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父母以外の親族に民法766条類推適用を否定した高裁決定紹介

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令和 2年 5月14日(木):初稿
○「事実上の監護者里親に民法766条類推適用を否定した高裁決定紹介」の続きです。

○本件未成年者と同居している祖父母が未成年者の親権者に対し、未成年者の監護者を祖父母と指定することを求め原審判は、その申立を認めました。これに対し本件未成年者の親権者である母が抗告し、未成年者の引渡を求めました。

○この抗告について、平成20年1月30日東京高裁決定(抗告審、家庭裁判月報60巻8号59頁)は、本件未成年者の母である抗告人と父とが協議離婚するに際し、抗告人を親権者と定めており、未成年の子の父母の一方が親権者として定めらた場合に、父母以外の親族が自らを監護権者として指定することを求めることは家事審判法9条1項乙類4号の定める審判事項にはあたらず、他に根拠となる規定もないとして、相手方らの本件申立てを不適法却下しました。

○同決定は、さらに家事審判規則53条は、家事審判法9条1項乙類4号が定める審判事項以外の事項を定める趣旨のものではないから、これを根拠として未成年者の引き渡しを求める抗告人母らの申立ても不適法であるとして、これを却下した原審判を支持し、抗告を棄却しました。

○民法766条に規定する監護者の資格について父母のみに限定すべき根拠はなく,祖父母や里親など第三者もその資格を有すると解するのが今日の通説・判例であるとの解説もありましたが、本決定はそれを否定し、残念ながら現在の家裁実務の指針になっているようです。

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主   文
1 原審判中相手方らの本件申立てに関する部分を取り消す。
2 相手方らの本件申立てをいずれも却下する。
3 その余の本件抗告を棄却する。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書(写し)記載のとおりである。

第2 事案の概要
1 本件は,〔1〕本件未成年者の祖父母である相手方らが,相手方らと同居している本件未成年者について,その監護者を相手方らと指定することを求め,これに対し,〔2〕本件未成年者の親権者である抗告人が,相手方らに対し、本件未成年者を引き渡すことを求めた事案である。

2 原審判は,本件未成年者の監護者を相手方らと定め,かつ,抗告人の本件申立てを却下する旨の審判をした。 

3 抗告人は,原審判の上記判断を不服として本件抗告を申し立てた。

第3 当裁判所の判断
1 職権をもって判断する。

(1)家庭裁判所は,法が定める事項について審判を行う権限を有する。家事審判法第9条第1項が家庭裁判所の審判事項を定めるほか,同条第2項により,家庭裁判所は,他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についても,審判を行う権限を有する。上記のとおり,法により家庭裁判所の審判事項として定められ,及び審判を行う権限を特に付与された事項以外の事項については,家庭裁判所は審判を行う権限を有しないのであり,家庭裁判所に対して上記の事項以外の事項について審判の申立てがされた場合は,これを不適法として却下すべきである。

(2)相手方らの申立てについて
 相手方らは,家事審判法第9条第1項乙類第4号を根拠として相手方らを本件未成年者の監護者として指定することを求める申立てをしているが,本件記録によれば,本件未成年者には母である抗告人と父とがあり,その協議離婚に際し両名の協議により母である抗告人を本件未成年者の親権者と定めたこと,相手方らは抗告人の両親であり,本件未成年者の祖父母であって本件未成年者を現に監護する者であるが,未成年後見人その他の法令に基づく権限を有する保護者ではないことが認められる。

 家事審判法第9条第1項乙類第4号は,その文言(「民法第766条第1項又は第2項(これらの規定を同法第749条,第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分」)及びその趣旨によれば,民法の上記各規定が,未成年の子の父母が離婚その他婚姻関係を解消するに際し,両者の間の未成年の子の監護者を指定し,及び監護に関する処分をするについて家庭裁判所がこれを定める旨を規定していることを受け,上記のとおり審判事項を定めているというべきであるから,本件のように,未成年の子に父母があり,その一方が親権者として定められている場合に,未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者として指定することを求めることは,家事審判法第9条第1項乙類第4号の定める審判事項には当たらないというべきである。

 その他,同法その他の法令において上記の場合に未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者として指定することを求めることを家庭裁判所の審判事項として定める規定はない。したがって,相手方らの本件申立ては,法により家庭裁判所の審判事項として定められていない事項について家庭裁判所の審判を求めるものというほかはないから,不適法として却下すべきである。

(3)抗告人の申立てについて
 抗告人は,家事審判規則第53条を根拠とし,相手方らに対して本件未成年者を引き渡すことを命ずる旨の審判を求める申立てをしているが,同条は家事審判法第9条第1項乙類第4号が上記のとおり規定していることを受け,家庭裁判所が,同号に基づき子の監護者の指定その他子の監護について必要な事項を定め,又は子の監護者を変更し,その他子の監護について相当な処分を命ずる審判において,子の引渡しを命ずることができる旨定めているのであり,家事審判法第9条第1項乙類第4号が上記のとおり定める審判事項以外の事項を家事審判規則第53条が審判事項として定める趣旨のものではないことが明らかである。

 その他民法及び家事審判法が審判事項として定める事項以外の場合に,親権者が未成年者を現に監護する者に対して家庭裁判所が審判により未成年者の引渡しを命ずることができる旨を定める法令上の規定は存しない。したがって,抗告人の本件申立ては,法により家庭裁判所の審判事項として定められていない事項について家庭裁判所の審判を求めるものというほかはないから,不適法として却下すべきである(本件未成年者の親権者である抗告人が相手方らに対して未成年者の引渡しを求めるには,所定の要件を満たす限り,人身保護法及び人身保護規則が定める所定の手続により救済を求めるべきである(最高裁昭和61年(オ)第644号同年7月18日第二小法廷判決・民集40巻5号991頁参照))。

2 以上と異なる原審判は法令に違反することが明らかであるから,原審判を取消して本件各申立てを却下すべきところ,抗告人の本件申立てについては,原審判が結論においてこれを却下しているので,原審判中抗告人の本件申立てに関する部分については抗告人の本件抗告を棄却することとし,原審判中その余の部分(相手方らの本件申立てに関する部分)についてはこれを取り消して相手方らの本件申立てを却下すべきである。

3 よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 浜野惺 裁判官 高世三郎 西口元)
以上:2,913文字

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