令和 2年 5月19日(火):初稿 |
○話題の検察庁法改正案が、「国民の理解なしに前に進めることはできない」との理由で先送りされましたが、改正案の全条文備忘録です。算用数字と漢数字が混同していますが、徐々に算用数字に統一します。5000字前後の膨大な量で、正に目くらましで一読しても良く内容が理解出来ません(^^;)。 ○要は、この改正案が施行されると、政治からの検察官の独立が侵害されるとのことですが、検察庁法第15条で「検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。」と規定され、検察庁のトップは内閣が任命することになっており、形式上検察トップの人事権は内閣にあるとも言えます。 ○しかし、以下の落合洋司弁護士の説明によると、この規定は形式で、従前から実質的には、検察内部の結束で政治からの介入を跳ね返して、検察内部に実質的人事権を保ってきたところ、今回の検察庁法改正案では、政治の介入が格段にやりやすくなるとのことです。その辺を、元検事の落合洋司弁護士が、素人にも判りやすく解説しています。「あの田中角栄すら手を突っ込もうとしなかった領域に、手が突っ込もうとされようとしているところに、この問題の特異性がある。」とのことです。 ******************************************* 検事と人事ー検察庁法改正問題の背景-落合洋司 2020/05/16 00:43 「役人」をやったことがある人は、日本国民の中では一部だろう。役人にもいろいろあるが、一般的に「高級官僚」と言われる公務員をやったことがある人はさらに限定される。そういう高級官僚の中に検事もいる。検事も役人の一種である。 役人にとって、人事は極めて重大な関心時になる。日の当たるコースを歩みたい、冷飯を食いたくない、最終的に、できるだけ高い地位に到達して、その後の人生も、そういうキャリアを生かして有利に進めたい、そういう発想を持つのが普通である(もちろん、例外はあるが多くはない)。 検事の場合、任官した後、数年は、地検の捜査、公判の現場で、横並びで働くが、その後、将来を見込まれ留学したり法務省勤務になる者、捜査、公判の現場、特に特捜部で活躍して評価を上げる者、といった人々も出てくる。遅咲きで、任官後、10年余りを経過したあたりから評価が上がってくる人もいる。 そうして、10年、20年経過し、任官後25年くらいすると、地方の検事正になる人も出てくる。検事正になれない人ももちろんいる。検事正になれない人は、地検、高検の支部長あたりで退職、というパターンが多い。 法務省勤務歴が長くなっているようなエリート、捜査、公判で名を上げた人、そういう人々が、今度は「認証官」に足がかかってくる。認証官は、天皇の認証を経て内閣が任命するもので、検察庁では、検事総長、次長検事、全国8つの高検の検事長の、合計10名しかいない。ここまで到達するのは、同期任官者(自分の場合は51名だったが最近は80名くらいになっている)の中でも1、2名程度しかいない。 従来は、人事の中で、将来の検事総長になり得る人物は徐々に絞られていき、検察の世界でも序列(修習期)が重視されるから、そういう絞り込まれた人物が、期の上から順々に検事総長になってきた。そういう人事が良いかどうかは議論があるが、少なくとも、政治からの介入を、人事上は跳ね返せるというメリットはあっただろう。政治から、絞り込まれた人物以外の別の人物を検事総長に、と望みたくても、形成されてきたバランスを失することになるし、過去に、そういう動きがなかったわけではないが、検察組織の結束もあって跳ね返してきた経緯がある。 現在、問題になっている検察庁法改正で、認証官の定年延長が内閣の判断で行えるようになれば、政治の側から、この人物を検事総長に、と望んだ場合、定年延長してプールしておき(黒川氏のように)、検事総長人事の際に、その人物を任命するということが、従来より格段にやりやすくなるだろう。従来は、絞り込まれてきた検事総長候補以外に、修習期上、バランスを失せずに代わりえる人物はなかなか見出し難かった。それが、自由自在に定年延長ができることで、政権の目に叶った人物を一定数、プールできることになる。 そういう人事の在り方は、法務・検察組織に変容を来す可能性も大きい。従来は、政治とは一定の距離を置こうという傾向が強かったが、例えば、法務省勤務の際に、政治力を利用する思惑で、政治家と親交を取り結び、何かと政治へサービスする「黒川的」な人物が、組織内にウイルスのように蔓延していくというのは、単なる杞憂ではなく大いにあり得ることである。組織のあちこちに、黒川2世、黒川3世、ミニ黒川、クローン黒川が巣食うようになり、そういう者たちが要領よく出世して認証官に到達して、定年延長を噛ませながら、政治からお座敷がかかるのを待つという、なんとも背筋が寒くなるようなことが十分に起きてくるだろう。 認証官になると、年収は2200万円から2300万円くらいになる。定年延長してもらえば、そういう高給も延長される。政治の侍女化した人物が、定年延長で甘い汁も吸わせてもらい、検事総長にでもなった時、どういう検事総長になるか、これ以上言うまでもないだろう。 おそらく、現政権は、内閣人事局が中央省庁幹部人事を牛耳ることで、人事を通じて役人をコントールする旨みを知ったのだろう。検事も所詮は役人、人事を通じてコントロールできると。あの田中角栄すら手を突っ込もうとしなかった領域に、手が突っ込もうとされようとしているところに、この問題の特異性がある。そして、その背景には、役人にとっての人事という問題がある。 ******************************************* 検察庁法改正案条文全文(「国家公務員法等の一部を改正する法律案」より抜粋) (検察庁法の一部改正) 第4条 検察庁法(昭和22年法律第61号)の一部を次のように改正する。 