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唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消否認高裁判決紹介

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令和 2年 9月22日(火):初稿
○「唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消認容地裁判決紹介」の続きで、その控訴審である昭和40年9月1日広島高裁判決(判時433号36頁、判タ181号123頁)を紹介します。

○訴外B・A夫婦に対し売掛金債権を有する被控訴人が、訴B・Aらが控訴人と本件各動産につき譲渡担保契約を締結した当時、控訴人及び訴外人らは、被控訴人が訴外人らに対し売掛金債権を有しており、訴外人らが無資力であって、本件各動産が唯一の財産であることを知っていたと主張して、詐害行為取消権に基づき譲渡担保契約の取消を求めました。

○原審は、請求を認容しましたが、控訴審判決は、その原判決を取消し、訴外人らによる所有権移転行為は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為ではあるが、他に資力のない債務者が生計費及び子女の教育費に充てるため、家財、衣料等を売却し、あるいは新たな金借のためこれを担保に供する等生活を維持するための財産処分行為をもって取消の対象とするのは行過ぎであるとして、一般財産の現象が不当であると認められるべき事情のない限り取消の対象とならないとして、被控訴人の請求を棄却しました。

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主   文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事   実
控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴人において当審における証人Aの証言、控訴人本人尋問の結果を援用したほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理   由
 被控訴人がB、Aに対し、広島地方裁判所福山支部が昭和33年11月24日言渡した同庁昭和33年(ワ)第160号売掛代金残額請求事件の確定判決に基づく売掛代金62万5675円の債権を有していること、控訴人が、昭和36年6月22日付広島法務局所属公証人藤田尹作成の新第22、198号金銭債務弁済譲渡担保使用貸借契約公正証書により、Bからその所有の原判決添付第一目録記載(但し五の着物ウールは2、7の女帯は四)の及びBからその所有の原判決添付第二目録記載の各物件をAに対する金10万円の貸金債権のための譲渡担保契約により各これが所有権の譲渡をうけ、昭和37年7月13日付追加担保契約により、Bからその所有の原判決添付第三目録記載の物件を前記貸金債権のための譲渡担保(追加)として、これが所有権譲渡をうけたことはいずれも当事者間に争いがない。

 そして、成立に争いのない甲第1、第2、第3、第6、第7号証、当審における証人Aの証言、控訴人本人尋問の結果によると、前記控訴人のAに対する貸金10万円は昭和36年3月25日、弁済期を昭和39年5月9日とし、利息の定めなく貸付けられ、Bは右債務につき連帯保証人となり、前記昭和36年6月22日付公正証書記載の譲渡担保契約の内容は、借主において前記債務を履行した場合には目的物の所有権は各担保提供者に復帰し、債務不履行の場合は債権者(控訴人)において目的物を売却し売得金を債務に充当し、或は第三者の評価した価額により代物弁済となすこと、債権者は目的物を弁済期まで各担保提供者に無償で使用を許すとの定めであり、右譲渡担保の目的物は前記各物件の外、Aの提供した鏡台外衣類等10数点、Bの提供した東芝扇風機1台外洋服等4点を含む(甲第6号証参照)ものであつたこと、前記の昭和37年7月13日付追加担保契約は、控訴人のAに対する前記の金10万円の貸金の外、控訴人がAに対し同年2月13日期限及び利息の定めなく貸付けた金6万円の貸金債権を担保する目的でなされ、その目的物は前記原判決添付第三目録記載の物件の外、Aの提供したウール着物二女帯一(右3点は被控訴人において昭和36年6月22日付の当初の契約の目的物であると主張するところ、右主張は甲第6、第7号証に照らし明白な誤まりであると認める。)を含むものであり、右追加担保契約のその余の内容はさきの譲渡担保契約におけるそれと同様であり、右契約に際しBがさきに提供していた東芝扇風機1台は目的物から除外することとの合意ができたことがそれぞれ認められる。

