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配偶者慰謝料支払を理由に不貞第三者への請求を棄却した地裁判決紹介2

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令和 2年12月23日(水):初稿
○不貞行為配偶者が、他方配偶者に不貞行為慰謝料を支払った場合の不貞行為第三者責任について判断をした裁判例を探しています。原告夫が、元妻Aと不貞行為をした不貞行為第三者の男性に250万円の慰謝料請求をしました。

○これについて、不貞行為第三者の慰謝料は150万円であるところ、不貞行為をした元妻が原告夫に300万円相当の慰謝料を支払済みと評価できるので、不貞行為第三者の慰謝料支払義務は消滅していると判断した令和元年9月4日東京地裁判決(ウエストロージャパン)を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,250万円及びこれに対する平成29年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の元妻であるA(以下「A」という。)と不貞行為に及んだとして,不法行為に基づき,慰謝料250万円及びこれに対する平成29年9月17日(不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,昭和49年生まれの男性であり,新聞記者をしている。
 Aは,昭和54年生まれの女性であり,小学校の教員をしている。
 被告は,昭和42年生まれの男性であり,小学校の教員をしている。
 被告は,平成20年頃から平成24年頃まで,Aと同じ職場で勤務をしていた。(甲1,乙3)

(2) 原告とAは,平成21年3月14日,婚姻した。(甲1)

(3) 原告とAは,平成28年12月28日,協議離婚した。(甲9)

2 争点及び当事者の主張
(1) 被告とAが継続的に不貞関係にあったか
         (中略)
(2) 原告の損害
         (中略)
(3) 原告とAとの離婚に伴う合意により被告の原告に対する損害賠償債務が消滅したか
         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 証拠(後掲各証拠。枝番のあるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告及びAは,平成22年5月頃,東京都荒川区の土地及び建物(本件不動産)を自宅として購入した。この際,原告及びAは,本件不動産の共有持分を,原告が3分の2,Aが3分の1と設定するとともに,両名を連帯債務者として,中央労働金庫等から計4000万円の借入れを行い,本件不動産に同額の共同抵当を設定した。(乙1,2)

(2) 原告は,平成25年8月頃から平成28年4月頃まで,勤務先会社の名古屋支社に勤務しており,自宅を離れて単身赴任をしていた。(原告本人)

(3) 平成26年3月31日22時を過ぎた後,原告は,Aにあらかじめ伝えることなく自宅に帰ると,2階のリビングに被告がいた。原告が被告に名刺を求めると,被告はこれに応じて原告に名刺を渡した。その後,原告が被告に退出を促すと,被告はそのまま退出した。
 原告は,被告が退出した後,Aに対し,「もうこんなことはやめてくれ」などと伝えたものの,この件についてそれ以上詳しい話をしなかった。(原告本人,被告本人)

(4) Aは,平成28年3月頃,友人との間で,原告以外の男性と性交渉を伴う関係にあることを前提としたLINEのやりとりをしていた。(甲3)

(5) 原告は,平成28年4月終わり頃,単身赴任を終えて自宅に戻った。それからすぐ,原告は,Aの携帯電話を見た際,上記(4)のLINEのやりとりの履歴を目にし,Aを追及したところ,Aは,被告と不貞関係にあることを認めた。(原告本人)

