令和 3年 4月21日(水):初稿 |
○離婚事件の財産分与が争点となっている事例で、親族所有地に建てられた敷地利用権が使用貸借の建物の評価について判断した裁判例を探していますが、なかなか見つかりません。 ○夫の母所有の土地上に立つ建物(夫持分10分の8)の敷地利用権について、いずれ土地について相続が発生すれば夫の特有財産になると考えられるから敷地利用権を夫婦共有財産として考慮に入れることはできないとした平成16年6月23日東京地裁判決(ウエストロージャパン)の財産分与関連部分を紹介します。 ○なお、離婚に伴う財産分与において、夫に対し、離婚判決確定後に支給されるべき厚生年金の10分の3に相当する金員の支払が命じられた点も注目です。 ********************************************* 主 文 1 原告と被告とを離婚する。 2 原告は、被告に対し、金3027万3429円を支払え。 3 原告から被告に対し、別紙物件目録記載の土地建物の原告持分2分の1を分与する。 4 原告と被告との間において、上記土地建物を担保とする別紙債務目録記載の債務を原告に負担させる。 5 原告は、被告に対し、本件離婚判決が確定した日以降において、a厚生年金基金から厚生年金を支給されたときは、当該支給にかかる金額の10分の3に相当する金員を、当該支給がされた日が属する月の末日までに支払え。 6 原告のその余の請求を棄却する。 7 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1) 主文第1項と同旨 (2) 被告は、原告に対し、金200万円を支払え。 (3) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 (3) 予備的財産分与の申立 原告による離婚請求が認容された場合には、原告から被告に対する相応の財産分与を求める。 第2 事案の概要 1 本件は、原告(夫)が、カナダに居住する被告(妻)が原告の要請にも応ぜず同居を拒否したことは悪意の遺棄(民法770条1項2号)に該当すると主張して、被告との離婚と慰謝料200万円の支払を求めたのに対して、被告は、離婚原因は存在しないと主張して請求棄却の判決を求め、仮に原告の離婚請求が認められた場合には原告から被告に対して財産分与をすることを求めた事案である。 2 前提事実(括弧書きした証拠及び弁論の全趣旨により認められる。) (中略) 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲4、5、10ないし12、14、15、乙6、9、10ないし12、原告、被告のほか認定事実中に括弧書きした証拠)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (中略) 4 財産分与について (1) 被告は、予備的申立として、原告の離婚請求が認められた場合には、相応の財産分与を求めている。以下、算定基礎となる夫婦共有財産について検討する。 なお、財産分与の法的性質については、被告が主張するように、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配し(夫婦財産の消算)、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかること(離婚後の扶養)を目的とし、さらに、当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであるから、有責行為により離婚に至らしめたことについての損害賠償のための給付(慰謝料)も含むものと解すべきである。 しかしながら、本件離婚に至る経緯については、前記のとおり、一方から他方に対する慰謝料を認める程度に原告と被告のいずれか一方に有責性があるとは認められないのであるから、本件の財産分与にあたって慰謝料の要素を考慮することは相当ではない。また、離婚後の扶養については、夫婦財産の清算では離婚後の配偶者の保護が十分でない場合に、当事者の能力・資力など一切の事情を考慮して補充的に認められるものと解すべきであるから、夫婦財産の清算が十分になされるのであれば、必ずしも考慮すべきものではない。 後記のとおり、原告から被告に対しては、生活の本拠たる本件不動産のほかに、一時金として3000万円余り、分割金として原告が受給する厚生年金の10分の3を財産分与すべきであると認められるから、これらにより、被告の生活が困窮するとは考えられないことから、被告が専業主婦であり、職業的キャリアを積む機会を持たなかったことなどの事情があるとしても、財産分与にあたって離婚後の扶養を特に考慮すべきとは考えられない。 また、分与の割合については、夫婦共有財産の形成は主に原告の収入によるものと考えられるが、被告は、専業主婦であるとはいえ、約30年間の長い年月にわたる在外勤務生活において原告を公私ともに支えてきたのであるから、2分の1を分与することが相当である。 (2) 不動産を除く夫婦共有財産 証拠(甲5)によれば、不動産を除く原告名義の夫婦共有財産は、本件別表第1の1ないし4、第2の2ないし4のとおり認められ、その評価額も本件別表のとおり算定できる(株式の評価額及び外貨預金の為替レートについては、弁論の全趣旨から被告主張のとおり認められる。)。その合計額は金5560万8382円である。 なお、ワラントについては、現在、権利行使価格が株価を上回っていることから、財産的価値がないものとなっており(原告本人尋問)、今後も株式市況が回復するとは限らない上、権利行使期間には制限があることからすれば、およそ財産として評価することはできない。 (3) 不動産について 本件別表第2の1の本件不動産が原告と被告の共有名義の財産として存在するが、これの評価について、不動産業者の査定書(甲16に添付の資料)があるが、これが客観的に適切な評価であるともいえないことから、結局は取得原価(31万3000カナダドル)によらざるを得ない。なお、これは客観的な評価である課税評価額(乙22に添付の資料)30万8000カナダドルとも整合性を有するものである。さらに、住宅ローンが残存しているものであるが、これは原告が現実に支払を継続してきており、住宅ローンを控除した金額を日本円に換算すると、本件別表第2の1に記載のとおり、1672万2925円となる。 また、本件別表第1の5〈1〉の不動産(藤沢のマンション)については、甲5号証及び弁論の全趣旨から、住宅ローンを控除した価値は1910万円と認められる。 本件別表第1の5〈2〉の不動産(藤沢市鵠沼の建物)は、昭和54年に約1000万円をかけて改築したものであり(甲4)、原告が持分10分の8を保有するものである。しかし、その敷地は原告の母親名義であるから(乙20の3)、この建物の敷地利用権は、使用貸借と考えられるが、いずれ土地について相続が発生すれば、これは原告の特有財産になると考えられるから(他の相続人との関係も問題となるが、乙20の1からすれば、遺産分割により単独で取得する可能性が高い。)、敷地利用権を夫婦共有財産として考慮に入れることはできない。 また、建物についても、元々原告の母親の単独名義であったもので、原告は、改築に1000万円をかけて10分の8の持分を取得しているが(乙20の2)、費用負担部分を超える持分の取得は母親からの生前贈与として原告の特有財産と評価し得るし(乙20の1参照)、費用負担部分相当の持分についても、昭和54年における改築であるから現在の残存価格はほぼ零と考えられる。そうすると、いずれにしてもこの不動産について財産分与の対象とすることは相当ではない。 (4) 年金等について 本件別表第1の7の企業年金保険(安田生命保険の積立金)について、これの契約残高は2066万0391円(平成15年4月3日現在)であり、拠出型企業年金保険として、保険料払込完了期日(年齢満60歳)に達した日から年金での受取が可能であるものの、他方で脱退一時金請求書を提出した場合には一時金として受け取ることも可能であるから(安田生命保険相互会社に対する調査嘱託の結果)、財産分与の対象たる夫婦共有財産として算入すべきものである。 他方、本件別表第1の6の厚生年金基金へ振り替えられた退職金約2584万円は、給料の後払的性格を有するものであるから、本来、原告と被告との間で清算的財産分与の対象たるべき退職金が形を変えたものと評価することができるが、他方で原告には一時金としてではなく年金として年額329万3800円が支給される上、この退職金振替分が支給額に寄与した割合も不明であり(a株式会社に対する調査嘱託の結果)、直ちに、財産分与の対象たる夫婦共有財産として算入することはできない。 (5) そうすると、夫婦共有財産としては、不動産を除く資産5560万8382円、本件不動産1672万2925円、藤沢のマンション1910万円、安田生命保険の積立金2066万0391円の合計1億1209万1698円が直ちに分割対象となる財産である。これの2分の1である5604万5849円が原告から被告に分与すべき金額となるが、被告は本件不動産を現物で取得することを希望しており、現に居住しているのも被告であるから、本件不動産は被告に分与すべきである。この価額(後述のとおり、原告が住宅ローンを負担することが相当であるから、住宅ローンの控除をしない価額2577万2420円)を控除すると3027万3429円が原告から被告に対して一時金として分与すべき金額となる。 (6) 本件不動産の購入にあたって負担した債務については、被告が原告から取得した金員で弁済することを希望しているものの、これまで原告が支払を続けていること、債権者との関係では、原告が債務者としての責任を免れることは困難であると考えられる一方、収入の点から被告に債務を負担させることは現実的ではないことから、今後も原告が支払を継続せざるを得ないと考えられる。その上で、原告と被告との間の内部負担割合を決めることとして、原告にその全額を負担させることとすれば、仮に被告が債務を支払った場合には、被告は、原告に対して、被告が支払った金員の全額を求償することができるのであるから、被告にとっても不都合はない。 (7) さらに、前記厚生年金基金について、本来、原告から被告に分与すべき退職金を原資としている部分も存在することから、清算的財産分与として被告に分与すべき部分を含むものであるが、原告は年金の形態で支給を受けることから、一時金として分与すべき財産に算入することは相当ではなく、支給された時点で原告から被告に分与するのが相当である。 そして、前記のとおり、支給される年金額に占める退職金の寄与割合は不明であるところ、拠出した退職金は約2584万円であること、厚生年金は年額329万3800円であること、本件訴訟の和解に際して、原告は被告に対する財産分与について本件不動産と一時金(ただし、2回に分割)のほかに、年間100万円を10年間に分割して支払う内容で和解に応じる態度を示していたことなど諸般の事情を考慮すると、原告が現実に支給される都度、受給した年金額の10分の3を被告に分与することが相当である。 5 よって、原告の請求は離婚を求める限度で理由があり、慰謝料請求は理由がなく、また、原告から被告に対する財産分与も主文の限度で認めるべきであるから、主文のとおり判決する。 (裁判官 田村政已) 以上:4,691文字
|