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加害者側からの債務不存在確認の訴えを却下した地裁判決紹介

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平成30年 2月25日(日):初稿
○交通事故による傷害治療は、通常、加害者側保険会社が支払いますが、治療が長引くと保険会社は、既に事故での治療は終わっているはずとして、治療費の支払を拒否します。被害者はそれでも事故による症状は継続しているとして自分の健康保険を使用して治療を継続します。この場合、保険会社は、既に支払った治療費・休業損害等で事故による損害は全て支払済みで、「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が一切存在しないことを確認する。」との債務不存在確認訴訟を出してくることがしばしばあります。

○このような場合、被害者側としては、事故による損害が、現時点でこれだけ発生しているとして加害者側に反訴を提起するのが一般です。当事務所でもこのような例を相当扱ってきました。ところが、この加害者側の債務不存在確認の訴えに対し、脳脊髄液減少症の可能性がありその診察・診断を得るまでは症状固定となっていないので、損害が確定せず、本件訴えは即時確定の利益を欠くとして、本案前の抗弁としての訴え却下を申し立て、これを認めた判例が出ています。

○平成28年5月25日横浜地裁小田原支部判決(自保ジャーナル第1990号)です。この一審判決は控訴審平成28年11月2日東京高裁判決で覆されていますが、一審判決は珍しい判決ですので、その全文を紹介します。控訴審判決は別コンテンツで紹介します。

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主 文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に基づく損害賠償債務が一切存在しないことを確認する。

別紙交通事故目録
1 発生日時 平成26年8月25日 午後3時40分ころ
2 発生場所 神奈川県伊勢原市<地番略>
3 原告車両 自家用普通乗用自動車 ナンバー 略(原告運転)
4 被告車両 自家用普通乗用自動車 ナンバー 略(被告運転)
5 態 様 原告車両が自宅から右折出庫する際、左方から直進してきた被告車両と接触したもの。

第二 事案の概要
1 本件は、本件事故を起こした原告が、本件事故により損害を受けた被告に対し、原告との間で自動車損害保険契約を締結している保険会社(以下「原告保険会社」という。)が合計52万0455円を支払ったことで本件事故による損害が全て弁済されたと主張して、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が一切存在しないことの確認を求める事案である。

2 判断の前提となる事実(当事者間に争いがない事実、認定事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、過失により本件事故を起こし、被告に対し、本件事故による損害について民法709条に基づく不法行為による損害賠償債務を負う(当事者間に争いがない。)。

(2) 被告は、本件事故後、次のとおり通院した(後記アからウまでの治療については本件事故との間に相当因果関係があることは当事者間に争いがないが、後記エ及びオの治療については本件事故と相当因果関係があるかについては当事者間に争いがある。)。
ア 平成26年8月25日通院
B大学病院
イ 平成26年8月26日から同年9月8日まで通院
C病院
ウ 平成26年9月13日から平成27年2月28日まで通院
D整形外科
エ 平成27年5月15日から平成28年1月18日まで通院
D整形外科
オ 平成27年8月3日から平成28年1月8日まで通院
C病院

(3) 原告保険会社は、被告に対し、治療費(前記(2)アからウまでのもの)48万1750円及び交通費3万8705円(原告保険会社が本件事故との間に相当因果関係がないと判断している交通費6190円を含む。)を支払った(弁論の全趣旨)。

3 当事者の主張
(1) 原告

ア 原告保険会社は、D整形外科が平成27年2月28日に治癒したとの診断をもって、被告との間で損害賠償額の交渉をしようとしたが、被告は症状が残っていると述べてこれに応じなかった。そこで、原告保険会社は、被告に対し、後遺障害診断書を作成して後遺障害等級の認定を受けるための手続を伝えたが、被告は、原告保険会社に対し、後遺障害診断書を送らなかった。

 原告は弁護士に委任し、同弁護士は、平成27年10月5日付け通知書で、本件事故による損害賠償の交渉をしたい旨伝えると、被告も弁護士に委任し、同弁護士は、同年12月18日付け介入通知で、原告が現在も本件事故の影響で頭のふらつき、身体の脱力感、足がふらつくなどの症状が継続し、C病院医師からしばらく症状の観察を続けた方がよいとの意見を受けたので、交渉を開始するまでしばらく猶予してもらいたい旨回答した。

 しかしながら、原告が治癒の診断を受けてから現在まで10ヶ月以上が経過しているのに、後遺障害等級の認定を受けることなく、ただ経過観察を待つことに合理的理由はない。このように、原告と被告は本件事故による損害賠償額について任意の話合いで解決することは著しく困難であり、本件訴えについて確認の利益がある。

 なお、被告は脳脊髄液減少症の診断を受けたことはなく、本件事故との間の相当因果関係が証明されていない上に、一般に交通事故において脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の発症が認められることは極めて少なく、その場合は整形外科的な傷病の症状が症状固定と診断されれば全体として症状固定と診断され、その症状固定を前提に損害額を確定することができるから、本件訴えの確認の利益は認められる。

