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共有物分割訴訟で全面的価格賠償による分割を認めた地裁判決紹介

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令和 1年11月15日(金):初稿
○共有不動産の分割請求について相談を受けています。「共有不動産の分割-全面的価格賠償の方法2」以下に、全面的価格賠償の方法により共有物を分割することが許される場合があることを認めた平成8年10月31日最高裁判決(判時1592号59頁)を紹介していました。

○この最高裁判決では、「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」としていました。

○参考判例として、不動産を元妻である被告と共有する原告が、被告に対し、代金分割の方法による本件不動産の共有物分割を求めた事案において、共有物分割の方法としては、被告に本件不動産を取得させる全面的な価格賠償による分割を認めるのが相当であるなどとして、被告が支払うべき代償金を算定し、請求を一部認容した平成26年10月6日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)の関連部分を紹介します。

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主   文
1 別紙物件目録記載の不動産を次のとおり分割する。
(1) 同目録記載の不動産を被告の所有とする。
(2) 被告は,原告に対し,2348万5000円を支払え。
2 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を競売し,競売費用を控除した競売代金残金を原告に100分の87,被告に100分の13の割合で分配する。

第2 事案の概要
 本件は,本件不動産を被告と共有すると主張する原告が,本件不動産の共有物分割を求める事案である。
1 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から容易に認められる。)
(1) 本件不動産について,平成15年10月20日,同年9月26日売買を原因として,原告の持分を100分の87,被告の持分を100分の13とする所有権移転登記(以下「本件共有登記」という。)がされている(甲1の2)。
(2) 原告及び被告が本件不動産を購入した際の売買代金額は4230万円であった。原告と被告は,それぞれ,その両親から,本件不動産の購入資金として,少なくとも各550万円の贈与を受けた。
(3) 原告は,平成15年10月20日,住宅金融公庫から,2770万円を借入れ(以下「本件住宅ローン」という。),その担保のために,住宅金融公庫を抵当権者,原告を債務者として,本件不動産に債権額を2770万円とする抵当権を設定し,その旨の登記をした(甲1の2)。
(4) 原告と被告は,平成20年6月30日,両者間の3人の子の親権者をいずれも被告として協議離婚した(以下「本件離婚」という。)。
(5) 本件離婚に際し,原告と被告は,①原告が被告に対し子らの養育費を支払うこと,②本件不動産に被告と子らが居住することを合意した。
(6) 本件不動産には被告と子らが居住を継続しており,本件住宅ローンの返済は原告が行っている。本件口頭弁論終結時点の本件住宅ローンの残元金は,1289万2956円である(甲15)。

2 争点
(1) 本件不動産の所有関係


     (中略)

(4) 本件不動産の代償分割の相当性
(被告の主張)
 被告は,子らとともに本件不動産に継続して居住しており,子らは本件不動産から学校に通学していること,原告は本件不動産の取得を希望していないことからすれば,本件不動産の原告持分を被告に取得させ,被告が原告に代償金を支払うとの全面的価格賠償による分割を行うことが当事者の公平にかなうところ,被告は,被告の父親の援助により,代償金として2600万円を支払うことが可能である。

(原告の主張)
 被告に価額賠償の十分な資力がない以上,競売による換価が行われるべきである。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件不動産の所有関係)について
(1) 原告持分の被告への移転の有無


     (中略)


(2) 原告と被告の共有持分割合


     (中略)


3 争点(4)(本件不動産の共有物分割の方法)について
(1) 本件不動産は敷地権付きの区分所有建物であり,現物分割は不可能であるというべきである。
 そのため,原告は競売による分割を求めており,代償金の支払により本件不動産を取得することは希望していない。これに対し,被告は,2600万円を限度としてではあるが代償金の支払により本件不動産を取得することを希望している。そこで,全面的な価格賠償による分割を認めるべきか否かについて検討する。

(2) 本件不動産は,原告と被告がその婚姻中に,原告,被告及び長男ら家族の住居として取得されたものであり,上述したように,原告と被告がそれぞれ頭金を負担したことから,その負担割合に応じた共有持分を有することになったものである。そして,本件住宅ローンにより代金が支払われた部分については,原告と被告との婚姻関係が継続すれば,原告が就労して収入を得,被告が家事労働及び育児を行うとの分担により得られる家計収入により本件住宅ローンの返済が行われることが想定され,平成16年4月13日の原告と被告の1度目の離婚から同年9月10日の2度目の婚姻(乙18,弁論の全趣旨)までの間を除き,本件離婚まで,そのようにして本件住宅ローンの返済が行われたものと認められる(後述する繰上返済を除く。)。

