令和 3年 2月 4日(木):初稿 |
○「未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審である令和2年1月16日大阪高裁決定(判タ1479号51頁)全文を紹介します。 ○未成年者の祖母である相手方が、抗告人ら(未成年者の母及び養父)に対し、未成年者の監護者を相手方と定めることを求め、原審令和元年9月27日大阪家裁審判は、家庭裁判所において第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされていることに照らし、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判事項(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当としました。 ○これを不服として、告人ら(未成年者の母及び養父)が抗告しましたが、抗告審大阪高裁も以下の理由で、未成年者の監護者を相手方と定めるのが相当であるとして、抗告人らの各抗告をいずれも棄却しました。 民法766条1項の法意に照らし、相手方は、未成年者を事実上監護する祖母として、未成年者の監護者指定を求める本件申立てをすることができる 抗告人らの親権の行使が不適当であるため、未成年者を抗告人らに監護させた場合、未成年者の健全な成長を阻害するおそれが十分に認められる 相手方による未成年者の監護状況に特段の問題はうかがわれず、未成年者が現時点においては落ち着いた生活を送ることができている ○この決定は「父母以外の親族に民法766条類推適用を否定した高裁決定紹介」で紹介した平成20年1月30日東京高裁決定(抗告審、家庭裁判月報60巻8号59頁)を変更するもので、極めて妥当なものです。 ***************************************** 主 文 1 本件各抗告をいずれも棄却する。 2 抗告費用は抗告人らの負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨 1 原審判を取り消す。 2 相手方の本件各申立てをいずれも却下する。 第2 事案の概要(以下、略称は、原審判の表記に従う。ただし、「申立人」を「相手方」と、「相手方A」を「抗告人A」と、「相手方B」を「抗告人B」と、「当裁判所」、「当庁」をいずれも「大阪家庭裁判所」と、それぞれ読み替える。) 1 事案の要旨 本件は、未成年者の祖母である相手方が、未成年者の母である抗告人A及び養父である抗告人Bを相手として、未成年者の監護者を相手方と定めることを求める事案である。 相手方は、平成30年2月22日、大阪家庭裁判所に対し、抗告人Aを相手として、未成年者の監護者を相手方と定めることを求める調停を申し立てたが(平成30年(家イ)第831号)、同年9月13日、不成立となり、原審判手続(甲事件)に移行した。 また、相手方は、抗告人Aと抗告人Bが、平成30年3月3日婚姻し、同日、同抗告人と未成年者が養子縁組をしたことから、平成31年3月20日、同裁判所に対し、抗告人Bを相手として、未成年者の監護者を相手方と定めることを求める審判を申し立てた(乙事件)。 原審は、令和元年5月28日、上記乙事件に係る審判事件を甲事件に係る審判事件に併合する旨の決定をした上、同年9月27日、未成年者の監護者を相手方と定める審判をしたところ、抗告人らが、これを不服として即時抗告をし、抗告の趣旨記載のとおりの決定(主位的に、不適法を理由とする却下決定、予備的に、実体的理由がないことを理由とする却下決定)を求めた。 2 抗告理由 別紙抗告理由書(写し)、令和元年12月11日付け主張書面(写し)及び同月18日付け主張書面(写し)に記載のとおり 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審同様、未成年者の監護者を相手方と定めるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2で抗告理由について必要な判断を付加するほかは、原審判「理由」中の「第2 当裁判所の判断」1及び2のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原審判2頁26行目の「7月末頃」から3頁2行目末尾までを、以下のとおり改める。 「8月末頃、相手方に対し、「たぶんもう、私の家はEなんやと思う。」、「しっかりこっちで仕事しますわ。」などと記載したラインのメッセージを送り、相手方からの「Dの事は、任せなさい。」との返答を受けて、「よかった!ほんまにありがとう。」などと記載した同メッセージを送った。