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財産分与請求権に基づく分与対象財産占有権原を否認した地裁判決紹介

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令和 4年 8月14日(日):初稿
○原告元夫と被告元妻は、平成6年3月に婚姻届出をし、長男・二男を設け、平成14年に本件不動産を購入し共同生活をするも、平成15年には原告が被告に離婚届を渡す程夫婦仲が悪化し、原告が平成27年4月に実家に戻り別居し同時に離婚訴訟を提起し、平成30年10月に離婚判決が確定していました。

○原告は平成28年6月から米国に赴任し、平成31年3月米国赴任終了で帰国し、一時本件不動産に居住しましたが、令和2年3月以降は実家に居住し、被告元妻は離婚判決確定後も、本件不動産について財産分与調停申立をして、原告の単独名義であったとしても,財産分与の合意成立あるいは審判確定までは,被告にも潜在的持分があるので,被告には本件建物についての占有権原があるとして、居住を継続していました。

○そこで原告が、財産分与請求権に基づく潜在的持分権が占有権原となるとしても,所有者である原告が,本件建物において2畳分の広さしか使用できず,壮絶な嫌がらせを受け,最終的に在宅勤務中に妨害を受けて実家に追いやられたという事案である本件において,被告が占有権原を主張するのは権利の濫用であるとして明渡と月額7万円の賃料相当損害金支払を求めました。

○これに対し、財産分与請求権は,当事者の協議又は審判によって具体的内容が形成されるまでは,その範囲及び内容は不確定なものであり,分与対象財産の占有権原たり得ないとして、原告元夫の主張を全面的に認めて、被告元妻に対し本件不動産明渡と月額7万円の支払を命じた令和3年1月28日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○事案からは、原告元夫に大変気の毒な事情があり、結論は妥当と思われますが、財産分与請求権に基づく分与対象財産の占有権がないと断言するのはちと問題であり、あくまで本件事案での結論と思われます。

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主   文
1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
2 被告は,原告に対し,平成30年10月7日から明渡済みに至るまで,1か月7万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告が,離婚した元配偶者である被告に対し,原告が所有し被告が占有する建物の明渡,及び,離婚判決が確定した日の翌日から明渡済みに至るまでの上記建物の不法占有に係る賃料相当損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)

         (中略)

第3 争点に対する判断
1 争いのない事実等
,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認定できる。
(1)離婚判決が出されるまでの原告と被告の関係等
 原告と被告は,平成6年3月1日に婚姻届出をし,同年○○月○日には長男を,平成13年○月○○日には二男をもうけ,平成14年には本件不動産を購入して本件建物での生活を始めた。しかしながら他方で,原告と被告の関係は,平成15年頃には原告が被告に離婚届を渡すほどに悪化しており,その後も改善しなかった。原告は,平成27年4月1日に実家に戻ることで別居生活に踏み切ると共に,代理人を介して被告に対して離婚を求めた。

 以上の事情から,原告が提起した離婚訴訟において,原告が実家に戻ることで別居を開始した平成27年4月1日頃には婚姻関係は破たんしていたものと認められ,平成30年10月6日に原告と被告との離婚判決が確定した。(以上につき,甲3ないし甲5)

(2)原告と被告の同居の状況及びその後の別居の事情等
ア 原告は,勤務先の事情により離婚訴訟の係属中の平成28年6月からアメリカ合衆国に赴任していたが,平成31年3月に海外赴任が終了したため帰国した。原告は,平成30年10月6日に離婚判決が確定して既に離婚が成立しているので,被告は本件建物の近隣にある実家(鉄骨造陸屋根3階建。各階の床面積89.60平方メートル)に戻ったであろうと考え,自宅である原告名義の本件建物に荷物を発送した。(甲32,甲36)

 しかしながら,被告は,離婚判決確定後も実家に戻ることなく,引き続き子らとともに本件建物に起居していた。被告は,配送された原告の荷物について,運び込もうとした業者に対し「何の荷物ですか」と尋ねるなどした。(甲36,乙1)。

イ 原告が海外赴任から戻った後,原告,被告及び子らの本件建物での同居生活が開始した。被告は,原告のアメリカ合衆国への赴任は家族を捨てて家を出て行ったものであり,本件建物に戻ってきたのは支離滅裂な行為だとして,本件建物の1階(床面積53.82平方メートル)のリビングの一部及び玄関脇の納戸の半分のみを原告のスペースとし,被告や子らの寝室にある2階(床面積42.05平方メートル)には足を踏み入らせなかった。

