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相続預金について特有財産との立証ができないとした家裁審判紹介

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令和 6年 6月21日(金):初稿
○「相続預金について特有財産との立証ができないとした高裁決定紹介」の続きで、その第一審令和3年11月25日東京家裁審判(判タ1510号204頁、家庭の法と裁判42号42頁)全文を紹介します。

○申立人妻と相手方夫の離婚が成立したことから、申立人が、相手方に対し、離婚に伴う財産分与を求め、東京家裁は、本件に現れた一切の事情を考慮し、財産分与に当たる金額を算定したうえで、申立人の請求は前記金員の支払を求める限度で理由があるが、本件各不動産については相手方の特有財産であるから、相手方に特有財産の処分を命じるのは相当でないなどとして、結論として、相手方夫は、申立人妻に対し、5441万円を支払えと命じました。

○相手方夫は、夫名義の預金について、殆どを亡父から相続したもので、相手方の固有財産であると主張しましたが、東京家裁は殆どを、固有財産とする裏付けがないとして財産分与対象の共有財産と認定したため、相手方夫が抗告しました。しかし、東京高裁の結論もほぼ同様で、財産分与金額5441万円が5000万円に減額されただけで、殆ど変わりませんでした。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,5441万円を支払え。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

1 相手方は,申立人に対し,財産分与として,相当額を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,財産分与として,別紙「婚姻関係財産一覧表」記載「相手方名義の資産・負債」の番号1-1ないし1-3の各不動産を譲渡せよ。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和39年*月*日生)と相手方(昭和39年*月*日生)は,昭和60年12月12日に婚姻した。
 両者の間には,昭和61年*月*日に長女が,平成4年*月*日に二女が,平成9年*月*日に長男が,それぞれ出生した。申立人,相手方及び子らは,別紙「婚姻関係財産一覧表」(以下「一覧表」という。)記載「相手方名義の資産・負債」の番号1-3の建物(自宅)において生活していた。

(2)相手方は,婚姻当時,大学生であったところ,大学を卒業後,大学院に4年間通って卒業し,平成10年に税理士資格を取得した。相手方は,大学院在学中から,○○税理士事務所に勤務していたが,その後,同税理士事務所の経営を引き継ぐとともに,有限会社○○(以下「本件会社」という。)の代表者となった。
 申立人は,婚姻後,専業主婦として家事や育児を行っていたが,掃除や洗濯が苦手な性格であり,自宅内が片付いていないこともあった。

(3)相手方は,平成27年8月10日,自宅を出て申立人と別居した。

(4)相手方は,平成29年,申立人に対して離婚を求める調停を申し立てたが(横浜家庭裁判所平成29年(家イ)第1294号),この調停は同年5月18日に不成立となり終了した。
 相手方は,申立人に対して離婚を求める訴訟を提起したところ(横浜家庭裁判所平成29年(家ホ)第*号),横浜家庭裁判所は,平成30年10月24日,相手方と申立人とを離婚する判決を言い渡した(以下「本件離婚判決」という。)。申立人は,本件離婚判決について控訴したが(東京高等裁判所平成30年(ネ)第*号),東京高等裁判所は,平成31年3月27日,申立人の控訴を棄却する判決を言い渡した。本件離婚判決は令和元年8月22日に確定し,相手方と申立人は離婚した。

(5)申立人は,令和元年11月15日,相手方に対し,離婚に伴う財産分与を求める調停を申し立てたが(東京家庭裁判所令和元年(家イ)第8940号),この調停は令和2年8月21日に不成立となり本件審判手続に移行した。

