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盗難車事故について車両保有者運行供用者責任を認めた地裁判決紹介

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平成31年 2月28日(木):初稿
○「盗難車事故について車両保有者運行供用者責任を否認した地裁判決紹介」に続いて、盗難車でも、車両保有者運行供用者責任を認めた昭和55年8月4日名古屋地裁判決(判タ427号148頁、判時986号89頁)全文を紹介します。

○この判決では、会社の従業員が社長の使用に供するためキーをつけたままロックもせず半ドアの状態で公路上に放置しておいた車の泥棒運転による事故について、「加害車をキーをつけたままロックもせず、半ドアの状態で公路上に放置し、右Eは右放置されていることを知りながら何らの措置も採らなかったこと、本件事故は、その間に訴外Aの運転行為が介在しているとはいえ、僅か百数十メートルの距離を走行して惹起された」として、会社の運行支配、利益があるとして運行供用者責任を認めました。

○シンナー吸入の目的で公路上に放置されていた車に乗り込んだA、B2人のうち、運転席に乗り込んだAの泥棒運転による事故につき、助手席に乗り込んだBの他人性が争われましたが、泥棒運転の場合の同乗者でも車両所有者に対する関係では、自動車損害賠償保障法3条の「他人」に該当するとされました。

○シンナーを吸つて意識もうろうとしていたAとBとが、キーをつけたままロックもせず、半ドアの状態で路上に放置してあつたC会社所有の本件加害車に乗り込み、更にシンナーを吸つているうちにAが運転しこれを発進させ、電柱に衝突させてBが死亡した事故につきBにつき、衡平の理念に照らし、過失相殺の規定を類推適用して損害の量的制限を図るのが相当であるとして、全損害額の20パーセントに相当する金額の限度で賠償を認めました。

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主   文
一 被告は、原告らに対し、それぞれ金167万3570円及び右各金員に対する昭和52年9月1日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを5分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨

1 被告は原告らに対し、それぞれ金750万円及び右各金員に対する昭和52年9月1日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生

(一) 日時 昭和52年6月8日午前4時25分ころ
(二) 場所 名古屋市南区○○町○○番地路上
(三) 加害車 普通乗用自動車(名古屋○○は○○○○号)
 右運転者 訴外A○○(以下「訴外A」という)
(四) 被害者 ○B(以下「B」という)
(五) 事故の態様 Bは前記日時場所において、訴外Aの運転する加害車に同乗中、同車が道路右端の電柱に衝突したことにより、頭部外傷等の傷害を受け、同日死亡した。

2 責任原因
 訴外C自動車株式会社(以下「訴外会社」という)は、加害車について自賠法3条の定める「自動車を運行の用に供する者」であり、Bは同条の「他人」に該当する。すなわち、
(一) 昭和52年6月7日夜、Bは友人宅で前記Aに会い、夜10時頃まで遊んだ後、その帰路、友人と三人で近くの公園の廃車トラックの中で翌8日朝方までシンナーを吸い、Aと二人でボーッとしながら訴外会社のところまで来たところ、路上に半ドアのまま訴外会社所有の加害車が放置してあったので、どちらからともなく、訴外Aが運転席に、Bが助手席に乗り込んだ。

(二) 訴外Aは、たまたまキーがつけたままになっていたので、運転ができず、無免許であるのに、そのキーを回し、加害車を運転し、すぐに電柱に衝突した。

(三) Bは、加害車に乗り込む前後において、キーがついていること、訴外Aが運転するであろうことは予測しておらず、運行支配も、運行利益もなかった。

3 保険契約
 訴外会社は、昭和52年6月6日、加害車につき、被告と保険金額金1500万円の自賠責保険契約を締結した。

4 損害
(一) 逸失利益 金1273万6148円
 Bは、死亡当時16歳であり、18歳から67歳まで、少なくとも毎月金9万1800円の平均給与額を得られたはずであるから、生活費割合を50パーセントとして、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の現在額を算定すると次式のとおり、金1273万6148円となる。
 91,800×(1-0.5)×12×23,123=12,736,148(円)

