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財産分与対象財産としての建物評価について判断した家裁審判紹介

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令和 3年 4月22日(木):初稿
○「財産分与対象財産としての建物評価について判断した地裁判決紹介」の続きで、妻の父所有土地上に立つ夫名義建物について、離婚に伴う財産分与の際の評価が争いになった昭和39年3月25日鳥取家裁審判(家月16巻10号106頁、判タ176号215頁)関連部分を紹介します。

○夫にとっては婚姻が解消された以上借地権なき建物で、この取得を希望する妻は66万3400円と主張し、これを手放す夫は、妻にとっては借地権(敷地利用権)のある建物であるとして84万3400円と主張しました。家裁審判は、相対的に評価した上で、当事者間の公平を考慮して平均値75万3400円と評価して、清算額を決定しました。

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主  文
一、申立人は、財産分与として、鳥取市湯所町○○○番地家屋番号同町○○○番木造瓦葺平屋建居宅1棟床面積24坪2合5勺(登記簿上の表示)の所有権を取得する。
二、相手方は申立人に対し、上記建物につき所有権移転登記手続をせよ。
三、申立人は相手方に対し金37万6700円の支払をせよ。
四、申立費用中、鑑定のため要した金6000円(申立人予納)は申立人及び相手方の2分の1宛の負担とし、その余の費用は各自弁とする。

理  由
第一、婚姻、離婚の経過

 申立人は高等女学校及び家政研究科(2年)を卒業後、鳥取県商工課に勤務していたもの、相手方は○○農業学校を卒業後、無尽会社社員を経て農業会に勤務していたもの(昭和19年6月頃に一度結婚をしたが、先方に肋膜の前歴があり病弱だつたので、双方合意の上で昭和20年1月頃に離別した)であるが、昭和20年4月28日結婚の式を挙げ、同21年3月2日婚姻の届出を了し、双方の間に、長男A(出生後間もなく死亡)、二男B(昭和22年9月25日生)、三男C(同25年8月11日生)、長女D(同28年2月5日生)が出生した。

 結婚当初は東伯郡○○町の相手方の父母の家で同居し、申立人と相手方の父との折合は良くなかつたが子供もできたこととて離婚までには至らなかつた。相手方は昭和23年3月より農林省の統計調査事務所○○出張所に勤めたが、昭和29年7月に至り鳥取統計調査事務所に転勤となつたので、鳥取市に転居し、暫時間借の後市営住宅に入居し、夫婦と子供のみの生活となつて一応家庭内は平穏であつた。

 昭和31年5月相手方は、申立人が所有する鳥取市湯所町○○○番○○宅地157坪40(換地B17のR6、145坪04)の土地上に、約58万円の費用を投じて家屋番号同町○○○番木造瓦葺平屋建居宅1棟床面積24坪25を新築し、これに転居し、同年12月25日相手方名義に保存登記を経由した(登記簿上は建物の所在は湯所町○○○番地上となつているが、これは登記申請に際しての錯誤に基くものと認められる)。この建物を建築するに際し相手方は申立人の妹原田明子より20万円ないし25万円程度(その額について双方に争あり)の金員を借用した。

しかるところ、申立人が昭和34年9月父Eを、同35年1月母Fを、前記家屋に引取つて同居させるに及び、申立人と相手方の両親との対立が再燃し、その頃になり嘗て相手方が未亡人や飲食店の女性と関係を持つたことのある事実(申立人と婚姻後のこと)も表面に出た。


         (中略)


第三、本件当事者が婚姻中に取得した財産
 本件当事者が婚姻中に取得した財産のうち、現存するものの主たるものは現在申立人が居住している湯所町の建物で、その時価は鑑定時の昭和38年3月現在で、借地権あるものとして84万3400円、借地権なきものとして66万3400円である。他に現存する財産として申立人の持つ営業上の権利が考えられるが、その価額を正確に見積ることのできる資料はない。但し現在の申立人の営業収入より推してその価額はさしたるものではないと考えられる。外に特記すべき資産は見当らない。

