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婚約不当破棄理由損害賠償請求について婚約成立を否認した地裁判決紹介

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令和 7年10月 3日(金):初稿
○婚約の不当破棄を理由とする損害賠償請求事件は山のようにあります。婚約が成立する要件については、「婚姻予約(婚約)成立要件について」、「婚姻予約成立要件の誠心誠意の約束とは」に詳しく解説しています。私なりの解説としては、「婚約の成立には結納等の形式は不要ですが、それがあったと同視出来る程度の社会的公認或いは公然性が必要とされ、具体的に言えば先ず両親への報告が必要であり、更に友人、同僚等にも公表し、当事者の周囲の人間の殆どからあの2人は婚約者同士であると認められていることが必要です。」としていました。

○原告(女性)と被告(男性)は、いわゆるマッチングアプリで知り合い、交際をするようになり、結婚後の生活について話し合ったり、原告が被告の家族と会食をしたりしたが、被告の両親が原告との結婚に反対しているため交際を続けられないと被告が告げたことから口論となり、警察署で警察官に仲裁される事態となったことから、原告が被告に対して婚約の不当破棄による慰謝料200万円などの支払いを請求しました。

○これに対し、原告作成の本件婚約契約書は、婚約が成立していないことを前提としたもので、原告がこのような書面をわざわざ作成して被告の家族との顔合わせの際に持参したのは、被告との婚約を確実のものとするために作成されたものとみるのが自然かつ合理的である上に、本件婚約契約書には必要とされる者の署名・押印はなされておらず、被告の家族と面会の10日後には被告が別れを切り出したことなどから、両者の間の婚約の成立を認めず、請求を棄却した令和6年8月1日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、266万0460円及びこれに対する令和4年10月16日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の要旨

 原告は、いわゆるマッチングアプリで知り合い交際していた被告が一方的に婚約を解消したとして、被告に対し、婚約不履行を理由に、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償及び令和4年10月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている。
 被告は、原告との婚約の成立を否認している。

2 争点及びこれについての当事者の主張
(1)争点(1)債務不履行及び不法行為の成否

(原告の主張)
 原告と被告との間には、遅くとも令和4年2月15日過ぎ頃に婚約が成立していたにもかかわらず、被告は、同年5月4日頃、原告との婚約を不当に破棄した。
 また、被告は、警察で、原告と今後について話し合うことを約束し誓約書を作成したにもかかわらず、守らずに話し合おうともしない。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
 そもそも原告と被告との間に婚約は成立していない。

(2)争点(2)損害の有無及び金額
(原告の主張)
婚約の不当破棄による慰謝料 200万円
被告から痩せてほしいとの要望を受け予約した脂肪吸引手術の受診料及びキャンセル料 合計46万0460円
弁護士費用相当額 20万円

(被告の主張)
 原告の主張は否認し争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)原告と被告は、令和3年11月下旬頃、いわゆるマッチングアプリで知り合い、交際をするようになった(争いがない)。

(2)原告と被告は、結婚式をするか否か、結婚後の生活等の結婚観を語る中で、被告が、結婚後に妻に望むこと(仕事の継続等)、別居婚を望むが将来は被告の両親との二世帯住居を考えていることなどを伝えることがあった(争いがない。
 原告と被告は、令和4年2月頃には、ホテルで宿泊をする関係性となり、不仲となって被告が新しいパートナー候補を見つけてほしいなどと別れ話をすることもあったものの、その後も交際を続けていた(甲4、乙1~3)。
 原告と被告は、同年3月初め頃、同月20日に被告の両親と顔合わせをすることとしていたが、被告の両親の関係から延期となった(争いがない。)。
 また、原告は、同年3月30日、痩身美容のクリニックを受診し、以後も脂肪吸引手術のために美容外科を受診し予約するなどした(甲1の1~2)。

(3)原告は、同年4月15日、被告に対し、交際を続ける条件の再確認として、同月24日までに家族に合わせること、同日までに事前に住宅ローンの内容について家族で話し合うことなどを伝え、被告も家族に会わせることを了解した(乙4)。
 また、原告は、同月21日、被告に対し、一般的な結納の流れ(婚約指輪や結納金の金額等)などについて説明した(甲5)。

(4)原告は、令和4年4月24日、飲食店で被告の家族(両親及び姉)と会食を行った。その際、原告は、被告らに対し、事前に作成した婚約契約書(乙5。以下「本件婚約契約書」という。)を見せた。原告は、事前に、被告に対し、同書面の具体的な内容までは説明していなかった(原告本人)。
 本件婚約契約書は、概要、次のような内容が記載されている。
・婚約証明書の前提条件
 本書面は、お互いに納得いくまで話合い、納得してから同年6月30日までの署名、押印すること。

