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胸郭出口症候群による12級13号後遺障害認定した名古屋地裁判例紹介

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平成30年12月26日(水):初稿
○「交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決紹介1」で、胸郭出口症候群当で併合第10級の後遺障害を認めた平成22年10月22日名古屋地裁判決(自保ジャーナル・第1838号)を紹介していましたが、同じ名古屋地裁で胸郭出口症候群による後遺障害等級第12級13号を認めた平成30年2月23日判決(自保ジャーナル・第2022号)を紹介します。

○事案の概要は、約9ヶ月前の右肘滑膜軟骨腫症切除術等による既往症を有する45歳女子OA従事、居酒屋勤務の原告は、平成23年9月27日午前7時55分頃、名古屋市内の道路上で佇立中、13歳女子被告搭乗の自転車に衝突され、外傷性頸部症候群、胸郭出口症候群、低髄液圧症候群等の傷害を負い、11日入院含む約2年7ヶ月間入通院し、9級10号左上肢神経症状、12級13号頸部、左肩甲部等の神経症状から9級後遺障害を残したとして、既払金を控除し内金3000万円を求めて訴えを提起したものです。

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主 文
1 被告乙山春子は、原告に対し、1534万4342円及びこれに対する平成23年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告乙山春子に対するその余の請求及び被告乙山夏子に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、
(1) 原告と被告乙山春子との間においては、原告に生じた費用の2分の1と同被告に生じた費用を通じてこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告乙山春子の負担とし、
(2) 原告と被告乙山夏子との間においては、原告に生じた費用の2分の1と同被告に生じた費用は原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

1 被告乙山春子は、原告に対し、3000万円及びこれに対する平成23年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告乙山夏子は、原告に対し、3000万円及びこれに対する平成23年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要等
1 概要

 本件は、平成23年9月27日午前7時55分頃、被告乙山春子(平成10年9月生・当時13歳)運転の自転車(以下「被告自転車」という。)と原告(昭和41年5月生・当時45歳)とが衝突した交通事故に関し、原告が、
(1) 被告乙山春子に対しては民法709条(不法行為責任)に基づき、
(2) (仮に、被告乙山春子が責任無能力者であるならば、法定代理人親権者母である)被告乙山夏子に対して民法714条1項(責任無能力者の監督義務者の責任)に基づき、
 賠償金4830万8292円のうち3000万円及びこれに対する不法行為日(事故発生日)である平成23年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 なお、原告は、被告乙山春子に対する請求と、被告乙山夏子に対する請求は法律上併存し得ない関係にあるとして、同時審判の申出(民事訴訟法41条1項)をする。

         (中略)


第三 当裁判所の判断
1 原告の受傷・治療と後遺障害等

(1)ア
(ア) 原告は、本件事故後、別紙(略)のとおり、D病院(腰椎捻挫、上眼瞼裂創、左膝擦過傷、頸部挫傷、両肩挫傷、背部挫傷)、Eクリニック(頭部挫傷、頸部挫傷、右・左肩・左肩甲部挫傷、腰部挫傷)に通院した。
(イ) Fクリニックでは、平成23年11月9日、眼の検査等を受けたが、「眼圧左右とも正常。眼球運動制限無し。融像視、立体視に問題無し。前眼部、中間透光体、眼底に異常無し。目やにがでるとのことだが、結膜に異常無く、結膜炎はなかった。」と診断された。
(ウ) Gセンターでは、平成23年11月25日、「9/27に交通事故にあい、3日後嘔気ありCTするも異常は指摘されていない。11/18よりぼやけてみえる症状、嘔気で脳神経外科受診」したが、「CTではSDH(硬膜下血腫)なく、脳神経・脳幹も明らかな異常は認めていない。」と診断された。
(エ) Qセンターでは、平成24年3月3日、頸椎のMRI検査を受け「C4/5、C5/6レベルの椎間板後縁が軽度突出し、硬膜嚢を軽度圧迫しています。頸髄内部に明かな異常信号は認めません。」と診断された。
(オ)
a 平成24年3月22日以降、H大学病院で診察を受けるようになった。
原告の訴えは、「2011年9月23日歩行中に自転車と衝突、以後頸部痛等が残存。
2012年2月半ば頃から舌、口唇、両頸部、後頭部の痺れが出現。昨年9月頃~自覚的なものの見えにくさ(眼科では異常なし)もあった」というものであった。
b そして、頭部のMRI検査(平成24年4月26日)では「脳血管障害を疑う異常信号を指摘できません。」と所見された。
c 頸椎(髄)のMRI検査(平成24年4月27日)では「頸椎からは生理的前弯が失われ、直線状に椎体が配列しています。C4-6椎体腹側及び背側に骨棘形成を認めます。撮像内の椎間板に変性を認め、C3/4-5/6levelでは背側に膨隆しており、硬膜嚢を圧迫しています。頸髄に異常信号は認めません。病的な椎間孔狭窄は認めません。C1/2の両側椎間孔周囲に境界明瞭なT2強調画像、STIR像での高信号域を認めます。髄液の漏出の可能性がありますが、前回より縮小傾向です。小脳扁桃の病的下垂は認めず、低髄圧症候群は考えにくいです。」と所見された。
d 頸椎(髄)のMRI検査(平成25年3月1日)では、「2012/04/27のMRと比較」して「…左腕神経叢は胸郭出口部で尾側に圧排されている可能性があります。胸郭出口症候群の可能性があります。前回と著変ありません。」と所見された。
e H大学病院では原告について低髄液圧症候群、胸郭出口症候群と診断した。

