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婚姻予約に関する有名な大正4年1月26日大審院判決

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令和 5年 9月28日(木):初稿
○婚姻の予約は将来において婚姻を為すべきことを目的とする契約にして適法であるのみならず有効であり、これに基づき婚姻をすることを強制はできないが、当事者の一方が正当の理由なく違約した場合には、その一方は相手方が予約を信じたために被むった有形無形の損害を賠償する責を負うとした有名な大正4年1月26日大審院判決(大審院民事判決録21輯49頁)全文を紹介します。

○判決文は悪文の典型と言われていましたが、戦前の判決文は、全てカタカナ書きで、句読点がないところに改行もなく、読みにくいことこの上ないものであることがよく判ります。カタカナ書きをひらがな書きに変換し、且つ、適当に改行を入れたものを後記しますが、それでも読みにくいことこの上なく、私が入れた改行が適切かどうかも不明です(^^;)。

○カタカナ書きでの判決要旨は以下の通りです。これは何とか理解出来ます。
1.婚姻の予約は将来に於て婚姻を為すへきことを目的とする契約にして有効なり
2.婚姻の予約は法律上之に依り履行を強制することを得さるも当事者の一方か正当の理由なくして違約したる場合に於ては其一方は相手方か予約を信したるか為めに被むりたる有形無形の損害を賠償する責に任すへきものとす
3.婚姻の予約不履行に因りて生したる損害の賠償は違約を原因として請求することを要し不法行為を原因として請求すへきものに非す

○戦前、カタカナ書きでの判決で法律を勉強した方は大変だなと思いますが、法律の条文も全てカタカナ書きでしたから、カタカナが当然で苦にならなかったのかも知れません。

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主   文
原判決中「其余ノ控訴人ノ請求ハ之ヲ棄却ス」トアル部分ヲ除キ其他ヲ破毀シ被上告人ノ控訴ヲ棄却ス控訴以後ノ訴訟費用ハ総テ被上告人ノ負担トス