第四、分与の権利の有無並びに分与の額及び方法
 相手方は「本件離婚調停成立の際、財産分与の趣旨をも含みて金員支払が約されたのであり、申立人は調停で定められた金額以上には財産分与を求める権利を有しない」旨主張するが、前記調停条項にはその主張に添うような文書は全く存在しないのみならず、その額は上記認定事実に照し、財産分与として当事者が通常抱くべき合理的意思に合致する程のものでなく、外に相手方の主張を支持するに足る資料はない。よつて相手方の主張は採用できない。

 而して上記認定のように、申立人と相手方との婚姻の期間が15年以上(内縁関係を含めれば16年7箇月)にも及ぶこと、申立人が湯所町の家屋を建築し得たことについては申立人の父が敷地を提供し、申立人の妹が資金の一部を貸与すを等申立人の親族の尽力があつたこと、上記家屋中店舗の部分(5坪5合位)の建増は申立人の出捐によつたものであること、相手方は公務員として生活が安定し未だ壮年で将来の財産取得能力があるに反し、申立人は現在の営業を維持するほか格別の財産取得を望み得ないこと、申立人は3人の子について監護教育の義務を負担しており、調停で定められた月額3000円程度の学資援助費では到底充分な監護養育の実を挙げ得ないこと、将来の再婚も相当困難であること等の事情を考えると、申立人は相手方に対し、相当多額の財産分与を求め得ること明かである。

 ところで、相手方は給料生活者であつてまとまつた現金預金を有せず、売却を相当とするような資産をも有しないから、一時に多額の金員支払を命ずることは妥当でないし、分割支払を命ずるにしてもその期間はいきおい長期にわたらざるを得ないから、これまた適切な分与方法であるとは認められない。

むしろ申立人が現在上記湯所町の建物に三子とともに居住し、ここを生活並びに営業の本拠としている事実にかんがみ現物たる上記建物を以て分与せしめるのが最も妥当である。ただ然し上記建物は当事者の婚姻中に取得された財産の殆んどすべてでこれを申立人に分与してしまえば、相手方は婚姻中に取得し得た財産の殆んどを失うことになり(この建物を建築するについては諸方より借財したのであり申立人の妹に対する借金も未済である)、相手方に対して酷であると謂わなければならない。

そこで本件建物の価額のうち、適正な分与額を超過すると認められる部分については、これを申立人より相手方に償還せしめる方法を採ることとする。財産分与は単純な贈与でなく、離婚に際し、実質上夫婦の共有に属する財産を、その潜在的持分に応じて清算することを本質とするものであるから、夫婦共有財産の分割に類するものであり、現物を分与することによつて正当なるべき分与額を超過することとなる場合においては、家事審判規則第48条3項第109条の類推により、現物分与を受ける者に金銭債務を負担させ、以て実質的な利益を正当なる分与額に合致せしめる方法も許されるものと解する。

 而して上記認定の事実及び本事件及び昭和36年(家イ)第99号離婚事件に現れた一切の事情を考慮すれば、申立人に負担せしむべき金銭債務(これを以下清算金と呼ぶ)の額は、上記建物の現在の価格の半額程度と認めるのが相当である。

 よつて当裁判所は審判前この線を基準として調停を試みた次第であるが、上記建物の価格について双方の意見が対立し、申立人は借地権なきものとしての価格を主張し、相手方は借地権あるものとしての価格を主張した。上記建物は前記のように申立人の父の所有する土地上に所在するが、申立人の父と相手方との間に敷地の賃貸借契約はなく、申立人の父が娘婿のためであるとして無償で使用せしめていたものである。そこで申立人は婚姻が解消した以上敷地の貸借関係は消滅したものであり、相手方の土地占有は不法であつて該建物は取毀家屋としての価格しかないと主張するに至つたのである。


