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平成30年12月18日(火):初稿 |
○自賠法第3条で「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定され、「自己のために自動車を運行の用に供する者」は運行供用者と呼ばれ、自分が運転した交通事故でなくても、自動車所有名義人は、その自動車の事故によって生じた人身損害について原則として賠償責任が認められています。 ○自動車所有名義人であっても、その自動車の運行について支配力を及ぼしているか、その運行によつて利益を享受していなければ責任はないとされ、具体例としては自動車と盗まれ、泥棒が運転して起こした事故には責任がなく、また、自動車所有は単なる名義貸しで運行支配も運行利益もなければ責任はないと解説されていました。 ○また昭和46年1月26日最高裁判決(交民集4巻1号20頁)は、「所有権留保の特約を付して、自動車を代金月賦払いにより売り渡す者は、特段の事情のないかぎり販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するにすぎないものと解すべきであり、該自動車を買主に引き渡し、その使用を委ねたものである以上、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者ではなく、したがって、自動車損害賠償保障法3条にいう『自己のために自動車を運行の用に供する者』にはあたらない」とし、所有権留保による所有名義人信販(クレジット)会社には、原則として運行供用者にはならないと解説されています。 ○ところが平成30年12月17日最高裁判決は、生活保護者A(弟)から名義貸与の承諾をしてAが実質所有・運転する自動車の所有者兼使用者になった兄について以下のように述べて運行供用者と認めました。 Aは,当時,生活保護を受けており,自己の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え,本件自動車を購入する際に,弟である被上告人に名義貸与を依頼したというのであり,被上告人のAに対する名義貸与は,事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし,自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また,被上告人がAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。そうすると,上記2(3)のとおり被上告人とAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても,被上告人は,Aによる本件自動車の運行を事実上支配,管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったというべきである。したがって,被上告人は,本件自動車の運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。○ここでの「自動車の所有及び使用を可能にし,自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。」との論理を徹底すると、名義上の所有者である信販会社も、正に「自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するもの」に該当する可能性があります。弟Aは生活保護者であり、本来、自動車を所有し・使用することが出来ない立場であるのに、その所有・使用を可能にしたと言う特殊事情に着目すれば、一般のクレジット契約での所有権留保特約に基づく所有名義人は自動車についての運行支配も運行利益もないとして運行供用者にはならないと解釈することも可能です。 ○しかし、何らかの事情で自動車所有名義人になれない人から依頼されて、一般の人が名義上所有者になることは、この平成30年12月17日最高裁判決によって、「自動車の運転に伴う危険の発生に寄与する」として運行供用者責任とされるのが原則になると考えて良いでしょう。如何なる事情があっても自動車の所有名義人なったら運行供用者になると覚えておくべきです。 以上:1,546文字
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