そして、同抗告人は、相手方及び未成年者と同居していた相手方宅を出て、抗告人Bが賃借していたF所在のマンションに転居し、同抗告人と生活するようになった。」 (2) 原審判3頁3行目の「相手方Aは、」の後に、以下のとおり加える。 「抗告人Bと同居するようになってからも、未成年者と交流しており、実家である相手方宅を訪問したり、抗告人Bと同居するマンションに未成年者を連れて行ったりしたこともあった。そして、抗告人Aは、平成29年夏頃、未成年者を上記マンションに連れて行った際、未成年者に対し、一人で入るか、抗告人らとともに3人で入るかと質問し、一人で入浴することを怖がる」 (3) 原審判3頁5行目の「男性と接することに慣れていなかったことから」を、「男性との接点が少なく、成人男性を苦手としていたのに」に改める。 (4) 原審判3頁8行目冒頭から同頁13行目末尾までを、以下のとおり改める。 「 また、未成年者は、抗告人Bから、段ボール箱を破って開けようとした際、段ボールには命があるという話を延々と聞かされたり、同抗告人から好きと言われることを嫌がる未成年者に対し、好きと言わせたくない人からお年玉やプレゼントをもらう未成年者の心は善なのか悪なのかと問われるなど、抗告人Bの価値観に基づく言動に苦痛を覚えるようになっていったが、抗告人Aも抗告人Bに傾倒して同抗告人に追従するため、未成年者は、抗告人Aに対する反発も強めていった。」 (5) 原審判3頁14行目の「そして、未成年者は、」の後に、「平成29年10月頃には、情緒が不安定になり、G小学校で、H姓になりたくないと言って泣き出したこともあり、」を加える。 (6) 原審判3頁25・26行目の「相手方Aは、大声で怒鳴り散らした」を、「抗告人Aと相手方が口論となった」に改める。 (7) 原審判4頁8行目の「相手方Aらとの関係」を、「抗告人B及び抗告人Aと抗告人Bとの関係」に、同行目の「相手方らとの」を、「その」に、それぞれ改める。 (8) 原審判5頁23行目末尾に、改行の上、「未成年者は、同年6月4日、児童精神科の医師から、適応障害、転換性障害の疑いがあり、抗告人Aの再婚に関連したストレスから、不安、頭痛などの身体症状があると診断された。」を加える。 (9) 原審判6頁24行目の「望んでいない」を、以下のとおり改める。 「望んでいなかったが、抗告人らは、当審において、相手方は監護者として不適任であるとして、相手方の未成年者に対する働きかけについて、調査官による調査が必要不可欠であると主張するようになった。」 (10) 原審判7頁19行目冒頭から同頁26行目末尾までを、以下のとおり改める。 「 しかし、子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記認定事実及び一件記録によれば、相手方は、未成年者の出生後間もない時期から未成年者と同居して、母である抗告人Aとともに未成年者を監護し、未成年者が就学する頃からは同抗告人よりも未成年者の監護をより多く担い、同抗告人が、抗告人Bと同居するために相手方宅を退去した後は、抗告人Aの依頼を受けて、未成年者を一人で監護していたことが認められるから、相手方は、未成年者を事実上監護する祖母として、未成年者の監護者指定を求める本件申立てをすることができるものというべきである。 したがって、抗告人らの上記主張は採用することはできない。」 (11) 原審判8頁2行目冒頭から同頁26行目末尾までを、以下のとおり改める。 「 上記のとおり事実上の監護者である祖父母等に子の監護者指定の申立権を認めるとしても、当該祖父母等を子の監護者と定めることは、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなるから、慎重な判断が求められる。しかし、他方において、その判断に当たっては、子の福祉の観点を最も重視すべきである。したがって、上記祖父母等を監護者と定めるためには、上記親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要すると解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記認定のとおり、 ①未成年者は、抗告人Aが、成人男性を苦手としていた未成年者に対し、抗告人Bと入浴させたり、同抗告人のストレッチを受けさせたりなどしたことから、同抗告人に嫌悪感を抱くようになったこと、また、未成年者は、同抗告人の価値観に基づく言動に苦痛を感ずるとともに、同抗告人に追従する抗告人Aにも反発を感ずるようになったこと、 ②そして、未成年者は、平成29年10月頃には、情緒が不安定となり、通学していた小学校で、H姓になりたくないと言って泣き出したり、頭痛や嘔気を訴え、小学校を欠席することが増えていったこと、 ③未成年者は、平成30年1月、抗告人Aと相手方とのテレビ電話でのやり取りから、同抗告人に恐怖心を抱いて精神状態が不安定となり、小学校に通学することができなくなったこと、 ④未成年者は、同年2月、医師の診察を受けたところ、心身症であり、抗告人Bや、抗告人らの関係に対する不安や恐怖が著しく強く、その関係が深まるにつれて上記症状が悪化しているなどの診断を受けたこと、 ⑤未成年者は、同年5月、人身保護請求事件の未成年者の国選代理人に対し、「抗告人Aと一緒に住むのは絶対に嫌、怖い。」