仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 >    

歩道視覚障害者誘導用ブロックは瑕疵非該当とした地裁判決紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 2年 5月20日(水):初稿
○「市道道路脇側溝転落事故につき国家賠償責任を認めた地裁判例紹介」の続きです。現在も民法第717条工作物設置保存瑕疵責任の事案を扱っており参考判例収集中です。

○原告が、被告の設置又は管理に係る歩道を自転車で通行中、同所に敷設してあった視覚障害者誘導用ブロック上において転倒し、傷害を負ったことについて、当該歩道の設置又は管理に瑕疵があったとして、当該歩道を管理している地方公共団体である被告に対し、国家賠償法2条又は民法717条に基づき、治療費及び慰謝料の合計10万円の支払を求めました。

○これに対し、歩道は、被告が管理する都道の一部であるから、国家賠償法2条1項にいう「道路」に当たり、国家賠償法2条1項の「道路その他の公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、瑕疵の存否は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断するのが相当であるところ、事故当時、歩道は、通常有すべき安全性を欠いていたとは認められないとして、原告の請求を棄却した平成29年7月29日東京地裁判決(判タ1470号214頁)関連部分を紹介します。

○本件は請求額が10万円と少額で請求額からすると簡易裁判所管轄ですが、地裁で審理され、おそらく当初は単独裁判官の審理であったものが、途中から合議制審理になったと思われます。原告は本人訴訟ですが、視覚障害者誘導用ブロックの瑕疵について、材質・耐水性・形状等の瑕疵を主張しており、判断が難しい事件として合議制に回ったでしょうが、判決はいずれも瑕疵には該当しないとしました。

*******************************************

主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成25年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,被告の設置又は管理に係る歩道を自転車で通行中,同所に敷設してあった視覚障害者誘導用ブロック上において転倒し,膝擦過傷等の傷害を負ったことについて,当該歩道の設置又は管理に瑕疵があったとして,当該歩道を管理している地方公共団体である被告に対し,国家賠償法2条又は民法717条に基づき,治療費8250円及び慰謝料9万1750円の合計10万円の損害賠償及びこれに対する事故発生の日の翌日である平成25年8月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠(以下,特に明記しない限り,枝番の表記は省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は,昭和37年○月○日生まれの男性で,タクシー運転手である。
 被告は,東京都中野区α×丁目×番地所在の丸山陸橋付近の都道を管理している地方公共団体である。

(2)丸山陸橋付近の状況(乙4)
 別紙図1のとおり,丸山陸橋は,都道440号線(新青梅街道。以下「新青梅街道」という。)と都道318号線(環状七号線)が交差する地点において,新青梅街道の上をまたぐようにして架かっている。


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 事故の発生(争点1)について


         (中略)


2 争点2について
(1)設置又は管理の瑕疵の判断基準について

 本件歩道は,被告が管理する都道の一部であるから,国家賠償法2条1項にいう「道路」に当たる。
 国家賠償法2条1項の「道路その他の公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい(最高裁昭和42年(オ)第921号同45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁参照),瑕疵の存否は,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断するのが相当である(最高裁昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。

(2)本件歩道の状況
 証拠(乙5,6)及び弁論の全趣旨によれば,平成25年8月1日午前9時頃,原告から本件事故発生の相談を受けた本件現場を所管する東京都第三建設事務所は,道路の点検業務を委託している業者に本件現場の巡回点検を指示したこと,これを受け,同業者が,同日午前10時頃,本件現場の巡回点検を行ったところ,本件誘導ブロックには,欠け,割れ,はがれ,がたつき等の異常は確認されなかったことが認められる。

 また,原告自身も,本人尋問において,本件事故当時,本件歩道のアスファルト舗装や本件誘導ブロックはいずれも破損していなかった旨供述している。
 したがって,本件事故当時,本件歩道は,少なくともその管理について通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない。

(3)本件誘導ブロックの材質に係る原告の主張について
ア これに対し,原告は,本件誘導ブロックの表面は,瀬戸物,陶磁器,茶碗の表面のようなつるつるの状態及び性質であったと主張する。

イ 乙9によれば,被告では,視覚障害者誘導用ブロックについて,東京都福祉のまちづくり条例(平成7年条例第33号)及び同施行規則(平成8年規則第169号)を制定し,以下のような定めをしている。
(ア)東京都福祉のまちづくり条例
第1条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
第4号 整備基準 一般都市施設を高齢者,障害者等が円滑に利用できるようにするための措置に関し,一般都市施設を所有し,又は管理する者の判断の基準となるべき事項として規則で定める事項をいう。

