令和 3年 2月 3日(水):初稿 |
○未成年者の祖母である申立人が、親権者(母)相手方A及び養父相手方Bを相手方として、未成年者の監護者に指定することを求め、申立人祖母の、未成年者生後まもなくからの監護実績から家庭裁判所において第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされていることに照らし、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判事項(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当とした令和元年9月27日大阪家裁審判(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。 ○未成年者は、相手方Aから言われるままに相手方Bと3人で入浴したり、同人からマッサージを受けたことに嫌悪感を抱き、さらに同人の言動に不審を感じていた上に、相手方Aが相手方Bに追従していることに対して相手方Bだけではなく、相手方Aにも嫌悪感を持った未成年者の意向を最大限尊重して、未成年者の年齢(本審判時9歳)など、本件に現れた一切の事情を考慮すると、相手方らは親権者ではあるが、未成年者の福祉のためには、申立人祖母を監護者として指定し、その安定した監護養育を継続させることが相当であるとしました。 ○以下の民法第766条1項の監護者として父母以外の者を指定できるかとの問題がありますが、本件は民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判事項(家事事件手続法別表第2の3項)となるとしたもので極めて妥当な判断です。 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等) 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。 2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。 3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。 4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。 *************************************** 主 文 1 未成年者の監護者を申立人と指定する。 2 手続費用は各自の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨(甲・乙事件) 未成年者の監護者を申立人と指定する。 第2 当裁判所の判断 1 認定事実 本件記録によれば、次の事実が認められる。 (1) 申立人(昭和28年○○月生)は、相手方Aの実母であり、未成年者の祖母である。 (2) 相手方A(昭和54年○○月生)は、Iと婚姻して未成年者(平成21年○○月○○日生)をもうけたが、平成21年12月20日頃、未成年者とともに実家である申立人宅に戻り、平成22年2月、未成年者の親権者を相手方Aと定めて離婚した。 (3) 相手方Aは、平成22年頃、心理カウンセラーをしていた相手方B(昭和47年○○月生)と知り合って交際するようになった。 (4) 相手方Aは、○○であり、申立人宅を拠点として活動していた。 未成年者の監護養育は、相手方Aと申立人がほぼ同程度の割合で分担していたが、未成年者がG小学校(以下「G小学校」という。)に入学した平成28年4月頃以降、相手方Aは、未成年者の監護養育のかなりの部分を申立人に委ねるようになり、平成29年には○○、○○やその準備などで更に多忙となったことから、少なくとも未成年者の監護養育の7割程度を申立人に委ねる状態であった。 (5) 相手方Aは、平成29年4月頃、申立人に対し、今後は未成年者及び相手方Bと一緒に生活していくと伝えた。 しかし、申立人は、相手方Aが相手方Bと結婚することには反対であり、相手方Aが相手方Bとの親密度を増すごとに相手方Aとの関係が悪くなっていった。 (6) 相手方Aは、同年7月末頃から、未成年者を申立人宅からJに借りたマンションに連れ帰り、未成年者及び相手方Bと滞在することもあった。 (7) 相手方Aは、未成年者に相手方Bと3人で入浴させたり、相手方Bからストレッチを受けさせたが、未成年者は、これまで親族以外の成人男性と接することに慣れていなかったことから、相手方Bと入浴させられたことやストレッチを受けて身体が触れたため、同人に嫌悪感を抱くようになった。 さらに、未成年者は、Kを尊敬し、将来は歌手になる夢があり、相手方Aの○○等に同伴してステージで歌を披露するなどしていたが、相手方Bから「(相手方Bが)Kの生まれ変わりである。」と言われたことに苦痛や不合理さを感じ、同人を嫌うようになり、同人の不合理な言動に反対しないばかりか、これに追従する相手方Aにも反発を感じるようになっていった。 