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令和 3年10月20日(水):初稿 |
○「妻と別れて君と結婚するとの誓約書の効力1」に、「妻と別れて君と結婚する」と言う約束は基本的に無効であり、妻には離婚の申し入れもせず家庭を維持したまま他の女性にこのような安易な約束をする男は先ず信用に値しませんと記載していました。 ○ゆくゆくは妻と離婚をし,原告と一緒になりたいと繰り返し述べられたため,被告との交際を開始し,以後,性交渉をするなどの関係を続けたが、被告は原告と結婚するつもりもないのに、原告と結婚をするつもりであると原告を欺罔し,性交渉を持つことだけを目的として交際を継続させたことについて、不法行為として300万円の慰謝料請求をしました。 ○しかし、原告は,被告との交際当時,分別を弁えているはずの22歳の女性であり,被告に妻子がいることを知りつつ,自らの任意の判断により,あえて被告との交際を開始し,交際を継続しているのであるから,仮に被告が原告と性交渉を持つことだけを目的とし,原告に対して甘言を弄していたとしても,これをもって直ちに不法行為に当たるとすることはできないとして請求を棄却した令和元年10月18日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。 ○この女性のような相談はたまにあります。たしかに妻帯者のくせに結婚をエサにして性関係だけ結ぶ男性は、世の中には山のようにいます。これについていちいち不法行為による損害賠償責任を認めたのでは、彼方此方で損害賠償請求だらけになります。裁判になると証拠のない言葉は、必ず言った覚えはないと弁解し、言った言わないの水掛け論は、裁判所はまず認めてくれません。妻帯者のくせに結婚をエサにするような男は信用に値せず、また、損害賠償請求もできないことをシッカリ自覚する必要があります。 ******************************************** 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成30年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,妻子のある被告において,結婚をするつもりがあると原告を欺罔しつつ,性交渉を持つことだけを目的として原告と交際をしたと主張する原告が,被告に対し,不法行為に基づいて,慰謝料300万円及びこれに対する不法行為の後である平成30年1月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実 以下の各事実は,当事者間に争いがない事実等であるか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。 (1)当事者 原告は,平成6年○○月○○日生まれの女性である(記録上明らかな事実,当事者間に争いがない事実)。 被告は,昭和61年○月○日生まれの男性であり,妻と子がいる(記録上明らかな事実,当事者間に争いがない事実)。 (2)原告と被告の交際 原告と被告は,平成27年又は平成28年に同じ事業所で勤務をするようになって知り合い,平成29年9月末頃に性交渉に及び,以後,平成30年1月まで交際を継続した(当事者間に争いがない事実,甲1(2頁),乙3(2頁))。 3 争点及びこれに関する当事者の主張 (1)被告による原告との交際の態様が不法行為に当たるか。 (原告の主張) 原告は,被告から,平成29年9月末頃の性交渉後,配偶者との夫婦関係が破綻し,別居も間近であること,ゆくゆくは配偶者と離婚をし,原告と一緒になりたいと繰り返し述べられたため,被告との交際を開始し,以後,性交渉をするなどの関係を続けた。被告は,原告と結婚をするつもりであると原告を欺罔し,性交渉を持つことだけを目的として交際を継続させたものである。 (被告の主張) 被告が原告に対し,殊更に被告との婚姻を期待させるような言動をした事実はない。被告が原告に対し,配偶者との婚姻生活の不満を述べたことはあったかもしれないが,それ故に原告の婚姻に対する期待が高まったとしても,同期待を法的に保護すべきとするだけの特別な事情はない。 (2)損害 (原告の主張) 原告は,被告との交際関係を婚姻関係に発展させるべく真摯に被告と向き合ってきたが,被告の不法行為により精神的苦痛を受け,摂食障害,生理不順等の身体の異変を来すに至り,現在,仕事を休みながら投薬治療を続けている。このような原告の精神的苦痛及び身体的異変を慰謝するための額は,300万円を下らない。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という。),後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (1)原告は,平成27年又は平成28年,被告がリーダーを務めていた事業所に赴任することにより,被告と知り合った。