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頸動脈瘤発症と交通事故との因果関係を認めた判例紹介1

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平成27年 5月19日(火):初稿
○先日、事故後の動脈瘤発症について損害賠償請求が出来ますかと質問を受けました。動脈瘤とは、ウィキペディア解説によると「動脈の壁の一部が何らかの要因で薄くなり、その血管が膨らむことで発病する循環器病。同様の疾患が静脈に生じた場合は静脈瘤と呼ばれる。」とされ、原因としては「動脈硬化や外傷性のものが考えられる。炎症や遺伝性のものも考えられる。」とあります。

○交通事故による動脈瘤発症を認めた判例を調べてみたら、ありました。平成13年6月28日仙台地方裁判所判決(自動車保険ジャーナル・第1437号)です。以下、この判決理由分全文を2回に分けて紹介します。

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主   文
1 被告は原告に対し、1928万1557円及びこれに対する平成3年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

1 被告は原告に対し、4561万1878円及びこれに対する平成3年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第二 事案の概要

 本件は、被告運転車両(以下「被告車両」という。)が前方車両に追突した事故により、さらにその前方の車両に乗車していた原告が受傷し、後遺障害を残したとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき損害賠償を請求した事案である。

2 当事者間に争いのない事実、証拠(略)により容易に認められる事実
(1) 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

ア 事故の日時 平成3年10月23日午後10時15分頃
イ 事故の場所 仙台市青葉区堤町三丁目9番1号先路上
       (以下「本件事故現場」という。)
ウ 関係車両1 普通乗用自動車(タクシー、以下「佐藤車両」という。)
    運転者   訴外A
    同乗者   原告(昭和22年10月28日生、後部座席に乗車していた。)
エ 関係車両2 普通乗用自動車(タクシー、以下「B車両」という。)
    運転者   訴外 B
オ 関係車両3 普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)
    運転者   被告
カ 態  様  本件事故現場付近において、被告車両が前方の宮川車両に追
          突し、さらに宮川車両が佐藤車両に追突した。

(2) 責任原因
 被告は、本件事故につき過失があったから、民法709条に基づき、原告に生じた損害について賠償責任を負う。

3 争点と争点にかかる当事者の主張
 本件の争点は、(1)原告の主張の後遺障害と本件事故との因果関係及び後遺障害の程度、(2)損害額である。

(1) 原告主張の後遺障害と本件事故との因果関係及び後遺障害の程度
ア 原告

 原告は、強化ボール紙製の四角形のカバン(以下「本件カバン」という。)を左脇腹に抱える状態で持ちながら後部座席に座っていたところ、本件事故の衝撃によって、本件カバンの上辺角部を左頸部に強打して左頸部を強圧し、そのため、頸部捻挫、及び左総頸動脈の外傷性の微弱な損傷の傷害を受けた。この左総頸動脈の微弱な損傷により、経過を経て左総頸動脈仮性動脈瘤が形成され、平成5年7月2日、左総頸動脈仮性動脈瘤の切除及び再建の手術(以下「本件手術」という。)を余儀なくされた。

 原告は、本件手術後も、血管壁充てん部に膨隆がみられ、動脈瘤再発や血栓症のおそれが残るため、予防措置として、定期検査、内服治療を受けるとともに、特定疾患療養指導を継続的に受ける等、無理ができない身体となり、一般の健康な肉体を有している者が従事する肉体労働には従事できなくなった。かかる原告の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令第2条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害等級」という。)第9級11号の「胸腹部臓器に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの」に該当する後遺障害であり、原告は35%の労働能力を喪失した。

 また、原告は、本件手術の結果、左耳下から胸部にかけて長さ約23㌢㍍、幅約2㌢㍍で、喉元においてびらん状になっている著しい醜状痕が残り、右脛部にも長さ約22㌢㍍幅約1㌢㍍の醜状痕が残った。かかる外貌醜状は、後遺障害等級第12級13号の「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」に該当する後遺障害である。

