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平成27年 4月24日(金):初稿 |
○「センターラインオーバー車両に衝突された側の責任を認めた判例紹介」で紹介した平成27年4月13日福井地裁判決が、裁判所サイトにPDFファイルで全文公開されました。要旨紹介は次の通りです。中央線を越えて対向車線に進行した車両甲が対向車線を走行してきた車両乙と正面衝突し,車両甲の同乗者が死亡した事故について,同乗者の遺族が,車両乙の運行供用者であり,当該車両の運転者の使用者でもある会社に対し,自動車損害賠償保障法3条及び民法715条に基づき損害賠償を求めた事案において,車両乙の運転者は,より早い段階で車両甲を発見し,急制動の措置を講じることによって衝突を回避すること等ができた可能性が否定できず,前方不注視の過失がなかったとはいえないが,他方で,どの時点で車両甲を発見できたかを証拠上認定することができない以上,上記過失があったと認めることもできないから,会社は,自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償義務を負うが,民法715条に基づく損害賠償義務は負わないとした事例○取り敢えず全文を3回に分けて紹介し、内容を私なりに検討していきます。 ******************************************** 主 文 1 被告Aは,原告Bに対し,5233万2067円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Aは,原告C及び原告Dそれぞれに対し,1500万5516円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告Eは,原告Bに対し,3112万7992円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Eは,原告C及び原告Dそれぞれに対し,893万1998円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告Aは,原告Fに対し,1472万4000円及び,うち130万円に対する平成24年4月30日から,うち1342万4000円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 原告Bは,原告Fに対し,981万5999円及び,うち86万6666円に対する平成24年4月30日から,うち894万9333円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 原告C及び原告Dは,原告Fに対し,各245万3999円及び,うち21万6666円に対する平成24年4月30日から,うち223万7333円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 8 原告B,原告C,原告D及び原告Fのその余の請求をいずれも棄却する。 9 訴訟費用中,甲事件について生じた費用はこれを10分し,その5を被告Aの,その3を被告Eの,その余を原告B,原告C及び原告Dの負担とし,乙事件について生じた費用はこれを10分し,その4を原告Fの,その3を被告Aの,その余を原告B,原告C及び原告Dの負担とする。 10 この判決は,第1項ないし第7項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 甲事件 (1)被告A及び被告Eは,原告Bに対し,連帯して5233万2067円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被告A及び被告Eは,原告Cに対し,連帯して1500万5516円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)被告A及び被告Eは,原告Dに対し,連帯して1500万5516円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 乙事件 (1)被告Aは,原告Fに対し,2403万5000円及び,うち218万5000円に対する平成24年4月30日から,うち2185万円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)原告Bは,原告Fに対し,1602万3300円及び,うち145万6600円に対する平成24年4月30日から,うち1456万6700円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)原告Cは,原告Fに対し,400万5800円及び,うち36万4100円に対する平成24年4月30日から,うち364万1700円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4)原告Dは,原告Fに対し,400万5800円及び,うち36万4100円に対する平成24年4月30日から,うち364万1700円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,被告Eが保有し原告Fが運転する普通乗用自動車(以下「F車」という。)と訴外Gが保有し被告Aが運転する普通乗用自動車(以下「G車」という。)が正面衝突し,G車に同乗していた亡Gが死亡した交通事故(以下「本件事故」という。)について, (1)亡Gの相続人である原告B,原告C及び原告D(これらの者を併せて,以下「原告Bら」という。)が,G車を運転していた被告Aに対しては民法709条及び719条に基づき,F車の保有者であり原告Fの使用者でもある被告Eに対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文,民法709条及び715条に基づき(ただし,自賠法3条本文に基づく請求は,人損部分に係る請求に限る。),連帯して損害賠償金及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(甲事件) (2)原告Fが,被告Aに対しては民法709条に基づき,原告Bらに対しては自賠法3条本文又は民法709条に基づき,連帯して損害賠償金及びこれに対する本件事故の日又は本件事故の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(乙事件)る事案である。 