第9条第1項中「を以てこれに」を「をもつて」に改め、同条第2項中「且つ」を「かつ」に改め、同条第1項の次に次の6項を加える。 法務大臣は、検事正の職を占める検事が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に他の職に補するものとする。 法務大臣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した検事正の職を占める検事について、当該検事の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該検事を他の職に補することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として法務大臣が定める準則(以下この条において単に「準則」という。)で定める事由があると認めるときは、当該検事が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該検事に、当該検事が年齢63年に達した日において占めていた職を占めたまま勤務をさせることができる。 法務大臣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、準則で定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある検事にあつては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内)で期限を延長することができる。 法務大臣は、前2項の規定により検事正の職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした検事については、当該期限の翌日に他の職に補するものとする。ただし、第22条第3項の規定により読み替えて適用する国家公務員法(昭和22年法律第120号)第81条の7第1項の規定により当該検事を定年に達した日において占めていた職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。 第2項から前項までに定めるもののほか、第2項及び前項の規定により他の職に補するに当たつて法務大臣が遵守すべき基準に関する事項その他の他の職に補することに関し必要な事項並びに第3項及び第4項の規定による年齢63年に達した日において占めていた職を占めたまま勤務をさせる期限の設定及び延長に関し必要な事項は、準則で定める。 法務大臣は、年齢が63年に達した検事を検事正の職に補することができない。 第10条第1項中「を以てこれに」を「をもつて」に改め、同条第2項中「且つ」を「かつ」に改め、同条第1項の次に次の1項を加える。 前条第2項から第7項までの規定は、上席検察官について準用する。 第11条中「第九条第二項」を「第九条第八項」に改める。 第20条中「外、左の各号の一」を「ほか、次の各号のいずれか」に改め、「これを」を削り、同条に次の一項を加える。 前項の規定により検察官に任命することができない者のほか、年齢が63年に達した者は、次長検事又は検事長に任命することができない。 第20条の次に次の一条を加える。 第20条の二 検察官については、国家公務員法第60条の二の規定は、適用しない。 第22条中「検事総長」を「検察官」に改め、「、その他の検察官は年齢が63年に達した時に」を削り、同条に次の七項を加える。 検事総長、次長検事又は検事長に対する国家公務員法第81条の七の規定の適用については、同条第一項中「に係る定年退職日」とあるのは「が定年に達した日」と、「を当該定年退職日」とあるのは「を当該職員が定年に達した日」と、同項ただし書中「第81条の五第一項から第四項までの規定により異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)を延長した職員であつて、定年退職日において管理監督職を占めている職員については、同条第一項又は第二項の規定により当該定年退職日まで当該異動期間を延長した場合であつて、引き続き勤務させることについて人事院の承認を得たときに限るものとし、当該期限は、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して3年を超えることができない」とあるのは「検察庁法第22条第五項又は第六項の規定により次長検事又は検事長の官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした職員であつて、定年に達した日において当該次長検事又は検事長の官及び職を占める職員については、引き続き勤務させることについて内閣の定める場合に限るものとする」と、同項第一号及び同条第三項中「人事院規則で」とあるのは「内閣が」と、同条第二項中「前項の」とあるのは「前項本文の」と、「前項各号」とあるのは「前項第一号」と、「人事院の承認を得て」とあるのは「内閣の定めるところにより」と、同項ただし書中「に係る定年退職日(同項ただし書に規定する職員にあつては、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日)」とあるのは「が定年に達した日(同項ただし書に規定する職員にあつては、年齢が63年に達した日)」とし、同条第一項第二号の規定は、適用しない。 