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市道道路脇側溝転落事故につき国家賠償責任を認めた地裁判例紹介

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令和 1年 7月 9日(火):初稿
○「アイスクリーム売場前通路上転倒事故に不法行為責任を認めた判例紹介」の続きです。現在、通路での転倒事故について工作物設置保存瑕疵を理由とする損害賠償請求訴訟を扱っており、関連判例を集めています。

○事故当時78歳であった原告が、被告(福島市)が設置・管理する市道(本件道路)を南から北に向けて自転車を押しながら通行していたところ、本件道路西側の側溝に自転車とともに転落して全身を強打したことにより頚髄損傷後遺症及び脊髄損傷後遺症の障害を負った事故で、原告が、被告に対し、本件道路が通常有すべき安全性を欠いており、公の営造物に設置保存の瑕疵があると主張して、国家賠償法2条1項に基づき、1億4255万0467円の支払等を求めた事案についての平成30年9月11日福島地裁判決(判時2405号87頁)の関連部分を紹介します。

○判決は、本件道路については、その利用に際して歩行者が傷害を負う事故の発生する危険性が客観的に存在し、かつ、それが通常の予測の範囲を超えるものでない一方で、管理者である被告において、特段の事情がないにもかかわらず、本件側溝への転落事故の発生を未然に防止するための措置を講じていなかったことからすれば,本件道路(公の営造物)に管理の瑕疵があると認め、4509万7636円の支払を命じました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,4509万7636円及びこれに対する平成25年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告は,原告に対し,1億4255万0467円及びこれに対する平成25年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 本件は,事故当時78歳であった原告が,平成25年10月11日午後6時頃,被告が設置・管理する市道平石・方木田線(以下「本件道路」という。)を南から北に向けて自転車を押しながら通行していたところ,本件道路西側の側溝に自転車とともに転落して全身を強打したことにより頚髄損傷後遺症及び脊髄損傷後遺症の障害を負ったこと(以下「本件事故」という。)から,原告が,被告に対し,本件道路が通常有すべき安全性を欠いており,公の営造物に設置保存の瑕疵があると主張して,国家賠償法(以下「国賠法」という。)2条1項に基づき,1億4255万0467円及びこれに対する本件事故の日である平成25年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実(認定に供した証拠等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。)

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 認定事実(前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。なお,認定に供した証拠等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)本件道路は,朝夕の時間帯は一定の交通量があるが,歩道等は設けられていない。また,路側帯については,本件道路を南方から北方へ進行する場合,仲橋の南端付近に至るまでは西側(左側)脇に限り,人が歩行できる程度の幅が確保されているが,仲橋に入ると,その西側(左側)脇も,約10ないし20cmの幅に狭まり,そのまま本件転落場所付近に至るまで,路側帯内を歩行者等が通行することは困難な状態であった。なお,本件道路は,仲橋の北端を通り過ぎると,左方に湾曲し,見通しが悪いため,本件転落場所付近まで至らないと,その状況を把握することは日中でも困難である。(甲1,35,弁論の全趣旨)

(2)本件事故当時における本件転落場所付近の明るさは,車両の通行がない状況で0.0~0.1ルクス程度(街灯のない星明かり程度の明るさ)であったことがうかがわれるところ,人間の視力は,0.2ルクス程度(満月の夜の明るさ)の明るさにおいても,0.1~0.2程度に低下する。なお,本件転落場所の比較的近くには,看板の照明施設が設置されているが,当該照明の明かりは本件転落場所まで届いていない。(甲3,29,30,34,37~44,乙16(枝番号を含む。),弁論の全趣旨)。

(3)被告は,本件事故後,本件転落場所付近にポストコーンを設置しているところ,その設置費用は35万3160円(消費税込み)であり,平成28年10月3日に発注し,同月12日頃に完成している(前記前提事実(2),甲30,34,乙8の1・2,弁論の全趣旨)。


         (中略)

2 争点1(本件道路の設置・管理の瑕疵の有無)について
(1)前記前提事実のとおり,本件道路は,被告が設置管理する公の営造物であるところ,国賠法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,その営造物が通常有すべき安全性を欠く状態をいい,このような瑕疵があるといえるか否かは,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等の諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものである。

 もっとも,道路整備の程度については,当該道路の位置,環境,交通状況に応じて一般の通行に支障を及ぼさない程度で足り,必ずしも完全無欠のものとしなければならないものではない。また,本件道路の管理者である被告において,通常予測することができない異常な行動に起因するものであるときには,営造物の通常の用法によらない行動の結果として事故が生じたものといえ,営造物の本来有すべき安全性に欠けるところはない(最高裁昭和53年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁)が,当該営造物の利用に付随して死傷等の事故の発生する危険性が客観的に存在し,かつ,それが通常の予測の範囲を超えるものでない限り,管理者としては,上記事故の発生を未然に防止するための措置を講ずる必要があり,上記のような事故防止措置を欠いたときには,特段の事情がない限り,公の営造物の管理に瑕疵があるというべきである(最高裁昭和55年9月11日第一小法廷判決・集民130号371頁)。

