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配偶者多額解決金支払合意にも拘わらず慰謝料支払を認めた地裁判決紹介

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令和 3年 7月12日(月):初稿
○「配偶者慰謝料支払を理由に不貞第三者への請求を棄却した地裁判決紹介2」の続きで、同種不貞行為慰謝料請求事件ですが、驚くべき判例として令和元年9月19日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

○「配偶者慰謝料支払を理由に不貞第三者への請求を棄却した地裁判決紹介2」では、被告は不貞行為自体を争いましたが、少なくとも平成28年3月頃から4月頃にかけて,継続的に不貞関係にあったと認め、それによる慰謝料は150万円が相当として、ただし、原告の配偶者が300万円相当の支払を済ませて、300万円の範囲で清算され、被告の慰謝料支払義務は消滅したと認定しました。

○令和元年9月19日東京地裁判決は、平成26年8月頃から同年の年末頃まで不貞行為があったことには争いがありませんが、被告は婚姻破綻の抗弁を主張していたところ、「配偶者慰謝料支払を理由に不貞第三者への請求を棄却した地裁判決紹介2」と同様、不貞行為の慰謝料は150万円が相当としました。

○原告とその元配偶者(漫画家、元配偶者は、パパ(原告)との表現からは妻と思われるが、他の記述からは夫とも思われ、いずれか不明)は、元配偶者の不貞行為を理由に離婚に至り、元配偶者は原告に対し、離婚に伴う解決金として4000万円の支払義務を認め、頭金として1500万円、その後月額30万円の分割支払を約して、実行しています。原告は、解決金として4000万円もの大金を受領する以上、150万円相当の慰謝料も清算済みと思われます。

○しかし、東京地裁判決は、原告と元配偶者の離婚合意書の第6項に,離婚に関する口外禁止を定め、ただし書きとして「甲(原告)が,本件離婚に関し,乙(元配偶者)以外の自然人や法人に対し慰謝料などの請求をする場合はその限りではない。」との確認がされていることを理由に、被告の慰謝料支払義務は未精算として、150万円の半分75万円の支払義務を認めました。

○慰謝料請求額が1000万円という通常の請求相場(300~500万円)を遙かに超える金額の請求であることを考慮したのかも知れませんが、不貞問題は本来夫婦間の問題であり、元配偶者が解決金として4000万円も支払合意をしているのに、さらに不貞行為第三者への慰謝料支払義務を認めているのには、いまだこんな判例があるのかと、驚きました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,75万円及びこれに対する平成30年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成30年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の配偶者と不貞行為に及んだことにより婚姻関係が破綻し,多大な精神的苦痛及び経済的損失を被ったとして,不法行為損害賠償請求権に基づき,1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(括弧内記載の証拠等により容易に認定できる事実。特段の記載のない限り証拠は枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)原告は,平成22年頃に,漫画家であるC(以下「C」という。)と交際を開始し,平成23年頃に同棲を始め,平成25年1月11日に婚姻した。なお,Cには子がいるが,原告との間で養子縁組はされていない。(甲3,弁論の全趣旨)

(2)被告は,株式会社小学館の従業員である。Cとは、平成26年8月2日頃に同社の編集者を介して知合い,その後遅くとも同年の年末頃までには不貞行為を有するに至った。(甲1ないし3,弁論の全趣旨)

(3)原告は,平成27年6月初旬頃,Cと被告との不貞関係を知るに至った。Cは,いったんは被告との関係を解消することを原告に約したものの,不貞関係が解消されることはなく,同月8日頃までの間にその事実が原告に発覚した後も同様の状況であった。(甲1ないし3,原告本人,弁論の全趣旨)

(4)原告は,同年8月頃にCと別居するに至り,平成29年3月27日に協議離婚した。(甲3,乙2,原告本人,弁論の全趣旨)

(5)原告とCは,離婚に際し,以下の内容を含む合意書(以下「離婚合意書」という。)を作成した。(乙2)
ア Cは,原告に対し,離婚に伴う解決金として4000万円の支払義務があることを認める(以下,当該解決金を単に「離婚解決金」という。)。
イ Cは,離婚解決金を,平成29年3月31日限り1500万円,その後は月額30万円(ただし,最終回は10万円)に分割して支払う。

(6)離婚解決金は,前項イのとおりに支払が行われている。(原告本人,弁論の全趣旨)

3 争点
(1)破綻の抗弁の成否
(2)損害賠償額
(3)離婚解決金の支払による被告の損害賠償義務の減免の有無

4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(破綻の抗弁の成否)について
(被告の主張)
 原告とCとの婚姻関係は,遅くとも平成26年の年末頃には,原告が,婚姻当初から正当な理由なく性交渉を拒否し,家事を十分に担わず家計収入にも貢献しないことやCの子との不和などが原因で既に破綻していた。よって,その頃以降にCと不貞関係を有するに至ったとしても,原告に対して不法行為による損害賠償責任を負うことはない。

(原告の主張)
 原告とCとの婚姻関係が破綻したのは被告との不貞行為が原因であり,不貞の事実が発覚するまでは,婚姻関係は良好な状態にあった。

(2)争点(2)(損害賠償額)について
(原告の主張)
 被告がCと不貞行為に及んだことにより原告とCとの婚姻関係が破綻し,Cの子を含めた良好な家族生活が失われ,多大な精神的苦痛を被った。また,Cの年収は1億5000万円を超えており,婚姻関係の破綻により原告が被った経済的損失も極めて大きい。精神的苦痛を慰謝し,経済的損失を回復するには少なくとも1000万円の損害賠償義務が認められるべきである。

