旧TOP : ホーム > 交通事故 > 交通事故判例-脊椎脊髄関係症等 > |
平成27年 5月19日(火):初稿 |
○「頸動脈瘤発症と交通事故との因果関係を認めた判例紹介1」の続きで、裁判所の判断です。 ******************************************** 第三 当裁判所の判断 1 原告主張の後遺障害と本件事故との因果関係及び後遺障害の程度について (1) ((証拠略)、鑑定の結果)によれば、次の事実を認めることができる。 ア 原告は、本件事故の翌日である平成3年10月24日、左後頸部分の筋肉痛様の重苦感を訴えて、医療法人社団阿部整形外科形成外科医院で診療を受け、その際、左後頸部筋肉痛を訴え、頸部捻挫と診断され、経過観察に付された(証拠略) 。その際行われた原告の頸部レントゲン検査では、頸椎骨には異常が認められなかった。 なお、原告は、本件事故の際、左脇に抱えていた本件カバンで、左頸部前方を強打して同部分を強圧した旨主張する。しかし、(証拠略)(診断書)によれば、本件事故の翌日、原告は左後頸部分の筋肉痛様の痛みを訴えただけであり、特に左前頸部分に痛みを訴えたり、同部分に打撲の跡が確認された事実は認められず、また、(証拠略)(陳述書)によれば、左頸部と、本件カバンの上部が「接触」した程度であったことが窺われ、本件カバンで左頸部を強打ないし強圧したとの事実が発生したことが明確であるとはいえない。 しかし、上記認定のとおり、原告が本件事故の翌日、左後頸部分の筋肉痛様の重苦感を訴え、頸椎捻挫と診断されていることに照らすと、原告が主張するように、少なくとも衝突の衝撃によって頸部がのけぞるように後方に屈した後に、反動で前屈し、これにより原告の左頸部が過度の伸展や回旋をしたものと推認することができる。 イ 原告は、本件事故後一度頸部の違和感等を感じなくなっていたが、平成5年4月ころから、左肩に凝りを感じるようになり、同年5月末ころ、左頸部に腫瘤を認めるようになった。(証拠略)。 ウ 原告は、平成5年6月8日、仙台徳州会病院において診察を受け、同年6月16日、左総頸動脈瘤疑いと診断され(証拠略)、同年6月23日から同年7月1日まで同病院に入院し、その間脈管造影X線検査等を受け、その結果、左総頸動脈瘤と診断され、手術のため、医療法人広南病院に転院した。(証拠略)。 エ 原告は、同年7月1日から同月26日まで、医療法人広南病院に入院し、同月2日、左総頸動脈仮性動脈瘤切除及び再建の手術を行い、手術所見から、左総頸動脈仮性動脈瘤であると診断された。(証拠略)。 (2) 上記認定した事実と鑑定の結果をもとに、本件事故と上記左総頸動脈仮性動脈瘤との因果関係の存否を検討する。 原告の傷病は左総頸動脈仮性動脈瘤であるところ、原告の動脈瘤の発生部位が通常の動脈瘤の好発部位ではないこと(証拠略)、総頸仮性動脈瘤の原因としては、胸部又は頸部の打撲、頸部の過度の伸展、回旋等があり、多くは外的要因が加わったことにより形成され、頸部の強打、伸展、回旋により動脈の内膜及び中膜の一部に亀裂が生じ、外膜内、また外膜周囲組織に血腫ができ、経過を経て仮性動脈瘤が形成されたものと考えられること(鑑定の結果)、原告は、本件事故以降、頸部を打撲したことはない旨供述しており(特段この供述を疑うべき証拠は存在しない。) 、原告の病歴からは頸部の打撲、伸展、回旋以外に仮性動脈瘤の要因が認めがたいこと(鑑定の結果)が認められる。 以上によれば、原告の左総頸動脈仮性動脈瘤は、本件事故の衝撃により、原告が頸部を強打、伸展若しくは回旋したことによって、左総頸動脈の内膜及び中膜の一部に亀裂が生じ、外膜内、または外周周囲組織に血腫ができ、経過を経て形成されたものと認められ、本件事故と左総頸動脈仮性動脈瘤との間には、相当因果関係があるものと認められる。 なお、原告が、本件事故による受傷から、左総頸動脈仮性動脈瘤の診断を受けるまで1年8か月を経過していること、頸部外傷から総頸動脈瘤が発生する確率は低率であること、動脈瘤に見られやすい臨床症状がみられなかったことなどの事実が存在するが、鑑定の結果によれば、まれにではあるが臨床症状、胸部写真所見を伴わない症例があること、仮性動脈瘤は動脈の内膜及び中膜の一部が亀裂することにより発生するが、動脈の内膜及び中膜の亀裂の程度により発生時期に違いがでることが認められ、上記の事実をもって、本件事故と左総頸動脈仮性動脈瘤の因果関係を否定することができるとはいえない。 2 損害額について ア 治療関係費 41万5250円 (証拠略)によれば、原告の左総頸動脈仮性動脈瘤の治療費として、41万5250円を要したことが認められるところ、前記1イで認定したとおり、本件事故と左総頸動脈仮性動脈瘤との間には因果関係が認められる。