合は,それによって当社の同意を得て支出した損害賠償請求費用を負担することにより被る損害に対して,この特約に従い,保険金請求権者に損害賠償請求費用保険金を支払います。
① 自動車の運行に起因する事故
② (略)

(2)以下 (略)

第4条(保険金を支払わない場合)
(1)(2)(略)

(3)当社は,次のいずれかに該当する被害を被ることによって生じた損害に対しては,弁護士費用保険金を支払いません。
 ①ないし③ (略)
 ④ 労働災害により生じた身体の障害。ただし,ご契約のお車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中に生じた事故による身体の障害を除きます。
 ⑤ (略)

(4)(5)(略)
 第5条以下 (略)

以上:4,943文字

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