2 分与対象財産確定の基準日について
 分与対象となる共有財産確定の基準日は,別居日である平成27年8月10日(以下「基準時」という。)とすることが相当である。

3 分与対象財産の有無及びその評価額について
 基準時における分与対象財産及びその評価額について,申立人は,一覧表の「申立人主張額」欄記載のとおり主張し,相手方は,一覧表の「相手方主張額」欄記載のとおり主張するところ,一覧表の「認定資料等」欄記載の資料及び理由により,一覧表の「認定額」欄記載のとおり,申立人名義の資産につき合計128万0233円,相手方名義の資産につき合計1億1010万4182円であると認める。
 以下,一覧表の「相手方名義の資産・負債」について,補足して説明する。
(1)番号1-1ないし1-3の各不動産について
 番号1-1ないし1-3の各不動産の評価額は,評価額を2050万円とする申立人提出の査定書(甲18)と,評価額を2659万円とする相手方提出の査定書(乙43)の平均値である2354万5000円をもって相当と認める。

 もっとも,資料(甲19の1ないし19の3)によれば,番号1-1の土地の持分2分の1,番号1-2の土地の持分36分の1及び番号1-3の建物の持分2分の1(番号1-1ないし1-3の各不動産全体の2分の1に当たる部分)は,相手方がその父から相続した相手方の特有財産であると認められる。また,資料(乙19,35,36の1,36の2)によれば,〔1〕相手方は,平成20年*月*日に死亡した相手方の父から,相手方の父名義の○○銀行の預金281万5900円を相続したこと,〔2〕相手方は,平成21年3月4日,同預金が入金されていた預金口座を解約して262万3451円の払戻しを受け,その全額を相手方名義の番号2-8の預金口座に入金したこと(送金手数料が控除されたため入金額は262万3136円となっている。),〔3〕番号2-8の預金口座からは,それ以降,平成24年10月まで継続的に番号1-1ないし1-3の各不動産に係る住宅ローン(月額6万円強)が引き落とされていたが,同年5月29日に入金があるまでは利息以外の入金はほとんどなかったことが認められ,番号1-1ないし1-3の各不動産に係る住宅ローンの一部につきもっぱら相手方が相手方の父から相続した特有財産によって支払われていたものと認められる。平成21年3月から平成24年5月までの間に,240万円程度(6万0292円が22回,6万2996円が17回で計239万7356円)が支払われていたことなどに鑑み,番号1-1ないし1-3の各不動産のうち,さらに5パーセントに当たる部分について相手方の特有財産とすることが相当である。

 そうすると,番号1-1ないし1-3の各不動産のうち,分与対象となるのは45パーセントに当たる部分であり,その評価額は,1059万5250円となる(2354万5000円×0.45=1059万5250円)。

(2)番号2-1ないし2-5の各預金について
 番号2-1ないし2-5の各預金の基準時の残高は,一覧表の「認定額」欄記載のとおりであるところ,相手方は,そのうち,2882万7500円は,相手方の父から相続した相手方の特有財産であると主張する。
 この点,資料(乙19)によれば,相手方が,平成20年*月*日に死亡した相手方の父から,計2882万7500円の預金を相続したことが認められるが,この相続した預金が番号2-1ないし2-5の各預金の口座に入金され,基準時における残高の中に残存していたことを裏付ける資料はないから,相手方の主張は採用できない。

(3)番号2-6の預金について
 番号2-6の預金の基準時における残高は2474万9875円であるところ,相手方は,同預金の口座には,相手方の父の資金ほか,昭和56年に相手方の母から相続した約500万円及び平成7年に相手方の母方祖父から相続した約200万円が入金されていたとして,基準時残高のうち2000万円を超える部分は相手方の特有財産であると主張する。

