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令和 1年11月 7日(木):初稿 |
○「車両損害保険金は物損全体を補填するとした高裁(上告審)判決紹介」の続きで、その第一審である平成29年2月28日東京簡裁判決(交民事裁判例集51巻2号272頁)全文を紹介します。 ○原告X1が運転する原告車と、被告Y2会社が所有し、被告Y1が運転する被告車が接触した交通事故について、原告X1が、被告らに対し、損害賠償を求め(本訴)、被告らが、原告X1に対し、損害賠償を求め(反訴)、原告三井住友海上及び原告三井ダイレクトが、原告X1及び被告らに対し、それぞれ損害賠償請求(保険代位。甲事件・乙事件)をしました。 ○原告X1は、右後方の被告車を認識することなく右後方への安全確認不十分のまま、原告車を本件分岐線に進路変更させて被告車の前に割り込ませた過失があり、損傷状況からしても、明らかに原告車が被告車に寄って行ったことが認められ、一方、被告Y1も原告車との間に十分な車間距離を保持することなく追随した過失等を認めることができ、過失割合は原告X1が7、被告Y1が3とするのが相当であるとしました。 ○その上で、原告X1、被告Y2(Y1運転車両所有者)、原告各保険会社の原告X1、被告Y1に対する各請求が一部認容されました。事案は複雑で、控訴審東京地裁判決を別コンテンツで紹介しながら、まとめを説明します。 ********************************************* 主 文 1 被告Y1及び被告Y2社は,原告X1に対し,連帯して3240円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告X1は,被告Y2社に対し,16万1448円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告X1は,原告三井住友海上に対し,54万5195円及びこれに対する平成27年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Y1は,原告三井ダイレクトに対し,8万6760円及びこれに対する平成28年11月5日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 5 原告X1,被告Y2社,原告三井住友海上及び原告三井ダイレクトのそれぞれその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は,全事件を通じて,これを10分し,その7を原告らの,その余を被告らの各負担とする。 7 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 被告Y1及び被告Y2社は,原告X1に対し,連帯して140万円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。(141万3212円の一部請求) 2 反訴 原告X1は,被告Y2社に対し,23万0640円及びこれに対する平成27年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 甲事件 原告X1は,原告三井住友海上に対し,77万8850円及びこれに対する平成27年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 乙事件 被告Y1は,原告三井ダイレクトに対し,28万9200円及びこれに対する平成28年11月5日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 〔本訴〕民法709条及び715条に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求 〔反訴〕民法709条に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求 〔甲事件及び乙事件〕民法709条に基づく損害賠償請求(保険代位)及び保険金支払日の翌日からの遅延損害金請求 1 前提事実 交通事故(本件事故)の発生 (1) 日時 平成27年4月2日午前10時ころ (2) 場所 東京都目黒区青葉台4丁目9番先路上(首都高速中央環状線内回りから首都高速3号渋谷線への分岐車線(以下「本件分岐線」という。別紙図面参照) (3) 事故車 ア 原告X1が所有・運転する普通乗用自動車(原告車) イ 被告Y2社(被告Y1の使用者)が所有し,被告Y1が運転する中型貨物自動車(被告車) (4) 事故態様 首都高速中央環状線内回り第2車線(以下「内回り第2車線」という)を走行してきた原告車及び被告車が本件分岐線に進路変更した際に,原告車の右後部と被告車の左前部が接触・損傷した。 2 争点(事故態様,両運転者の過失,過失割合及び損害) (原告らの主張) (1) 事故態様,両運転者の過失及び過失割合 原告車は,本件分岐線へ進行するべく走行していたところ,急減速した先行車への追突を防止するため,急制動の措置を講じ右にハンドルを切り,本件分岐線に進入した。一方,被告Y1は,被告車を原告車に追随して走行させていたのであるから,原告車の動静を注視し,原告車が減速したときでも衝突を避けるため十分な車間距離を保持するべき注意義務があるのに,これを怠った過失により,原告車に追突させたものであり,原告X1には過失はない。 (2) 損害 原告車の損害は修理費141万3212円であり,うち28万9800円を原告三井ダイレクトが原告X1に支払い,保険代位した。 (被告らの主張) (1) 事故態様,両運転者の過失及び過失割合 原告X1は,右ウィンカーを点灯させることなく急に本件分岐線に車線変更をしてきて,本件分岐線を走行していた被告車に衝突したものであり,被告Y1に過失はない。 (2) 損害 被告Y2社には,被告車の修理費87万8850円及び休車損害13万0640円の合計100万9490円の損害が発生し,原告三井住友海上は,修理費から免責額10万円を控除した77万8850円を被告Y2社に支払い,保険代位した。 原告車は,本件事故当時,初年度登録(平成12年6月15日)から約15年が経過しており,時価額は26万5000円が相当であり,経済的全損として原告車の損害額は26万5000円である。 第3 当裁判所の判断 1 事故態様 (1) 証拠(甲3,4,6,7,11~14,乙2,3,5,12)及び弁論の全趣旨によれば,事故態様は次のとおりと認められる。 原告車は,内回り第2車線を走行していた先行車に追随し,減速しながら第2車線から本件分岐線の分枝開始地点をかなり過ぎた地点で本件分岐線に進路変更したところ,折から原告車に追随してきて,本件分岐線にすでに進路変更していた被告車の前方に割り込む形で,原告車の右後部と被告車の左前部が接触した。原告車の損傷状況は,右後方角に凹損が認められるだけで,それに続く擦過痕はなく,被告車の損傷状況は左バンパー角付近が損傷しているのみである。 (2) 原告X1は,先行車も右に進路変更するものと思い込んで追随していたため本件分岐線への車線変更が遅れ,そのために後続の被告車が先に車線変更をして本件分岐線に進入することになった。 2 両運転者の過失及び過失割合 1の事故態様によれば,原告X1は,右後方の被告車を認識することなく右後方への安全確認不十分のまま,原告車を本件分岐線に進路変更させて被告車の前に割り込ませた過失があり,したがって,右ウィンカーを出したとしても出し遅れがあったものと認められる。原告X1が先行車に気を取られることなく,被告車と同じ地点で進路変更をしていれば,被告車と接触することはありえず,損傷状況からしても,明らかに原告車が被告車に寄って行ったことが認められる。 一方,被告Y1も原告車との間に十分な車間距離を保持することなく追随した過失及び前方を注視していなかった過失を認めることができる。 そうすると,過失割合は原告X1・7,被告Y1・3とするのが相当である。 3 損害 (1) 原告らの損害 原告車の修理費は141万3212円(甲2)であるが,原告車は,初年度登録が平成12年6月で本件事故時約15年が経過し,走行距離が平成27年1月30日現在3万6800kmであること(甲8)及び原告X1と原告三井ダイレクトとの車両保険金額が30万円であること(甲17)から時価相当額は30万円であることが認められ,経済的全損として,原告車の損害額は30万円となる。 平成28年11月4日,原告三井ダイレクトは原告X1に対し,28万9200円を支払い(甲17,18),被告Y1に対し,同額の損害賠償請求権を代位取得した。また,原告X1の損害賠償請求金額は1万0800円となった。 なお,原告車に関する原告三井ダイレクトの支払承認申請書(甲18)によれば,「契約者宛メッセージ」として「お客さまのお車に関し,全損時臨時費用保険金を含めてお支払いしました。」との記載があり,原告三井ダイレクトにおいて原告車が全損であり,臨時費用3万円を含めた31万9200円が支払われたので,原告車の損害としての支払は臨時費用を控除した28万9200円であることが認められる。 (2) 被告らの損害 被告車の修理費は87万8850円(乙3)であり,平成27年7月1日,原告三井住友海上火災は,被告Y2社に対し,同修理額から免責額10万円を控除した77万8850円を支払い(乙10,11),原告X1に対し,同額の損害賠償請求権を代位取得した。また,被告Y2社には免責額10万円及び別紙計算書(事故前3か月分の売上から高速代及び燃料代を控除したもの)のとおりの休車損害13万0640円(乙4,6,7,弁論の全趣旨)の合計23万0640円の損害が発生した。 なお,原告X1は,被告車の休車損害について高速代及び燃料費のほかに修繕費も控除するべきであると主張するが,被告車の修繕費については,休車期間中に必ず発生するものではなく,高速代及び燃料費とは性格が異なり,同主張を採用することはできない。 第4 結論 よって,認容額は次のとおりとなる。 1 原告X1の請求について 3240円 (原告車時価額30万円から保険代位分28万9200円を控除した1万0800円の3割) 2 被告Y2社の請求について 16万1448円 (免責額及び休業損害の合計23万0640円の7割) 3 原告三井住友海上の請求について 54万5195円 (保険代位分77万8850円の7割) 4 原告三井ダイレクトの請求について 8万6760円 (保険代位分28万9200円の3割) 東京簡易裁判所民事第3室(裁判官 齋藤章) 別紙図面 計算書 平成26年度11月稼働分(1月分) 売上 111万5300円(〔1〕) 高速代 7万7910円(〔2〕) 燃料代 27万0165円(〔3〕) 〔1〕-〔2〕-〔3〕 76万7225円(〔4〕) 稼働日数 22日 〔4〕÷22日 3万4874円(A) 平成26年度12月稼働分(2月分) 売上 101万5800円(〔1〕) 高速代 12万8870円(〔2〕) 燃料代 30万2935円(〔3〕) 〔1〕-〔2〕-〔3〕 58万3995円(〔4〕) 稼働日数 21日 〔4〕÷21日 2万7809円(B) 平成27年度1月稼働分(3月分) 売上 98万4700円(〔1〕) 高速代 9万1580円(〔2〕) 燃料代 22万2508円(〔3〕) 〔1〕-〔2〕-〔3〕 67万0612円(〔4〕) 稼働日数 19日 〔4〕÷19日 3万5295円(C) (3万4874円(A)+2万7809円(B)+3万5295円(C))÷3=3万2660円(日額)×休車期間4日=13万0640円 以上:4,772文字
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