そのため原告は,1階リビングの1畳程度の場所に自分の荷物を置き,就寝時は同リビングの一部にマットレスを敷いて眠ており,食事,洗濯,入浴,用便等のときに一時的に台所,洗濯機,シャワー,トイレ等を使用するほかは,本件建物を使用できなかった。アメリカ合衆国から配送された原告の荷物は,未だ荷解きされていない。(甲22,甲36,乙1,乙8)

 同居の間,被告は,離婚後本件建物に戻ってきて同居を再開した原告のことを侮辱するのは当然のことであるとして,
〔1〕原告を生理的に嫌悪していることを理由に,原告が触れた物については雑巾で拭くなどしてから使用する,
〔2〕原告のための食事作りや洗濯は行わない,
〔3〕原告が食事を作るために,被告の大切にしている鉄のフライパンを持ち出したのを見て,「私のフライパンを使わないで。死ね。」と言う,
〔4〕被告や子らが使用する歯磨き粉やせっけんを原告が使用することや,原告が洗濯機を使用するために洗濯機の中の被告の衣類等に手を触れることを止めさせようとする,
〔5〕被告が庭で育てていた菊を原告が刈り取ったりリビングの観葉植物を原告が外に出したりしたと主張し,そのことに対して精神の安定を保つためと称して,足ふきマットを原告のパジャマの上に乗せる,
〔6〕原告が深夜に家族のパソコンを開き,パソコン内の被告の情報を勝手にのぞき見したとして,置き忘れられていた原告の眼鏡に「やめよう 盗み読み」などと記載した紙を貼りつける,
〔7〕原告を「ドロボウ」と呼び,「書類をさがしまわるドロボウさんへ 大切な書類は全て よそに預けています」と記載した紙を置く,
〔8〕原告が被告に対して起こした本件訴訟の訴状の写しに「A氏が お母さんに この家から出て行け,と訴訟をおこしました」「父親として子供達への愛情が全くない」などと書き込み,本件建物内のトイレの扉に貼りつける,
〔9〕原告が風呂でシャワーを使用しているときに,台所でお湯を沸かすのに必要であるとの理由で,風呂と台所で共用されている給湯施設の給湯温度を60度にする,
などの行為に出た(甲11ないし甲13,甲16,甲36,乙1,乙2,乙8,原告本人,被告本人)。

ウ 原告は,令和2年3月下旬,新型コロナウイルスの感染予防のため勤務先から在宅勤務を命ぜられたが,情報セキュリティーのために家族にも勤務内容を見せないようにすることや,電話会議などに家族の声が入らないようにすることなどを求められた。しかし,原告が本件建物でパーソナル・コンピューターを使用して在宅勤務を行った際,被告がその画面をのぞき込んだり,電話会議中に家族の声が入るような話し方をしたり,OA機器の電源を落としたりするなどしたため,在宅勤務初日に仕事道具を持って実家に避難した。
 避難後,原告は実家で起居している。本件建物からであれば通勤時間は片道1時間であるが,実家からであれば片道2時間から2時間半を要するため,腰痛のある原告にとっては負担が大きい。(以上につき,甲36,甲49,原告本人)

(3)原告と被告の資産状況等
ア 原告は,平成14年に本件不動産を購入する際,婚姻前の預貯金1600万円を拠出し,5180万円の不動産のローンを組んだ。ローンの返済は原告が一人で行っており,その額は,毎月約14万円,ボーナス月約66万円であり,令和元年7月末時点の残高は約1930万円である。(甲8,甲36,乙8)

 原告は,本件不動産の固定資産税等(年額約17万円),本件建物の光熱費や火災保険料等,本件不動産に係る諸経費を全額支払っている(甲9,甲36,乙8,原告本人)。
 平成28年度の原告の所得金額は約1230万円である(乙6)。
 原告の実家には現在原告の母(83歳)が居住しているが,高齢者には住み辛い環境であるため,原告は実家を売却して母をバリアフリーの住環境に移す予定である(甲49)。