 この点,資料(甲6,乙19,30ないし34)によれば,〔1〕相手方が相手方の父から相続した相手方の父名義の○○銀行○○店の預金二口(〔ア〕口座番号〈省略〉,取得価額630万2095円のもの,及び,〔イ〕口座番号〈省略〉,取得価額238万6631円のもの。取得額の合計は868万8726円)につき,平成21年2月26日に払い戻したこと(払戻額は,〔ア〕の口座につき644万1636円,〔イ〕の口座につき243万9593円で,計888万1229円),〔2〕相手方は,同日,払い戻した888万1229円の全額を相手方名義の番号2-3の預金口座に入金したこと,〔3〕相手方は,同年4月2日,同口座から888万1365円を,相手方名義の番号2-6の預金口座の定期預金に振り替えたこと,〔4〕この定期預金は平成21年10月9日に全額が払い戻されたが(払戻額は888万1365円),同日にそのうち388万5989円が再度定期預金として預け入れられ,さらにこの定期預金が平成22年6月30日に払い戻されたものの,同日に400万円の定期預金として預け入れられたこと,〔5〕この400万円の定期預金は満期ごとに自動継続され,基準時における残高は404万4335円となっていたこと,〔6〕平成21年10月9日に払い戻された〔4〕の定期預金888万1365円の残金499万5376円は,同日,○○銀行○○店の外貨定期預金口座(口座番号は〈省略〉)に預け入れられ(預入額は5万5685.49米ドル,1米ドル89.79円として500万円相当),継続が繰り返されていたこと,〔7〕この外貨定期預金は,平成25年12月10日に払い戻され(払戻額は5万5739.28米ドル,日本円で570万5540円),相手方名義の番号2-3の預金口座に入金されたこと,〔8〕相手方は,平成26年12月16日,相手方名義の番号2-3の預金口座から570万5540円を,相手方名義の番号2-6の預金口座の定期預金に振替えたこと,〔9〕この定期預金の基準時における残高は570万5540円であったことが認められる。

 以上の事実経過からすると,相手方名義の番号2-6の預金口座の定期預金の基準時の残高のうち,〔5〕の404万4335円及び〔9〕の570万5540円の計974万9875円は,相手方が相手方の父から相続した預金が継続して維持,増殖されてきたものであると認められるから,相手方の特有財産とすることが相当である。なお,相手方は,他にも相手方の母又は母方祖父から相続した資金が入金されている旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる資料はない。
 したがって,相手方名義の番号2-6の預金口座の定期預金の基準時の残高2474万9875円のうち,分与対象財産となるのは,特有財産974万9875円を控除した1500万円となる。

(4)番号2-7の預金について
 番号2-7の預金の基準時における残高は,一覧表の「認定額」欄記載のとおりであるところ,相手方は,同預金の口座は,相手方の父が相手方名義で開設したC銀行の口座から引き継がれたものであるから,相手方の特有財産であると主張する。
 この点,資料(乙5の1ないし5の3)によると,昭和61年1月31日に相手方名義でC銀行の預金口座が開設された事実が認められ,また,その通帳に書き込まれたメモ書の内容に照らすと,相手方の父が同口座を管理していたことがうかがわれるものの,同口座が相手方名義の番号2-7の預金口座に引き継がれていたとしても,相手方の父の資金が基準時の残高に残存していたことを裏付ける資料はないから,相手方の主張は採用できない。

(5)番号4-1ないし4-5の株式等について
 番号4-1ないし4-5の株式等は,基準時において,D株式会社の相手方名義の証券口座(以下「D口座」という。)に保有されていたところ,相手方は,D口座は,相手方の父が相手方名義で開設したE株式会社の証券口座(以下「E口座」という。)から引き継がれたものであり,同株式等は相手方の父の資金を原資とする相手方の特有財産であると主張する。

 この点,資料(乙2の1,2の2,37ないし42の2)によれば,〔1〕昭和61年10月4日に相手方名義によりE口座が開設されたこと,〔2〕その後,E口座を通じて株式取引が行われ,昭和62年4月及び平成5年5月当時の売買報告書や領収証に相手方の父によるとみられるメモが記載されていること,〔3〕平成9年11月4日当時,E口座には,F株1000株,C銀行株7000株,G銀行株3000株がそれぞれ預け入れられていたこと,〔4〕同年12月3日に,D口座にF株1000株,C銀行株7000株,G銀行株3000株がそれぞれ預け入れられたことが認められるが,相手方の父がE口座を管理しており,同口座の株式がD口座に引き継がれたことがあったとしても,前記株式等が相手方の父の資金に由来することや,D口座に引き継がれた株式がそのまま残存していることを裏付ける資料はないから,相手方の主張は採用できない。