(二) 慰謝料 金500万円

5 原告X1はBの父、同X2はBの母であり、被告に対するBの損害賠償請求権を各2分の1づつ相続した。

6 よって、原告らはそれぞれ、自賠法16条により、被告に対し、右損害のうち保険金限度内である各金750万円及び原告らが被告に対しその支払催告をした日の後である昭和52年9月1日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、訴外会社が加害車を所有していたことは認めるが、その余は否認する。すなわち、Bは、訴外Aの運転を阻止することが十分に可能であったのに、何ら制止させる言動をとらず、事故発生という危険の実現に加担したものであるから運行供用者であり、またその運行支配・運行利益は訴外会社に比べ、はるかに直接的・顕在的・具体的であるから、Bは訴外会社に対する関係において「他人」には該当しない。

3 同3の事実は認める。

4 同4、5の各事実は知らない。

第三 証拠《省略》

理   由
一 請求原因1の事実及び訴外会社が昭和52年6月6日その所有にかかる加害車につき被告との間に保険金額金1、500万円の自賠責保険契約を締結していたことについては当事者間に争いがない。
 《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
1 訴外会社は名古屋市南区上浜町36番地において自動車販売修理業を営む会社であり、同所に事務所、修理工場、展示場等を設置している。付近一帯は自動車工場や一般住宅等が連なっており、右事務所等は幅員約7・5メートルの道路に接して建てられている。

2 訴外会社は本件加害車ほか数台の自動車を所有し、自動車修理や道路運送車両法に基づく運輸大臣の検査(いわゆる車検)の依頼があった際、依頼客に対し、右加害車等を代車として提供するなどの業務に使用し、通常は前記修理工場内や展示場などにこれを保管していた。

3 昭和52年6月初め、訴外会社は加害車につき車検を経て、前記自賠責保険契約を締結するとともに、引続き業務に使用していた。

4 訴外会社の従業員であるD○○は、同月7日午後7時40分頃、出張先から訴外会社に戻った際、いまだ訴外会社社長E○○が事務所に残っていたが、同人は常日頃帰宅するに際しては、訴外会社にある自動車を使用していたので、右Dは社長が帰宅に利用できるようにとの配慮から、加書車を前記道路の訴外会社の事務所とは反対側の路上に駐車させ、キーを差込み、ドアをロックせずに、半ドアのまま放置した。

5 右Eは、翌8日午前1時半ころまで前記事務所で客と応待をしていたが、その後、右客と食事に出かけ、加害車が右道路上に放置してあることを知りながら、これをそのままにして、前記客の車で帰宅した。

6 一方、訴外Aは、Bの友人で、ともに中学校を卒業したばかりの16歳の少年であり、一時期一緒にアルバイトをしたこともあり、またともにシンナーを常用していた。また、二人とも普通自動車の運転免許を取得していなかった。

7 昭和52年6月8日午前零時過ぎ頃から訴外会社の東方にある名古屋市南区元鳴尾町星崎第二公園前路上に放置してあった廃車の中で訴外AとBは各自コップ半分ほどのシンナーの入ったビニール袋を口にあててこれを吸い始め、途中その友人Fがこれに加わり、周囲が明るくなりはじめる頃まで吸い続けていた。

8 同日午前4時過ぎ頃、帰宅しようとシンナーの入ったビニール袋を手に持ったまま右3名は歩きはじめ、途中Fは別れ、訴外AはBとともに加害車の駐車地点にさしかかったが、訴外Aは、加害車のドアが半ドアになっていたので、これを開き、運転席に乗り込み、Bは助手席に乗り込んだ。そして、訴外Aは、Bとともに約5分から10分位の間加害車内でシンナーを吸っていたが、そのうちに加害車にキーが差し込んであるのを発見し、これを盗んで帰宅しようと考え、スイッチを入れ加害車を発進させた。その際、訴外Aはシンナーの入っているビニール袋を助手席にいるBに「持っていてくれ。」と言って手渡したか捨てるかしたが、他に特にBと話しをすることはなかった。

9 しかし、訴外Aはシンナーのため意識はもうろうとしており、また、自動二輪車には何回か乗ったことがあるが、自動車については殆んど運転した経験のないことから、発進後すぐに右折したものの、前記駐車地点から157メートル程進行したあたりで、時速約40キロメートルで進行方向右側にあるコンクリート製電柱に正面から激突し、本件事故を惹起した。

