平成22年 8月 3日(火):初稿 |
○「ある交通事故事件の顛末-保険会社顧問医意見書」の続きです。 Aさんの視力低下・視野狭窄の訴えに対し、保険会社側(被告は加害者本人と自賠責保険会社ですが、加害者本人の代理人は保険会社顧問弁護士であり、保険会社の意向に沿って訴訟活動をしており、実質被告は保険会社なので保険会社側と表現します)は、顧問医の3通の意見書で最終的には、詐病即ち本当は見えているのに見えないふりをしているとの主張をしてきました。 ○「ある交通事故事件の顛末-保険会社顧問医意見書」に意見書理由等の要点を記載しましたが、今回は顧問医意見書に対するAさん側の反論を紹介します。この反論は、実際Aさんの右眼治療に当たった主治医の全面的協力を得て作成しました。 ①傷害部位 外傷性視神経症の「発症機転は眉毛(びもう)部外側の鈍的強打によるものが圧倒的に多く、前額部や顔面の打撲でも発生する可能性はある」もので、原告の症例でも発症のしかたを否定できない。 ②視機能低下発生時期 顔面ないし眼瞼の浮腫により、患者が自分の視覚異常を自覚していないことは、臨床では起こりうることである。甲28Practical Ophthalmologyの249頁3.視力検査には、「通常、受傷直後に最も高度の障害を示す.しかしときに受傷後2~3週から徐々に視力低下を来すことがある。」と解説されており、被告らの主張は完全に否定されている。。 ③視神経損傷の存否 視力に関わる神経線維に限定的な障害である場合は、眼底の視神経萎縮ないし蒼白化が生じないこともありうる。 ④外傷性の根拠 平成16年10月26日のオクトパス視野検査では、右中心視野の感度低下が認められ、特に視力に最も関係する領域の中心0°付近に感度低下が認められ、ゴールドマン視野検査における内部イソプターの縮小と一致している。視力に最も関係する領域は中心0°付近であるところ、別紙乙4の54頁オクトパス視野検査結果のGreyscale of values図中心である0と0の交差する箇所が黒ずんでおり、これが原告の感度の低下を示している。0と0の交差する箇所が、視力を出している黄斑中心窩であり、この場所の感度低下が、原告の視力低下の原因である。 ⑤フリッカー計検査結果 視神経線維の外傷性障害が黄斑中心窩付近の神経線維に限られ、傍中心窩のものは、視野検査でも示されているように、保たれているため、中心フリッカーの値が正常を示した。フリッカーとは,固視標を点滅させて、そのちらつきを感じなくなったときの点滅の頻度を言う。当職もこの検査を受検したが、このフリッカー値検査での、ちらつきがあるかどうかの判断は非常に微妙で、ちらつきが無くなったと正確に判別することは不可能である。従ってその検査結果は相当程度誤差の幅が大きい検査であり、この結果を持って詐病かどうかの判断は到底不可能である。 ⑥ゴールドマン視野計検査結果 10月27日のゴールドマン視野は、Ⅰ/2の視標で左右差が認められ、右が左より狭く、これはオクトパス視野の感度低下に付合する。別紙乙4の56頁ゴールドマン視野検査結果記載の通り、Ⅰ/2の視標は見えてはいるが、内部イソプターが小さい範囲となっており、且つ本来正常円であるべきところ、歪んだ円になっていることも、視野異常の現れである。また保険会社の主張自体、ゴールドマン視野検査結果について中心部の少なくともⅠ/2の視標が見えていることから、視力は少なくとも0.1と推量しており、相当程度感度が低下していたことを認めている。 ⑦オクトパス視野検査結果 本例は時間の経過とともに心因性視野異常が加わったものと考えられ、偽陰性率が高い数値を示すのは、そのためであり、左オクトパス視野に異常がみられないことから検査そのものは信頼できる。偽陽性率と偽陰性率をあわせてRF(reliability factor)して評価され、このRFが15%以下ならば十分信頼性ある測定結果と評価して良いとされているところ(乙2の5の165~166頁参照)、平成16年10月26日の原告患眼(右眼)のRFは、偽陽性率は0%、偽陰性率は12.5%であり、正に「十分信頼性ある測定結果と評価」されるべき、検査結果である。 ⑧Swingingflashlight-test検査結果 視神経線維の外傷性障害が黄斑(おうはん、目の中央部で視力を出す錐体細胞が集中している場所)中心窩(か、くぼみ)付近に限られ、視力に関わる神経線維に限定的な障害が残った場合、「RAPD」(相対性瞳孔求心路障害)が陰性であることがあり得る。 原告と保険会社の各論点毎の主張を判りやすく説明するため、例によって、桐で一覧表化して表示しました。 以上:1,932文字
|