平成26年12月12日(金):初稿 |
○「統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件顛末3」を続けます。 16歳で統合失調症を発症して、以来、無職無収入であったAさんが40歳で交通事故に遭い、頚随損傷で別表第一第1級後遺障害となったことが明らかですが、事故形態がAさんの赤信号無視自転車走行横断と合わせて加害者側保険会社は、自賠責保険金を超えた損害は発生しないと断定して一切の交渉を拒否していました。 ○その理由は、「統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件顛末3」記載の通り、過失相殺、既往症減額を合わせるとAさんに認められる損害額はせいぜい3000万円足らずであり、別表第一第1級後遺障害自賠責保険金4000万円の範囲に収まることは明白だというものです。 ○最初に相談を受けたときは、自賠責保険金を超える金額の損害賠償請求は非常に厳しい事案と感じるも、Aさんが置かれた悲惨な状況を考えると自賠責保険金だけでは、誠に気の毒であり、なんとか出来る限り多くの損害賠償金を獲得してやりたいと思いました。そこで、事故現場に行ってビデオカメラを回しながら何度も現場状況を確認し、さらにビデオ映像を0.5秒ごとに画面キャプチャーした連続写真にして、Aさんの過失割合は、多くても5割であり、自賠責保険においては過失割合減額がない事案と確信し、その旨の詳しい上申書を作成して自賠責保険会社に提出しました。 ○問題は、統合失調症による既往症減額をどうするかでした。Aさんは、統合失調症のため労働経験がなく、実質、労働能力喪失率100%と認定されてもやむを得ず、この場合、既往症は等級が3級程度になり、自賠責保険金も最大限度4000万円から3級相当自賠責保険金2219万円が控除されて1781万円にしかなりません。しかし、頚随損傷で別表第一第1級後遺障害のAさんの惨状からは、いくらなんでも1781万円ではひどすぎます。 ○自賠責の判断がどうなるか見通しができない状況で、「追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例概要紹介」の事件で買い集めた統合失調症関係医学文献に更に高額な精神医学専門書を買い集め、統合失調症の回復可能性を種々勉強しました。その結果、Aさんの回復可能性を強く主張する上申書を自賠責保険会社に提出することも検討しましたが、結局、寝た子を起こす結果になることを危惧して、提出はしませんでした。Aさんの過去の医療記録を精査されると結果は厳しいと予想されたからです。 ○そこで自賠責保険会社に対しては、過失割合について力説する上申書を提出するも、統合失調症に関する上申はせず、自賠責の判断を待ちました。その結果、平成24年1月10日付けで自賠責保険会社から以下のご案内が届きました。 傷害:120万円、支払限度額を超過しているため支払分はありません 後遺障害 4000万円(1級保険金額)-224万円(既往等級12級保険金額)=3776万円をお支払させていただきます。 ○なんと既往症は12級ですみました。勿論、過失減額もありません。既往症12級判断理由は以下の通りです。 「前記後遺障害診断書上、既往障害欄に『統合失調症』と記載されています。この点、『非器質性精神障害にかかる所見について(既往歴用)』(B病院発行/平成23年10月20日付)によれば、昭和63年から本件事故前の平成22年10月21日まで、精神症状に対して長期の入・通院治療歴が認められます。そして、本件事故の9日前である平成22年10月21日の時点において、『幻覚妄想症状や神経過敏に対しての対応や日常生活の継続指導が必要であった』等とされており、能力低下の状態にかかる所見等を総合的に評価すれば、自賠責保険における後遺障害としては、別表第二第12級13号に該当するものと判断します」 ○最悪の場合、既往症第3級認定も覚悟していた私は、このときばかりは、自賠責判断に驚喜し、感謝しました。それまでの自賠責判断に対する感想は、殆どが、何と形式的な、何と杓子定規な、何と無慈悲なと言う消極評価だけでしたから、このときの自賠責のまさかの温情判断にはただただ感謝の一言でした。この既往症12級の判断に勇気づけられ、よし、任意保険会社に対する訴え提起は、統合失調症医療文献での勉強を元に、既往症減額ゼロで挑もうと決意しました。 しかし、よく考えてみると、自賠責認定後遺障害は被害者の予想・希望より軽いものが一般で、出来るだけ軽い等級認定が自賠責認定体質です。この体質故重度統合失調症も軽い認定になったのかも知れません(^^;)。 以上:1,871文字
|