平成30年 2月 3日(土):初稿 |
○「譲渡禁止特約付債権の債権譲渡に関する平成9年6月5日最高裁判決紹介」と「譲渡禁止特約付債権の債権譲渡に関する平成9年6月5日最高裁判決紹介」の続きです。 ○ 上記2つの最高裁判例が引用されている平成29年3月3日大阪高裁判決(判時2350号92頁)全文を紹介します。事案は ・控訴人(本訴原告兼反訴被告)Xが、A社との間で、A社が控訴人Xに対し負担する一切の債務の弁済を担保するため、集合債権譲渡担保契約を締結 ・同契約に基づき、XはA社がB社に対して有する売掛債権を取得 ・A社から破産申立通知を受けたXが債権譲受人として、B社に売掛金支払催告 ・A社破産手続開始決定がされ、A社破産管財人被控訴人(本訴被告兼反訴原告)YもB社に売掛金支払催告 ・XとYから支払催告を受けたB社は、真の債権者を確知できないとして、供託 ・Xが、自己が同供託金に還付請求権を有することの確認を求め(本訴)、これに対し、Yも同様の確認を求めた(反訴) ・原審平成28年9月26日大阪地裁判決は、Xの本訴請求を棄却し、Yの反訴を認容 したものです。 ○控訴審平成29年3月3日大阪高裁判決も、譲渡禁止特約のある債権のA社から控訴人Xへの債権譲渡について、債務者であるB社は承諾を与えていないのであるから、同債権譲渡は無効であり、本件還付請求権は被控訴人Yに帰属するとして控訴を棄却しました。 **************************************** 主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 控訴人が原判決別紙供託金目録記載の供託金について還付請求権(以下「本件還付請求権」という。)を有することを確認する。 3 被控訴人の反訴請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨、争いのない事実、及び争点は、当審における控訴人の主張を踏まえて次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の第2の1、2、3(2頁2行目から5頁15行目まで)に記載のとおりである。 (1)3頁15行目の「締結した」を「締結し、同日、控訴人はAに対し、770万円を貸し付けた(乙5、6)。」に改める。 (2)5頁3行目の次に行を改めて以下のとおり加える。 「なお、平成9年最判は、債務者が債権譲渡を承認しても差押債権者に対抗できないとして、譲渡禁止特約の効力に関して判断した判例であって、無効主張適格の問題を論じたものではないから、平成9年最判をもって差押債権者に無効主張適格が認められる根拠にはならない。 また、控訴人は本件債権譲渡の際Aに対し770万円を貸し付けているから、Aの資産は既にその分増加しているところ、債権譲渡が無効とされて本件売掛債権がAの破産財団に帰することになると、同財団はさらに増殖し、Aの破産債権者は二重に利益を受ける結果となり、不当である。」 第3 当裁判所の判断 1 指名債権を譲り受けた者は、譲渡人が破産手続開始決定を受けたときには、破産手続開始決定前に当該譲渡について第三者対抗要件を具備していない限り、上記債権の譲受をもって破産管財人に対抗することができないと解される(大判昭和8年11月30日民集12巻24号2781頁、最三小判昭和58年3月22日集民138号303頁)から、本件において、Aは平成27年12月25日に破産手続開始決定を受けているので、控訴人は、上記破産手続開始決定前に本件売掛債権の譲渡について第三者対抗要件を具備していない限り、本件売掛債権の譲受をもって被控訴人に対抗することができないことになる。 また、譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合、債権譲渡は債務者が承諾を与えていない以上無効であって、債務者が承諾を与えたときには、譲渡の時に遡って有効になるが、民法116条の法意に照らし、差押債権者等の第三者の権利を害することはできないと解される(平成9年最判)。したがって、本件において、譲渡禁止特約のある本件売掛債権のAから控訴人への債権譲渡につき債務者であるBが承諾を与えていない以上、上記債権譲渡は無効である。そうすると、本件売掛債権は、Aの破産手続開始決定によりAの破産財団を構成するところとなったものであり、本件還付請求権は被控訴人に帰属しているというべきである。 