理   由
上告論旨ノ第一点ハ原判決カ上告人ニ過失アリト為シタル第一ノ理由ハ事実上ノ婚姻ヲ為シタルモノハ離別セラルヘキ程度ノ過失缺点アルニアラサレハ離別スルコトヲ得ス然ルニ上告人ハ些細ノ事由ノ下ニ被上告人ヲ離別シタルカ故ニ過失アリト云フニアリ然レトモ原判決ノ所謂離別シ得ヘキ程度ノ過失缺点トハ如何ナル事項ヲ指称スルヤ不明ナルノミナラス元来婚姻ハ戸籍吏ニ届出テテ始メテ其効力ヲ生スヘキモノニシテ届出前ノ婚姻若シクハ婚姻ノ予約ハ法律上無効ニシテ何等ノ保護ヲ受クヘキ関係ニアラサルナリ故ニ仮令媒妁人アリテ事実上ノ婚姻ヲ為スモ未タ届出ヲ為ササル以前ニ於テ一方若シクハ双方ニ於テ適法ノ手続ヲ為スコトヲ欲セサルニ至リタルトキハ其事由ノ如何ニ関セス法律上之ヲ強要シテ婚姻ヲ成立セシムヘキノ途ナキコト誠ニ明白ナリトス即婚姻届出ヲ為スヤ否ハ全然当事者ノ自由ニシテ既ニ事実上ノ婚姻ヲ為シタルト否トヲ問フヘキモノニアラサルナリ原判決カ既ニ事実上ノ婚姻ヲ為シタル以上ハ或程度ノ過失缺点アルニアラサレハ之レヲ離別スルコトヲ得スト為シタルハ不当ナリ加之上告人ハ不幸ニシテ結婚式後間モナク病院ニ入院シタルニヨリ三日目ヨリ実家ニ帰リ居リタル被上告人ニ之ヲ通知シタルニ被上告人ハ上告人宅ニ至リタルノミニテ病院ニ来ラスシカモ一泊後再ヒ実家ニ帰レルノミナラス其際被上告人ト同伴シタル其父ハ地方ノ慣習ニ背キテ媒妁人ヲ訪ハサリシカ為メ媒妁人ニ於テ行末ヲ案シ媒妁人タルコトヲ辞スルニ至リタルカ為メ上告人ハ彼是熟考ノ上離縁スルヲ可ナリト思料シ其意ヲ実家ヘ帰宅中ノ被上告人ニ通シタルモノナルコト上告人カ原裁判所ニ陳述シタル所ノ如シ而シテ此事実ハ被上告人ノ認ムル所ニシテ原判決ノ確定シタル所ニ属ス果シテ然ラハ上告人ハ当初ニ於テ婚姻ノ意思ナカリシモノニアラス又中途ニ於テ謂レナク婚姻ノ意思ヲ変更シタルモノニアラス何人ト雖モ此ノ如キ場合ニ際会セハ将来ヲ思念シ適法ノ婚姻手続ヲ為スヘキヤ否ヲ熟慮スヘキハ相当ノ挙措ニシテ遂ニ之ヲ以テ離縁ニ決スルモ亦已ムヲ得サルナリ即上告人カ婚姻手続ヲ断念スルニ至リタルハ相当事由アリタルカ為メニシテ決シテ過失ニヨリテ被上告人ヲ離別シタルモノニアラサルナリ仮ニ上告人カ離別ノ決心ヲ為シタルハ些細ノ事実ニ原因スルト為スモ婚姻予約ニ基キタル事実上夫婦ノ関係ヲ無視シタルカ為メ不法行為ノ責任ナキコト勿論ナルカ故ニ原判決カ些細ノ事実ノ為メニ離別シタルハ過失ナリト為シタルハ如何ナル理由ニヨリ過失アリト為シタルモノナルヤ其意ヲ解スルコト能ハス原判決ハ法律ノ適用ヲ誤リ若シクハ判決ニ理由ヲ付セサル不法アルモノト信スト云フニ在リ
仍テ按スルニ婚姻ノ予約ハ将来ニ於テ適法ナル婚姻ヲ為スヘキコトヲ目的トスル契約ニシテ其契約ハ亦適法ニシテ有効ナリトス法律上之ニ依リ当事者ヲシテ其約旨ニ従ヒ婚姻ヲ為サシムルコトヲ強制スルコトヲ得サルモ当事者ノ一方カ正当ノ理由ナクシテ其約ニ違反シ婚姻ヲ為スコトヲ拒絶シタル場合ニ於テハ其一方ハ相手方カ其約ヲ信シタルカ為メニ被ムリタル有形無形ノ損害ヲ賠償スル責ニ任スヘキモノトス蓋婚姻ハ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ始メテ其効力ヲ生シ其当時ニ於テ当事者ハ婚姻ヲ為スト為ササルトノ意思ノ自由ヲ享有スルヲ以テ当事者カ将来婚姻ヲ為スヘキコトヲ約シタル場合ニ於テモ其約旨ニ従ヒ婚姻ヲ為スコトヲ強ユルコトヲ得ス然レトモ婚姻ヲ為ス当事者ハ其届出以前ニ先ツ将来婚姻ヲ為スヘキコトヲ約シ而シテ後其約ノ実行トシテ届出ヲ為スハ普通ノ事例ニシテ其約ヲ為スコトハ実ニ婚姻成立ノ前提事項ニ属シ固ヨリ法律上正当トシテ是認スル所ナレハ適法ノ行為ナルヤ言ヲ竢タス而シテ其契約ハ当事者カ相互間ニ将来婚姻ノ成立センコトヲ欲シテ誠実ニ之カ実行ヲ期シ其確乎タル信念ニ基キ之ヲ約スヘキモノナルコトハ其契約ノ性質上当ニ然ルヘキ所ナリ従テ既ニ之ヲ約シタルトキハ各当事者ハ之ヲ信シテ相当ナル準備ノ行為ヲ為シ尚ホ進ミテ慣習上婚姻ノ儀式ヲ挙行シ事実上夫婦同様ノ生活ヲ開始スルニ至ルコトアリ斯ノ如キハ婚姻ノ成立スルニ至ルニ相当ナル径路トシテ普通ニ行ハルル事例ニシテ固ヨリ公序良俗ニ反スルコトナク社会ノ通念ニ於テ正当視スル所ナリ然ルニ若シ当事者ノ一方カ正当ノ理由ナクシテ其約ニ違反シ婚姻ヲ為スコトヲ拒絶シタリトセンカ之カ為メニ相手方カ其約ヲ信シテ為シタル準備行為ハ徒労損失ニ帰シ其品位声誉ハ毀損セラルル等有形無形ノ損害ヲ相手方ニ被ラシムルニ至ルコトナシトセス是レ其契約ノ性質上当ニ生スヘキ当事者ノ婚姻成立予期ノ信念ニ反シ其信念ヲ生セシメタル当事者一方ノ違約ニ原因スルモノナレハ其違約者タル一方ハ被害者タル相手方ニ対シ如上有形無形ノ損害ヲ賠償スル責任アルコトハ正義公平ヲ旨トスル社会観念ニ於テ当然トスル所ニシテ法律ノ精神亦之ニ外ナラスト解スヘキヲ以テナリ本件ノ事実ハ原院ノ確定シタル所ニ依レハ要スルニ当事者ハ真ニ婚姻ヲ成立セシムル意思ヲ以テ婚姻ノ予約ヲ為シ之ニ基キ慣習上婚礼ノ式ヲ挙行シタル後上告人ハ正当ノ理由ナクシテ被上告人ヲ離別シ婚姻ヲ為スコトヲ拒絶セリト云フニ在ルヤ判文上明白ナリ是レ畢竟上告人カ当事者間ニ成立シタル婚姻ノ予約ヲ履行セサルモノニ外ナラサレハ之ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ハ違約ヲ原因トシテ請求ヲ為スコトヲ要シ不法行為ヲ原因トシテ請求スヘキモノニ非ス然ルニ本訴請求ハ全ク不法行為ヲ原因トシテ主張シタルモノナルコト記録上明確ニシテ其原因トスル所既ニ失当ナレハ此点ニ於テ棄却スヘキモノトス故ニ原院カ本訴請求ヲ是認シタルハ違法ナルヲ以テ本件上告ハ結局其理由アルニ帰ス依テ爾余ノ論点ニ対シ説明ヲ加フルノ必要ナキヲ以テ之ヲ省キ又本件ハ従来本院ノ判例ニ於テ示シタル見解ト相反スル所アルヲ以テ裁判所構成法第四十九条及ヒ第五十四条ノ規定ニ従ヒ民事ノ総部ヲ聯合シテ審理シ民事訴訟法第四百四十七条第一項第四百五十一条第一号第四百二十四条第七十二条第一項及ヒ第七十七条ノ規定ニ従ヒ主文ノ如ク判決