(カ) 原告は、平成24年5月7日以降、J病院で診察を受け、「Morley test陽性だがそれほど痛がらない。Roos3分間挙上テスト1分可能だが両上肢、肩周辺にしびれ。症状は頭痛は朝、痛いのは特に変動なさそう。病態の主因は牽引障害のようだ。肩胛骨は下方回旋している。」、「腕神経叢造影では牽引型と圧迫型の混合、どちらかといえば圧迫の要素が強いか。肩甲帯を挙上、上方回旋できれば、どちらも改善する。神経根周囲はきれい。上肢尺側の症状がとれなければ第1肋骨切除術の適応となるだろう。」と診断され、診断書(平成24年5月7日付け)には「平成23年10月の自転車との接触事故から発症したとの訴えで、身体所見からは傷病名は胸郭出口症候群、特に牽引障害が主たる原因となっていると診断します。装具治療を行って経過観察していきます。」と記載された。

(キ) 原告は、平成24年5月14日、H大学病院の診療情報提供書(傷病名:脳脊髄液減少症、上位頸椎部髄液漏)を持参して、K病院で診察を受け、主観的症状として「H23.9自転車と衝突、H大学病院受診紹介された。硬膜周囲の髄液C1-2最近はこれも消失し、症状改善傾向。」、評価として「小脳下垂あり、但し症状は改善傾向」、治療計画として「EBP少し待つ。頸部交感神経ブロック効果あり。これに期待する。」とされた。

(ク) 原告は、平成24年5月30日以降、Lペインクリニックを受診し、「頸肩腕症候群、頸椎症性神経根症、左胸郭出口症候群、うつ病」と診断された。同クリニックでは、「当院では胸郭出口症候群テストで、エコーパルスドップラー併用検査をしたところ橈骨動脈の拍動減弱や消失は一切みられず、胸郭出口症候群であれば少なくとも血管系の同時絞扼はみられない神経単独のタイプと考えられました。また、外傷性かどうかは当院として鑑定はできず、あくまでも本人の愁訴に対し対症療法としての処置をすると言うことで、現在までエコーガイドによる腕神経叢ブロック、星状神経節ブロックを行っております。」ということであった。

(ケ) 原告は、平成24年10月10日以降、Mクリニックを受診し、最終的には「網膜・視神経に問題ない。胸郭出口症候群による調節異常と思われる。」と診断された。

(コ) 原告は、平成25年9月4日以降、N病院を受診し、針筋電図検査、神経伝導速度検査、体性感覚誘発電位検査を受け、「左第7、8頸椎神経、第1胸椎神経に一致した前角細胞もしくは神経根の障害を証明するものである。」とされ、「左胸郭出口症候群、左手根管症候群」などと診断された。