(6)番号5-3の預り金について
 資料(乙7,10ないし13,21の1ないし乙24,26の1ないし乙28)によれば,〔1〕相手方が,本件会社と会計顧問契約を締結した顧客のうち,相手方個人とも税務顧問契約を締結した顧客について,顧問料支払事務を簡素化する趣旨から,各顧問料の支払先を相手方名義の預金口座に統一していること,〔2〕相手方が,本件会社の顧問料として支払われた金額を本件会社に対する預り金として会計処理及び税務申告し,他方で,本件会社が,同金額を相手方に対する未収入金として会計処理及び税務申告していること,〔3〕相手方が,この預り金の返還として,適宜,相手方名義の口座から一定金額を出金し,これを本件会社の預金口座に入金していること,〔4〕この取扱いに関する相手方と本件会社の会計処理及び税務申告は,相手方が顧問料を現金で取得した場合について,相手方においては相手方名義の預金口座に入金した時点で預り金として計上し,本件会社においては相手方が現金を取得した時点で未収入金として計上している関係から,若干の誤差はあるものの,相互に整合していること,〔5〕基準時において,相手方には,本件会社に対する計689万4608円の預り金があることが認められる。
 そうすると,相手方は,本件会社に対して預り金689万4608円を返還する債務を負っているものとみることが相当である。

4 寄与度について
 夫婦共有財産は,夫婦の有形・無形の経済的協力関係により形成されたものであり,これに対する双方の寄与度は,特段の事情がない限り,同程度とみることが相当である。この点,相手方は,〔1〕相手方名義の資産形成は,もっぱら税理士である相手方の手腕及び能力によるものである,〔2〕申立人は専業主婦であったが、自宅の掃除や片付けをほとんどせず,自宅はごみ屋敷状態であった等として,分与対象財産に対する寄与度は,申立人が4割,相手方が6割とするのが相当であると主張する。

 この点,資料(乙8,9の1,9の2)によれば,自宅の台所,居間及び冷蔵庫が,少なくとも平成26年9月から平成27年7月までの約10か月間,散らかった状態であったことが認められ,この期間の以前から,自宅が同様の状態であったことがうかがわれるものの,相手方が婚姻してから13年後に税理士資格を取得し,婚姻当初から高額な収入を得ていたわけではないこと,申立人が専業主婦として家事・育児を担ってきたこと,婚姻当初から自宅が散らかった状態であったとまでは認められないことなどに鑑みると,婚姻期間全体を通じてみれば,寄与度は同程度と認めるのが相当である。 

5 分与額について
 申立人名義の資産及び相手方名義の資産の合計1億1138万4415円の2分の1に当たる5569万2208円から,申立人名義の資産の合計128万0233円を控除すると,5441万1975円となるが,本件に現れた一切の事情を考慮して,相手方から,申立人に対し,財産分与として5441万円を支払うものとすることが相当である。

 なお,申立人は,二女及び長男と共に自宅に居住しているとして,一覧表記載「相手方名義の資産・負債」の番号1-1ないし1-3の各不動産を譲渡することを求めているが,番号1-1及び1-3の各持分2分1,番号1-2の持分36分の1は相手方の特有財産であり,相手方に特有財産の処分を命じるのは相当でないから,この請求は認めることができない。また,申立人は,分与額の算定に当たり,申立人への扶養的要素を加味すべきであると主張するが,前記のとおりの財産分与の額などからすると,扶養的要素を考慮する必要性は乏しいと考えられることから,申立人の主張は採用できない。

6 よって,主文のとおり判決する。

別紙 婚姻関係財産一覧表〈省略〉
以上:6,900文字

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