検事又は副検事に対する国家公務員法第81条の七の規定の適用については、同条第一項中「に係る定年退職日」とあるのは「が定年に達した日」と、「を当該定年退職日」とあるのは「を当該職員が定年に達した日」と、同項ただし書中「第81条の五第一項から第四項までの規定により異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)を延長した職員であつて、定年退職日において管理監督職を占めている職員については、同条第一項又は第二項の規定により当該定年退職日まで当該異動期間を延長した場合であつて、引き続き勤務させることについて人事院の承認を得たときに限るものとし、当該期限は、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して3年を超えることができない」とあるのは「検察庁法第九条第三項又は第四項(これらの規定を同法第十条第二項において準用する場合を含む。)の規定により検事正又は上席検察官の職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした職員であつて、定年に達した日において当該検事正又は上席検察官の職を占める職員については、引き続き勤務させることについて法務大臣が定める準則(以下単に「準則」という。)で定める場合に限るものとする」と、同項第一号及び同条第三項中「人事院規則」とあるのは「準則」と、同条第二項中「前項の」とあるのは「前項本文の」と、「前項各号」とあるのは「前項第一号」と、「人事院の承認を得て」とあるのは「準則で定めるところにより」と、同項ただし書中「に係る定年退職日(同項ただし書に規定する職員にあつては、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日)」とあるのは「が定年に達した日(同項ただし書に規定する職員にあつては、年齢が63年に達した日)」とし、同条第一項第二号の規定は、適用しない。 法務大臣は、次長検事及び検事長が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に検事に任命するものとする。 内閣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる。 内閣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、内閣の定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある次長検事又は検事長にあつては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内)で期限を延長することができる。 法務大臣は、前二項の規定により次長検事又は検事長の官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした次長検事又は検事長については、当該期限の翌日に検事に任命するものとする。ただし、第二項の規定により読み替えて適用する国家公務員法第81条の七第一項の規定により当該次長検事又は検事長を定年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。 第四項及び前項に定めるもののほか、これらの規定により検事に任命するに当たつて法務大臣が遵守すべき基準に関する事項その他の検事に任命することに関し必要な事項は法務大臣が定める準則で、第五項及び第六項に定めるもののほか、これらの規定による年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定及び延長に関し必要な事項は内閣が、それぞれ定める。 第29条及び第30条を削る。 第31条中「互に」を「互いに」に改め、同条を第29条とし、第32条を第30条とする。 第32条の二中「この法律」を削り、「乃至第20条」を「から第20条の二まで」に、「乃至第25条」を「から第25条まで並びに附則第三条及び第4条」に、「(昭和22年法律第120号)附則第13条」を「附則第4条」に、「基いて」を「基づいて」に改め、同条を第31条とする。 第33条を附則第一条とし、第34条及び第35条を削り、第36条を附則第二条とし、第37条から第42条までを削る。 附則に次の二条を加える。 第3条 令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間における第22条第一項の規定の適用については、同項中「検察官は、年齢が65年」とあるのは、「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は、年齢が64年」とする。 第4条 法務大臣は、当分の間、検察官(検事総長を除く。)が年齢63年に達する日の属する年度の前年度(当該前年度に検察官でなかつた者その他の当該前年度においてこの条の規定による情報の提供及び意思の確認を行うことができない検察官として法務大臣が定める準則で定める検察官にあつては、当該準則で定める期間)において、当該検察官に対し、法務大臣が定める準則に従つて、国家公務員法等の一部を改正する法律(令和2年法律第▼▼▼号)による定年の引上げに伴う当分の間の措置として講じられる検察官の俸給等に関する法律(昭和23年法律第76号)附則第五条及び第六条第一項の規定による年齢63年に達した日の翌日以後の当該検察官の俸給月額を引き下げる給与に関する特例措置及び国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)附則第12項から第15項までの規定による当該検察官が年齢63年に達した日から定年に達する日の前日までの間に非違によることなく退職をした場合における退職手当の基本額を当該検察官が当該退職をした日に国家公務員法第81条の六第一項の規定により退職をしたものと仮定した場合における額と同額とする退職手当に関する特例措置その他の当該検察官が年齢63年に達する日以後に適用される任用、給与及び退職手当に関する措置の内容その他の必要な情報を提供するものとするとともに、同日の翌日以後における勤務の意思を確認するよう努めるものとする。(衆議院ホームページより) 以上:7,083文字
|