と伝え、さらに、同事件において実施された抗告人Aとの面会交流の際、同抗告人に対し、抗告人Bと別れた上で、相手方及び抗告人Aと3人で生活したいなどと伝えたこと、 ⑥未成年者は、同年6月、児童精神科の医師から、適応障害、転換性障害の疑いがあり、抗告人Aの再婚に関連したストレスから、不安、頭痛などの身体化症状があると診断されたこと、 ⑦未成年者は、同年6月、原審の調査官の質問に対し、「抗告人Aが、小学校に来て、連れて行かれたら嫌である。」、「抗告人Aには、頭が良くなって、抗告人Bと別れて戻ってほしい。」、「相手方と現状の生活を続けたい。」 などと答えたことが認められる。 そして、上記のとおり、未成年者は、抗告人Bに対して嫌悪感、不信感を抱き、同抗告人を強く拒絶していること、抗告人Aは、抗告人Bに追従し、未成年者と抗告人Bとの家族関係の構築を急ぐあまり、未成年者の意向や心情に対する配慮を欠く行動を繰り返していること、抗告人らの言動が原因となって、未成年者は、精神的に不調を来たし、小学校にも通学することができない状況となったこと、未成年者は、本決定時10歳であり、抗告人らとの同居を拒否し、相手方と二人で生活することを望んでいることなどからすると、抗告人らの親権の行使が不適当であるため、未成年者を抗告人らに監護させた場合、未成年者の精神状態が著しく悪化し、学校に通学することができなくなるなど、未成年者の健全な成長を阻害するおそれが十分に認められる。 このことに、一件記録によれば、相手方による未成年者の監護状況に特段の問題はうかがわれず、相手方と未成年者とは強い愛着関係にあり、未成年者も相手方と生活することを望んでいること、上記適応障害、転換性障害は治ゆしていないものの、未成年者は、現時点においては落ち着いた生活を送ることができていることが認められることなどを併せ考慮すれば、未成年者の監護者を相手方と定めるのが相当である。」 (12) 原審判9頁2行目の「主張するが、」の後に、「未成年者の心情の形成に、同居する相手方の言動が影響を及ぼしている面がないとはいえないものの、」に改める。 (13) 原審判9頁5行目の「真意」を、「、その主要な部分について自らの体験に基づいて抱いた心情を素直に吐露したもの」に改める。 2 抗告理由に対する判断 (1) 抗告人らは、未成年者が情緒不安定に陥っているのは、相手方による不適切な関わりに原因があり、相手方を未成年者の監護者と定めるべきではない旨主張する。 しかし、補正の上引用した原審判が認定・説示するとおり、相手方による未成年者の監護状況に特段の問題はうかがわれず、未成年者が情緒不安定になった原因は、抗告人ら側にあるのであって、相手方にあるとはいえない。 したがって、抗告人らの上記主張は、採用することができない。 (2) 抗告人らは、相手方が、未成年者に対する不当な働きかけをして、未成年者の情緒不安定を作出し、心理的に虐待している旨主張する。 しかし、相手方が、未成年者に対して不当な働きかけをしていることや未成年者を心理的に虐待していることを認めるに足りる資料はない。 なお、抗告人らは、相手方の未成年者に対する働きかけについて、調査官による調査が必要不可欠であると主張するが、本件事案の結論を導く上で、上記事項を目的として、更に調査官による調査を実施することが必要であるとは認められない。 したがって、抗告人らの上記各主張は、いずれも採用することができない。 (3) 抗告人らのその余の主張に対する判断については、原審判を補正の上、引用して説示したとおりである。 第4 結論 以上の次第で、原審判は相当であり、本件各抗告はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。 大阪高等裁判所第10民事部 (裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 中村昭子 裁判官 島戸真) 以上:5,754文字
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