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離婚慰謝料1500万円支払合意について450万円を有効と認めた地裁判決紹介

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令和 5年 9月27日(水):初稿
○元妻である原告が元夫である被告に対し、原告と被告との間の協議離婚に伴う合意により、被告には離婚に伴う慰謝料1500万円の支払義務があるとして、離婚合意に基づき、慰謝料1500万円の支払を求めました。

○これに対し、元夫は、離婚に伴い慰謝料1500万円を支払うとの合意は、元妻原告の強迫を理由に取り消すこと及びわずかな時間で本件協議書記載の条項の意味内容を十分理解する機会も与えられないまま、男性調査員らが関与した弁護士法違反の疑いがある手続の下で本件協議書は作成されたのであるから、本件離婚合意は公序良俗に違反して無効であると主張しました。、

○この事案で、強迫の事実は否認し、原告の実質的な収入水準が被告のそれを相当に上回る状況にあり、離婚合意の慰謝料1500万円に関する部分全部が公序良俗に反するというのは相当でなく、〔1〕原告と被告との間の婚姻の経過、〔2〕被告の不貞行為の状況、〔3〕本件協議書作成の状況、〔4〕被告の資産・収入状況のほか、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、当事者間の合意として、相当と認められる慰謝料額の限度は450万円と認めた令和4年8月18日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、450万円及びこれに対する令和2年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、1500万円及びこれに対する令和2年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、もと妻である原告がもと夫である被告に対し、原告と被告との間の協議離婚に伴う合意(以下「本件離婚合意」という。)により、被告には離婚に伴う慰謝料として1500万円の支払義務があるとして、本件離婚合意に基づき、1500万円及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である令和2年7月1日から支払済みまで約定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実

     (中略)

3 争点
(1)本件離婚合意の強迫による取消しの可否
(2)本件離婚合意の公序良俗違反の成否

4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(強迫取消し)について


     (中略)

(2)争点(2)(公序良俗違反)について
(被告の主張)
 本件離婚合意は、被告の窮迫、軽率又は無経験に乗じて意思決定の自由を奪い、過当な利益の獲得を目的としたものであるから、公序良俗に違反するものとして無効である。すなわち、争点(1)(強迫取消し)について、被告が主張したところに加え、本件協議書には、明らかに過剰な慰謝料額及び違約金等が定められているほか、被告は、これに意見を述べる機会はもとより、わずかな時間で本件協議書記載の条項の意味内容を十分理解する機会も与えられないまま、男性調査員らが関与した弁護士法違反の疑いがある手続の下で本件協議書は作成されたのであるから、本件離婚合意は公序良俗に違反する。

(原告の主張)
 原告と被告が本件離婚合意をした際、被告の自由な意思決定を阻害するような状況ではなかったのであるから、本件離婚合意が公序良俗に反することはなく有効である。すなわち、争点(1)(強迫取消し)について、原告が主張したところに加え、そもそも、被告は、8年以上にわたり外資系保険会社の保険営業に従事しており、本件協議書の意味内容を理解できなかったということはあり得ない。

本件離婚合意に基づく慰謝料の支払方法について、原告が長期間の分割払いを認めたことは、被告との間で実質的な協議が行われたことを示すものである。加えて、被告が実質的には多額の収入を得て、高額な家賃のマンションに住み、高級自動車を保有し、高額な会食を日常的に行うといった高い生活水準を保持しており、前妻との離婚に関して多額の支出をしたという発言に及ぶこともあったという経緯も考慮すれば、本件離婚合意の内容が不当なものでないことは明らかである。

第3 当裁判所の判断
1 前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

     (中略)

(4)
ア 被告の令和元年分の事業収入は2322万8853円、事業所得は748万1976円であったが、令和2年分の事業収入は1518万4006円、事業所得は238万6116円であった。(乙6、7)

イ 本件自宅の家賃は、月額約28万円であったが、被告は、そのうち半額を経費として計上している。また、高級自動車であるレクサスを所有する一方,預貯金の残高は少なく、自動車のローンが残っており、銀行からの借入金もあった。(原告本人、被告本人)

2 争点(1)(強迫取消し)について
(1)被告は、本件離婚合意について、原告の強迫によるものであり、その取消しが可能であると主張し、本件協議書の作成が円滑に進まなければ、Cの両親及び上司であるDに対する損害賠償請求を行うことを告げられてこれに畏怖した旨供述する。

(2)
ア そこで、被告の供述する経過について検討するに、被告がCの両親及びDと継続的な交流関係を伴う親しい関係にあったとはいえないところ、そのことは、男性調査員らも想定し得ると考えられるにもかかわらず、男性調査員らが不貞相手(C)ではなく、Cの両親やDに対する責任追及を被告に対する説得材料として殊更に持ち出したという経緯は必ずしも自然な経過であるとはいい難く、男性調査員らからCの両親及びDの法的責任の根拠に関する具体的な説明がなされた形跡もうかがわれない。 