(サ) 原告は、平成25年9月12日、P病院において、電流知覚閾値測定CPT、サーモグラフィー、指尖容積脈波検査などの検査と診察を受け、左胸郭出口症候群と診断された。
 平成25年9月12日実施された作業療法Summaryの内容は、次のとおりであった。
・徒手筋力テストにおいて、尺骨神経の支配領域の筋肉においては右側より左側が全体に筋力低下(右側4-左側3、又は右側4左側3)を来している。
・握力 右14㌔㌘、左5㌔㌘
・上肢動作テスト(標準作業時間値対比)
 粗大動作 右77% 左60%
 巧緻動作 右81% 左49%
・簡易上肢機能検査 右92点、左88点
 ADL(日常生活動作)
APDL(日常生活関連動作)
 食事:グラスやお椀を持っているのが辛く、置いて食べることが多い。
 整容:洗顔時は顔への継続したリーチで痛みが生じることあり。
 更衣:やりにくいが何とかやっている。
 入浴:洗髪動作時などは上肢挙上位で保っていると痛みが生じることがある。
 調理:菜箸の使用がしにくく木べらを使うなど自分なりに工夫している。小さなものを持つと小指側から落とすことがある。食器の固定が行い難く洗い物がしにくい。
 その他:最近は右の肩にも痛みを生じることがあるようです。自動車の運転や就労(居酒屋)もなんとか継続しているとのことです。

(シ) 原告は、平成25年10月7日から同月17日までの間、J病院に入院し、同月9日に左第1肋骨切除術を受けた。

イ 後遺障害診断書
 Eクリニックは、診断日平成26年4月30日の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書において、次のとおり診断した。
・症状固定日 平成26年4月30日
・傷病名 頸部挫傷、外傷性頸部症候群、胸郭出口症候群
 自覚症状 頸部痛、頭痛、左上肢しびれ、めまい、左肩甲部痛、左顔面しびれ
・他覚症状および検査結果
 知覚:左上肢しびれ、左環指、小指の温痛触覚低下
 反射:正常
 筋力:両上腕とも筋力平均4程度
 握力:右12㌔㌘、左5㌔㌘
 筋萎縮:左右差なし
 ジャクソン、スパーリング:左陽性
 モーレイ、ルーステスト:左陽性
 レントゲン 頸椎 特に外傷性変化なし
 MRI C4/5、C5/6椎間板変性軽度腕神経叢造影 左上肢挙上・下方牽引で圧迫所見あり
 *平成25年10月、J病院にて胸郭出口症候群に対し左第1肋骨切除術が行われ、症状が軽度改善している。

(2) 以上の治療経過、診察内容によれば、原告は、本件事故により頸部挫傷、外傷性頸部症候群に加え、胸郭出口症候群の傷害も負ったものと認められる。

(ア) 意見書には、「胸郭出口症候群については、診断そのものは認められるものの、事故との相当因果関係を証明する客観的証拠には欠けると判断せざるを得ません。とくに、事故後の検査治療において、事故前から継続治療していた肘部管症候群のことが申告されていないように見受けられる点は気になるところです。治療に携わった医師達が、他覚的所見を伴う胸郭出口症候群と誤解している可能性があります。また、被調査者はキーボードを扱う職業ですが、OA従事者と胸郭出口症候群との間の密接な関係は良く知られるところです。事故との間の因果関係には疑問が残ると言わざるを得ません。」との指摘がある。

(イ) また、証拠(略)によれば、原告は、Eクリニックにおいて、平成22年12月26日、左肘滑膜軟骨腫の切除術と左尺骨神経麻痺に対する前方移行術を受け、その後、平成23年1月5日の時点で左肘の可動域制限、尺骨神経麻痺、小指球の萎縮、尺骨神経領域の知覚低下があり、同年6月16日の段階でも左肘の可動域制限が残存し、同年7月14日までリハビリテーションを受けていたことが認められる。

(ウ) しかしながら、H大学病院の診療録では既往症として「左前腕骨軟骨腫症で手術(2年前)」、Lペインクリニックの診療録においては「滑膜軟骨手掌は手術前尺骨神経を圧迫して麻痺、Rセンターで手術」、Mクリニックの診療録においては「2年前、左腕のOpRセンターの整形外科」、N病院の初診申し込み書には「滑膜軟骨腫症」などの記載があり、原告の左上肢にはその手術の痕跡が残っているものと窺われることからすれば、原告が「左肘滑膜軟骨腫の切除術と左尺骨神経麻痺に対する前方移行術を受けた」ことを各医療機関の担当医に対して説明していなかったとは考え難く、また、担当医がこの経過を気付かずに診療に当たっていたとは認め難いところである。
 また、本件事故は、平成23年9月27日に発生したところ、原告のEクリニックヘの通院・リハビリテーションはその約2ヶ月前には事実上終わっており、なお症状が継続していたことを窺わせる証拠もない。
 したがって、意見書における上記指摘は採用できない。

