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原告夫口座から被告妻口座への送金を不法行為と認めた地裁判決紹介

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令和 6年 9月18日(水):初稿
○「夫の妻に対する夫名義預金払戻金返還請求を棄却した地裁判決紹介」に関連した続きで、原告夫口座から被告妻口座への送金を不法行為と認めた平成26年3月24日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

○原告が、原告の妻である被告に対し、被告が原告に無断で原告の預金口座から被告の預金口座に複数回に分けて預金約1億2017万円を送金したとして、送金額相当の金員及び遅延損害金の支払を求めました。

○これについて、被告が原告に無断で本件各送金を行ったというほかなく、本件原告口座の預金が、仮に夫婦共有財産であるとか、実質的に夫婦の共有に属する財産として離婚時における財産分与の基礎となる財産に該当しうるとしても、本件原告口座の本件各送金直前の残高に占める本件各送金額の割合及び本件各送金の額に照らせば、本件各送金による夫である原告の財産に対する権利侵害の程度は著しく大きいのであるから、本件各送金が被告の不法行為に該当する、として原告の請求を全部認容しました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,1億2017万9452円及びうち1億1334万2987円に対する平成24年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1億2017万9452円及びうち1億1334万2987円に対する平成24年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
 本件は,原告が,原告の妻である被告に対し,被告が原告に無断で原告の預金口座から被告の預金口座に預金を送金したとして,1億1334万2987円,各不法行為日の翌日(最初の不法行為日は平成23年7月23日である。)から平成24年11月13日までに発生した遅延損害金合計683万6465円及び上記1億1334万2987円に対する同月13日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(争いがないか,掲記の証拠により容易に認められる事実)
(1)原告と被告は,平成19年5月13日,婚姻したが,平成23年8月6日以降,別居している。

(2)原告名義の口座が以下のとおり存在し,これらの口座は,識別符号(ID)やパスワード等を入力することにより,インターネットバンキングを行うことができるものである(甲9,被告本人)。
ア 株式会社新生銀行 C店 円普通預金 口座番号 ○○○○○○○(以下「本件新生口座」という。)
イ 住信SBIネット銀行株式会社 D支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○(以下「本件SBI口座」といい,本件新生口座と併せて「本件原告口座」という。)

(3)被告は,下記日付記載の日に下記金額記載の額を,本件原告口座から被告名義の金融機関の口座にそれぞれ送金した(これらをまとめて「本件各送金」という。)。
ア 本件新生口座からの送金
〔1〕平成23年7月23日 510万3840円
〔2〕同年8月10日   8755万9416円
〔3〕同年9月12日     11万6050円
〔4〕同月17日       15万円
〔5〕同月25日       30万円

イ 本件SBI口座からの送金
〔1〕平成23年9月9日  200万円
〔2〕同月12日     1000万円
〔3〕同月13日      700万円
〔4〕同月22日      200万円
〔5〕同年10月4日     10万円
〔6〕同月17日        9万8000円
〔7〕同年11月4日     20万円

2 争点
 本件の争点は,被告による本件各送金が不法行為に該当するかという点にある。
(1)原告の主張
 被告が原告に無断で本件各送金を行ったことは不法行為に該当する。
 よって,本件各送金日の翌日からの遅延損害金を請求することとし,被告が平成23年8月26日に150万円を本件新生口座に入金している事実を考慮すると,原告は,被告に対し,別紙記載のとおりの損害が生じていることから,1億2017万9452円及びうち1億1334万2987円に対する平成24年11月13日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
 本件原告口座は,原告が開設した原告名義の口座であり,その入金の全ては「自己の名で得た財産」に該当するものであるから,いずれも原告の財産であると言えることは明らかである。