2 前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実) (1)当事者等 ア 原告Fは,本件事故当時,被告Eの代表取締役の地位にあった者である。 被告Eは,本件事故当時,F車を自己の運行の用に供していた。 イ 亡Gは,本件事故当時,G車を自己の運行の用に供していた。 原告Bは亡Gの妻であり,原告C及び原告Dは亡Gの両親である。なお,亡Gに子はいない。 (2)本件事故の発生 ア 発生日時 平成24年4月30日午前7時14分ころ イ 発生場所 福井県あわら市α第β号γ番地先路上 ウ 事故態様 福井県あわら市δ方面と同県坂井市ε町ζ方面とを結ぶ国道(以下「本件道路」といい,本件道路のうち福井県あわら市δ方面から同県坂井市ε町ζ方面に向かう車線を「南進車線」,同県坂井市ε町ζ方面から同県あわら市δ方面に向かう車線を「北進車線」と各いう。)において,被告Aが,G車を時速約50㎞で運転していたところ仮睡状態に陥り,G車を対向車線である北進車線に進行させ,同車線上を進行してきた原告F運転のF車に衝突させた(本件事故現場付近の道路の状況の詳細は,別紙1のとおりである。)。 (3)責任原因 ア 本件事故について,被告Aには,自らが運転していたG車を対向車線に逸脱させた過失があり,被告Aは,原告F及び原告Bらに対し,民法709条に基づく責任を負う。 イ 本件事故について,亡Gは,原告Fに対し,自賠法3条又は民法709条に基づく責任を負う。 (4)本件事故による受傷等 ア 本件事故により,亡Gは脳挫傷,左第1肋骨骨折,左大腿骨頸部骨折,左坐骨骨折及び肺挫傷の傷害を負い,平成24年4月30日午後7時10分,搬送先のH病院において死亡した。 イ 本件事故により,原告Fは,腰椎圧迫骨折,肋骨骨折及び右足関節捻挫の傷害を負った。 また,本件事故後,原告Fは,以下のとおり入通院した。 (ア)I病院 a 平成24年4月30日から同年5月15日まで入院 b 平成24年5月16日から平成25年4月23日までのうち10日間通院 (イ)J医院 a 平成24年5月15日から同年6月1日まで入院 b 平成24年6月8日,同月14日,同月25日に通院 さらに,原告Fは,平成25年8月26日,画像診断上第3腰椎圧迫骨折が認められることから「脊柱に変形を残すもの」として自賠法施行令別表第2(以下「後遺障害等級表」という。)11級7号に該当するとの認定を受けた。 (5)損害の填補 ア 原告Bらは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として32万3540円の支払を受けた。 イ 原告Fは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として,平成24年6月8日に100万円,同年8月2日に140万円,同年12月14日に100万円の支払を受けた。 また,原告Fは,G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金として,平成25年8月29日,331万円の支払を受けた。 3 争点 (1)甲事件関係 ア 本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び責任原因 イ 過失相殺 ウ 亡G及び原告Bらの損害及びその額 (2)乙事件関係 ア 本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び過失割合 イ 原告Fの損害及びその額 4 当事者の主張 (1) 甲事件関係 ア 争点ア(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び責任原因)について (原告Bらの主張) (ア)自賠法3条に基づく責任 被告Eは,F車の運行供用者であるから,自賠法3条に基づき,本件事故により亡G及び原告Bらに生じた損害を賠償すべき責任がある。なお,この点について,被告Eは,本件事故について原告Fは無過失であったのであるから,自賠法3条ただし書により,自賠法上の賠償責任を負わない旨主張する。 しかしながら,原告Fは,前方の安全を十分に確認して運転すべき注意義務があったのに,これを怠り,自車の左方にいた歩行者に気を取られてG車の発見が遅れたために,G車に衝突した。本件事故の直前,F車の前方には先行車が2台いたところ,これらの車両は,中央線を越えて北進車線に進入してきたG車を回避していることからも,原告Fに前方不注視の過失があったことは明らかである。 そして,原告Fが,より早くG車を発見していれば,対向車線(南進車線)に回避する,その場で停止する,クラクションを鳴らすなどの措置を執ることも可能であり,その場合,少なくとも亡Gが死亡するという重大な結果は避けられた可能性がある。 したがって,本件事故について,原告Fにも前方不注視の過失があることは明らかであり,自賠法3条ただし書の適用はない。 (イ)民法715条に基づく責任 本件事故について,原告Fに過失があることは上記(ア)のとおりであるところ,被告Eは,F車を運転していた原告Fの使用者であり,原告Fは,本件事故当時,被告Eの業務に従事していた。したがって,被告Eは,原告Bらに対し,民法715条に基づく責任も負う。 (ウ)なお,被告Eは,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべきであり,被告Aの過失は極めて重大であるから,仮に原告Fに軽度の注意義務違反があったとしても,これを,本件事故についての「過失」と評価すべきではない旨主張する。 しかしながら,この点について,被告Aの過失に係る上記事情は,亡Gと原告Fとの間では無関係である。