平成20年 5月30日(金):初稿 |
○「国選弁護人は辛いよ-被告人の無茶な言い分に従うとき」に記載したとおり、私は最近数年間は私選刑事事件は原則として扱わず、義務的に国選事件を年間数件扱うだけで、刑事事件は積極的に取り組んでおらず、むしろ避けています。その根本的理由は、日本の刑事司法の危機的状況に刑事事件に絶望しているからなんて格好いいものではなく、日本の刑罰は一般的に甘すぎると感じる私の根源的感覚にあります。被告人になられた方は、少しでも刑を軽くしたいから弁護人をつけるのであり、私のような感覚で刑事事件を受任するのは被告人の方に申し訳ないからです。 ○ですから刑事事件の受任は今後も可能な限り避けていきますし、国選刑事事件も出来れば避けたいと思っております。国選刑事事件受任者として法テラスに登録していますが、これは登録者が少なくて大変だろうとの思いでやむを得ず義務感で登録したものですが、弁護士大量増員時代で若い弁護士さんがどんどん仙台弁護士会に入会していますので、そろそろ国選刑事事件からも引退したいと考えています。 ○私の刑事事件に当たる根本的姿勢は、被告人になられた方に自分の犯した罪の重大性を自覚して心から反省して頂き、真の更生-立ち直る-機会になることを念願することです。そのため「取扱業務」の刑事事件欄に記載したとおり、「被告人になられた依頼者の方が、真実更生し、二度と罪を犯さないために、どのようなアドバイスが良いか、私なりに、じっくり考え、時には、厳しいアドバイスをします」が、実はこの姿勢は弁護人の任務を逸脱する虞があります。 ○弁護人の任務については、旧弁護士倫理第9条(刑事弁護の心構え)で「弁護士は、被疑者及び被告人の正当な利益と権利を擁護するため、常に最善の弁護活動に努める。」と、また現行弁護士職務基本規程第46条(刑事弁護の心構え)で「弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。」と規定され、司法研修所編平成14年版刑事弁護実務によれば、弁護人に課せられた任務は、「被告人らの利益の方向で真実の発見に努力することと、適正手続の履行を監視することである。これが弁護人の擁護すべき被告人らの正当な利益である。」と解説されています。 ○同書解説によれば弁護人には「被告人らに不利益な方向で真実を明らかにする義務はない。弁護人の良心や正義感に反するからといって、弁護人が被告人らに不利益な方向で弁護活動を行うことは、弁護制度の存在意義を否定する結果となる。」とあります。例えば、証拠に出ていない○○の情状を考慮すると弁護人の目から見ても悪質な犯罪であり、実刑を受けて罪を償うべきと思っても、被告人は執行猶予を希望している場合、○○の情状は触れずに執行猶予になる弁護活動に努めなければなりません。 ○弁護人としては、これだけ酷い犯罪は実刑相当であり執行猶予になったのでは、被告人が世の中を甘く見るようになり却って被告人のためにならないと考えても、被告人が執行猶予を希望する場合、執行猶予になるように努めなければなりません。いな、「被告人が世の中を甘く見るようになり却って被告人のためにならない」と考えること自体が弁護人の任務に反する虞があります。私自身の「良心、正義感」に反する弁護活動もしなければならないことが苦痛で、刑事弁護事件から遠ざかるようになってしまいました。 以上:1,407文字
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