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共有物分割訴訟で全面的価格賠償による分割を認めた地裁判決紹介4

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令和 6年 5月10日(金):初稿
○「共有物分割訴訟で全面的価格賠償による分割を認めた地裁判決紹介3」の続きで、原告持分100分の82、被告持分100分の18の共有建物について、原告が、被告に対し、共有物分割を求め、全面的価格賠償による分割を認めた令和4年11月8日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○事案は、建物が共有で、持分割合は原告100分の82、被告100分の18で、建物の敷地は原告の単独所有で、原告が被告に対し、民法258条に基づき全面的価額賠償の方法によることが相当である旨を主張して共有物分割を求めたものです。

○本件建物は、原告実父Eが、平成11年頃に建築工事代金約4200万円で建築したもので、建築代金の約18%に当たる約760万円を被告が負担して、持分をE100分の82、被告100分の18とする共有登記をしていたものです。

○原告は実父Eの遺言により、本件建物共有持分権全部と本件建物の敷地を相続取得し、本件建物は新築時平成11年からEが住居として使用し、平成28年には原告も同居し、Eの介護に当たり、平成29年E死去後は、原告が使用していました。

○建物のみ共有で全面価格賠償を求める場合、建物の時価評価が争いになります。そこで、原告は、全面価格賠償金額について「39万6000円又はこれと格段に相違のない範囲で裁判所が定める金額」と主張していたところ、被告は、自己の持分のついてEとの間で地上権設定契約があったと主張しながら、別件の遺留分減殺請求事件で本件建物の時価は220万円とする査定報告書を証拠提出し、本件でも証拠提出されため、全面価格賠償金額は220万円の100分の18相当額39万6000円とされました。妥当な判決と思われます。

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主   文
1 別紙物件目録記載1の建物を以下のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1の建物を原告の単独所有とする。
(2)原告は、被告に対し、39万6000円を支払え。
2 被告は、原告に対し、前項(2)の支払を受けるとの引換えに、別紙物件目録記載1の建物の共有持分100分の18について、前項の共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 別紙物件目録記載1の建物を以下のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1の建物を原告の単独所有とする。
(2)原告は、被告に対し、39万6000円又はこれと格段に相違のない範囲で裁判所が定める金額を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載1の建物の共有持分100分の18について、前項の共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。

第2 事案の概要
 本件は、別紙物件目録記載1の建物(以下「本件建物」という。)の共有者である原告が、他の共有者である被告に対し、民法258条に基づき全面的価額賠償の方法によることが相当である旨を主張して共有物分割を求めるとともに、上記共有物分割により自身に帰属した共有持分についての持分移転登記手続を求める事案である。

1 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)当事者等
ア 原告、被告及びC(以下「C」という。)は、D(昭和59年3月16日死亡、以下「D」という。)とE(平成29年11月4日死亡、以下「E」という。)の子である。
イ Eの平成27年2月18日付け公正証書遺言においては、別紙物件目録記載2の土地(以下「本件土地」という。)の全部及び本件建物のE持分は原告に相続させることとされた。なお、これ以前に作成されたEの平成22年6月18日付け公正証書遺言においては、上記の財産は被告に相続させることとされていた。(甲3、乙9の1)

(2)関係不動産の権利移転状況
ア Eは平成10年12月17日売買により本件土地の所有権を取得した。(甲2)
イ 平成11年頃、本件土地上に、E(持分100分の82)と被告(持分100分の18)を共有者とする本件建物が新築され、上記共有持分に沿った所有権保存登記がされた。上記新築に当たり、被告は建築資金4219万9464円の約18パーセントに当たる759万5903円を負担した。(甲1、10、乙4の1・2)
ウ Eが平成29年11月4日に死亡したことにより、原告は本件土地所有権及び本件建物のうちE共有持分100分の82の共有持分権を相続取得した。(甲1、2)

(3)本件建物の利用状況
ア 本件建物は、平成11年頃の新築当初からEの死亡に至るまで、入院期間を除き同人が居住していた。
イ 原告は平成28年4月頃以降、Eの介護のために本件建物に泊まり込むようになり、同人の同意を得た上で、平成29年3月頃以降は本件建物を生活の本拠として利用するようになった。
ウ 本件建物内には被告及びその家族の家具、荷物等が存在する。被告がEに対し、本件土地利用の対価を支払ったことはない。

(4)原告被告間の協議状況
 原告と被告は令和3年7月頃以降、本件建物の分割方法について協議するようになり、その後には共有物分割調停が行われたが、同調停は令和4年2月1日に不成立となって終了した。(甲6)

(5)原告と被告が関与する訴訟の状況
 被告及びその妻でEの養子であるFは、平成30年11月に、原告及びCを被告として、Eの相続についての遺留分減殺請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。別件訴訟において、被告は本件土地について本件建物所有のための地上権が設定されていた旨の主張はしていなかった。また、被告は別件訴訟において、土地利用権原の存在を前提とすることなく、本件土地の評価額は1億5235万円であり、本件建物の評価額は220万円である旨の査定報告書(以下「本件査定報告書」という。)を証拠として提出した。(甲5、7)

2 争点及び当事者の主張
(1)争点1(本件建物所有を目的とする地上権設定合意の成否)について
(被告の主張)
 本件建物を新築するに当たり、被告は持分割合に応じた建築費用を負担している。その際、Eと被告との間では本件土地につき永続的な使用権原を付与するために無償で地上権を設定する旨の黙示の合意が成立した。
 本件土地の使用権原としては他に〔1〕賃貸借契約又は〔2〕使用貸借契約が考えられるが、賃料支払合意がない本件においては〔1〕は否定されるし、Eの意思でいつでも終了できる不安定な法律関係である〔2〕も否定されるのであるから、地上権が設定されていたと考えるほかない。
 このことは、Eの平成22年6月18日付け公正証書遺言において本件土地及び本件建物共有持分を被告に相続させるとされていたことからも明らかである。

