平成20年 5月31日(土):初稿 |
○「公判整理手続の意義と概要1」に記載したとおり、最近、法テラスから紹介された国選刑事事件で初めて公判前整理手続を経験しました。ある田舎町での若者の老人に対する傷害被告事件として受任したのですが、第1回公判期日前に被害者老人がその傷害を原因として死亡し傷害致死事件となり、職権で公判前整理手続に付されることになりました。 ○全く不勉強なまま公判前整理手続に臨み数々の恥をかきましたが、これまでの調書裁判にどっぷりと浸ってきた身には公判前整理手続を前提とした裁判員制度想定の法廷供述中心刑事裁判手続は、慣れていないため大変しんどかったと言うのが偽らざる感想です。 ○これまでの刑事裁判は、調書裁判とも呼ばれています。裁判での事実認定は証拠によってなされますが、その証拠の殆どが捜査段階での警察官・検察官が作成した供述調書に依存していたからです。証人或いは被告人が公判廷で直接裁判官の面前で話すことを証拠とすることが原則で、例外として反対当事者の同意があった供述調書も証拠と出来ると言うのが刑訴法の建前です(第320条等)。しかし実務では原則と例外が逆転し、供述調書は殆ど同意されて証拠となり、証人や被告人の法廷供述はそれを補充するものになっていました。 ○証人や被告人の法廷供述が捜査段階で作成された供述調書の内容と異なった場合も、捜査段階の調書上の供述記載のほうが信用されがちであり、結局、事実認定は、捜査段階で作成された調書によってなされてしまい、これが調書裁判と呼ばれてきた訳です。 ○刑事事件の弁護人となった場合、先ず検察官から開示される調書類の閲覧・謄写から仕事が始まりますが、私の場合、調書を読み、被告人と接見してその内容を確認し、調書と被告人の認識が違っても余程のことがない限り、調書を不同意にすることはありませんでした。例えば被害者の調書が被告人からすると余りにオーバーに表現されていたとしても、これを不同意にすると検察側では被害者を証人申請し裁判官の面前で直接被害状況を話されると却って不利になる場合が多かったからです。 ○こんな訳で検察側提出調書の殆どが同意で裁判所に提出されます。また法廷での調書の証拠調べは、建前上は原則全文朗読で、例外が要旨の告知ですが、実務では殆どが要旨の告知で済まされ、ここでも原則と例外が逆転しています。法廷では提出された調書の要点のみ告知され、内容は裁判官室に戻ってじっくり読んで検討するのが普通になっており、これも調書裁判と言われる所以でした。 ○ところが裁判員制度では、職業裁判官ではない裁判員全員に法廷外でじっくり調書を読ませる時間などありません。事実認定は、原則として調書ではなく、法廷において裁判員の面前で証人や被告人が話したことを元に行わざるをえません。本来の刑訴法の建前通り、法廷での直接供述が証拠となり、調書は原則証拠としては使わないことになり、調書を証拠申請しても原則却下になります。公判前整理手続で、検察官提出証拠の大部分が、弁護側が同意しているのにも拘わらず却下になったのには面食らってしまいました。 以上:1,272文字
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