原告は,被告に妻と子がいることを認識していた。(前提事実(2),甲1(2,3頁),原告本人(調書3~5頁),被告本人(調書1頁)) (2)原告と被告は,平成29年9月末頃,αにおいて,被告を含めた事業所の同僚,取引先会社の従業員らと飲食をした。原告は,同飲食の後,被告からラブホテルに行こうと誘われると,誘われるがまま,これに応じた。原告は,同ラブホテル内において,被告からの性交渉の求めに対し,いったんこれを断ったが,翌朝,これを受け入れ,被告と性交渉に及んだ。(当事者間に争いがない事実,甲1(2,3頁),乙3(1,2頁),原告本人(調書3,4,14~19,24,25頁),被告本人(調書2,4,12,13,19頁)) (3)原告と被告は,以後,2週間に1回程度の頻度で,一人暮らしをしている原告宅を被告が訪れ,性交渉をするなどし,交際を継続した。 このような交際を続ける中,被告は,妻の生活態度について不満を述べ,妻と離婚をしたいと述べることもあり,原告において,被告との交際を続けるにつき被告の妻の存在を指摘することもあった。もっとも,原告は,平成30年12月頃になると,被告に対し,妻との離婚を求めるようになり,更に,被告との交際を被告の妻又は就業先に告げると述べるようになった。 (以上につき,当事者間に争いがない事実,甲1(4頁),甲3の2(1,5,8頁),甲4の2(2頁),甲5の2(1,2頁),乙3(2,3頁),原告本人(調書5,6,9,10,19~21,26頁),被告本人(調書5~8,14頁)) (4)被告は,平成30年1月,原告に対し,交際の解消を申入れ,結局,原告と被告の交際は終了した(甲1(4頁),乙3(2,3頁),被告本人(調書6,7,19頁))。 2 争点(1)(被告による原告との交際の態様が不法行為に当たるか。)について 前記1の認定事実(以下「認定事実」という。)(1)及び(2)のとおり,原告は,勤務先の先輩であった被告に妻子がいることを認識しつつ,被告から誘われるままにラブホテルに赴き,被告と性交渉に及んだ上,認定事実(3)及び(4)のとおり,原告は,これを契機として,平成30年1月までの3か月程度の間,被告と交際を継続したところ,その中で,被告から,妻と離婚をしたいなどと言われ,そのことに期待を寄せていたことが認められる。 しかし,認定事実(2)及び(3)で認定した,原告と被告の間で初めての性交渉に及んだ経緯,及びその後に開始され,3か月程度で解消された交際の推移をみても,これらの状況は,一般的な不貞関係に及ぶ男女の交際におけるそれと異なるところはなく,このような不貞関係を続ける中で被告から妻と離婚をしたいという発言があったからといって,同発言をそのまま信じるか否かは,被告との交際当時,分別を弁えているはずの22歳の女性であった原告(前提事実(1))の任意の判断によるべきものというほかない。 原告との交際中の被告による具体的な言動において,被告と交際を始めるか否か,交際を継続するか否かについての原告の合理的な判断を著しく困難とするような言動,すなわち,不貞関係を続ける当事者間においてなお社会的相当性を逸脱すると評価することができるような言動があったとは認められない。また,被告の言動により生じた原告の期待は,不貞関係を続ける上での主観的な期待にすぎず,その内容も,不貞の相手である被告の家庭の崩壊を期待するものにほかならないから,そのような期待をもって法的保護に値するということもできない。 この点,原告は,被告から,平成29年9月末頃の性交渉の後,配偶者との夫婦関係が破綻し,別居も間近であること,ゆくゆくは配偶者と離婚をし,原告と一緒になりたいと繰り返し述べられたため,被告との交際を開始し,以後、性交渉をするなどの関係を続けたのであり,被告の行為は,原告と結婚をするつもりであると原告を欺罔し,性交渉を持つことだけを目的として交際を継続させたものであると主張する。 しかし,原告の陳述(甲1)及び供述(原告本人)をもってしても,被告が原告に対し,妻との婚姻関係が破綻した状況にあり,別居も間近であると述べた事実は認められないし,原告を騙したと評価することができるような具体的な言動も認められない。上述のとおり,原告は,被告との交際当時,分別を弁えているはずの22歳の女性であり,被告に妻子がいることを知りつつ,自らの任意の判断により,あえて被告との交際を開始し,交際を継続しているのであるから,仮に被告が原告と性交渉を持つことだけを目的とし,原告に対して甘言を弄していたとしても,これをもって直ちに不法行為に当たるとすることはできない。 そうすると,原告との交際における被告の言動をもって,不法行為に当たるということはできない。 3 よって,原告の請求は,争点(2)(損害)について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第49部 裁判官 松本真 以上:4,083文字
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