(6) 原告とAは,その後,双方の代理人を通じて離婚に向けた協議を行い,同年12月28日,以下の各条項がある離婚協議書(以下,「本件離婚協議書」といい,これによる合意を「本件合意」という。)を交わして,協議離婚した。(甲9)
 「第3条(謝罪・慰謝料)
1 乙は,甲との婚姻期間中における,Y氏との不貞関係を認めて,甲に謝罪する(判決注:「甲」は原告を,「乙」はAを指す。以下同じ。)。
2 乙は,前項の損害賠償(慰謝料)として,甲に対し,不法行為に基づく損害賠償債務(不真正連帯債務)のうち,乙の負担部分が300万円存在することを認める。
3 甲は,上記Y氏に対しては,同人の負担部分についての損害賠償(慰謝料)のみを請求することとし,上記Y氏から乙に対し求償権が行使されないよう配慮する。
第4条(自宅の所有権及び住宅ローン)
1 乙は,甲に対し,本件離婚による財産分与として,その共有持分を有する下記不動産(判決注:本件不動産を指す。)を譲渡し,同不動産について甲のために財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする義務のあることを認める。
2 本件不動産の購入資金として甲及び乙が借り受けた借入金債務の平成28年12月24日現在の残債務金2707万0291円は,甲が支払うこととする。
3 乙は,前項の借入金が弁済されたとき,または,乙が同債務について連帯債務者及び連帯保証人の地位から免責されたときは,甲に対し,財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする。登記手続費用は,甲の負担とする。
 (以下省略)
第5条(放棄)
 甲は,前条の所有権移転登記手続が完了されることを条件として,第3条2項の慰謝料請求権を放棄する。
第8条(清算条項)
 甲及び乙は,本離婚協議書に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。」

(7) 原告は,平成28年9月2日,被告に対し,被告とAの不貞行為によって被った精神的苦痛に対する損害賠償として300万円の支払を求める通知書を送付し,以降,原告と被告は,双方の代理人を通じて和解交渉を行った。その後,被告は,平成29年1月6日付けで,原告に対し,「A様は,先進的な指導ができるため,これまで仕事の相談相手でありました。しかし,それ以上となった誤った行為の愚かさと責任の重さを悔いています。」,「自分の行為がどんなに謝っても許されることではないと,十分承知しております。」との内容を含む直筆の手紙を交付したり,同年4月21日付けで,Aと「不適切な関係になったことを認め,謝罪する内容の条項を含む「合意書(案)」を交付したりした。(甲2,7,8)

(8) Aは,平成29年8月31日,原告に対し,Aが有する本件不動産の共有持分(3分の1)について,同年1月8日財産分与を原因とする持分全部移転登記手続をした。
 他方,原告は,同日,Aの本件不動産の購入資金に係る借入金債務(本件離婚協議書第4条2項)につき免責的債務引受をし,その旨の抵当権変更登記手続をした。(乙1,2)

(9) 本件不動産の査定額(平成31年時点)につき,原告は4727万円と算定した報告書を,被告は5621万3000円と算定した報告書を,それぞれ証拠として提出している。(甲12,乙4)

2 争点(1)について(被告とAが継続的に不貞関係にあったか)
(1) 前記1の認定事実によれば,Aは,平成28年3月頃,友人との間で,不貞相手があることを前提としたLINEのやりとりをしていたこと(前記1(4)),原告が,同年4月終わり頃,このLINEの履歴を見てAを追及したところ,Aは不貞の事実を認めたこと(前記1(5))が認められ,これらによれば,Aは,少なくとも上記の間,男性と不貞関係にあったと認められる。そして,被告は,平成26年3月31日の夜遅く,原告不在の間にAの自宅を訪問し,滞在していたのであり(前記1(3)),被告とAがこの頃においても親密な関係にあったことが推認される上,Aは,本件離婚協議書において,被告と不貞関係にあったことを認めており(前記1(6)),Aが敢えて事実に反する内容を認めたと疑う理由も特段見当たらず,被告も,その後,原告に対し,Aと仕事上の関係を超え,「どんなに謝っても許され」ない行為に及んでいたことを謝罪する内容の手紙等を交付しているのであり(前記1(7)),これらからすれば,Aの不貞相手は被告であり,被告とAは,少なくとも平成28年3月頃から4月頃にかけて,継続的に不貞関係にあったものと認められる。