(イ)東京都福祉のまちづくり条例施行規則
第5条 条例第1条第4号の規則で定める事項は,一般都市施設の区分に応じ,別表第3から別表第7までに定めるとおりとする。
別表第4 道路に関する整備基準
整備項目10 歩道舗装 歩行者の安全性及び快適性を確保するため,平たん性,滑りにくさ,水はけのよさ等を考慮し,舗装材料を選択すること。
整備項目12 視覚障害者誘導用ブロック(1)視覚障害者が多く利用する道路には,視覚障害者誘導用ブロックを敷設すること。(2)視覚障害者誘導用ブロックの色彩は,周辺の部分の色と輝度比において対比効果が発揮できるものとし,原則として黄色を用い,状況に応じて適切な色を選択すること。

ウ 本件歩道が,整備によって,本件事故当時の状況になったのは,平成16年度であるところ(乙7),東京都建設局が平成16年4月に作成した平成16年度道路工事設計基準(乙8。以下「本件設計基準」という。)においては,視覚障害者誘導用ブロックの設置について,「視覚障害者が,一人で安全に通行できるための配慮の一つとして,視覚障害者誘導用ブロック(以下「誘導用ブロック」という)を設置する。

誘導用ブロックは,足の裏の触感覚でその形状等を確認できるような突起をつけたブロックで,歩行中の視覚障害者により正確な歩行位置と歩行方向を確認させるための施設である。」,「視覚障害者誘導用ブロックの設置は,『東京都福祉のまちづくり条例・施設整備マニュアル』によるものとし,設置の詳細については,『視覚障害者誘導用ブロック設置指針・同解説』((社)日本道路協会)を準用する。」と定められ,概要,以下のような記載がある。
(ア)設置方法
「(1)誘導用ブロックは,原則として歩道上(略)に設置する。」
「(2)誘導用ブロックの種類は,次のとおりとする。
1)突起の形状・寸法及びその配列についてはJIS-T-9251-2001によることを原則とし,必要に応じて関係機関及び関係者と十分打合せを行うこと。
・線状ブロック……平行する線状の突起をその表面につけたブロックをいう。(方向表示用)
・点状ブロック……点状の突起をその表面につけたブロックをいう。(位置表示用)」
「(3)誘導用ブロックの使い分け
1)線状ブロックは,施設等の位置,歩行の位置及び歩行方法を案内する場合に使用する。
2)点状ブロックは,位置(危険,注意,施設)的な認知をさせる場合に使用する。」

(イ)材料
「誘導用ブロックの材料は,十分な強度を有し,滑りにくく,歩行性,耐久性,耐摩耗性に優れたものとするとともに,退色,輝度の低下が少ない素材とする。」

エ また,東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル(乙9。以下「本件マニュアル」という。)においては,安全性・快適性確保についての基本的考え方として,「高齢者,障害者等を含むすべての都民の歩行,車いすによる移動を基本的な交通手段として位置づけ,安全性,快適性を確保できるよう道路,歩道の整備に努める。」との記載があるほか,視覚障害者誘導用ブロックの整備基準に関して以下のような記載があり,社団法人日本道路協会作成に係る「視覚障害者誘導用ブロック設置指針・同解説」(乙10)においても同旨の定めがある。
(ア)設置場所及び設置方法について
「〔2〕敷設にあたっては,その他の歩道利用者の安全を阻害しないよう配慮する。」
「〔3〕線状ブロックは,主として誘導対象施設の方向を案内するために用いる。その設置は,通行動線の方向と線状突起の方向とを平行にする。」

(イ)形状
「〔1〕ブロックの大きさは,点状ブロック・線状ブロックのいずれも30cmの正方形を原則とする。」
「〔2〕線状ブロックにおける線の数は,30cmの場合で4本とし,線の中心間隔は75mmを標準とする。」
「〔5〕突起の高さは5mmとする。」

(ウ)材質等
「〔1〕十分な強度を有し,滑りにくく,歩行性,耐久性,耐摩耗性に優れたものとするとともに,退色,輝度の低下が少ない素材とする。」
「〔2〕色彩については,周囲の色と対比効果が発揮できるようにする。ブロックの色は原則として黄色とする。ただし,周囲の路面がカラー舗装などの場合で,舗装面とブロックとの輝度比が日中の晴天時において2.5以上確保できる場合は,状況に応じて適切な色を採用できるものとする。」
「〔3〕今後,技術の進歩等により,新たな工法や材料が開発された場合には,試験施工を実施し,その効果を十分検討したうえで採用する。」

オ 土木材料仕様書の記載
 視覚障害者誘導用ブロックの整備の基準として平成15年に定められた東京都建設局作成に係る土木材料仕様書(乙11。以下「本件仕様書」という。)においては,視覚障害者誘導用ブロックの材料の仕様に関し,形状については「JIS T 9251-2001『視覚障害者誘導ブロック等の突起の経常(ママ)・寸法及びその配列』による」とともに,材質については「JIS A 5371-2000『プレキャスト無筋コンクリート品』付属書2『舗装用平板』に準じている。」と定められている。

カ そして,証拠(乙8ないし12)及び弁論の全趣旨によれば,本件歩道に敷設された本件誘導ブロックは,上記イないしオのいずれの仕様も満たしているものと認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。