イ 被告は,原告と婚姻する前に給与収入を,原告と婚姻後はパートタイムのアルバイト収入を得ていたほか,被告の父が設立し,被告の弟が継いだ会社から,平成18年1月から平成24年5月までの間,給与収入名義で合計2522万6000円を受け取り,また,原告と別居後は原告から生活費として毎月13万5000円を受け取っていた(甲30,甲35,甲36,乙8,原告本人)。なお,原告は,被告との話合いの結果決まる養育費を支払う用意があり,現在も二男の必要経費を申し出があれば支出している(甲36)。

 被告は,被告の父の死亡により,平成29年11月30日,鉄骨陸屋根3階建て(各床面積89.60平方メートル)の実家の建物とその敷地(139.04平方メートル)を相続し(ただし,その後遺留分減殺請求がなされたことにより,持分は4分の3になっている。),1階と2階を賃貸して月額40万円の賃料収入を得ている(甲31,甲32,乙1,被告本人)。実家の建物の3階には,被告,被告の両親及び被告の弟の4名が居住していたことがあったが,現在は被告の母一人が居住している。(原告本人,被告本人)

ウ 長男は,裁判離婚時既に会社員であり,現在は婚約して本件建物を出て独立した生活を送っている。二男は,裁判離婚時高校2年生であり,令和2年4月から大学に進学しており,令和3年9月には成人する予定である。

2 争点1(本件建物に関する被告の占有権原)について
 被告は,財産分与の合意成立あるいは審判確定までは,被告にも潜在的持分があるので,本件建物について占有権原があると主張する。

 しかしながら,財産分与請求権は,当事者の協議又は審判によって具体的内容が形成されるまでは,その範囲及び内容は不確定なものであり,分与対象財産の占有権原たり得ない。また,本件全証拠によっても,被告が財産分与の対象となる本件建物を離婚後も使用することについて,原告と被告の間で使用貸借契約等の何等かの合意がなされた事実を認定することはできない。

3 争点2(原告の建物明渡請求及び賃料相当損害金支払請求は権利の濫用か)について
 前記1の認定事実によれば,被告は,本件建物の近隣にある実家を相続しており,本件建物以外に無償で住む場所があること,長男は裁判離婚時には社会人になっており,現在は本件建物を出て独立した生活をしており,二男も裁判離婚当時高校2年生で現在は大学に進学し,1年以内には成人することから,被告が子らの養育のために本件建物に起居しなければならない理由はないこと,被告は,婚姻前後の給与等の収入,原告からの婚姻費用,被告の父の設立した会社からの約2500万円の給与名目の収入等を得ているほか,実家の1階及び2階を賃貸していることによる賃料収入(月額約40万円)も得ていること,他方で,原告は,現在実家で起居しているものの,長期間居住できない状況にある上,実家から勤務先への通勤が不便であること,原告は,年間約1230万円の所得金額があるものの,本件不動産のローンや諸経費を全額負担しており,その支払を続けながら,別途居住場所を賃借する経済的余裕はないこと,その他の事情として,被告は,離婚成立後海外赴任から戻ってきた原告を侮辱し,原告への生理的嫌悪感等を理由に,原告を本件建物から追い出そうとするかのような嫌がらせ行為を繰り返し,令和2年3月末には原告の本件建物での在宅勤務及び居住を困難ならせしめたこと,などの事情が認められる。

 以上の事情に鑑みれば,原告と被告の間では財産分与の調停事件が係属中であることを踏まえても,原告の被告に対する本件建物の明渡請求や離婚後から本件建物明渡済みまでの賃料相当損害金請求を,権利の濫用ということはできない。

4 争点3(賃料相当損害金の額)について
 証拠(甲7,甲36,甲47,甲48)及び弁論の全趣旨によれば,大田区αにある地上2階,地下1階の総床面積142.03平方メートルの本件建物の賃料は月額21万円は下らないといえる。前記1の認定事実における被告の占有状況からすれば,被告の占有に係る賃料相当損害金は7万円と認められる。

第4 結論
 よって,原告の請求はいずれも理由があるからいずれも認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部 裁判官 大濱寿美

別紙 物件目録
 所在   大田区α×丁目 ××××番地××
 家屋番号 ××××番××
 種類   居宅
 構造   木・鉄筋コンクリート造スレート葺地下1階付2階建
 床面積  1階 53.82平方メートル
      2階 42.05平方メートル
      地下1階 46.16平方メートル
以上:5,616文字

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