・婚約の成立条件
1 婚約に対し自身が納得し、相手方と生きていく気持ちが決まった後に自らの意思で婚約証明書に自筆で記名・押印する。
3 互いに相手方の父親の署名・押印がされた証明書を受取った時点で婚約は成立する。
 なお、本件婚約契約書には、原告及び被告並びに、原告及び被告の父親のいずれも署名・押印していない(争いがない。)。

(5)被告は、令和4年5月4日、原告宅で、両親が反対をしていること、交際を続けることはできない旨伝えた(争いがない。)。
 原告と被告は口論となり、二人で警察署に行き、警察官が原被告の双方から話を聴取した。原告は、被告とは結婚の話を進めていたこと、被告が別れると言ったり意見が変わるが責任をとって結婚して欲しいこと、LINEをブロックされたら連絡手段がなくなるため、被告の会社に連絡するなどと述べ、警察官から被告の気持ちを伝えられても結婚したいとの意思を変えることはなかった。そこで、双方が後日に連絡を取って話し合うこととなり、上申書も作成されたが、警察官からは自宅や職場に押しかけず、過度にLINEで連絡を取り合うようなストーカー行為をしないこと、話し合う場合には第三者を交えて話し合うよう指導・警告がなされた(甲11)。

2 争点(1)(債務不履行及び不法行為の成否)について
(1)前提として、原告と被告との婚約の成否について判断する。
ア 原告は、妊活や結納、新婚旅行などの話を具体的に行っていたことなどを理由に、遅くとも令和4年2月15日過ぎ頃には婚約が成立した旨主張し、それに沿う証拠(甲4~6、8、原告本人)も存する。

 しかし、原告及び被告は、いわゆる婚活サイトを通じて知り合っており、このような場合に互いの結婚観や条件等を伝え合うことは自然であるといえることからすれば、原告及び被告が結婚に対する考えやイメージ等を話し、それらについて意見が一致していることがあったとしても直ちに婚約が成立したとみることはできない。

むしろ、原告は、原告の主張する婚約の成立時期以前から、積極的に妊娠しやすい時期や子どもを産む時期について話をしていること(甲4)からすると、原告には婚姻について積極的な希望があったものとみることができる。一方、被告は、令和4年2月頃に原告に別れ話を伝えており(認定事実(2))、原告と被告との間では被告の両親と会うことが今後の交際を続ける条件として再確認されている(認定事実(3))ことからすれば、被告は、原告と結婚を前提とした交際を続けることに迷いもあり、原告もそのことを認識していたとみることができる。

また、原告作成の本件婚約契約書は、その記載内容からすれば、婚約が成立していないことを前提としたものであり、原告がこのような書面をわざわざ作成して被告の家族との顔合わせの際に持参したのは、被告との婚約を確実のものとするために作成されたものとみるのが自然かつ合理的である上に、本件婚約契約書には必要とされる者の署名・押印はなされていない。

 これらのことを考慮すると、原告と被告との間には、令和4年2月15日過ぎ頃は勿論、本件婚約契約書の作成時においても婚約が成立していたとみることはできない。そして、認定事実(5)のとおり、顔合わせ日から10日後の令和4年5月4日に被告が別れを切り出したことに加え、警察署で話をした後は両名でほとんど直接会話をできていないものと認められることからすれば、原告と被告との間に婚約が成立していたと認めることはできない。

イ したがって、婚約不履行を前提とした債務不履行及び不法行為の成立を認めることはできない。


(2)原告は、婚約破棄以外に、警察署において話し合うことを誓約したにもかかわらずこれに違反し話合いをしない、別れたいのであれば被告が行うよう求めた脂肪吸引手術(痩身美容)等にかかった費用について清算(法的責任を果たすことを求める趣旨と善解する。)を求める旨主張する。

 しかし,警察署では話合いには第三者の立会いを要することとされた上に(認定事実(5))、そのような約束が果たされないことをもって、直ちに債務不履行あるいは不法行為としての違法な行為と認めることはできない。 

 また、男女が分かれる際の責任の取り方は様々であるとしても、交際中に要求や負担(金銭面も含む。)があったからといって、好意で行ったり任意に負担したりすることも十分あり得ると考えられるのであるから、それらが当然に、法的責任として清算対象となるものとはいえない。

 痩身美容(脂肪吸引手術)に関しては、被告が原告にこれを強いたとまで認めるに足りる証拠は見当たらない。
 したがって、原告の主張は理由がなく採用できない。

3 以上のことからすれば、その余の争点を判断するまでもなく原告の主張は理由がない。

4 結論
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第15部 裁判官 井原史子
以上:4,250文字

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