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葬儀費用は原則喪主負担ながら一部相続財産負担承認を認めた地裁判例紹介

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令和 1年11月14日(木):初稿
○葬儀費用の負担者についての質問を受けましたが、「相続財産に関する費用-特に葬儀・法要費用について」に、葬儀費用は原則として喪主の負担で(昭和61年1月28日東京地裁判決)、事情によっては相続財産費用になる(平成24年5月29日東京地裁判決)と記載していました。

○最近の判例として、亡Aの子Xらが、同じく亡Aの子Yは亡Aの預貯金等を引き出し私的に費消したとして、当該預貯金等のうち各人の法定相続分の不当利得返還を求めたところ、亡Aの葬儀費用等、納骨堂代及び納骨壇永代使用料への支出は本来喪主かつ祭祀承継者であるYが負担すべきとの原則を示しながら、本件では亡A相続人らの黙示の承諾があったと認められるから各支出はYが法律上の原因なく利得したものとはいえないとして不当利得と認めなかった平成28年11月8日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

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主    文
1 被告は,原告X1に対し,119万5779円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,119万5779円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告X1の負担とし,その1を原告X2の負担とし,その余は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告X1に対し,149万6493円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,149万6493円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,亡A(以下「亡A」という。)の子である原告X1(以下「原告X1」という。)及び原告X2(以下「原告X2」という。)が,同じく亡Aの子である被告に対し,同人が亡Aの預貯金等を引き出し,私的に費消したとして,当該預貯金等のうち,各人の法定相続分に相当する149万6493円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払を求める事案である。

2 前提となる事実(争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 亡Aは,平成18年9月4日に死亡した。当該時点で,亡Aには,長男のB(以下「B」という。),長女のC(以下「C」という。),二女の原告X2,三女のD(以下「D」という。),二男のE(以下「E」という。),三男の原告X1及び四女の被告(以下,全員を併せて「亡A相続人ら」という。)の7人の子がいた(甲1の1ないし1の5,2,弁論の全趣旨)。

(2) 亡Aは,平成18年9月4日当時,別紙預貯金目録記載の各預貯金(以下,番号順に「本件預貯金1」ないし「本件預貯金7」といい,同8の建物共済を「本件建物共済」といい,これらを併せて「本件各預貯金等」という。)を有していた(争いなし)。

(3) 被告は,平成18年9月4日,夫のF(以下「被告夫」という。)に頼んで本件預貯金1から100万円を払い戻してもらい,同金員を亡Aの葬儀費用等(以下「亡A葬儀費用等」という。)の支払に充てた(甲10,乙7,16,17)。

(4) 被告は,平成18年10月1日,亡Aの納骨堂代(以下「本件納骨堂代」という。)として80万5000円を支払った(乙14)。

(5) 被告は,平成19年7月26日,本件預貯金1から18万8824円,本件預貯金4から残高全額をそれぞれ払い戻した(乙7,16,9の1,9の2)。

(6) 亡A相続人らは,平成19年8月15日,亡Aの初盆で集まった際,亡Aの遺産について協議を行い,亡Aの預貯金を解約して亡A相続人らで分配することとし,その手続を被告に委任した。その際,被告夫は,協議内容について「仮決算 H19.8.15.」と題するメモ(以下「本件仮決算メモ」という。)を作成した(甲10,乙1,16,18)。

(7) 平成19年8月27日,本件建物共済(目的:鹿児島県川辺郡〈以下省略〉所在の木造瓦葺平屋建の建物(以下「本件目的建物」という。),共済契約者及び被共済者:亡G)について,同月15日の権利譲渡を理由に共済契約者及び被共済者がいずれも被告に変更された(乙13の1・2,16,18)。

(8) 被告は,平成19年9月4日,納骨壇永代使用料(以下「本件納骨壇永代使用料」という。)として30万円を支払った(乙15)。

(9) 被告は,平成19年10月1日,本件預貯金1ないし3,5及び6の各残高全額の払戻をした(乙7,9の2,11の1,11の2,16)。

(10) 被告は,同人を除く亡A相続人らに対し,本件各預貯金等からの払戻金等の分配をしておらず,そのほとんどを費消(本件預貯金7を除く。)してしまった(甲10,弁論の全趣旨)。

3 争点及び当事者の主張
 本件各預貯金等の払戻金等につき,被告が,原告らに対して支払うべき金額はいくらか。

(原告らの主張)
(1) 被告は,本件各預貯金等のうち本件預貯金7を除く合計1047万5454円の払戻等を行い,私的に費消してしまった。これらの金員は,亡A相続人らにその法定相続分に応じて分割されるべきものであるところ,被告は,各原告に対し,上記金額の7分の1に相当する149万6493円を不当に利得している。したがって,被告は,各原告に対し,それぞれ149万6493円の返還義務及び悪意の受益者として利息の支払義務を負う。

(2) 本件建物共済の積立金については,亡A相続人らの仮の協議により,本件目的建物の帰属とは別に亡A相続人らで分割する予定となっていた。また,亡A葬儀費用等,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料については,これを亡A相続人らで負担する合意はなく,祭祀承継者である被告が負担すべきものである。