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主   文
原判決中「其余の控訴人の請求は之を棄却す」とある部分を除き其他を破毀し被上告人の控訴を棄却す
控訴以後の訴訟費用は総て被上告人の負担とす

理   由
上告論旨の第一点は原判決か上告人に過失ありと為したる第一の理由は事実上の婚姻を為したるものは離別せらるへき程度の過失缺点あるにあらされは離別することを得す然るに上告人は些細の事由の下に被上告人を離別したるか故に過失ありと云ふにあり然れとも原判決の所謂離別し得へき程度の過失缺点とは如何なる事項を指称するや不明なるのみならす元来婚姻は戸籍吏に届出てて始めて其効力を生すへきものにして届出前の婚姻若しくは婚姻の予約は法律上無効にして何等の保護を受くへき関係にあらさるなり故に仮令媒妁人ありて事実上の婚姻を為すも未た届出を為ささる以前に於て一方若しくは双方に於て適法の手続を為すことを欲せさるに至りたるときは其事由の如何に関せす法律上之を強要して婚姻を成立せしむへきの途なきこと誠に明白なりとす即婚姻届出を為すや否は全然当事者の自由にして既に事実上の婚姻を為したると否とを問ふへきものにあらさるなり

原判決か既に事実上の婚姻を為したる以上は或程度の過失缺点あるにあらされは之れを離別することを得すと為したるは不当なり加之上告人は不幸にして結婚式後間もなく病院に入院したるにより3日目より実家に帰り居りたる被上告人に之を通知したるに被上告人は上告人宅に至りたるのみにて病院に来らすしかも一泊後再ひ実家に帰れるのみならす其際被上告人と同伴したる其父は地方の慣習に背きて媒妁人を訪はさりしか為め媒妁人に於て行末を案し媒妁人たることを辞するに至りたるか為め上告人は彼是熟考の上離縁するを可なりと思料し其意を実家へ帰宅中の被上告人に通したるものなること上告人か原裁判所に陳述したる所の如し