(2) 被告
ア 被告は、原告保険会社から治療費を支出できるのは平成27年2月までであると言われ、平成27年2月28日、D整形外科により治癒したとの診断を受けた。そこで、被告は、しばらくの間、通院を中止したが、その後も頭のふらつきや頸の痛みに悩まされ、特に同年5月のゴールデンウィークの時に症状が強く出たため、再び通院を始めた(判断の前提となる事実(2)エ、オ)。

イ 被告は、平成28年1月26日、C病院医師の勧めでa市内の心療内科を受診したところ、被告の症状が脳脊髄液減少症の可能性があると指摘され、E病院において、脳脊髄液減少症の検査を受ける予定であるが、診察を受けることができるのは平成28年5月以降である。仮に被告の症状が脳脊髄液減少症によるものであったとすれば、治療が必要となる可能性があることを考えると、本件事故による症状固定の時期は現段階では確定することはできず、本件訴えは即時確定の利益を欠く。

第三 当裁判所の判断

(1) 本件事故は平成26年8月25日に発生し、平成27年2月28日までの治療費及び交通費については原告も本件事故との間の相当因果関係があることは認めているが、原告保険会社は平成27年2月には支払をやめ、被告は原告及び原告保険会社への損害賠償請求及び損害賠償の交渉をせずに自費で病院に通院していた(判断の前提となる事実(2)エ、オ、弁論の全趣旨)ところ、原告は、弁護士に委任し、同弁護士が、平成27年10月5日付け通知書で、本件事故による損害賠償の交渉をしたい旨伝えると、被告も弁護士に委任し、同弁護士が、同年12月18日付け介入通知で、被告が現在も本件事故の影響で頭のふらつき、身体の脱力感、足がふらつくなどの症状が継続し、C病院医師からしばらく症状の観祭を続けた方がよいとの意見を受けたので、交渉を開始するまでしばらく猶予してもらいたい旨回答すると、原告は、平成27年12月25日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著である。)。

(2) ところで、確認の訴えの確認の利益は、原告の法的地位に不安や危険が現存し、これを解消するために、当該請求につき確認判決を得ることが必要かつ適切でなければ認められない。
 しかしながら、被告は原告が保険金の給付をやめた後、原告及び原告保険会社への損害賠償請求及び損害賠償の交渉をせずに自費で病院に通院していたのであるから、原告にとってその判断によれば過大となる損害賠償額に基づく請求及び交渉を被告に強いられていたという事情は認められない。そして、原告代理人弁護士の交渉を求める通知書に対し被告代理人弁護士が交渉の猶予を求めた直後に任意の話合いで解決することが著しく困難であると本件訴えを提起したというのは原告の対応としてあまりにも性急といわざるを得ない。

 そして、交通事故における債務不存在確認の訴えには、被害者である被告に損害賠償請求訴訟を提起させることを強いる機能がある。ところで、被告においては、これから脳脊髄液減少症の診療を受けるものとしているが、現段階で被告に損害賠償請求訴訟を提起させたとしても、同訴訟は、被告主張における症状が固定し、損害が確定するまで継続し(なお、原告が被告の脳脊髄液減少症の主張を積極的に否定する訴訟活動をするにしても、脳脊髄液減少症の診療をした病院の診療録等の検討が必要となり、いずれにしても長期の審理が必要となる。)、又は後遺障害による損害を除く一部請求となり後遺障害についての最終的な紛争解決に至らないことになり得る。そのため、本件訴えは、成熟性に欠け、現存する原告の法的地位の不安や危険を解消するために適切であるとはいえない。

(3) なるほど、被告の症状は、D整形外科において、平成27年2月28日、治癒又は症状固定したと診断されており、被害者の交通事故により脳脊髄液減少症の主張が認められない裁判例が多く存在する(当裁判所に顕著である。)。
 しかしながら、平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業である脳脊髄液減少症の診断治療法の確立に関する研究班は「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」を公表し(脳脊髄液の量を臨床的に計測できる方法がなく、画像診断では脳脊髄液漏出を診断できるにすぎないので今回は「脳脊髄液減少症」ではなく、「脊髄液漏出症」の画像判定基準・画像診断基準を示したとする。)、ブラッドパッチ療法が平成28年4月から保険適用とされていること(当裁判所に顕著である。)からすれば、被告の主張が本件事故による症状を脳脊髄液減少症によるものであるとしても、被告の診療前から、その症状が本件事故との間に相当因果関係がないと即断することはできない。

(4) 以上のことからすれば、本件訴えには確認の利益がないものといわざるを得ない。

2 よって、本件訴えは不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成28年3月14日)
 横浜地方裁判所小田原支部民事部 裁判官 栗原洋三

以上:4,369文字

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