イ 被告
 原告が頸椎捻挫の診断を受けたことは認めるが、左総頸動脈の微弱な損傷の傷害を受け、原告主張の左総頸動脈仮性動脈瘤が発症したことは否認し、外貌醜状については、不知。
 原告は、本件カバンを左脇に抱えていたと主張する(証拠略)が、不自然な姿勢であり、原告が本件事故の際、頸部を打撲した事実は認められない。
 仮に、本件事故により、原告が頸部を打撲したとしても、原告に左総頸動脈仮性動脈瘤の症状が現れたのは、本件事故から1年半以上経過してからであり(証拠略) 、他方、動脈瘤の原因は様々であって(証拠略)、原告の左総頸動脈仮性動脈瘤が、本件事故以外の原因で発症した可能性は否定できないこと、原告が本件カバンの角をぶつけたと主張する部位は左の耳の下5㌢㍍のところであり、動脈瘤の発症部位である鎖骨の上とは離れていること(証拠略)、広南病院医師長嶺義秀及び仙台徳洲会病院医師新海準二の診断書等(証拠略)によれば、原告の左総頸動脈瘤の原因は不明とされていること、仙台徳洲会病院医師新海準二及び広南病院医師甲州啓二の照会回答書(証拠略)も、本件事故による受傷と左総頸動脈仮性動脈瘤の発症の因果関係を積極的に肯定していないこと、原告が徳州会病院や広南病院の医師に、本件事故が原因であるとは告げていないことに鑑みると、原告主張の左総頸動脈仮性動脈瘤と本件事故との間に因果関係は存在しない。

 さらに、仮に本件事故と左総頸動脈仮性動脈瘤発症との間に因果関係があるとしても、原告が左総頸動脈仮性動脈瘤によって、仕事上で相当程度の損害を受けたという事実は認められず、原告の後遺障害は9級11号には該当しない。また、仮に原告に外貌醜状の後遺症があったとしても、それによって逸失利益が発生する余地はない。

(2) 損害額
ア 原告

(ア) 治療関係費 41万5250円
 原告は、治療費合計41万5250円を支払った。

(イ) 後遺障害による逸失利益 3702万9928円
 原告(昭和22年10月28日生)は、私立国学院大学工学部を卒業し、症状固定(平成11年7月15日)当時51歳であったところ、平成11年度における大卒者51歳の賃金センサスによると、年収は976万2200円であり、67歳までの就労可能年数は16年で、ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息(51歳から67歳まで16年間の就労可能年数に対応するライプニッツ係数は10.8377)を控除して現価を算定すると、原告の逸失利益は3702万9928円である。
 (算式)976万2200円×0.35×10.8377=3702万9928円
 仮に、原告の年収について、大卒者の賃金センサスによることが認められず、平成11年度における全労働者51歳の賃金センサスによるとしても、年収は620万7900円であり、67歳までの就労可能年数は16年で、ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息(51歳から67歳まで16年間の就労可能年数に対応するライプニッツ係数は10.8377)を控除して現価を算定すると、原告の逸失利益は2,354万7,775円である。
 (算式)620万7900円×0.35×10.8377=2354万7775円
 なお、原告の給与は、本件事故による後遺障害により現実に減額されてはいないが、これは原告の勤務先の情誼的配慮と、原告が勤務を休まないよう努力を重ねたことによるものである。原告の労働能力が喪失している以上、現実の減収がない場合でも労働能力喪失による逸失利益は存するのであり、その賠償が認められるべきである。

(ウ) 入通院慰謝料 200万円
 原告は、本件事故における受傷による本件手術及び治療のため、合計35日間入院し、本件手術後、平成5年から平成11年までの時点で、46回通院して、検査、投薬治療、特定疾患療養指導を受け、今後もかかる通院の継続が必要である。よって、原告の入通院慰謝料は200万円とするのが相当である。

(エ) 後遺障害による慰謝料 840万円
 原告の前記(1)ア記載の各後遺障害の内容、程度を考慮すれば、原告の後遺障害による慰謝料は、840万円とするのが相当である。

(オ) 弁護士費用 200万円
 本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は、200万円が相当である。

(カ) 既受領額 423万3300円
 原告は、本件事故の損害のてん補として423万3,300円を受領した(当事者間に争いがない)。

(キ) 請求額
 上記(ア)ないし(オ)の合計額4984万5178円から既受領額423万3300円を控除した4561万1878円(仮に、上記(イ)第1段落記載の逸失利益が認められないとしても、合計額3636万3025円から既受領額423万3,300円を控除した3212万9725円)及びこれに対する平成3年10月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金

イ 被告
(ア) 治療関係費について 争う。
(イ) 後遺障害による逸失利益について
 原告の給与が、原告主張の後遺障害によって減額されていないため、原告について逸失利益は認められるべきではない。
(ウ) 入通院慰謝料について 争う。
(エ) 後遺障害による慰謝料について
 原告が、その主張の後遺障害によって、「服することができる労務が相当な程度に制限され」(後遺障害等級9級11号)ている事実は認められず、原告の主張の後遺障害は後遺障害等級9級11号には該当しない。
(オ) 弁護士費用について 争う。


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