キ 以上によれば,被告は,歩道に設置する視覚障害者誘導用ブロックの材質について,条例や本件設計基準,本件マニュアルにおいて,滑りにくさを考慮して材料を選択する旨定めた上で,それに基づき定められた本件仕様書の仕様を満たす材質を用いた視覚障害者誘導用ブロックである本件ブロックを本件現場に敷設していたことが認められる。
 したがって,本件誘導ブロックが敷設された本件歩道が通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない。


 なお,乙13,14によれば,本件仕様書に記載された視覚障害者誘導用ブロックの仕様を満たす商品として,防滑性,耐候性に優れているコンクリート製の製品,滑り抵抗値が高くノンスリップ性を有する樹脂製の製品など様々なものが市販されていることが認められるものの、他方,全国において平成19年12月頃から平成21年3月頃にかけて特に透水性に優れたセメント製の視覚障害者誘導用ブロックが歩道に施工された実績は62件程度にとどまっていることからすれば,被告が,本件現場に上記のような特に防滑性や透水性に優れた視覚障害者誘導用ブロックを敷設していなかったことをもって当然に本件歩道の設置又は管理に瑕疵があったということはできず,上記判断を左右するものではない。

(4)本件誘導ブロックの滞水性に係る原告の主張について
ア また,原告は,本人尋問において,本件事故当時,本件歩道には,水をまいたようにかなり濡れた跡があり,本件現場の本件誘導ブロックの上には,うっすら水が乗って,濡れていたと供述する。 

イ 確かに,上記1(1)アによれば,本件事故当時,本件現場を含む練馬地区において最大0.5ミリメートルの降雨があったことが認められるものの,前提事実のとおり,本件歩道の上には丸山陸橋が架かっていることからすれば,本件現場に雨が直接降り注ぐことはない。
 また,通行者等が雨に濡れた状態で本件歩道上を進行することにより,本件歩道や本件誘導ブロックが雨で濡れることはあり得るものの,最大0.5ミリメートル程度の降雨であったことに照らせば,雨に濡れた通行者等の通行によって,本件誘導ブロックの上に本件自転車が滑走して制御不能となる程の滞水があったという状態にまでなることは考え難い。

 むしろ,乙6によれば,本件事故の約3時間後である平成25年8月1日午前10時頃,東京都第三建設事務所の委託を受けた業者が行った本件現場の巡回点検において,本件歩道に水をまいたように濡れた跡や,本件現場の本件誘導ブロックが濡れていることは確認されていないことが認められ,他に原告の上記供述を裏付ける客観的証拠は全くないことも併せ考慮すると,原告の上記供述を信用することはできない。

 したがって,そもそも本件事故当時において本件誘導ブロックが濡れていたのか否か,また,濡れていたとすればどの程度濡れていたのかにつき不明である以上,本件誘導ブロックの滞水性,透水性について論ずるまでもなく,原告の上記供述に基づく主張は採用できない。

(5)本件誘導ブロックの敷設形状に係る原告の主張について
ア さらに,原告は,本件誘導ブロックが鉄道レールのように直線状に敷設されていたから,本件誘導ブロック上を通行する自転車の車輪がレールに沿って滑走し,運転者自身が自転車そのものを制御できなくなり,ふら付き,その後に運転者が転倒負傷することも十分予測できた旨主張する。

イ しかしながら,上記(3)ウ及びエのとおり,視覚障害者誘導用ブロックは,足の裏の触感覚でその形状等を確認できるような突起をつけたブロックで,歩行中の視覚障害者により正確な歩行位置と歩行方法を確認させるための施設であり,その種類としては,線状ブロック(平行する線状の突起をその表面につけたブロック)及び点状ブロック(点状の突起をその表面につけたブロック)があるところ,前者は,施設等の位置,歩行の位置及び歩行方法を案内する場合に使用されるものであることからすれば,線状ブロックを直線状に敷設することはその性質上当然のことであるといえ,本件現場に線状ブロックである本件誘導ブロックを直線状に敷設していたことをもって本件歩道が通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない。

 なお,確かに,線状ブロックの上を自転車で走行すること自体は法令上禁止されていないものの,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,本件歩道の幅員からして本件歩道を自転車で走行する者が本件誘導ブロックを避けて安全に走行することが十分に可能であると認められ,むしろ,そのように走行することが想定されているものといえる。そのため,本件事故が,対向車を避けるために意図せず本件誘導ブロック上に本件自転車のタイヤが乗り上げたことにより発生したものである可能性を考慮しても,本件歩道が通常有すべき安全性を欠いていたとは認められないとの上記認定は左右されない。

(6)結論
 したがって,原告が主張する上記いずれの点を考慮しても,本件歩道が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえないから,原告の主張は認められない。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,その余の点(争点3及び4)について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第33部
裁判長裁判官 原克也 裁判官 廣瀬仁貴 裁判官 小久保珠美

以上:6,782文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 > 歩道視覚障害者誘導用ブロックは瑕疵非該当とした地裁判決紹介