イ また、被告は、本件協議書の作成後、周囲に対応を相談するに当たり、慰謝料の水準の妥当性以外に、Cの両親やDに対する責任追及のおそれを懸念してその見通しなどを気にかけていた様子はうかがわれないのであって、このような状況は、被告がCの両親及びDに対するCとの不貞行為に関する責任追及に基づく影響を畏怖していたことと整合し難いといわざるを得ない。

ウ そうすると、被告の供述する経過は、当時の状況と整合しない部分があることを否定できず、被告の供述を裏付けに足りる証拠もないから採用することはできない。当時、男性調査員らからCに対して責任追及がされれば、その両親やDに対しても迷惑をかけるような結果を招くといった趣旨の発言がなされた可能性はあるが、男性調査員らから被告の供述するような趣旨の発言があり、かつ、被告がこれに畏怖したとまで認めることは困難である。

(3)したがって、本件離婚合意の強迫による取消しをいう被告の主張は理由がない。


3 争点(2)(公序良俗違反)について
(1)被告は、本件離婚合意が公序良俗に反して無効である旨主張するので、本件離婚合意の内容及び合意に至る経過について検討する。

(2)
ア 本件協議書所定の離婚に伴う慰謝料は1500万円に及んでおり、離婚に伴う慰謝料としては高額であることが明らかである。加えて、本件協議書には、被告のみがCや原告の関係者に対する連絡行為を禁止されるといった一方的な内容の定めがある上、これらに違反した場合の違約金について1回当たり800万円という明らかに不合理な金額等の定めがある。

 本件協議書の以上のような記載内容について、本件協議書の作成の際、原告と被告との間で、その妥当性が議論・問題とされた形跡はないが、このような経過は、原告が被告に協議離婚に関する協議を行うことを予告することなく、複数名で本件自宅に戻り、不貞行為の事実を突き付けたことにより、被告が動揺・困惑したことによるものであったと認められる。

 そうすると、本件協議書は、被告が冷静な判断・対応をすることが困難な状況の下で、被告に著しく不利益な内容を伴うものとして作成された書面であり、内容面・手続面に当事者間の衡平性を欠く瑕疵があるといわざるを得ず、その記載内容を全部有効と解することが不当であることは明らかである。

イ 他方で、本件協議書と離婚届は、実質的に一体のものとして作成されており、原告と被告の協議離婚は、本件離婚合意を前提としたものであると認められるが、被告は、協議離婚については有効性を争っておらず、いわゆる有責配偶者としての離婚請求の制限を受けることはなく、婚姻費用の分担義務を負うこともなくなっている。

このような事情に加え、本件協議書作成の際の被告の動揺・困惑は、結局のところ、被告自身の行為に起因する面が少なくなく、被告の意思決定に対する制約を原告のみに帰することは必ずしも相当でない。そして、原告の実質的な収入水準は、被告のそれを相当に上回る状況にあったと認められることにも照らすと、本件離婚合意の慰謝料に関する部分全部が公序良俗に反するというのは相当でない。

ウ そこで、本件離婚合意のうち離婚に伴う慰謝料に関する部分については、本件協議書作成当時の状況の下、当事者間の合意として、相当と認められる慰謝料額の限度を超える部分に限り、公序良俗に反して無効であると解するのが相当である。そして、〔1〕原告と被告との間の婚姻の経過、〔2〕被告の不貞行為の状況、〔3〕本件協議書作成の状況、〔4〕被告の資産・収入状況のほか、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、当事者間の合意として、相当と認められる慰謝料額の限度は450万円であるというべきである。

エ 被告は、本件協議書の作成について、男性調査員らによる非弁行為の疑いがあると主張するが、被告の主張は、男性調査員らの関与が原告の利益を害することを前提とするものではなく、男性調査員らの関与が弁護士法72条に違反することで直ちに本件離婚合意の効力が否定されるべきものではないと解されるから(最高裁平成29年7月24日第一小法廷判決・民集71巻6号969頁参照)、被告の主張は上記判断を左右するものではない。

(3)したがって、被告は、原告に対し、本件離婚合意に基づき、450万円の限度で支払義務を負い、令和2年6月30日の経過によりその弁済期が経過したものと認められる。

4 以上の次第で、原告の被告に対する本件離婚合意に基づく請求は、450万円及びこれに対する弁済期の日の翌日である令和2年7月1日から支払済みまで約定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

 よって、原告の請求は一部理由があるから、主文第1項の限度でこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文、61条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第18部 裁判官 齋藤岳彦
以上:4,438文字

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