(2)被告の主張
 本件原告口座にある預金は夫婦共有財産(民法762条2項)であるから,被告による本件各送金は正当な権限に基づくものであり,不法行為に該当しない。
 また,被告は,本件原告口座のIDやパスワードを原告から教えられていた上,原告による不貞行為の発覚後である平成23年7月以降は,本件原告口座の出入金等の一切の管理権限を授与されていたのであるから,本件各送金は上記管理権限に基づいて行われたものとして,違法性はなく,不法行為は成立しない。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1の1ないし3,2の1・2,4,9,13ないし15,16の1・2,17,乙2,3,15,18ないし21,23,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)本件原告口座の出入金状況等
ア 本件新生口座(甲1の1ないし3,13)
 本件新生口座の原告と被告の婚姻日(平成19年5月13日)の取引後の残高は1820万9951円であり,上記婚姻後も給料以外の原告の講演料や著作料が本件新生口座に振り込まれた。
 また,本件新生口座には,平成19年8月31日に被告所有不動産の売却代金1760万円が入金されたが,同年9月1日に1510万円が被告の金融機関の口座に送金された。
 本件新生口座には,平成23年8月9日,被告により出金手続がされたことにより解約された原告所有の投資信託である「ダイワMRF」の代金8840万4658円がマネックス証券から送金され(以下,この送金に係る「ダイワMRF」を「本件投資信託」という。),同日の取引後と同年9月25日(本件新生口座における被告による最後の送金日)の取引後の残高は,それぞれ,8855万9416円と30万7201円であった。

 原告は,上記婚姻当時「マネックスグループ」の株式を3840株保有し(平成22年6月30日の評価額1億4131万2000円),平成22年12月ころ,この売却資金を原資として本件投資信託を購入していたものと合理的に推認でき,また,平成23年8月9日ころの被告による本件投資信託の出金手続について,被告が原告から明示的な了承を得てこれを行った事実は認められない(被告本人は,上記解約を原告と一緒に行ったか,解約方法を聞いて被告が行ったなどと供述するが,被告本人の陳述書(乙15)に預金に近いMRFを移したとの記載があるにとどまり,また被告の主張態様(弁論の全趣旨)にも照らすと,にわかに信用することはできない。)。

イ 本件SBI口座(甲2の1・2,14)
 平成20年10月24日に開設された本件SBI口座には,原告が平成11年6月1日から平成23年8月21日まで勤務したマネックス証券株式会社あるいはその関連会社から平成21年1月23日から平成23年9月9日まで,毎月給料が振り込まれており(ただし,平成23年9月9日の1847万8100円の入金は退職金である。),また,原告の勤務先になった「クレディスイス証券」から平成23年9月22日と同年10月25日に給料が振り込まれている。

 同年9月9日の「マネックス証券」からの入金後と同年11月4日(本件各送金の最後の日)の取引後の本件SBI口座の残高は,2026万7827円と170万3234円であった。
 平成21年9月3日から少なくとも平成23年7月ころまでは,インターネットバンキング等によりこの口座の出入金を行うことは可能であった被告は,被告の金融機関口座に送金し,その金員を生活費等に充てていた。

ウ 被告は,本件各送金を,被告名義の三井住友銀行の普通預金口座(乙20)に送金することにより行ったが,平成23年9月13日には9000万円,同月15日には1500万円を引き出すなどし,証拠上明らかな範囲でもっとも遅い時期である同月28日の同口座の残高は634万7754円になっている。

(2)原告の不貞行為の発覚及びこれに対する原告の対応等
ア 被告は,遅くとも平成23年7月19日には原告の不貞行為を認識し,同日の話合いの際,原告から本件新生口座及び本件投資信託を保有していたマネックス証券のID及びパスワードを教えられ,本件SBI口座のみならず,本件新生口座等の取引を行うことができる状態になった。

イ 原告は,平成23年8月9日,原告住所地にあった自宅を出て行く形で被告と別居し,同年10月26日に被告が上記自宅を出た後,上記自宅に戻った。

ウ 原告は,女性関係等について被告への謝罪を記載した平成23年8月14日付け書面(乙18)を作成し,これには「金銭についても明細と突合できるようにして使途不明金のないように行動します。お金に関しては,すべて透明にすることを約束します。」との記載がある。

エ 原告は,被告の提案により,平成23年8月16日,東京法務局所属の公証人から原告作成の書面の認証を受けた(乙1)。被告も一緒にその文面を考えたという上記書面には,女性との不貞行為のほか,仕事で知り合った女性等との交友関係を認める記載に加え,その記載内容が虚偽であった場合又は上記不貞相手と接触した場合は,原告の財産を速やかに被告に受け渡す旨の記載がある。

オ 原告は,被告の要求によって,平成23年8月16日から同月19日にかけて,原告名義の住友信託銀行E支店にある1000万円の大口定期預金(当時,この口座はインターネットバンキングを行えないものであった。)を,実質的に,被告が開設した同支店の口座に移し替える作業を行い,この際,被告は同支店に貸金庫を開設した。