したがって、原告の左総頸動脈仮性動脈瘤の治療費として要した41万5,250円は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 イ 後遺障害による逸失利益 1639万9607円 ((証拠略)、鑑定の結果、)によれば、原告は、本件手術後、左頸部手術箇所の引きつり感、右下肢のしびれ等が残存すること、今後吻合部動脈瘤などの合併症発生の危険性があるため、その予防措置として、定期検査及び内服治療が必要であること、特定疾患療養指導を継続的に受けており、平成11年7月15日症状固定したと診断された(証拠略)ことが認められる。 かかる諸事情にかんがみれば、原告には、一般労働能力は残存しているものの、頸部等の機能の障害が認められ、労働にも支障をきたしているといえ、後遺障害等級第11級11号の「胸腹部臓器に障害を残すもの」に準ずる後遺障害が存在するものと認められ(なお、原告が自動車保険料率算定会により、後遺障害等級11級11号と認定されたことは当事者間に争いがない。)、原告は本件事故によりその労働能力の20%を喪失したものと認めるのが相当である。 これに対し、原告は、原告の後遺障害は、服する労務が相当程度に制限されるものであり、「胸腹部臓器に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの」として、後遺障害等級第9級11号に該当し、労働能力を35%喪失した旨主張する。 しかし、「服することができる労務が相当程度に制限される」場合とは、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限される場合を指すと解されるところ、上記のように、左頸部手術箇所の引きつり感等が残っているものの、原告は事故当時から現在まで9年以上にわたって日本エアーテック株式会社の仙台営業所所長として勤務を続けているうえ、原告も仕事に影響はない旨供述していること、動脈瘤の切除により、破裂、血栓症、脳塞栓症の危険性は低下し、通常の日常生活、勤務、運動は可能であるとされている(鑑定の結果)ことに照らすと、原告について、社会通念上、服する労務自体が制限されるとまでは認めることはできず、原告の上記主張は採用することができない。 そこで、原告の平成5年に得ていた年収756万6000円(証拠略)を基礎にして(弁論の全趣旨によると、症状固定と診断された平成11年当時の原告の年収は平成5年当時の年収額が維持されているものと推認される。原告の年収額が認定できるので、原告主張のように賃金センサスによる平均賃金によることは相当ではない。)、ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息(51歳から67歳までの16年間に対応するライプニッツ係数は10.8377)を控除して算定すると、原告の逸失利益は1639万9607円である。 (算式)756万6000円×0.20×10.8377=1639万9607円 なお、証拠(略)によると、原告の左頸部及び下肢には、本件手術による手術痕が残存していることが認められるが、この手術痕については、必ずしも目立つ部位形状ではなく、他人をして醜いと思わせる程度には至っているとはいえず、原告の業務が主として事務職である(原告本人)ことを併せ考慮すると、かかる手術痕によって原告に逸失利益が生じるとまでは認めることができない。 ウ 傷害慰謝料(入通院慰謝料) 100万円 原告の動脈瘤発生の部位、本件手術の態様、入通院の期間等を総合考慮すると、本件事故による傷害慰謝料は、100万円が相当と認められる。 エ 後遺障害による慰謝料 400万円 動脈瘤再発等の危険が消失していないこと、左頸部付近の引きつり感、右足のしびれ、左頸部と右下肢の手術痕の残存等の後遺障害の部位、内容、程度、原告の年齢、就業状況等を総合考慮すると、後遺障害による慰謝料は400万円が相当と認められる。 オ 損害額合計 2181万4857円 カ 損害の填補 423万3300円 上記損害額合計から既払額を控除すると1758万1557円となる。 キ 弁護士費用 170万円 本件事案の内容、訴訟の経緯、認容額等を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は170万円と認めるのが相当である。 第四 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、1928万1557円及びこれに対する本件事故発生日である平成3年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これをその限度で認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 仙台地方裁判所第2民事部 裁判官 伊藤紘基 以上:3,926文字
|