(2) 被告は,平成26年3月31日は,仕事上の相談(電子情報端末の利用に関する相談)のためにAを訪ねていたにすぎない旨を主張し,被告本人もこれに沿う供述をするが,当時既に職場を異にしていて,既婚者であるAの自宅を,わざわざ夜遅くに訪ねて相談しなければならないような事情であるとはにわかに考え難く,被告において緊急の対応を要する状況にあったと認めるに足りる証拠もないから,仮に,被告がAの自宅を訪問する際,被告が主張するような目的を有していたとしても,被告とAがこの頃においても親密な関係にあったとの推認を覆すには足りず,上記認定を左右しない。

(3) 一方,原告は,被告とAは,遅くとも平成26年頃から不貞行為を継続していた旨を主張する。しかし,前記1(3)で認定したとおり,平成26年3月31日,被告は,帰宅した原告と鉢合わせになった後,そのまま退出しており,原告も,被告が退出した後,Aに対してこの件を咎めたものの,それ以上詳しい話をしなかったというのであるから,この日に被告とAが不貞行為に及んだとも,原告がAから被告とAの関係について具体的に聴取したとも認められない(なお,原告が帰宅した際のAの着衣については,具体的に認定するに足りる証拠がない。)。また,平成23年頃に撮影された写真(甲5)には,被告とAが一緒に写っているものの,被告とAが同じ職場で勤務していた時期に第三者が撮影したものとみられ,これをもって平成26年頃から被告とAが継続的に不貞関係にあったことが推認されるとはいえないし,平成26年頃から平成28年3月頃までの間の被告とAの関係を示す証拠もない。そうすると,被告とAが平成26年頃から平成28年3月頃までの間も継続的に不貞関係にあったとまで認めることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。

(4) 以上から,被告とAは,少なくとも平成28年3月頃から4月頃にかけて,継続的に不貞関係にあったものと認められ,かかる両者の行為は,原告に対する不法行為を構成する(以下,被告とAが継続的に不貞関係にあったことを「本件不法行為」という。)。

3 争点(2)について(原告の損害)
 前記2でみたとおり,被告とAは,原告にその親密な関係が一度発覚していたにもかかわらず,それから2年近く経った後,原告の単身赴任中に継続的に不貞関係にあったものであり,その結果,原告とAとの間の約7年にわたる婚姻関係は破綻し,両者は離婚するに至ったものである。他方,被告とAの不貞関係が継続していたと証拠上認定できるのは数か月間にとどまり,原告とAとの間に子はない。これらの事情を含め,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,被告とAの本件不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰藉するための慰謝料(本件不法行為に基づく損害賠償債務)は,150万円が相当である。

4 争点(3)について(原告とAとの離婚に伴う合意により被告の原告に対する損害賠償債務が消滅したか)
(1)
ア 前記第2の1の前提事実及び前記1の認定事実によれば,本件不動産は,原告とAが婚姻後に取得したものであるから(前記第2の1(2),前記1(1)),両者の共有財産であると推定され,その査定額(前記1(9)。平成31年時点のものであるが,本件合意時点においてこれと有意に異なっていたことを認めるに足りる証拠はない。)から購入資金に係る借入金債務の残額(前記1(6)・第4条2項)を控除した実質的価値は,2000万円から2900万円程度であったところ,原告とAは,本件離婚協議書により,原告が(Aとの連帯債務であった)本件不動産の購入資金に係る借入金債務を支払うこととして,Aの債務を免責するための手続をする一方で,Aが原告に対して本件不動産の共有持分(3分の1)を譲渡することとして,その所有権移転登記手続をし,これらが完了した場合には,原告がAに対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権のうち300万円を放棄する旨を合意し(本件合意)(前記1(6)),それぞれが定められた手続を完了したこと(前記1(8))が認められる。