そして,このことは,亡GがG車の使用者兼運行供用者であることによって左右されない。 (被告Eの主張) (ア)本件事故は,被告AがG車を対向車線に逸脱させたという,被告Aの一方的な過失によって生じたものであり,原告Fは本件事故について無過失であった。 すなわち,G車は,F車と衝突した地点の約80m手前(北側)から中央線を逸脱し始めたところ,F車の前には先行車がいたためにF車からはG車の動向を発見しづらい状況にあったことや,F車が進行していた北進車線は,上記衝突地点の手前(南側)約100mにわたって路側帯が約0.6mしかなく,その外側にはガードレールが設置されていたために,F車がG車を回避できる余地はなかったことからすれば,原告Fが,中央線を逸脱して進行してきたG車を避けることは不可能であった。 さらに,原告Bらは,原告Fがもっと早くG車を発見していれば,対向車線(南進車線)に回避する,その場で停止する,クラクションを鳴らすなどの回避措置を執ることも可能であり,その場合,少なくとも亡Gが死亡するという重大な結果は避けられた可能性がある旨主張するが,そもそも,対向車を避けるために対向車線に回避することは極めて危険な行為であるし,自車の前方に対向車が迫っているという緊急事態において,咄嗟にその場で停止をしたり,クラクションを鳴らすなどの回避措置を講ずることも困難である。さらに,仮に原告Fが上記の措置を講じていたとしても,G車との衝突や,亡Gの死亡という結果が避けられた可能性があるとはいえない。 したがって,原告Fには過失はなかった。 (イ)また,仮に原告Fに軽度の注意義務違反が認められるとしても,運転中に仮睡状態に陥り自車を対向車線に逸脱させた被告Aの過失は極めて重大であることや,本件事故現場付近は追い越し禁止場所であり,原告Fにおいて,中央線を越えて対向車線に逸脱してくる車両がいることは想定し得なかったことからすれば,原告Fの上記注意義務違反をもって,本件事故についての「過失」と評価すべきではない。 なお,この点について,原告Bらは,被告Aの過失に係る上記事情は,亡Gと原告Fとの間では関係がない旨主張するが,亡GはG車の使用者兼運行供用者であるのに対し,被告Aは当該運行の補助者にすぎないことからすれば,被用者の過失が使用者の過失と同視されるのと同様,被告Aの過失について,被害者側の過失に係る事情として,亡Gの過失と同視すべきである。 (ウ)以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であるから,被告Eは,原告Bらに対し,自賠法3条ただし書により,自賠法上の賠償責任を負わず,また,民法715条に基づく賠償責任も負わない。 イ 争点イ(過失相殺)について (被告Eの主張) (ア)被告Aの過失についての亡Gの責任 本件事故について,被告Aの過失を被害者側の過失として亡Gの過失と同視すべきであることは,上記ア「被告Eの主張」(イ)で述べたとおりである。 また,被告Aの過失を亡Gの過失と同視することができないとしても,亡Gは,G車の使用者として,運転者である被告Aに対し,車両の速度や運転者の心身の状態に関し道路交通法等で規定する事項を遵守させるように努めるべき義務(道路交通法74条2項)を負っていたところ,これに反し,被告Aが過労のために正常な運転ができないおそれがあることを認識しながら,被告Aの運転を許可した過失がある。 (イ)シートベルト不装着 本件事故当時,亡Gはシートベルトを装着しておらず,その結果,頭部打撲による脳挫傷で死亡した。 このことも,亡Gの過失として考慮されるべきである。 (原告Bらの主張) (ア)被告Aの過失についての亡Gの責任について 本件事故について,被告Aの過失を被害者側の過失として亡Gの過失と同視すべきでないことは,上記ア「原告Bらの主張」(ウ)で述べたとおりである。 また,事故を起こした車両に同乗していた者が,共同運行供用者として当該事故の発生を抑止すべき立場にあったとしても,上記同乗者が負う責任は,運転者の過失割合を上限とし,運行支配及び運行利益の程度に応じて,その一部を自らの過失として評価されるにすぎないというべきである。仮に,本件事故について,亡Gが共同運行供用者として責任を負うとしても,本件における亡Gと被告Aの運行支配及び運行利益の程度は,亡Gが2割,被告Aが8割とみるべきであるから,亡Gは,被告Aの過失割合の2割の限度で,原告Fに対して請求をし得なくなるにすぎない。 (イ)シートベルト不装着について 否認ないし争う。 ウ 争点ウ(亡G及び原告Bらの損害及びその額)について (原告Bらの主張) (ア)亡Gの損害 a 治療費関係 合計32万3540円 (a)治療費 31万4640円 (b) 一般死亡診断書 3150円 (c)死体処置料 3430円 (d)死亡退院浴衣代 2100円 (e)大人用紙おむつ代 220円 b 戸籍謄本取寄料 1650円 c 葬儀費用 150万円 d 逸失利益 4449万4791円 亡Gは,本件事故当時34歳であったから,本件事故によって死亡しなければ,33年間は就労が可能であった。また,本件事故時の亡Gの年収は463万4150円であった。 (計算式)463万4150円×0.6(生活費控除率4割) ×16.0025(33年ライプニッツ) =4449万4791円 e 死亡慰謝料 1700万円 f 車両時価額 81万円 g レッカー料 5万1660円 h 廃車・抹消登録手続費用 1万5000円 i 既払金 32万3540円 j 小計(差引額) 6387万3101円 (イ)原告Bら固有の慰謝料 原告Bらが被った精神的損害を慰謝するに足りる金員は,妻である原告Bにつき500万円,両親である原告C及び原告Dにつき各300万円を下回らない。 (ウ)弁護士費用 弁護士費用も本件事故と相当因果関係のある損害であり,その金額は原告Bにつき475万円,原告C及び原告Dにつき各136万円が相当である。 (被告Eの主張) 「原告Bらの主張」のうち(ア)a,b,d,fないしiは不知。 その余は否認ないし争う。 以上:7,324文字
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