令和 5年 1月12日(木):初稿 |
○上告人が、本訴として、被上告人に対し、離婚を請求するとともに、これに附帯して財産分与の申立てをし、被上告人が、反訴として、上告人に対し、離婚を請求するとともに、これに附帯して財産分与の申立てをしたところ、第1審は、本訴及び反訴の各離婚請求をいずれも認容して、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の全部につき、財産分与についての裁判をし、これに対し、被上告人は財産分与等に関する第1審の判断に不服があるとして控訴をしました。 ○上告人も附帯控訴をしたところ、控訴審は、分与を求める財産のうち上告人及び被上告人が婚姻後に出資して設立した医療法人の持分については、現時点で、上告人の上記医療法人に対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるから、財産分与についての裁判をすることは相当ではないと判断したため、上告人が上告をしました。 ○これに対し、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないとして、本件出資持分につき、財産分与についての裁判をしなかった原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決中、財産分与に関する部分は破棄し、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻した令和4年12月26日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)全文を紹介します。 ******************************************** 主 文 原判決中、財産分与に関する部分を破棄する。 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人○○○○、同○○○○の上告受理申立て理由第1の1及び第2について 1 本件は、上告人が、本訴として、被上告人に対し、離婚を請求するとともに、これに附帯して財産分与の申立てをするなどし、被上告人が、反訴として、上告人に対し、離婚を請求するとともに、これに附帯して財産分与の申立てをするなどした事案である。 2 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。 (1)第1審は、本訴及び反訴の各離婚請求をいずれも認容するなどしたほか、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の全部につき、財産分与についての裁判をした。 上記分与を求める財産には、上告人及び被上告人が婚姻後に出資して設立した医療法人の持分(以下「本件出資持分」という。)が含まれていた。 (2)これに対し、被上告人は財産分与等に関する第1審の判断に不服があるとして控訴をし、上告人は附帯控訴をした。なお、第1審判決中の離婚に関する部分に対しては、不服申立ての対象とされなかった。 3 原審は、本件出資持分は当事者双方が婚姻中にその協力によって得た財産に当たるとしながらも、要旨次のとおり判断して、本件出資持分を除いたその余の財産についてのみ、財産分与についての裁判をした。 上記医療法人が上告人に対して財産の横領等を理由に1億5767万円余の損害賠償を求める訴訟が係属中であること等に照らせば、本件出資持分については、現時点で、上告人の上記医療法人に対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるから、財産分与についての裁判をすることは相当ではない。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 民法は、協議上の離婚に伴う財産分与につき,当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができると規定し(768条2項本文)、この場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めると規定している(同条3項)。そして、これらの規定は、裁判上の離婚について準用されるところ(同法771条)、人事訴訟法32条1項は、裁判所は、申立てにより、離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、財産の分与に関する処分についての裁判をしなければならないと規定している。 このような民法768条3項及び人事訴訟法32条1項の文言からすれば、これらの規定は、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合には、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定しているものというべきであり、民法、人事訴訟法その他の法令中には、上記財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しない。 また、離婚に伴う財産分与の制度は、当事者双方が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配すること等を目的とするものであり、財産分与については、できる限り速やかな解決が求められるものである(民法768条2項ただし書参照)。そして、人事訴訟法32条1項は、家庭裁判所が審判を行うべき事項とされている財産分与につき、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、離婚請求に附帯して申し立てることを認め、両者を同一の訴訟手続内で審理判断し、同時に解決することができるようにしている。 そうすると、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、裁判所が財産分与についての裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないものというべきである。 以上のことからすれば、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当である。 5 以上と異なる見解に立って、本件出資持分につき、財産分与についての裁判をしなかった原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、財産分与に関する部分は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 三浦守 裁判官 草野耕一 裁判官 岡村和美 裁判官 尾島明) 以上:2,732文字
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