カ 原告は,被告に対し,過去の不貞行為等を謝罪するなどした平成23年9月2日付け書面(乙2,甲4)を交付し,これには「今までのこと」「これから数ヶ月のこと」「もっと先のこと」の欄があり,「今までのこと」の欄には不貞行為の慰謝料1000万円等を支払うこと,「これから数ヶ月のこと」の欄には,隠し事はしないこと,お金は管理をお願いする,「もっと先のこと」の欄には資産の共有などと記載されている。


(1)上記前提事実及び認定事実によれば,平成23年7月ころに本件新生口座等の金融機関のID及びパスワードを原告が被告に対して教えた結果として,本件原告口座にあった残高の大部分を本件各送金によって被告に移し替えられたことが認められるところ,被告は,本件各送金及び本件投資信託の出金手続について原告の明示的な承諾を得ていないことが認められる。
 被告本人は,原告と被告の財産の管理を委ねられたなどと供述し、平成23年7月ころ,被告が原告から本件新生口座とマネックス証券の原告の取引口座のIDやパスワードを教えられた事実や被告が原告の了解を得て住友信託銀行の原告名義の預金口座にあった1000万円を同銀行の被告名義の預金口座に実質的に移し替えた事実も認められる。

 しかし,原告作成の書面(乙1,2,18等)によっても,原告の預金を被告の口座に移動することを許容する記載は見当たらない上,本件各送金直前の本件原告口座の預金残高の大部分かつおよそ当面の生活費にはとどまらない1億円を超える金額を本件各送金により被告の金融機関口座に移していること,事後的にも被告が本件各送金により送金した金額の大部分を引き出して原告もその存在を把握しえない状態にしていること,原告が上記パスワード等を教えたのは原告の不貞行為等が発覚した直後になお原告が被告との婚姻継続を希望していた時期のことであって,原告が自身の財産状況を被告に開示するなどの趣旨で上記パスワード等を教えることは十分に考え得ること,上記住友信託銀行の預金の移し替えも本件各送金の合計額に比して少額であるなど,上記移替え事実から本件原告口座の大部分の預金残高の送金等をする権限を与えたものと直ちには認められないことなどに照らせば,本件各送金が,原告被告間において意思が合致した「管理」の範囲を超えているのであって,原告が被告に付与したといいうる権限を大きく超過しているものと言うほかない(なお,原告本人は,自身の不貞行為発覚時に原告名義の財産の資金移動等を被告が監視できるようにするためにパスワード等を教えたなどと供述し,また,被告との別居後は本件原告口座のインターネットバンキングに接続できない状態にあった旨供述している。)。 

 以上のとおり,被告が原告に無断で本件各送金を行ったというほかなく,原告が本件新生口座等のパスワード等を教えた事実等の被告主張の事実によっても,上記認定を覆すには至らない。

(2)被告は,本件原告口座が夫婦共有財産であるから,これについて妻である被告が被告名義の金融機関口座に送金することは違法ではないと主張し,上記認定事実によれば,本件SBI口座は,婚姻中に夫婦の協力により得られたといいうる原告の給料及び退職金が振り込まれていた口座であることも認められる。

しかし,本件原告口座の預金が,仮に夫婦共有財産であるとか,実質的に夫婦の共有に属する財産として離婚時における財産分与の基礎となる財産に該当しうるとしても,先述のとおり,本件原告口座の本件各送金直前の残高に占める本件各送金額の割合及び本件各送金の額に照らせば,本件各送金による夫である原告の財産に対する権利侵害の程度は著しく大きいのであるから,被告の主張を最大限考慮したとしても,全体として違法なものと評価せざるを得ない。

3 そうすると,本件各送金が被告の不法行為に該当するとの原告の主張は理由があるが,原告は本件各送金の日の翌日からの各遅延損害金を請求するところ(訴状),別紙のとおり平成24年11月13日までに合計683万6465円の遅延損害金が発生しているものと認められ,したがって,原告の請求は,同日に発生する遅延損害金を二重に請求するものであるから,1億2017万9452円及びうち1億1334万2987円に対する平成24年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があることとなる(なお,訴訟費用については,棄却部分が極めて小さいことから,この点について民事訴訟法64条ただし書を適用する。)。

4 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第48部 裁判官 遠田真嗣

以上:6,105文字

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