 そして,被告は,本件合意書に基づき,本件離婚後も長男らと本件不動産における居住を継続しており,長男らが未成年であり,学業に従事している年齢にあることからすると,被告が本件不動産の取得を希望することには合理性がある。これに対し,原告は,他に居住しており,本件不動産の取得を希望していないことからすれば,被告に本件不動産を取得させることには相当性があると認められる。

 もっとも,本件不動産には,本件住宅ローン債務を被担保債権として,原告を債務者とする抵当権が設定されており,本件口頭弁論終結時における債務残高は1289万2956円であるところ(前提となる事実(6)),被告が本件不動産を取得するとしても,同抵当権が設定されたままの状態となるから,このような状態で本件不動産を被告に取得させることは相当ではないとも思われる。

 しかしながら,被告がこの状態を認識しながら全面的価格賠償による分割を希望していること,被告が本件不動産の所有者となれば原告の債務である上記被担保債権の弁済や求償等,法的な対処が可能となると解されることからすれば,上記抵当権の存在を考慮しても,被告に本件不動産を取得させることが相当であるというべきである。

(3)
ア 次に,本件不動産の適正な評価額が問題となるところ,証拠(甲4,8,乙9,鑑定人Bの鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,本件不動産の価格は3800万円と認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。
 そうすると,上記1(2)で認定説示したように,原告と被告の本件不動産の持分割合はそれぞれ100分の79と100分の21であるから,原告の持分に相当する価格は3002万円となることになる。

イ ところで,本件住宅ローンの返済のうち平成15年11月から平成16年2月まで及び同年11月から平成20年6月までの合計48か月分合計563万5536円は,原告と被告との婚姻中に原告の得た収入から支払われたものであること,及びその支払額の2分の1である281万7768円について被告の寄与が存在することは当事者間に争いがない。
 また,証拠(甲10,13,16,乙10,13,14)及び弁論の全趣旨によると,
(ア) 原告と被告は,原告の双極性障害を理由として平成16年4月13日に1度目の離婚をしたが,その際,原告の両親は,被告に対し,被告と長男らの離婚後の生活のために2000万円を給付することを約し,同月27日,被告名義の三井住友銀行の預金口座(以下「被告口座」という。)に2000万円を振り込んだこと,

(イ) 被告は,上記2000万円のうち1000万円を平成16年4月28日に被告口座から引き出したこと,

(ウ) 本件住宅ローンの引落口座であった原告口座1においては,平成16年2月19日に同月分の返済額が引き落とされ,同年3月17日には同月分の返済に相当する12万円が入金されたが,以後,同年9月30日まで記帳が行われておらず,その間の入金は3件合計71万5000円であり,出金は7件合計82万1849円であったこと(なお,同年4月から同年9月までのローン支払予定額は70万4442円である。),

(エ) 原告口座1からは,平成16年11月中に,同月4日と同月24日の2回,本件住宅ローンの返済額が引き落とされており,同月4日の支払は同年10月分と推認されること,

(オ) 原告口座2には,原告が勤務していたa社からの入金がされていたが,平成16年1月23日に前月までとは異なる少額の振込みがあった後は,原告と被告が2度目に婚姻した同年9月10日以降に「b社」からの振込みが開始されるまで,原告の勤務先からの同口座への振込みはなく,同口座にはほとんど預金残高がなかったこと,

(カ) 本件住宅ローンに関しては,被告により,平成17年4月25日に原告口座1に200万円が入金され,同金員を原資として,同年5月19日に195万5318円の繰上返済が行われたこと,

(キ) 被告は,平成17年11月14日,上記(イ)の引出し及び長男らの学費等の引落し等により残高が800万円余りとなっていた被告口座から500万円を出金し,同日,原告口座1に同金員全額を入金して,平成18年1月19日,本件住宅ローンについて,499万5132円の繰上返済を行ったこと
 が認められる。