 そこで、右のA、Bが控訴人に対してなした右各物件の譲渡担保による所有権譲渡行為が、債権者取消権の要件である債権者を害する行為に該当するか否かを考える。
 前掲各証拠、成立に争いのない甲第4、第5号証及び弁論の全趣旨によるとつぎの事実を認めることができる。
 Bは電機器具商を営んでいたところ昭和33年倒産し、同人の妻Aの遠縁にあたる控訴人において右Bの負債整理にあたり、前記の被控訴人の債権の外は、担保物件の競売、或は弁済の猶予を得る等により一応の整理ができたが、被控訴人の債権については、被控訴人において控訴人の申出でた整理条件に不服であつたため未整理のままであつた。

ところで、B・A夫婦は右倒産、負債整理により営業継続不能となり、収入及び資力を失い4人の子女をかかえ、妻Aの内職と、身の廻り品、衣類等を売つて生活していたが、昭和36年3月頃には、前認定の控訴人に対し譲渡担保とした衣類、家具を残すだけとなり、右Aにおいて控訴人に対し目前の生活の不安をうつたえたところ、控訴人はB・A方の生活費として、前示のとおり金10万円を貸与し、右貸与にあたりB・A夫婦は右貸金の担保として、前記同年6月22日付公正証書記載の担保目的物を譲渡担保として控訴人に譲渡することを約し、右約旨に基づいて右公正証書が作成されるにいたったが、昭和37年2月にいたりB・A夫婦は、長女がいわゆるアルバイトをしてでも大学に進学したいと切望したので、その処置を控訴人に相談したところ、控訴人は進学を奨め、同月13日、右進学に必要な費用として前示のとおり金6万円を貸付け、追加担保として2回目の譲渡担保契約がなされたものであり、そして、被控訴人は昭和38年7月26日前記判決に基づく強制執行として原判決添付第一目録記載の物件をAに対する債権のため、同第二、第三目録記載の物件をBに対する債権のため各有体動産の差押をなしたが、控訴人は前記貸金の弁済をうけていなかつたので、右強制執行を争つて第三者異議の訴を提起し、ついで被控訴人から控訴人に対する本訴提起にいたつたものである。

 右のとおり認めることができ、右認定を左右するにたる証拠はない。
右によれば、A、Bのなした前記各譲渡担保による控訴人に対する所有権移転行為は、当時B・A夫婦が他になんらの資力を有せず,かつ、控訴人からの金員借入は生計費、子女の教育費支出の必要にせまられてなしたものであるから一般債権者において右借入金により債権の弁済をうけることは至難であり、したがつて、控訴人に対する右担保供与は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為であることは否定しえないが、民法第424条の債権者取消権は、破産における否認権が債務者の財産の処分行為を禁じ債権者間の平等弁済をその目的とするのと異り、債権者のため、債務者によりなされる一般財産の不当な減少を防止することを目的とする制度であることからすると、他に資力のない債務者が生計費及び子女の教育費に充てるため、その所有の家財、衣料等を売却処分し、或は新たに金借のためこれを担保に供する等生活を維持するための財産処分行為をもつて共同担保の減少行為として一律に取消の対象とするのは行きすぎであり、右の如き行為は、その売買価額が不当に廉価であり、或は供与した担保物の価額が借入額を超過したり、或は担保供与による借財が生活を維持する以外の不必要な目的のためになされる等一般財産の減少が不当であると認められるべき事情のないかぎり取消の対象とならないと解するのが相当であり、本件では債務者B・A夫婦において計金16万円の借入のため控訴人に供与した譲渡担保物件の総価額は、弁論の全趣旨に徴し金10万円を出でないことが認められ、かつ、右借入は前示の如く生活維持のための緊急の必要にせまられてなしたものであつて、不当な一般財産の減少とは認めがたく、したがつて、本件各譲渡担保契約は債権者取消権の対象とならないものというべきである。

 以上によれば被控訴人の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当であり棄却を免れない。
 よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第386条、第96条、第89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 裁判官 長谷川茂治)
以上:3,592文字

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