 この点,原告が,清算的財産分与としてAから本件不動産の共有持分の譲渡を受けてその全部を取得するのであれば,Aに対して本件不動産の実質的価値の2分の1程度に相当する額の清算金の支払を要することとなっていたものと見込まれるところ,上記のとおり,原告は,本件合意に基づいて,Aから本件不動産の共有持分の譲渡を受けてその全部を取得したものの,本件不法行為に基づく損害賠償請求権のうち300万円を放棄するだけで,何らの清算金等の支払を要することはなかったものである。このようなことからすれば,原告は,本件不動産を取得することで300万円を優に超える経済的利益を得,これによりAに対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権のうち300万円について実質的な満足を得たと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。

 そうすると,原告とAは,本件合意により,Aの原告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債務のうち300万円について,その支払に代えてAが原告に本件不動産の共有持分を譲渡し,清算することとしたものとみるのが相当であり,Aの原告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債務は,原告とAのそれぞれが本件合意で定められた手続を完了したことにより,300万円の範囲で清算され,消滅したといえる。

イ そして,前記3でみたとおり,本件不法行為に基づく損害賠償債務は150万円が相当であり,300万円を超えないから,Aの原告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債務は全て清算され,消滅したというべきであり,そうである以上,これと不真正連帯債務の関係にある被告の原告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債務も全て清算され,消滅したものといわなければならない(なお,本件離婚協議書の第3条2項は,本件不法行為に基づく損害賠償債務のうちAの負担部分が300万円存在するとの記載となっており,第3条3項も,原告が被告に対してその負担部分につき別途請求することを前提とした記載となっているが(前記1(6)),原告とAが300万円という金額を清算の対象としたことは条項上明確であるし,前記アでみたとおり,原告はAに対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権のうち300万円について実質的な満足を得たとみるべきである以上,本件離婚協議書中の上記各記載によって,清算の範囲に係る上記の評価は左右されない。)。

(2) これに対し,原告は,原告とAは,婚姻中,Aより原告の支出が圧倒的に多い状況にあったことの清算を含め,本件不動産の共有持分を譲渡する内容の財産分与を行ったものであり,300万円という慰謝料額は,数字の上でも不貞行為の責任を認めることとするための名目上のものであって,原告には実質的な利益は生じていないから,原告とAとの財産分与によって被告の原告に対する損害賠償債務が消滅することはない旨を主張する。原告本人の供述にも,本件不動産の代金は全て婚姻前に貯めていた原告の貯金から支払っていたことや,A名義の多額の貯金が存在していたこと,婚姻中の生活費等の支払も全て原告が行っていたこと等を踏まえて,原告が本件不動産を取得することになったとして,原告の主張に沿う内容を述べている部分がある。

 しかし,原告本人が述べるような原告及びAの財産状況や,婚姻中の生活費の支出状況等を裏付ける証拠はなく,かえって,本件離婚協議書においては,清算の対象として,本件不動産の所有権とその購入資金に係る借入金債務のほかは,原告のAに対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権しか明記されておらず(前記1(6)),本件合意の前提として原告本人が述べるような事項が考慮されたことをうかがい知ることはできない上,原告本人がA名義の貯金を「裁判に備えて見た」ところ「六,七,八百万だと記憶して」いる旨を述べている部分は,本件合意に至る交渉過程で,Aとの間で同人名義の貯金の存在及び具体的な金額を確認,共有していなかったことを前提にしているものとみられ,A名義の多額の貯金の存在も踏まえて原告が本件不動産を取得することになったという上記供述部分との整合性に疑問を生じさせるものであり,これらからすれば,原告本人の供述を直ちに信用することは困難である。そうである以上,原告がAに対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権のうち300万円について実質的な満足を得たとの推認を覆す事情は認められず,原告とAが,本件合意において,本件不法行為に基づく損害賠償債務の存在を実質的に考慮しなかったとみることはできないから,前記(1)イのとおり,被告の原告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債務も全て清算され,消滅したものといわなければならない。
 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

5 結論
 以上によれば,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第48部 (裁判官 鈴木友一)
以上:7,181文字

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