 上記の事実に照らすと,原告と被告との1度目の離婚前である平成16年1月頃から2度目の婚姻をした同年9月頃まで,原告は被告に対し,生活費を交付していなかったと推認される。そうすると,原告が生活費を交付しなかったため,同年3月から同年10月までの本件住宅ローン合計93万9256円は被告がその固有財産により支払ったようにも思われる。しかしながら,上記期間の本件住宅ローン返済原資が被告の固有財産から支払われたとの事実を的確に認定し得る証拠はない(被告口座の履歴〔乙13,14〕からは,当該事実は明確ではない。)。被告は,原告の父から交付を受けた2000万円のうち平成16年4月28日に引き出した1000万円を原告名義の郵便貯金口座に入金した旨主張するけれども,これを的確に認定し得る証拠はなく,原告と被告が上記時期に離婚していたことからすると,被告が原告名義の貯金口座に当該金員を入金したとするのは不自然である。また,仮に被告が上記1000万円を原告名義の貯金口座に入金していたとしても,当該金員が上記返済に充てられたと認めるに足りる証拠はない。したがって,平成16年3月から同年10月までの本件住宅ローン合計93万9256円を被告がその固有財産で支払ったとは認められない。

 また,本件住宅ローンに関し,原告と被告の2度目の婚姻の後に,2回にわたり繰上返済が行われていることは上記認定のとおりであるところ,上記認定事実に照らせば,平成18年1月19日に行われた499万5132円の繰上返済は,被告の固有財産によりなされたものと認めるのが相当である。これに対し,平成17年5月9日に行われた195万5318円の繰上返済は,平成16年3月から同年10月までの返済と同様,被告の固有財産による返済であると認めるに足りる証拠がないというべきである。

 なお,原告は,原告の父から被告に交付された2000万円が,原告と原告の父との間では相続分の生前贈与であること,原告と被告はすぐに再婚しており,上記繰上返済がなされた当時も婚姻していたこと等から,上記2000万円は被告の固有財産ではないと主張する。しかしながら,上記2000万円は,原告と被告との1度目の離婚を原因として,被告及び長男らの離婚後の生活のために交付されたものであるから,同交付の時点で被告の固有財産となったというべきである。そのような金員が繰上返済前に,原告と被告の共有財産となっていたことをうかがわせる事情は認められない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

 以上によれば,平成15年11月から平成16年2月まで及び同年11月から平成20年6月までの合計48か月分の本件住宅ローンの合計563万5536円の2分の1である281万7768円,及び499万5132円の繰上返済の合計781万2900円については,原告と被告との共有関係の解消にあたり,被告が支払うべき代償金の算定において,被告が本件不動産の取得等に関し行った寄与として考慮するべきである。この場合,本件不動産の価格が調達資金額合計4543万円から3800万円に下落していることからすると,この下落率と同様の比率により上記金額を減縮して評価するべきであり,その額は653万5100円となる。

ウ 原告と被告は,本件離婚後の本件住宅ローンの返済を原告が行うと合意しているところ,被告は,同合意が本件住宅ローンという夫婦共同の債務の清算に関し,被告の負担していた同ローンの半額を原告が支払う趣旨であるとして,本件離婚後の本件住宅ローンの返済は,将来の返済分を含め,少なくともその2分の1が被告により支払われたものと評価されるべきであると主張する。

 しかしながら,本件離婚後の本件住宅ローンの返済は,原告が被告との共同生活による利益を受けることなく,自ら共有持分権者及び債務者として行ったものであるから,本件合意書の存在を考慮しても,当該返済は,その一部についても,被告が行ったものとは評価できないというべきである。

エ なお,被告は,他にも,本件離婚後の修繕積立金(月額1万4900円)の支出や学資保険の解約返戻金等について主張するが,これらが本件不動産の代償分割における代償金の額等に影響を与えるとは認められない。
 他方,原告は,原告が本件離婚後に負担した本件不動産の固定資産税合計90万6800円を考慮すべきであると主張するが,上記修繕積立金と同様,代償金の額の算出において考慮すべきものとは認められない。

オ 以上によれば,本件不動産について全面的価格賠償による分割を行う際に被告が原告に支払うべき代償金の額は,3002万円から653万5100円を控除した額に相当する2348万5000円と定めるのが相当である。
 そして,被告の父であるAは,合計2742万円あまりの預貯金を有しており(乙17),被告はその援助を受けて原告に対する代償金を支払えることが確実であると認められる(乙18,弁論の全趣旨)。したがって,本件不動産を被告の所有とし,被告には原告に対し2348万5000円の代償金の支払を命じる方法の分割を行うことは,原告と被告との実質的公平を害しないと認められる。


4 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 倉地真寿美)
以上:6,357文字

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