(被告の主張)
 仮に,平成26年の年末時点で原告とCとの婚姻関係が破綻していなかったとしても,少なくとも決して円満なものではなかった。婚姻期間は短く,原告らの間には子がいない。以上に照らすと,慰謝料額が50万円を超えることはない。なお,Cの収入は原告が主張するような金額ではないと思われる。

(3)争点(3)(離婚解決金の支払による被告の損害賠償義務の減免の有無)について
(被告の主張)
 原告には4000万円の離婚解決金が支払われるが,婚姻中の夫婦共有財産の形成に対する原告の寄与度を考慮すると,そのうちの財産分与に相当する金額はせいぜい2000万円程度であり,残りの2000万円は慰謝料としての意味合いを有している。本件で不法行為が成立するとしても慰謝料額は50万円を上回るものではないから,共同不法行為者であるCが離婚解決金を支払ったことにより,本件の不法行為にかかる損害賠償債務は被告の負担部分も含めてすべて消滅している。

(原告の主張)
 離婚合意書では,原告がC以外の第三者に慰謝料を請求することが許容されているのであり,離婚解決金には被告が負担すべき部分の支払は含まれていない。本件の不貞行為によりCと被告が共同責任を負う慰謝料の支払義務のうち,Cが負担すべき部分については離婚合意書により解決済みであるので,本件では,残余の被告負担部分を請求している。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(破綻の抗弁の成否)について
 被告は,遅くとも平成26年の年末頃には,セックスレスなどが原因で原告とCとの婚姻関係は既に破綻していた旨主張する。この点確かに,Cは,原告との性交渉に関して強い不満を抱き続けていたことが認められる(甲1,2)。しかしながら,そのような不満は平成25年1月に婚姻する前から有していたものである様子がうかがえるのであり(甲2の1の14頁,15頁等),婚姻から2年を経たずして,このような不満が原因で夫婦の信頼関係がたちまち失われたとは認め難い。

平成27年6月8日の原告とCの会話の様子(甲1の1)を見てみても,Cは「離婚」や「家を出る」などの言葉を口にはしているものの,他方で,「パパ(原告)が素直になんない限り,もう無理だ」などと,修復の余地を残すような発言もあるなど,同日時点において,夫婦としての信頼関係が完全に失われているとまでは見受けられないし,何より,実際に原告とCが別居するに至ったのは同年8月になってからのことである。以上からすると,平成26年の年末の時点で原告とCの婚姻関係が破綻していたとは認められない。他に的確な証拠はなく,被告の主張は採用できない。

2 争点(2)(損害賠償額)について
 婚姻前のものを含めた原告とCの同居の期間や,前提事実記載の本件の経緯に照らすと,本件の不貞行為発覚を契機に同人らの婚姻関係が破綻し,離婚するに至ったと認められる一方で,Cが被告との不貞行為に及んだ理由が,原告との性交渉に関する強い不満が一向に解消されなかったことなどにあること(甲1,2)など,本件に現れた一切の事情を考慮し,本件不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,150万円をもって相当と認める。なお,原告は,多額の経済的損失を被ったとも主張するが,これを本件不法行為と相当因果関係のある損害として認めるに足りる具体的な主張・立証はなく,採用できない。

3 争点(3)(離婚解決金の支払による被告の損害賠償義務の減免の有無)について
(1)被告は,共同不法行為者であるCが離婚解決金を支払ったことにより,本件不法行為にかかる損害賠償債務は被告の負担部分を含めてすべて消滅したと主張する。しかしながら,離婚合意書では離婚解決金の内訳等は示されていないし,Cは,離婚合意書作成に際し,原告から被告に対する不貞慰謝料の請求を許容し(原告本人),離婚合意書の第6項では,離婚に関する口外禁止を定めるとともに,ただし書きとして,「甲(原告)が,本件離婚に関し,乙(C)以外の自然人や法人に対し慰謝料などの請求をする場合はその限りではない。」との確認がされていることからすると,Cによる離婚解決金の支払は,本件不法行為にかかる損害賠償債務のうちの被告負担部分の支払をも含める趣旨のものではないというべきである。被告の主張は採用できない。

(2)そこで,被告が負うべき損害賠償額を検討するに,Cの負担部分については離婚合意書により解決済みであることは原告も認めており,この点に当事者間に争いはない。ここで,離婚合意書には離婚解決金の内訳等の明示はないが,Cは,原告から被告への慰謝料の請求に関し,「煮るなり焼くなり好きにしろ」などと述べていること(原告本人)などからすると,Cにおいて,被告と共同で負うべき損害賠償債務のうち,その2分の1を超えて支払う意思があったものとは認め難い。そうすると,Cは,自己の負担分として前記に検討した150万円のうち75万円を支払ったものと認めるのが相当であり,被告は,その残余の75万円の支払義務を負う。

4 まとめ
 以上の次第であるから,原告の請求は,被告に対し,75万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成30年6月19日)以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

第4 結語
 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部 裁判官 齊藤学
以上:4,789文字

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