二 そこで、以上の事実をもとに、訴外会社が加害車の運行供用者であるか否かについて検討してみる。
 右事実によれば、訴外会社従業員Dは、同社社長Eの使用の便に供するため、加害車をキーをつけたままロックもせず、半ドアの状態で公路上に放置し、右Eは右放置されていることを知りながら何らの措置も採らなかったこと、本件事故は、その間に訴外Aの運転行為が介在しているとはいえ、僅か百数十メートルの距離を走行して惹起されたものであり、これらの点をあわせ考えると、運行支配・運行利益は、いまだ訴外会社に帰属しているものというべきであり、訴外会社は、本件加害車の運行供用者であるといわなければならない。

三 次に、Bか訴外会社に対する関係で、自賠法3条にいうところの「他人」に該当するかどうかを検討するに、前記認定の事実によれば、なるほどBは訴外Aとともに加害車に乗り込み、助手席に坐ったまま事故に至ったとの事実は認められるものの、他方、Bが加害車に乗りこんだ目的がその中でシンナーを吸入することにあったこと、Bも訴外Aもシンナーの影響で正常な判断状態ではなかったところ、加害車への乗りこみ後2人の間で特に会話らしいものがなかったことが認められ、これらの事実を総合して考察すると、訴外Aによる加害車の運行について、Bにその利益を享有する意思や運転行為に加担する意思があったとは認められず、他にBに訴外Aとともに加害車を窃取し、自己の支配に置いたというべき事実を認めるに足りる証拠はない。そうだとすると、Bにおいて少なくとも訴外会社より以上の直接的・顕在的・具体的な運行支配があったものということはできず、結局、Bは訴外会社に対する関係においてなお「他人」であると解すべきである。

四 しかして、訴外会社が加害車につき原告ら主張の自賠責保険契約を締結していたことについては、前記のとおり当事者間に争いがなく、前段説示するところによれば、自賠法3条の規定により保有者である訴外会社の損害賠償責任が発生したことになり、被害者であるBは被告に対し、保険金額の限度において損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができるものといわなければならない。

五 そこで、Bの被った損害について検討する。
1 《証拠省略》によれば、Bは昭和36年2月19日生れの男子で、事故当時中学校卒業の16歳であり、かつ、父親の営む土建業の手伝をしていた事実が認められ、右事実と当裁判所に顕著な賃金センサス昭和52年第一巻第一表によれば、Bは、本件事故により死亡しなければ、少なくとも、原告ら主張のとおり、18歳から67歳まで毎月9万1800円を下らない収入を得られたはずで、生活費は収入の50パーセントとみられるから、右生活費を控除し、年別のホフマン式により年5分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益を算定すると、次式のとおり金1273万5707円となる。
 91,800×12×(1-0.5)×(24.9836-1.8614)=12,735,707(円)

2 本件事故発生に至る経緯、訴外会社の加害車に対する保管状況、本件事故の態様などを総合すると、Bの慰謝料は金400万円とみるのが相当である。

3 ところで前記三において検討したとおり、Bは、訴外会社に対し他人性を失わないものの、前記一の認定事実によれば、訴外Aとともに訴外会社に無断で路上に放置してあった加害車に乗り込み、その結果、訴外Aによる無免許で、かつ、シンナーのために正常な状態でない運転行為を招き、本件事故に至ったものであるから、衡平の理念に照らし、過失相殺の規定を類推適用して損害の量的制限を図るのが相当であると考えられ、その他本件証拠に表われた諸般の事情を総合すれば、Bの請求しうる損害額は全損害額の2割に当る金334万7141円とするのが相当である。

4 しかして、《証拠省略》によると、Bは韓国籍であり、原告両名はBの両親であることが認められ、右事実によれば、Bの死亡により原告ら両名は相続によりそれぞれ2分の1宛の金167万3570円(円未満は切捨て)の損害賠償請求権を取得したものといわなければならない(韓国民法1000条、1009条)。

六 よって、原告らの請求は被告に対し、それぞれ金167万3570円及びこれに対する《証拠省略》により被告が自賠責保険金の支払請求を受けた後であることが認められる昭和52年9月1日から支払ずみまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条、93条を、仮執行の宣言につき同法196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 白川芳澄 裁判官 成田喜達 大塚正之)
以上:5,792文字

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