而して此事実は被上告人の認むる所にして原判決の確定したる所に属す果して然らは上告人は当初に於て婚姻の意思なかりしものにあらす又中途に於て謂れなく婚姻の意思を変更したるものにあらす何人と雖も此の如き場合に際会せは将来を思念し適法の婚姻手続を為すへきや否を熟慮すへきは相当の挙措にして遂に之を以て離縁に決するも亦已むを得さるなり即上告人か婚姻手続を断念するに至りたるは相当事由ありたるか為めにして決して過失によりて被上告人を離別したるものにあらさるなり

仮に上告人か離別の決心を為したるは些細の事実に原因すると為すも婚姻予約に基きたる事実上夫婦の関係を無視したるか為め不法行為の責任なきこと勿論なるか故に原判決か些細の事実の為めに離別したるは過失なりと為したるは如何なる理由により過失ありと為したるものなるや其意を解すること能はす原判決は法律の適用を誤り若しくは判決に理由を付せさる不法あるものと信すと云ふに在り

仍て按するに婚姻の予約は将来に於て適法なる婚姻を為すへきことを目的とする契約にして其契約は亦適法にして有効なりとす法律上之に依り当事者をして其約旨に従ひ婚姻を為さしむることを強制することを得さるも当事者の一方か正当の理由なくして其約に違反し婚姻を為すことを拒絶したる場合に於ては其一方は相手方か其約を信したるか為めに被むりたる有形無形の損害を賠償する責に任すへきものとす蓋婚姻は戸籍吏に届出つるに因りて始めて其効力を生し其当時に於て当事者は婚姻を為すと為ささるとの意思の自由を享有するを以て当事者か将来婚姻を為すへきことを約したる場合に於ても其約旨に従ひ婚姻を為すことを強ゆることを得す

然れとも婚姻を為す当事者は其届出以前に先つ将来婚姻を為すへきことを約し而して後其約の実行として届出を為すは普通の事例にして其約を為すことは実に婚姻成立の前提事項に属し固より法律上正当として是認する所なれは適法の行為なるや言を竢たす而して其契約は当事者か相互間に将来婚姻の成立せんことを欲して誠実に之か実行を期し其確乎たる信念に基き之を約すへきものなることは其契約の性質上当に然るへき所なり従て既に之を約したるときは各当事者は之を信して相当なる準備の行為を為し尚ほ進みて慣習上婚姻の儀式を挙行し事実上夫婦同様の生活を開始するに至ることあり斯の如きは婚姻の成立するに至るに相当なる径路として普通に行はるる事例にして固より公序良俗に反することなく社会の通念に於て正当視する所なり

然るに若し当事者の一方か正当の理由なくして其約に違反し婚姻を為すことを拒絶したりとせんか之か為めに相手方か其約を信して為したる準備行為は徒労損失に帰し其品位声誉は毀損せらるる等有形無形の損害を相手方に被らしむるに至ることなしとせす是れ其契約の性質上当に生すへき当事者の婚姻成立予期の信念に反し其信念を生せしめたる当事者一方の違約に原因するものなれは其違約者たる一方は被害者たる相手方に対し如上有形無形の損害を賠償する責任あることは正義公平を旨とする社会観念に於て当然とする所にして法律の精神亦之に外ならすと解すへきを以てなり本件の事実は原院の確定したる所に依れは要するに当事者は真に婚姻を成立せしむる意思を以て婚姻の予約を為し之に基き慣習上婚礼の式を挙行したる後上告人は正当の理由なくして被上告人を離別し婚姻を為すことを拒絶せりと云ふに在るや判文上明白なり

是れ畢竟上告人か当事者間に成立したる婚姻の予約を履行せさるものに外ならされは之に因りて生したる損害の賠償は違約を原因として請求を為すことを要し不法行為を原因として請求すへきものに非す然るに本訴請求は全く不法行為を原因として主張したるものなること記録上明確にして其原因とする所既に失当なれは此点に於て棄却すへきものとす

故に原院か本訴請求を是認したるは違法なるを以て本件上告は結局其理由あるに帰す依て爾余の論点に対し説明を加ふるの必要なきを以て之を省き又本件は従来本院の判例に於て示したる見解と相反する所あるを以て裁判所構成法第49条及ひ第54条の規定に従ひ民事の総部を聯合して審理し民事訴訟法第447条第1項第451条第一号第424条第72条第1項及ひ第77条の規定に従ひ主文の如く判決す

以上:5,788文字

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