平成22年 8月 4日(水):初稿 |
○「ある交通事故事件の顛末-保険会社顧問医意見書」、「ある交通事故事件の顛末-顧問医意見書への反論」記載の通り、Aさんの右眼の視力低下・視野狭窄について、Aさんと保険会社側は、大変シビアな争いになり、お互いに相当数の医療記録等と医学参考文献を証拠として提出しました。そのため裁判所としては鑑定が必要となり、原告・被告双方申立での鑑定申請をすることになりました。 ○鑑定は、裁判所が選任する然るべき眼科専門医に公平な第三者としての意見を求める手続です。このような難しい事件の鑑定費用は最低50万円から場合によっては100万円以上もかかり、これを訴訟当事者が裁判所に前払いしなければならず、大変、特にAさんの場合、右眼障害によって大工さんの仕事が出来なくなり長いこと失業生活を続けていたため到底、鑑定費用を出すことは出来ません。このような場合、本来は、好ましいことではありませんが、弁護士が一時的に立て替えて負担することもあります。弁護士職務基本規程では、特別な事情がない限り、弁護士とお客様のお金の貸し借りは禁じられているからです。本件では鑑定費用60万円と決定されて,原告被告双方折半で裁判所に事前支払いするよう命じられ、私が一時立替しました。 ○本件のように鋭く対立する場合、先ず、求める鑑定内容がなかなか決まりません。双方とも自分が有利になるような聞き方をしたいからです。本件では特に保険会社側が、鑑定事項に細かい注文をつけてなかなか決まりませんでした。しかし、最後は裁判官が出来るだけシンプルに聞くとの方針を決定し、 ①Aさんの視力障害の存否-本当に視力低下・視野狭窄が存在するか-要するに詐病かどうか ②Aさんに視力障害が存在する場合、その原因は何か と言う2点に絞っての鑑定依頼となりました。 ○鑑定事項が決まっても次ぎに問題になるのは,誰に鑑定を依頼するかと言うことです。 Aさん側としては、保険会社の息のかかった眼科医は絶対に排除されたいと思います。また、保険会社側は、Aさんの主治医で外傷性視神経症との診断書を作成した眼科医師に関連する大学や系列病院の医師は絶対に避けたいと主張します。そのためなかなか鑑定医が決まらず、ここと思った大学病院医師からは、鑑定内容確認後に、5,6人に断られ続け、鑑定医が決まるまで10ヶ月もかかりました。 ○ようやく仙台から相当遠距離の某大学医学部眼科研究室の教授に鑑定をして貰うことになり、Aさんは、張り切って遠距離の病院に行こうとしたら、何と鑑定医は直接診断不要とのことでした。平成16年10月の事故で、鑑定して貰う段取りがついたのは平成21年1月であり、これだけ期間が経過したので本人を診察しても意味がなくこれまでに提出された医療記録で十分鑑定できるとのことでした。私としては何といい加減なと、相当の不安を覚えましたが、やむを得ません。 ○その待ちに待った鑑定結果が、平成21年2月に出ました。結論は ①Aさんに視力低下・視野狭窄が存在する。 ②その原因は心因性である。 との内容で、痛し痒しの内容でした。Aさんは詐病を否認されたことは、喜びましたが、「心因性」とはどういうことか、治癒する可能性があるのかと、悩みが深くなる鑑定でした。 以上:1,326文字
|