平成26年12月13日(土):初稿 |
○私が利用している判例データベースは、ウエストロー・ジャパン、判例秘書、交通事故判例検索の3つが主ですが、交通事故に関しては、『14年下期版』で1万0271件に及ぶ自保ジャーナル交通事故判例検索が最も充実しており、「小松亀一」で検索すると6件私が担当した事件が出てきます。仙台弁護士会所属弁護士名で検索すると保険会社顧問弁護士の掲載判例が多く、最も多い弁護士で15件でした。ネット上で取扱件数ウン千件、ウン百件と豪語している弁護士名で検索しても殆ど出てこない例もあります。示談で解決すれば判例にはなりませんが、自保ジャーナル掲載約1万件の判例の内何件担当しているかが、交通事故経験の目安にはなります。 ○ウエストロー・ジャパンで「小松亀一」が何件出てくるか検索してみたら、なんと、9件も出てきました。地裁が3件、高裁が6件でした。内3件は単に名前を連ねただけですが、6件は積極的に関わっています。その中で、私の名前が始めて判例時報と判例タイムズに掲載された過払金返還請求事件が出てきましたので全文紹介します。当時私は弁護士7年目の新米のところ、まだ過払金返還請求が珍しい時代で、裁判官を説得するのに随分苦労しましたが、判って頂き、大いに喜んだ判決でした。 ************************************************ 原告 甲野太郎 右訴訟代理人弁護士 小松亀一 被告 株式会社北宮城毛利金融 右代表者代表取締役 丙野三郎 右訴訟代理人弁護士 戊野四郎 主 文 一 被告は原告に対し、金296万9127円及びうち金200万円に対する昭和58年9月14日から支払済まで、うち金96万9127円に対する昭和58年10月20日から支払済まで年五分の各割合による金員を支払え。 二 原告のその余の請求を棄却する。 三 訴訟費用は被告の負担とする。 四 この判決は一項に限り仮に執行することができる。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 請求の趣旨 1 被告は原告に対し、金296万9127円及びこれに対する昭和58年8月27日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言 二 請求の趣旨に対する答弁 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 第二 当事者の主張 一 請求原因 1 訴外甲野A男(以下「A男」という。)は、昭和54年2月6日、被告から金145万2450円(名目上は金150万円)を借り受け、以来別紙計算書1ないし3記載のとおりの年月日に、同1ないし3記載のとおりの各金員の借入及び支払を継続してきた。 なお、昭和56年2月16日の借入れは、名目上金700万円の借入であるが、実際の金銭の授受は次のとおりである。 (一) 昭和56年2月15日現在、A男には、昭和54年10月18日付借入金いついて、名目上元金200万円と2月1日から同月15日まで15日分の利息金3万3000円の合計金203万3000円の残債務があつた。 (二) 同月16日、A男は被告から名目上金700万円を借入れ、右残債務金203万3000円と、金700万円についての同月16日から同月28日までの13日間の日歩八銭の割合による利息金7万2800円を差し引かれ、現金として489万4200円を受領した。 従つて、先の金203万3000円の債務については準消費貸借契約が、交付された金489万4200円については消費貸借が成立し、両者を合算した金692万7200円について両契約の混合契約が成立し、新たな借入として一本化されている。 2 右借入支払について、別紙計算書1ないし3記載のとおり利息制限法所定の利息額を超える部分を元本に充当すると、昭和58年7月11日現在のA男と被告との債権債務関係は次のとおりである。 (1) 昭和54年2月6日及び同年3月30日借入分については、金7万4421円の過払 (2) 同年5月24日借入分については、金4710円の過払 (3) 同年8月11日借入分については、金2万6516円の過払 (4) 同年10月18日及び昭和56年2月16日借入分については、金440万7800円の残債務(元金398万6298円及び遅延損害金42万1502円) なお、右金額を算出した理由は次のとおりである。 ① A男の借入については、一応契約書上形式的には弁済期について借入日の三か月後とし、期限後の損害金についても記載がある。 しかし、A男は、昭和54年10月及び昭和56年2月、被告から金員を借入れる際、被告の代理人である被告会社気仙沼市仲町店の店長である甲野巳之吉より「一応返済期限は三か月と定めるが、毎月約定の利息さえ支払えば元金の支払はいつでもよい」と約されていた。このことは次の事情からも明らかである。 (一) A男は、利息の支払が遅れるまでは元金支払の請求を受けたことは一度もなく、約定の弁済期後も被告は当初の利息を請求するに留まり、損害金条項を適用していなかつた。 (二) A男に対して被告が発行する領収証は、契約上の期限後においても、通利あるいは利息という記載がなされているものが大部分であり、被告自身においても、期限後に損害金としてA男の支払を受領していたのではないことを明らかにしている。 (三) 被告は金融業者であり、貸付による利息が唯一の収入源で、利息収入をあげるためには貸付を維持する必要がある。被告にとつては、利息さえ約定どおりの支払があれば返済は必要なく、むしろ、返済によつて被告の収入が減るので、返済されない方がよい。従つて、利息の返済が滞るまでは、被告にとつてA男は最良の客であり、元金の返済を被告は望んでいなかつた。 ② 右により、A男の借入については、元金の弁済期に関し、毎月の利息の支払の遅延がない限り定めがなかつたと見るべきことは明らかであるから、元本についての期限が到来したのは、利息の支払を怠つた昭和57年12月1日からである。 3 よつて、A男は被告に対し、昭和58年7月11日現在、債務として金440万7800円の借入金債務、債権として合計金10万5647円の過払による不当利得返還請求権を有し、相殺適状となつていた。 A男は被告に対し、昭和58年8 月26日、相殺の意思表示をなした。 結局、A男は被告に対し、昭和58年7月11日現在、金430万2153円の債務を負つていた。 4 訴外甲野B男(以下「B男」という。)は、昭和58年7月11日、A男の連帯保証人として、被告に対し、A男の支払義務ある債務が前項のとおり金430万2153円であることを知らずに、被告から請求されるまま金820万4672円を支払つた。 よつて、被告はB男の損失においてその差額を不当に利得しているから、B男は被告に対し、右同日、金390万2519円の不当利得返還請求権を取得した。 5 B男は、昭和58年8月25日、右金390万2519円の不当利得返還請求権のうち金80万円を原告に譲渡し、同日、右債権譲渡について内容証明郵便により被告に通知し、右通知は、昭和58年8月26日、被告に到達した。 更に、B男は被告に対し、同日、右債権譲渡後の残金(310万2519円)についても不当利得として返還請求をした。よつて、被告のB男に対する不当利得返還債務は、昭和58年8月27日から付遅滞となつた。 6 訴外乙野C男(以下「C男」という。)は、原告を連帯保証人として、昭和56年9月1日、被告から金170万円を借り受け、別紙計算書4記載のとおりの年月日に、同4記載のとおりの各金員を支払つてきた。 7 右借入支払について、利息制限法所定の利息額を超える部分を元本に充当すると、昭和58年8月26日現在、C男の被告に対する債務は別紙計算書4記載のとおり金54万2964円(元金53万1208円及び遅延損害金1万1756円)である。 なお、右金額を算出した理由については、C男が被告から借入れをする際、被告代理人Dから、「一応返済期限は三か月と定めるが、毎月約定の利息さえ支払えば、元本の返済はいつでもよい」と約されていたほか、前記A男につき主張したのと同様の理由による。 従つて、期限が到来したのは昭和58年3月1日からである。 8 原告は被告に対し、昭和58年8月26日現在、債務として右金54万2964円のC男借入金についての連帯保証債務、債権としてB男から譲り受けた金80万円の不当利得返還請求権を有し、相殺適状となつていた。 原告は被告に対し、右同日、相殺の意思表示をなした。 9 原告は、昭和58年9月9日、B男から、同人が被告に対して有する不当利得返還請求権全額について債権譲渡され、B男は、同日、その旨を内容証明郵便にて被告に通知し、右通知は昭和58年9月12日被告に到達した。 