(被告の主張)
(1) 被告に一部不当利得があることは認める。

(2) 被告は,本件各預貯金等のうち合計1047万5454円の払戻等を行っている。しかしながら,当該払戻金等のうち,亡A葬儀費用等,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料への各支出並びに本件建物共済の名義変更は,亡A相続人らの協議によりみんなが了解したものであり,また,亡A葬儀費用等,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料は亡A相続人ら全員が負担すべきものであるから,法律上の原因なく利得したものではない。また,亡Aの残した財産を維持するため固定資産税合計41万5000円,水田の水利組合の経費2万1800円,先祖の墓を守っていくための経費68万8145円,慶弔費15万6000円及び家屋等の維持管理費83万1845円の各費用が必要であり,これらは亡A相続人ら全員で負担すべきものである。

第3 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実
,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告は,亡Aの葬儀に際し,本件預貯金1から払い戻した100万円,香典131万7000円及びその他の収入22万2900円の合計253万9900円を亡A葬儀費用等232万4177円(葬儀費用140万8895円,香典お礼45万0400円,命日費用27万6453円,入院代等11万5740円,雑費7万2689円)の支払に充てた(甲9)。

(2) 被告は,被告を除く亡A相続人らに対し,平成19年2月ころ,上記(1)の収入及び支出,並びに21万5723円の残金が生じたことなどにつき会計報告する手紙を送った。また,当該手紙には,本件目的建物について,被告名義への変更を了承してもらったことに対する謝辞や,同名義変更に必要な印鑑証明書等の送付依頼なども記載されていた(甲9,10)。

(3) 亡A相続人らは,平成19年8月15日,亡Aの預貯金等の遺産分割について協議を行った。当該協議においては,現金955万2026円,亡A葬儀費用等への支払の残額21万5723円があること,本件納骨堂代80万5000円及び本件納骨壇永代使用料30万円を控除した残額が866万2749円となること,亡A相続人らへの分配金を合計840万円とすることなどが話し合われ,同内容を記載した本件仮決算メモが作成された(甲10,乙1)。

(4) 被告とBは,平成19年の亡Aの初盆後,横浜家庭裁判所に亡Aの遺産分割調停を申し立てた。当該申立書の遺産目録(現金,預・貯金,株券等)には,本件預貯金1として30万0162円,本件預貯金2として2万2027円,本件預貯金3として240万円,本件預貯金4として100万1150円,本件預貯金5として412万2191円,本件預貯金6として72万6496円及び本件建物共済の積立金として98万円が記載されていた。
 なお,当該調停は,その後3回の期日を経て取り下げられた(甲8,10)。

(5) Eは,被告に対し,平成24年10月30日ころ,本件仮決算メモ記載のEへの分配分84万円に平成17年に渡した10万円を加えた94万円をE名義の口座に振り込むよう求める手紙を送付した(甲10,乙2)。

(6) Eは,被告に対して,同人が本件各預貯金等を不当利得したことなどを理由に,横浜地方裁判所川崎支部に不当利得返還請求訴訟を提起した(以下「前訴」という。)。横浜地方裁判所川崎支部は,平成26年7月30日,本件各預貯金等の一部について被告の不当利得を認め,105万5779円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる判決をした。Eは,当該判決を不服として,東京高等裁判所に控訴したものの,Eと被告との間では,同年11月18日,被告が130万円の解決金を支払うことなどを内容とする訴訟上の和解が成立した(甲3ないし6)。

2 争点に対する判断
(1) 前記前提となる事実(7)及び(10)のとおり,被告は,本件建物共済の共済契約者及び被共済者の各名義を亡Gから被告に変更するとともに,本件各預貯金等を亡A相続人らに分配することなく,ほとんど費消している。

(2) 被告は,上記本件各預貯金等の費消について一部不当利得となることを認めつつ,亡A葬儀費用等,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料への支出及び本件建物共済の名義変更は,亡A相続人らの了解のもとに行ったものであり不当利得は成立しないとし,また,亡Aの残した財産を維持するための費用は,亡A相続人ら全員で負担すべきと主張する。

(3) 亡A葬儀費用等への支出について
 葬儀費用は,通常,喪主が負担すべきものであるところ,亡Aの葬儀は被告が喪主となり(乙16),香典も受領していることからするならば(前記認定事実(1)),亡A葬儀費用等への支出100万円は,被告が負担すべきものとも考えられる

 しかしながら,亡A相続人らは,平成19年2月ころ,被告が亡Aの葬儀費用に本件各預貯金等から100万円を支出したことなどを報告した際(前記認定事実(2)),これに異議を述べた形跡はうかがわれない。また,亡A相続人らは,平成19年8月15日,本件各預貯金等の分配について協議した際も,亡A葬儀費用等への100万円の支出につき異議を述べた形跡はうかがわれず,むしろ,同支出を前提に分配金額につき協議し,その結果を本件仮決算メモに残している(前記認定事実(3))。