2 これに対し、控訴人は、平成21年最判を援用して、譲渡禁止特約のある債権が譲渡された場合において、債務者以外の者は、債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情があるとき又は同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有するときに限り、その無効を主張することが許されると解されるが、本件では、譲渡禁止特約のある本件売掛債権につきAから譲渡を受けた被控訴人において、上記事情があることについて主張立証をしていないし、また、譲渡禁止特約のある債権の差押債権者が上記利益を有しないのと同様、破産管財人である被控訴人も上記利益を有しないから、被控訴人は、上記の債権譲渡の無効を主張することはできない旨主張する。 しかし、平成21年最判は、譲渡禁止特約に反して債権を譲渡した債権者自身が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することを許さない旨判示したにとどまるものであって、それ以外の者が上記の主張をすることの可否についてまで判示したものと解することはできない。 また、控訴人の上記主張は、差押債権者は譲渡禁止特約がある債権についての譲渡の無効を主張し得ないとの解釈を前提とするものであるところ、平成9年最判の説示に照らしても、上記主張は到底採用し得ないものといわざるを得ない。 そして、破産管財人は、破産者の財産を引き継いで破産財団の管理処分権を付与される点で、破産者の一般承継人的地位を具有するものの、破産債権者の利益のために破産財団を収集し、その換価、配当に当たる点で、包括執行における執行機関としての地位も具有するものであるから、譲渡禁止債権を自ら譲渡した破産者が債権譲渡の無効の主張をし得ないからといって、直ちに破産管財人もその無効を主張し得ないとされるものではない。むしろ、本件のように、譲渡禁止特約に違反した債権譲渡がされることにより財団から当該債権が逸出した債権を回復することは、破産管財人による破産財団の収集、換価の場面であるから、後者の地位に基づくものとして、総破産債権者の利益のため、差押債権者と同様にその無効を主張して破産財団への回復を求めることができるというべきである。このように解しなければ、差押え後に破産手続が開始され、差押えが失効(破産法42条2項)した場合には、譲渡禁止特約付き債権の債権者について破産開始があったかどうかにより当該債権の帰属が異なることとなり、不合理である。 また、譲渡禁止特約は、債務者保護のためのものではあるが、本件で、債務者であるBが本件債権譲渡の効力を積極的に是認していると解すべき合理的な理由はなく、かえって、前記争いのない事実(原判決第2の2)によれば、Bが被控訴人に弁済せず供託したのは、控訴人が善意の第三者として保護される可能性が否定できないことを考慮したためにすぎないと考えられるから、被控訴人が債権者であっても、Bの保護に欠けることにはならない。そして、仮にBが本件債権譲渡を有効であることを期待していたとしても、前記のとおり、債務者の承諾により、譲渡禁止特約に反する債権譲渡が遡って有効となっても、これにより第三者である破産債権者の権利を害することはできないのであるから、Bの上記期待はそもそもAの破産債権者との関係では保護されないものであり、したがって、Aの破産管財人である被控訴人との関係でも同様である。 さらに、控訴人は、本件売掛債権を被控訴人が有していることになると、Aの破産債権者は、本件売掛債権の譲渡によって控訴人から得た利益(貸付金)と本件還付請求権の双方を取得するから二重に利益を受けることとなり,不当である旨主張する。確かに、債権譲渡が無効とされれば本件還付請求権が復帰するので、その分財団財産は増加することになるが、他方、同債権譲渡が無効となった場合には、控訴人が上記債権を担保として貸し付けた貸金債権も、譲渡担保権の実行(本件売掛金債権の回収)による充当を受けることなく全額が破産債権となるから、破産債権もその分増加する関係にある。したがって、上記により生ずる相違は、控訴人の担保権取得の有無であって、財団が二重に利得することとなるものではない。よって、控訴人の主張は理由がない。 第4 結論 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、被控訴人の反訴請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 大野正男 裁判官 土井文美 以上:3,713文字
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