10 よつて、原告は、B男から譲り受けた被告に対する不当利得返還請求権(金80万円と金310万2519円の合計)より昭和58年8月26日に相殺によつて消滅するC男の被告に対する借入金の連帯保証債務(金54万2964円)を差し引いた金335万9555円のうち金296万9127円と、これに対する被告の不当利得返還債務が付遅滞となつた昭和58年8月27日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する認否及び被告の主張 1 請求原因第1項中、原告主張のとおり金銭の授受がなされたことは認めるが、その余は否認ないし争う。 2 同第2項は否認する。なお、A男と被告との取引内容は別紙計算書5記載のとおりであり、その法定利息の明細は同6ないし12記載のとおりである。これによると、A男の被告に対する過払額は金91万2557円である。 3 同第3項は否認ないし争う。 4 同第4項中、B男が被告に対し、金820万4672円を支払つたことは認めるが、その余は否認する。 5 同第5項中、被告に内容証明郵便が到達したことは認めるが、その余は否認する。 6 同第6項は認める。 7 同第7項は否認ないし争う。なお、C男と被告との取引内容は別紙計算書5記載のとおりであり、その法定利息の明細は同13及び14記載のとおりである。これによると、C男の被告に対する残債務は金90万3331円である。 8 同第8項は否認ないし争う。 9 同第9項中、被告に内容証明郵便が到達したことは認めるが、その余は争う。 10 同第10項は争う。なお、A男の過払額とC男の残債務額とを相殺すれば、別紙計算書5記載のとおり、被告は金9246円の過払を受けているにすぎない。 第三 証拠〈省略〉 理 由 一 借入金額について 原告は、実際受領額をもつて借入金額である旨主張し、被告は、貸付名目額をもつてそれである旨主張する。 金銭消費貸借の締結に際して、借入金の全額が、現実に授受されなくても、借主に、現実の授受がなされたときと同一の経済上の利益を与えることができるのであれば、同金額の消費貸借の成立を認めるべきである。 当事者間に争いがない事実、〈証拠〉によれば、次のことが認められる。 1 昭和54年2月6日付借入について、被告は、右金銭消費貸借の締結に際し、利息をあらかじめ計算し、これを前払の形式をもつて元本額150万円から控除して差引残額146万2050円を原告に交付し、原告に名目上の元本額150万円を期限に返還させることを約したことが認められ、これは、いわゆる利息の天引であり、右前払の利息に相当する金額3万7950円については、現実に金銭の授受がなくても、原告をして現実の授受がなされたのと同一の経済上の利便を得させるにおいては、同金額の消費貸借が成立するところ、利息制限法において、天引については契約どおり全額について消費貸借が成立するものとし、かつ、天引は利息の前払と認め、ただ、利息制限法を適用するにあたつては、現実に交付された金額について利息制限法の許す最高額の利息を算出し、これを超過する天引部分は元本に充当されたものとみなすとしているので、これによれば、右昭和54年2月6日付借入は、借入金元本は150万円、天引額3万7950円が受領額146万2050円を元本として制限利率年1割5分により計算した金額600円を超えるので、その超過部分3万7350円の元本150万円の支払にあてたことになる(別紙計算書15)。 2 昭和54年3月30日付借入及び昭和54年8月11日付借入についても、右同様であるから、それぞれ元本は金50万円及び金100万円となり、各天引額中、それぞれ454円及び2万2620円がいずれも元本の支払にあてられることとなる(別紙計算書15)。 3 昭和56年2月16日付借入は、原告の実際受領額は489万4200円であるが、203万3000円を原告の前債務の支払に使用したため、同金額は現実に授受なされていないけれども、被告において一旦原告に右金額を交付したうえ、更に原告から右支払金として受け取る手続を省略したものであるといえるから、原告に現実の授受ありたると同一の経済利益を得させているし、他に金7万2800円が天引利息として差し引かれている。 従つて、右各金額の合計金700万円が借入元本となり、天引額7万2800円が実際受領額489万4200円と前債務支払充当額203万3000円の合計金692万7200円を元本として制限利率年1割5分により計算した額2846円を超えるので、その超過部分6万9954円は元本700万円の支払にあてたこととなる(別紙計算書16)。 