(2)
ア 本件側溝は,本件事故現場付近において,本件道路と平行して存在し,その間は基本的にガードレールで隔てられているが,本件転落場所付近に至るとガードレールは途切れており,しかも同時にガードレールの基礎部分もなくたるため,本件道路の幅員が約30cm狭くなり,その分本件側溝の幅が道路側に拡大している(前記前提事実(3))。

 そして,本件側溝は,本件転落場所地点において,本件道路との段差により,高さ最大90cm,幅約1.2mで存在するため(前記前提事実(2)),本件道路を歩行していた者が不意に同側溝に落ちれば身体に対して相当の衝撃が加わるものと推認され,人の生命身体に対して危険が大きい場所であったといえる。この危険性については,最近福島市内で他の市道脇の側溝においても,本件と同程度の高さ又はこれより低い側溝でもそれらに転落して死亡する事故が発生している点(甲32,33)からもうかがわれる。

 また,前記認定事実(2)のとおり,本件道路が本件転落場所に至る前で左方に湾曲しているため,日中でも近くまで行かないと本件側溝の状況を把握するのは困難であるが,本件事故当時(10月の18時頃)における本件転落場所付近の明るさは,車両の通行がない状況で0.0~0.1ルクス程度(街灯のない星明かり程度の明るさ)であったところ,人間の視力が0.2ルクス程度(満月の夜の明るさ)の明るさでも0.1~0.2程度に低下することに鑑みれば,本件道路を通行する歩行者は,夜間(少なくとも本件事故当時と同程度ないしそれより暗い状況)においては更に本件側溝を認識しづらい状況にあったと認められる。

 さらに,本件道路は,一定の交通量があるにもかかわらず,歩道等の設置はない上,歩行者が通行するのに十分な路側帯もないため,仲橋方面から本件道路の西側を通行してきた歩行者としては,通行車両との接触を避けようとできるだけ西側(左側)に寄って通行しようとする心理が働く点は容易に想像できるところであり,そこにガードレールが途切れた状況に直面すれば,本件道路の道幅が広がったと誤信し,西側(左側)に向かう可能性は極めて高いといえる。

 以上のとおり,本件道路は,本件側溝に転落しやすい状況がある上,同側溝を認識しづらい状況にあったにもかかわらず,本件転落場所には,本件事故当時は防護柵,本件側溝の存在につき注意喚起を促す看板,道路照明施設は設置されていなかったことからすれば,本件道路は,本件事故当時,歩行者が夜間に通行する際に本件側溝に転落し,負傷する事故が発生する危険性が客観的に存在するものであったと認めるのが相当である。

イ 被告は,本件事故後に本件道路にポストコーンを設置しているところ(前記前提事実(2)),少なくとも同措置が事前にあれば,本件事故は回避できたものと考えられる。そして,ポストコーンの設置費用は35万3160円(消費税込み)であり,工期も比較的短期間で終了していること(前記認定事実(3))からすれば,本件が道路整備の領域の問題という点を考慮に入れたとしても,被告が予算等の関係で本件側溝への転落事故を防止するための措置を講じることが困難であったとは考え難く、他に本件側溝への転落事故に関する防止措置を講じていないことを正当化するような特段の事情は見当たらない。

 また,本件道路は歩行者による通行が禁止されていないし,被告が主張する歩行者の左側通行という点についても,本件道路を南方から北方へ向かう場合,右側を通行しようとすると路側帯がほとんど存在せず,あえて左側(西側)を通行せざるを得ない状況にあり,しかも,被告が,そのことを予測することが困難ともいえず,道交法の問題(歩行者の左側通行)のみで異常な用法であるとするのは相当でなく,本件道路を夜間に通行する歩行者が本件側溝に転落する事故が予測の範囲を超えるものであったと認めることはできない。

 以上によれば,本件道路の管理者である被告においては,本件道路を夜間に通行する歩行者が本件側溝に転落する事故の発生を未然に防止するために防護柵,道路照明施設,本件側溝の存在を注意喚起する看板等を設置するなどの措置を講じる必要があったといえる。なお,防護柵設置基準や照明施設設置基準は,一般的な道路管理の観点から防護柵や道路照明施設の設置に関する基準を定めたものであり,道路に具体的な危険性が存在している以上,上記基準に従っていればそれ以上の措置を講じる必要がないということにはならない。

ウ 以上によれば,本件道路については,その利用に際して歩行者が傷害を負う事故の発生する危険性が客観的に存在し,かつ,それが通常の予測の範囲を超えるものでない一方で,管理者である被告において,特段の事情がないにもかかわらず,本件側溝への転落事故の発生を未然に防止するための措置を講じていなかったことからすれば,本件道路(公の営造物)に管理の瑕疵があると認めるのが相当である
以上:4,637文字

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