イ 低髄液圧症
(ア) 原告は、H大学病院において低髄液圧症(脳脊髄液減少症)との診断も受けている。
(イ) しかしながら、原告は、本件事故後、D病院及びEクリニックで治療を受けていたが、いわゆる診療録において、起立性頭痛を訴えていたことやそれを窺わせるような記載は認められないうえ、原告は、K病院における問診において「起き上がると悪化する?:いいえ」と答えるなど、基本的な症状の1つである起立性頭痛を認めるに足りる証拠はない。
 また、意見書によれば、原告のMRI画像所見において髄液の漏出があるとも判断できない。
(ウ) したがって、原告が本件事故により低髄液圧症の傷害を負ったとは認められない。

(3) 症状固定日
 上記(1)の治療経過、診察内容、特にJ病院での手術(平成25年10月9日)以降は、Eクリニックにおける治療は「運動器リハビリテーション」が続き、Lペインクリニックでは「星状神経節ブロック」が続けられていたこと、加えて意見書の「仮に胸郭出口症候群の診断を認めるにしても、J病院の手術後2~3ヶ月後を目処に症状固定の診断を下すべきであった」との意見を踏まえると、平成25年12月31日までには症状固定に至ったものと認めるのが相当である。

(4) 後遺障害
 そして、平成25年9月12日に実施された作業療法Summaryの内容(上記(1)ア(サ))、後遺障害診断書の内容(上記(1)イ)、原告の供述等も総合すれば、原告は、本件事故による胸郭出口症候群により左上肢に痛み、痺れ、握力低下、易疲労性等の症状が残ったものと、そしてその程度は、自動車損害賠償責任保険法施行令別表第二第12級13号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に相当するものと認められる。なお、これ以上の後遺障害が原告に残存していることを認めるに足りる証拠はない。

2 原告の損害額
(1) 治療費 93万7103円
 治療期間は、平成25年12月31日までとするのが相当であるから、その間の治療費は93万7103円となる。(弁論の全趣旨)
(2) 通院交通費 31万2980円
 通院交通費は、Eクリニックについては0円(徒歩で通院)、Lペインクリニックは2万6000円、その余は原告主張のとおりと認められるから、通院交通費は31万2,980円となる。(弁論の全趣旨)
(3) 休業損害 164万8518円
ア 平成23年9月27日から同年12月31日 43万6221円
イ 平成24年
 平成22年所得366万6967円-平成24年所得340万5278円=26万1689円
ウ 平成25年
 平成22年所得366万6967円-平成25年所得271万6359円=95万0608円
エ 合計 164万8518円

(4) 逸失利益 711万4395円
ア 基礎収入は、407万7,700円(平成26年賃金センサス・女・学歴計・45歳~49歳)とするのが相当である。
イ 労働能力喪失率は、後遺障害の内容・程度、本件事故前(平成22年)の年収(366万6967円(証拠(略)と症状固定前後の年収(平成24年:340万5278円、平成25年:271万6359円、平成26年:280万3000円)などの諸事情に照らし、14%とするのが相当である。
ウ 労働能力喪失期間は、後遺障害の内容・程度などの諸事情に照らし、67歳までの20年(中間利息の控除については、ライプニッツ係数12.4622)とす るのが相当である。
エ 407万7,700円×0.14×12.4622=711万4,395円

(5) 傷害慰謝料 200万円
 傷害慰謝料は、受傷内容、治療期間、治療経緯等に照らし、200万円が相当である。

(6) 後遺障害慰謝料 250万円
 後遺障害慰謝料は、後遺障害の内容・程度に照らし、250万円とするのが相当である。

(7) 小計 1451万2996円

(8) 素因減額
 上記1(2)アのとおり、本件事故は、平成23年9月27日に発生したところ、原告のEクリニックヘの通院・リハビリテーションはその約2ヶ月前には事実上終わっており、左肘滑膜軟骨腫の切除術と左尺骨神経麻痺に対する前方移行術を受けたことによる左肘の可動域制限、尺骨神経麻痺、小指球の萎縮、尺骨神経領域の知覚低下の症状や、左肘の可動域制限が、本件事故当時に残存していたことを認めるに足りる証拠拠はない。したがって、素因減額を認めることはできない。

(9) 既払金 ▲26万8654円
(10) 残額 1424万4342円
(11) 弁護士費用 110万円
(12) 合計 1534万4,342円

3 よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言の申立ては、相当と認められないので、これを付さないこととする。
(口頭弁論終結日 平成29年10月18日) 名古屋地方裁判所民事第3部 裁判官 坪井宣幸
以上:7,454文字

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