令和 6年 6月14日(金):初稿 |
○「婚姻中住宅ローン返済不動産の財産分与の考え方を判断した地裁判決紹介」で紹介した平成9年4月14日横浜地裁判決(家庭裁判月報50巻7号90頁)の慰謝料400万円の認定部分を紹介します。 ○原告妻は、被告夫に対し、殴ったり蹴ったりする等の激しい暴行や他人の人格を顧みない行動によって破綻し,原告は,被告に対し,極度の恐怖心と嫌悪感を抱いているとして、離婚慰謝料500万円を請求しました。 ○判決は、原告や第三者の物の見方や考え方を理解しようとせず,被告の意にそぐわない原告を許さないで,いきなり暴行行為に及んだことを決して正当化することはできず,被告は,そのなした暴行行為を強く非難されるべきとして慰謝料400万円を認めました。 ○過去の暴力の立証は大変困難ですが、「被告は,原告が台所でやかんを火にかけたままその場を離れたことを理由に激怒し,原告を階段から引き倒し,胸部を何度か蹴り,原告に全治3週間ないし1か月を要する肋骨骨折の傷害を負わせた」と言うような認定は、診断書等客観的証拠があった思われます。 ************************************************ 主 文 一 原告と被告とを離婚する。 (中略) 四 被告は,原告に対し,金400万円を支払え。 五 原告のその余の請求を棄却する。 六 訴訟費用はこれ4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第一 原告の請求 一 主文第一,第二項と同旨 二 (中略) 三 被告は,原告に対し,金500万円を支払え。 第二 事案の概要 一 原告(昭和24年4月20日生)と被告(昭和23年1月11日生)は,昭和49年3月22日に婚姻の届出をした夫婦であり,原,被告間には昭和59年11月1日生の三女友代(以下「三女」という。)がいる(昭和57年12月に出生した双子の長女,二女は,出生後間もなく死亡した。)。 (以上,甲一,四) 原告は,横浜市に勤務する地方公務員であり,被告は,飛川株式会社(以下「飛川」という。)に勤める会社員(システムデザイナー)である。 (弁論の全趣旨) 二 原告は,「原,被告間の婚姻関係は,主として被告の殴ったり蹴ったりする等の激しい暴行や他人の人格を顧みない行動によって破綻し,原告は,被告に対し,極度の恐怖心と嫌悪感を抱いており、最早回復の見込みがないから,三女の親権者を原告と定める離婚を求め(原,被告は,平成7年11月12日以降別居中〔この別居を以下「本件別居」という。〕),また,原,被告の持分各2分の1の共有財産である本件不動産の実質寄与割合は,原告の6割であるとして,原告持分を被告に移転登記手続をするのと引換えに,被告に対し,財産分与としての清算金2560万円及び離婚慰謝料500万円の支払を求める。」と主張して本訴を提起した。 (中略) 四 争点 (中略) 4 慰謝料請求権の有無,その額 第三 証拠 本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから,これを引用する。 第四 当裁判所の判断 一 既に認定したところに証拠(甲1,2,3の1,2,4,5の1,2,6,7,8の1,2,9,10,乙1,2及び3の各1,2,4,原告本人,被告本人〔一部〕)並びに弁論の全趣旨を総合すれば,原,被告の婚姻,本件別居の経緯及び本訴提起に至った経過等は以下のとおりであると認められる。すなわち, 1 原告(昭和24年4月20日生)と被告(昭和23年1月11日生)は,大学時代にアルバイト先で知り合い,昭和49年3月に挙式し,同月22日に婚姻の届出をしてアパートで結婚生活を始めた。 2 右婚姻直後である昭和49年初夏ころ,原,被告が歩行中,被告は,通行人の男性と争いとなって同人を負傷させ,同人に損害賠償をしたことがあった。 3 被告は,元来,家事を一切せず,また口数の少ない方であったが,結婚後1年も経過しないころに失業して益々無口となり,働きながら家事一切をやっていた原告の作った料理が気に入らずに原告を怒鳴ったこともあった。 昭和50年7月ころの夕方,外出先から原告が,被告に,「もう少しで帰る。」旨の電話をしたところ,被告は,原告に対し,「ぶち殺してやる。」と怒鳴ったため,恐怖心を抱いた原告は,アパートに帰ることができず,そのまま別居するに至った。 (中略) 8 被告は,三女出生後も,同児が夜泣きしたとか,原告が口答えしたとか,些細なことを理由として原告に暴力を振るうことがあった(被告は,昭和63年ころ,新聞配達が遅れたことを理由に配達の青年を平手で殴ったことがあり,また平成元年ころ,夜訪れた自治会の人に立腹し,その持参の寿司を玄関先に撒き散らすなど,被告は,家族以外の第三者に暴力を振るうこともあった。)。 原,被告間の性的関係は,三女出産後しばらくしてから途絶え,後記の別居に至るまで全くなかった。 被告の原告に対する暴行は,三女が幼稚園に入るころに酷くなり,その後しばらくは暴力がなかったが,平成5年ころから,再び被告の暴行は酷くなり,食事の際,原告が持ってきたソースが被告の要求するソースと違ったとか,美容院からの帰りが午後5時を過ぎたとか,三女が原告と行った店の名前が答えられなかったとか,三女がデパートの名前を間違えて答えたとか,被告が強勉を教えたことについて三女の覚えが悪かったとか,原告に直接関係ないことでも,被告は,立腹し,原告を怒鳴りつけたり,原告の髪を掴んで引きずり倒したり,殴ったり,蹴ったり等の暴行行為をした。 三女に対しても,食事中にテレビに夢中で茶碗や箸を落としたとか,無理な強勉をさせ,三女が被告の与えた課題ができなかったとかを理由として,三女を怒鳴ったり,平手で叩いたりすることもあった。 原告には理由の判らない被告の暴力もあり,いつ被告が立腹して暴行行為に及ぶかが原告には予測できず,原告は,三女とともに終始被告の暴力を恐れ,緊張して生活するようになった。 平成7年7月22日,被告は,原告が台所でやかんを火にかけたままその場を離れたことを理由に激怒し,原告を階段から引き倒し,胸部を何度か蹴り,原告に全治3週間ないし1か月を要する肋骨骨折の傷害を負わせた。 同年10月15日ころ,被告が些細なことで原告を殴ったため,これを見かねて止めに入った被告の母を平手で殴りつけ,玄関まで引きずるなどの暴行を加え,被告の母に謝罪させるに至ったこともあった。 同年11月12日,被告は,原告が夕食に御飯ではなく,スパゲティを用意したことに立腹して原告を殴ったり,蹴ったりしたため,原告は,被告の隙をみて裸足の三女と共に本件建物を出て,それ以来,現在に至るまで被告と別居して生活している。 (中略) 以上のとおり認められ,これに反する被告の供述は弁論の全趣旨に照らして採用できず,他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。 二 右認定事実に基づき,離婚及び親権者指定並びに慰謝料請求について判断する。 右認定の各事実に照らすと,原,被告間の婚姻関係は最早完全に破綻してその婚姻の実態が失われており,今後円満な婚姻生活の修復が極めて困難であることが明らかである。 そして,右破綻に至った直接の原因は,被告の原告に対する酷い暴力行為にあることが明らかである。被告が原告に対して右のような暴力を振るうに至った基礎には,原,被告の物の見方や考え方の違いがあると解せられ,被告の物の見方や考え方にそれなりの合理性がないとはいえない面があるが,原告や第三者の物の見方や考え方を理解しようとせず,被告の意にそぐわない原告を許さないで,いきなり暴行行為に及んだことを決して正当化することはできず,被告は,そのなした暴行行為を強く非難されるべきである。 したがって,原,被告間に民法770条1項5号に定める婚姻を継続し難い重大な事由があるものといわざるを得ず,原告の本件離婚請求を肯認できるというべきであり,右に認定した事実(特に12の事実)と本件に顕れた一切の事情を考慮して判断すると,三女の親権者を原告と指定し,原告のもとで三女は養育監護されるのがその福祉に合致するものと考える。 更に,右のとおり,原,被告間の婚姻生活は,主として被告の責任により破綻するに至ったのであるから,被告は,これによって原告が受けた精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきであり,本件に顕れた諸般の事情に照らし,原告の右苦痛は金400万円をもって慰謝するのが相当である。 (中略) 第五 結論 以上の次第であるから,主文のとおり判決する(原告の慰謝料請求の一部を棄却する。) 。 以上:3,561文字
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