平成24年 2月 5日(日):初稿 |
○「これは使えると思った判例紹介序文-結局は回収可能性」で、債権回収の決め手は相手に支払能力の有無に尽きると旨を記載していましたが、この支払能力判断の最も重要な要素は相手の仕事であり、公務員・上場企業等大手企業勤務者であれば先ず問題がありません。給料差押が出来るからです。問題があるのは自営業者、無職者で、支払能力判断基準は先ず不動産、次に預貯金の有無です。但し不動産は時価以上の担保が付いていれば殆ど無いと同じです。預貯金も相殺対象とされていれば殆ど無いと同じですが、預貯金の場合、差押によってその銀行と取引できなくなりますので、事業者にとっては死活問題で、自分の名前で事業継続を希望している場合、預貯金を差押えすると先ず支払ってきます。支払えない場合事実上の倒産になります。 ○また事業者ではない無職者、専業主婦等の場合も預貯金の差押は相殺されない限りは、預貯金が存在すれば確実に回収できますので公務員・大手企業の給料差押と同程度有効な強制執行手段です。ところが、預貯金の場合、一体どこの銀行に預貯金を持っているかを調べるのが不可能に近いのが難点です。判決があるからと言って、銀行に弁護士法照会手続で照会しても守秘義務及び個人情報保護を理由に回答しない例が多く、且つ、この紹介手続には1回5000円の費用がかかります。 ○この預貯金債権を差押えするには原則として支店名まで特定しないと裁判所は差押決定を出してくれません。三大メガバンク(三菱東京UFJ銀行,三井住友銀行,みずほ銀行)預貯金債権について「複数の店舗に預金債権があるときは,支店番号の若い順序による」との順位付方式、ゆうちょ銀行について全国の貯金事務センター全部の内「複数の貯金事務センターの貯金債権があるときは,別紙貯金事務センター一覧表の番号の若い順序による」との順位付方式によって差押債権の表示をして(「全店一括順位付け方式」)預貯金差押申立をした事案について、平成23年9月20日最高裁第三小法廷決定は、差押債権特定を欠くとして却下しています(判時2129号41頁等)。 ○ですから、債務者が仙台在住者で、最も預貯金を有する可能性の高い七十七銀行の預金債権を差押したいと思っても142店舗ある本支店のどこに預貯金があるか特定しないと預貯金債権を差押えできません。そのため私が過去に取り扱った例では、その住所地に最も近い支店を特定して七十七銀行、仙台銀行、ゆうちょ銀行等の預貯金差押申立をしたことがありますが、全部空振りに終わったことがあります。 ○最高裁が支店名まで特定しないと差押命令を発しないした理由は、債権差押命令の送達を受けた第三債務者(銀行)において,直ちにとはいえないまでも,差押の効力が送達時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものであることを要し、支店名を特定しないとその預貯金があるかどうかを速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別が出来ないと言う点にあります。 ○コンピューターによるデータ管理システムが出来ているはずのこの時代、その預金者の住所・生年月日等の特定があれば、例えば七十七銀行の場合142の店舗全部のデータから速やかに検索が出来るのでは思われますが、どうもそうではなさそうです。前記最高裁決定理由で「金融機関に対する預金債権の差押えにつき全店一括順位付け方式による差押債権の特定を認める見解は,金融機関がそれに対応できるコンピュータシステム(CIFシステム)を設置しているとか,金融機関は預金保険制度の適用に対応する名寄せシステムを設けているから対応が可能なはずである等としているが,現時点においてCIFシステムが全店一括順位付け方式による差押えに直ちに対応できる機能を有していることを示す資料は公表されておらず,また,預金保険制度の適用に対応する名寄せシステムは,その目的を異にするものであり,同システムをもって上記の方式による差押えに直ちに対応できるものではない。」と述べています。 結局、七十七銀行のどの支店に預貯金があるか判明しないと差押は出来ません。 以上:1,715文字
|