(原告の主張)
 地上権設定合意の存在につき否認する。被告の主張する地上権は設定合意の時期等も明らかにされていないし、被告が本件建物に居住していない以上、設定の必要性も全くなかったというべきである。被告自身も、別件訴訟においては上記地上権の存在を主張することなく、これが存在しないことを前提として算定された和解金を取得している。

(2)争点2(争点1を前提とした相当な分割方法等)について
(原告の主張)
ア 現在原告が本件建物に居住しており、底地である本件土地も原告の単独所有であって原告による本件建物利用の必要性は非常に高いのに対し、被告は長年にわたり本件建物を倉庫として使用している程度である。上記事情からすれば、本件建物については原告の単独所有とするのが相当である。

イ 別件訴訟で被告が提出した本件査定報告書によれば本件建物の評価額は220万円であり、これに被告の持分割合100分の18を乗じて算定される賠償金額は39万6000円である。この程度の金額であれば、原告においてこれを支払う資力に問題はない。

(被告の主張)
ア 争点1で主張した地上権の存在が前提とされるべきである。
イ 被告が本件建物を利用してこなかったのは、原告による妨害が原因である。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件建物所有を目的とする地上権設定合意の成否)について

(1)前記前提事実を踏まえれば、Eは被告に対して、被告が共有持分を有する本件建物の敷地として本件土地を無償で利用することを許容していたものと考えられる。また、被告による本件建物共有持分の取得は建物新築費用の負担を伴うものであったことからすれば、本件建物の存続についての被告の利益は相当程度大きなものであり、これが容易に脅かされるような事態の発生を回避すべき合理的必要性があったことは認められる。

(2)しかしながら、被告の供述によれば被告はEとの間で本件土地の使用権原についての話をしたことはなく、地上権という言葉自体も知らなかったというのであるから、そのような状況下でEと被告との間で黙示の地上権設定合意が成立したものと認めることは困難である。

一般に親子間等においては明確な法的権原を設定することなく不動産の利用を事実上許容することは特段珍しいことではなく、Eと被告との親子関係は良好であってEの恣意的な判断により本件建物の存続が脅かされる事態の発生が危惧されるような状況にはなかったと考えられること、本件土地は最終的には被告が相続取得することが予定されていたとの被告の供述を前提とすると本件建物の敷地としての利用のために本件土地に物権である地上権を設定する必要性が高い状況にあったとは考え難いこと、Eが平成22年6月18日付け公正証書遺言において本件土地及び本件建物共有持分を被告に相続させるとしていた事実とEの存命中の本件土地の使用権原をどのようなものにするかの問題とは直接的な関係を有するものではないこと、被告自身も別件訴訟においては地上権設定合意の成立につき何ら主張していなかったことなどの事情を考慮すれば、被告の主張する事実関係からEと被告との間で本件土地につき本件建物の所有を目的とする地上権を設定する旨の黙示の合意が成立していたとの事実を認定することはできないというべきである。

2 争点2(争点1を前提とした相当な分割方法等)について
(1)本件建物は性質上現物分割は不能であるところ、8割以上の共有持分を有する原告が前提事実(3)イのとおり生活の本拠として利用しており、敷地である本件土地も原告の単独所有となっていることなどの事情に照らせば、原告に単独取得させるのが相当である。なお、被告は原告からの妨害により本件建物の利用を妨げられた旨を主張するが、上記事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、原告と被告との間で本件建物の利用につき一定の紛争が生じていたとしても,そのことをもって上記認定判断が左右されるものではない。

(2)前提事実(5)の内容の本件査定報告書は被告が別件訴訟において提出したものであり、その評価額算出過程の正確性について特段疑いを差し挟むべき事情は見当たらず、被告もその正確性については特段争っていない。なお、被告は本件土地につき使用貸借契約が成立していた旨の主張はしておらず、むしろこれを否定していることからすれば、使用貸借契約に基づく利用権相当額を本件建物の評価において考慮する必要はないものというべきである。

(3)以上を踏まえれば、本件建物の被告持分100分の18を原告に取得させるに当たっての賠償額としては、本件査定報告書における本件建物の評価額220万円に上記被告の持分割合を乗じて算定した39万6000円が相当である。なお、原告はEの相続において相当額の有価証券及び預金債権等を取得していること(甲3)からすれば、上記金額を支払う能力は十分に有しており、本件建物を原告の単独所有としても原告被告間の実質的公平を害することはないものというべきである

3 小括
 以上によれば、本件建物を原告の単独所有とした上で、原告から被告に対し39万6000円を賠償させるのが相当である。そして、原告の被告に対する本件建物被告持分についての持分移転登記手続請求権と被告の原告に対する上記賠償金支払請求権は同時履行の関係にあるから、原告の持分移転登記手続請求については上記賠償金支払との引換給付の判決をするのが相当である。

第4 結論
 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第31部 裁判官 阿保賢祐

(別紙)物件目録
1 所在   中央区α×丁目××番地×
  家屋番号 ××番×
  種類   居宅
  構造   鉄骨造陸屋根2階建
  床面積  1階 74.79平方メートル
       2階 70.48平方メートル
2 所在   中央区α×丁目
  地番   ××番×
  地目   宅地
  地積   91.60平方メートル
以上
以上:5,207文字

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