 よつて考えるに、本件の如き敷地の利用関係を民法上の使用貸借と呼ぶのが適当であるかどうかは別として、少くとも本件両当事者の婚姻の継続を前提として設定された貸借関係であることは疑なく、既にして前叙のような事情で婚姻が解消された以上、申立人の父においてその敷地の貸借関係を消滅せしめる権利を有するものであることはこれを認めざるを得ない。従つて本件建物を相手方の所有財産として評価する限りにおいては、申立人の主張は正当である。

 然し乍ら、このような観方は、単純に本件建物を相手方の所有財産として評価する限りにおいて正当であるが、本件建物を財産分与として相手方に取得せしめる関係において把握することになると必ずしも妥当でないのであつて、例えば本件建物を借地権なきままに取毀家屋として他の第三者に売却し、その売却代金の中から財産分与をする場合に較べれば、いかにも衡平を失する。

観点をかえれば、当該建物についてたまたま高価な買受人が現れたのだ、あるいは、借地権相当の価格は夫婦共有に属していた財産について価値多き分配方法を採つた結果生じた利益で事実上の利益でない、ないしは、この敷地利用権は実質上夫婦共有財産たる建物に付着していた権利で、共有財産の処分として把える限りにおいては借地権あるものとして評価してよい、というようなことも言えないではないであろう。

 そこで翻つて考えるに、財産分与にあたつて、現物たる財産はこのように必ず一義的に決定しなければならぬものであろうか。財産分与請求権は審判によつてはじめて具体化される権利なのであり、その分与の額は一切の事情の集積によつて決定されるのである。財産分与の額が論理的に先行し、然る後財産の評価が行われるのではない。そうだとすれば当事者によつて価格が相異なる現物財産については、そのようなものとして価格を相対的に評価し、この点を一切の事情の一として考慮すれば足りるのではないか。そのようにしたところで分与の価額を決定し得ないものではないと解する。

本件においては、相手方にとつては借地権なき建物を、申立人に対し借地権ある建物と同様のものとして(申立人と申立人の父との間には敷地の貸賃借関係はないが、格別の事情のない以上申立人の父において申立人に対し一方的に敷地の利用関係を消滅せしめる権利を有するものとは解されないから、借地権ある場合に準じて理解してよいであろう。)取得させることができる、というのが実体なのであるから、この実体をそのままに受け入れ、これを一切の事情の一として斟酌した上、清算金の額を定め、間接的にはこれによつて分与の額を定めれば足ると解する。

 そこで以上のような観点に立つて清算金の額を定めることにする。即ち本件建物は、申立人により借地権ある建物と殆んど同様であるから、84万3400円ないしはこれに近い価値があり、相手方にとつては借地権なき建物として66万3400円相当の価値がある。そして精算金の額を前者の半額と定めれば相手方において不相当に利益を得、後者の半額と定めれば申立人において不相当に利益を得、いずれも衡平に合しない。それ故両価格の平均値をとり75万3400円なる価格を仮に設定し、その半額ある37万6700円を以て清算金の額と定めることとする。

申立人の得た利益を金銭上の数値で表すことは必ずしも必要でないが、仮にこれを算定すると、申立人は37万6700円の金員を支払つて84万3400円又はこれに近い現物を取得できるのであるから、差引46万6700円又はこれに近い財産分与を得たことになる。(借地権あるものとして評価せられた場合より4万5000円程度の利益を余分に取得したことになる。)

反面相手方は66万3400円相当の現物財産を喪失するが37万6700円の金員支払を受けるのであるから、実質上28万6700円損をしたに止まることになる。(借地権なきものとして評価せられた場合より4万5000円相当の利益を余分に取得したことになる。)財産分与をした者の出損した価額と財産分与を得た者の取得した価額とが等しくならず、ここに18万円程度の差額が生じるが、これは本件建物の価格を相対的に評価した結果に基くものである。


 よつて申立費用の負担につき非訟事件手続法第27条を適用上主文のとおり審判する。
 (家事審判官 今中道信)
以上:5,002文字

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