 そして,亡A葬儀費用等への100万円の支出が不当なものであるとするならば,当該支出が明らかになった時点で,亡A相続人らの間で問題視されるのが自然であるが,Eが,被告に対して不当利得返還請求訴訟を提起する以前に,亡A相続人らの間でこれが問題となったことを認めるに足りる証拠もない。

 これらの事情に鑑みるならば,本件預貯金1からの上記100万円の支出については,遅くとも平成19年8月15日ころには,亡A相続人らの黙示の承諾があったと認めるのが相当であり,被告(乙16),被告夫(乙18),D(乙19),C(乙20)及びB(乙22)の各陳述書にも同旨の記載がある。したがって,上記100万円の支出については,被告が法律上の原因なく利得したとは認められない。

 なお,本件仮決算メモは,「仮決算」と題されているものの,これは,他に亡Aの預貯金や現金等がある可能性を考慮してのものと考えるのが自然であり(乙18),本件の上記経緯に照らすと,上記100万円の支出については,亡A相続人らの間で承諾済みであると考えるのが相当である。よって,これに反する原告の主張は採用できない。

(4) 本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料への支出について
 納骨堂代やその永代使用料は,通常,祭祀承継者が負担すべきものであることからするならば,本件納骨堂代80万5000円及び本件納骨壇永代使用料30万円は,祭祀を承継した被告が負担すべきものとも考えられる。

 しかしながら,亡A相続人らは,平成19年8月15日,本件各預貯金等の分配について協議した際,現金及び亡A葬儀費用等の残額から本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料を控除することにつき異議を述べた形跡はうかがわれず,むしろ,同控除を前提に分配金額につき協議し,その結果を本件仮決算メモに残している(前記認定事実(3))。また,本件各預貯金等から本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料へ支出が不当なものであるとするならば,亡A相続人らの間で当該各支出が問題視されてしかるべきであるが,Eが,被告に対して不当利得返還請求訴訟を提起する以前に,亡A相続人らの間でこれらが問題となったことを認めるに足りる証拠もない。

 これらの事情に鑑みるならば,本件各預貯金等から本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料の各支出をすることについては,遅くとも平成19年8月15日ころには,亡A相続人らの黙示の承諾があったと認めるのが相当であり,被告(乙16),被告夫(乙18),D(乙19),C(乙20)及びB(乙22)の各陳述書にも同旨の記載がある。したがって,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料への支出については,被告が法律上の原因なく利得したとは認められない。

 なお,上記(2)と同様,本件仮決算メモが「仮決算」と題されていることをもって上記判断を覆すことはできず,本件納骨堂代及び本件納骨壇永代使用料への支出については,亡A相続人らの間で承諾済みであると考えるのが相当である。よって,これに反する原告の主張は採用できない。

(5) 本件建物共済の積立金について
 被告は,亡A相続人らの了解のもと本件建物共済の名義変更を行ったと主張し,被告(乙16),被告夫(乙18),D(乙19),C(乙20)及びB(乙22)の各陳述書にも同旨の記載がある。

 しかしながら,被告の主張するように,本件建物共済の積立金98万円を被告が取得することにつき,亡A相続人らの了解があったとするならば,同98万円は,亡A相続人らの間での本件各預貯金等の分配対象から除外されてしかるべきであるが,平成19年8月15日に亡A相続人らの間で行われた本件各預貯金等の分割協議では,分配の対象として現金955万2026円が計上されているところ,同金額には本件建物共済の積立金98万円が含まれており(甲8,乙1,弁論の全趣旨),被告及びBが申し立てた亡Aの遺産分割調停でも,遺産目録に当該積立金98万円が挙げられている。これらの事情からするならば,当該積立金98万円を被告が取得することについては,亡A相続人らの間で最終的な承諾がなされていたとは認められず,被告は同金員を法律上の原因なく利得したものと認めるのが相当である。

 よって,これに反する被告の上記主張は採用できない。

(6) その他の支出等について
 被告は,亡Aの残した財産を維持するための費用(固定資産税,墓や家屋等の維持費等)は亡A相続人ら全員で負担すべきと主張する。

 しかしながら,被告の主張する費用等は,本来,当該財産を取得した者や祭祀承継者が負担すべきものであり,これを亡A相続人ら全員で負担する旨の合意があることを認めるに足りる証拠もないから,被告の上記主張は採用できない。

(7) よって,被告は,原告らに対し,それぞれ本件各預貯金等合計1047万5454円(本件預貯金7を除く。)から亡A葬儀費用等への支出100万円,本件納骨堂代80万5000円及び本件納骨壇永代使用料30万円を控除した残額837万0454円の7分の1に相当する119万5779円の各返還義務を負うというべきである。また,被告は,前訴の訴状送達の日の翌日である平成25年4月21日(甲3)から悪意の受益者として上記金員に対する民法所定年5分の割合による利息の支払義務を負う。

3 結論
 以上によれば,原告らの請求は,いずれも119万5779円及びこれに対する平成25年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 なお,仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第50部 (裁判官 岡本利彦) 
以上:7,110文字

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