二 弁済期限について 原告は、「各借入につき、一応、契約書上形式的には弁済期限を借入日の3か月後とし、その後の遅延損害金についても記載がなされているが、被告から、毎月約定の利息さえ支払えば元金の支払はいつでもよいと約されていたので、期限の猶予を受けていたことになり、元本について期限が到来するのは利息の支払を怠つた日からである」旨主張し、被告は、「期限はいずれも3か月後に到来し、その後は遅延損害金が支払われべきである」旨主張する。 1 当事者間に争いがない事実、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。 被告が主張する各借入日から3か月後の期限が到来した後においても、被告は原告に対し、元金全額と遅延損害金の請求をしたことはなく、むしろ利息の支払を請求し、これを受領し続け、その受領に際しては、受領金額につき利息ないし通利などと記載した領収証ないし計算書などを交付している。すなわち、もし原告が弁済期限を徒過したならば、被告としては元本及び利率が徒過前の利率より高率となる遅延損害金の支払を請求できることになるが、被告は右期限後も元本の利用を原告に許容し、その返済を求めず、利息より高額である遅延損害金の支払を求めることもなく、利息相当額で受領し続けていたのである。 2 期限を猶予するか否かは被告の自由に属し、期限が到来しても、なお貸倒れの危険等がない限り、原告に対し元本の利用を認め、利息の支払を受けていることの方が、あるいは被告にとつて得策である場合もあろうかと推察されることからすれば、元本や遅延損害金の支払を求めず、利息を受領していた被告の右行為については、原告が主張し、証人A男の証言するように、被告は、利息の支払を受ける以上、何ら期限の条項を適用する意思がなく、利息の支払を前提に、期限の猶予をしたとみるのが相当である。 従つて、A男分については、利息の支払を怠つた昭和57年11月30日の経過により(別紙計算書17)、C男分については昭和58年2月28日の経過により(別紙計算書18)、それぞれ各元本につき期限が到来したというべきであるから、各同日を境にして、利息と遅延損害金との区別をなすべきこととなる(別紙計算書17及び18)。 三 原告主張のとおり金銭の授受がなされたことについては、被告もこれを認める旨主張しているが、原被告の主張する金銭授受に関する別紙計算書1ないし14の記載をつきあわせると受領金額の不一致、計算の不一致がみられ、これは関係証拠に徴すると誤記、誤計算に基づくものと思料されるところ、原告主張は、結局、利息制限法にのつとつた計算を要求するにつき、被告主張も同法に依つた計算を要求するにつきるから、誤記、誤計算は訂正し、その訂正に基づいて計算すると、別紙計算書15ないし18記載のとおりとなり、これによれば、過払額は金296万9127円となる。 更に、〈証拠〉によれば、被告は原告から、昭和58年8月26日に到達した同月25日付内容証明郵便で、過払金中200万円を昭和58年8月末日までに支払うよう求められ、ついで昭和58年9月12日到達した同月9日付内容証明郵便で、昭和58年9月13日までに支払うよう再度求められたことが認められる。 そうすると、原告の被告に対する金296万9127円の過払金の返還請求は理由があるからこれを認容し、うち金200万円については、原告が被告に対し、昭和58年9月13日までに支払うよう請求しているから、その翌日である昭和58年9月14日から支払済に至るまで、うち金96万9127円については、被告に対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和58年10月20日から支払済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で原告の請求を認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法89条、92条、仮執行宣言につき同法196条を各適用して主文のとおり判決する。 (裁判官原田 卓) 別紙計算書1~18 (省略) 以上:7,233文字
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