そして、未成年者は、同年秋頃には、頭痛や嘔気などの症状を訴え、G小学校を欠席することも増えていった。 (8) 未成年者は、平成30年1月21日、相手方らとバドミントンをしたが、相手方Aが相手方Bを優先して、未成年者と遊んでくれなかったと感じ、同月25日頃、相手方Aからディズニーランドに誘われたが、相手方Bが一緒に行くのであれば行かない旨をラインで伝えた。 (9) 申立人は、同月28日、テレビ電話により相手方Aに対し、同月21日のバドミントンについて、未成年者が相手方Aに騙されたと言っていると咎めたことから、相手方Aは、怒り出し、申立人に対し、未成年者を引き取ると伝え、申立人の側にいた未成年者に対し、相手方らと暮らすよう説得を始めた。 そこで、申立人がテレビ電話を切ろうとしたところ、相手方Aは、大声で怒鳴り散らしたため、未成年者は、相手方Aに恐怖心を抱いて精神状態が不安定となり、G小学校に通えなくなった。 (10) 相手方Aは、同年2月5日、相手方Bを伴って申立人と面談し、同人に対し、未成年者に会わせてほしいと求めるとともに、未成年者の監護の委託を解消すると伝え、同人の引渡しを求めたが、申立人は、未成年者が精神的に不安定になっているとして引渡しを拒否した。 (11) 未成年者は、同月9日、医師の診察を受け、平成29年秋から頭痛、嘔気、気分不良等の症状があり、小学校を休みがちになっているが、これは、相手方Aらとの関係に対する不安や恐怖が著しく強く、相手方らとの関係が深まるにつれて上記症状が悪化し、心身症を発症していると診断された。 (12) 相手方Aは、同月23日、G小学校に転出届を提出した。なお、相手方Aは、転出届を提出することを未成年者及び申立人に伝えていなかった。 (13) 相手方らは、同年3月3日に婚姻し、同日、相手方Bと未成年者は、相手方Aを代諾者として養子縁組をした。なお、相手方Aは、養子縁組について、未成年者及び申立人に伝えていなかった。 (14) 相手方Aは、同年3月1日付けで、相手方ら及び未成年者の住民票上の住所をLに異動させ、G小学校から転出(転校)手続を取った。しかし、未成年者は、同人肩書住所地に居住していたことから、G小学校にもLを校区とする小学校のいずれにも通学できない状態となった。 (15) 相手方Aは、同月12日、大阪地方裁判所に対し、未成年者に係る人身保護請求を申し立てた(同年(人)第1号事件)。 申立人と相手方Aは、同年4月3日の第1回準備調査期日において、未成年者が新学期からG小学校に就学することができるようにするため、未成年者の住民票を従前の住所に異動させることに合意し、未成年者は、同月9日の始業式からG小学校に通学することができるようになった。 未成年者は、同年5月8日、人身保護請求事件の同人の国選代理人に対し、「相手方Aと一緒に住むのは絶対に嫌、怖い。」と伝え、相手方Aに会いたくない理由については、「相手方Aに一緒に暮らしたくないと言うと、相手方Aは『怒鳴ったりするから』『怖い』」と言って泣き出し、さらに、相手方Aは常に相手方Bと同じ話をするので嫌であり、未成年者が段ボール箱を破って開けようとすると、相手方Bから「段ボール箱には命がある」という話を延々とされて、理解できず泣きそうになったことなどを説明した。 (16) 未成年者と相手方Aは、同年5月14日、大阪地方裁判所において、人身保護事件の受命裁判官2名、未成年者の国選代理人及び相手方Aの代理人が同席した上で面会交流を実施した。その際、未成年者は、相手方Aに対し、同人が相手方Bと別れた上で、相手方A及び申立人の3人で生活したいと伝えた。 これに対して、相手方Aは、未成年者に対し、辛い思いをさせたことを詫びるとともに、未成年者と二人で過ごす時間を大事に考えていることを伝えたが、未成年者の求める相手方Bとの関係解消については何も言わなかったため、未成年者は、相手方Aに対する信頼を失った。 なお、未成年者は、相手方Aとの面会交流に応じる条件として、申立人及び同人の長男(相手方Aの弟)の立会いが約束されたと思っていたが、裁判所が申立人の長男の立会いを認めなかったことや、請求者の男性代理人は同席しないとの約束であったのに、同席したことに対し、裁判所に約束を破られたと感じた。 (17) 大阪地方裁判所は、同年6月8日、人身保護請求を棄却する判決を言渡した。 相手方Aは、これに対して、上告を提起し、上告受理申立てをしたが、上告は棄却され、上告受理申立ては不受理決定がされ、同年8月23日、上記棄却判決は確定した。 (18) 未成年者は、同年6月5日、G小学校において、当庁家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)からの質問に対して、①小学校生活は楽しいし、学校での心配事はないが、相手方Aが学校に来て、連れて行かれたら嫌である、②相手方Aは、変な人と勝手に結婚したり、訳分からないことを言うようになったと答えたほか、更に「ねえ、聞いて」と言って、相手方Aから声をかけられて同人及び相手方Bと3人一緒に風呂に入ったことと、相手方Aと○○をしていたとき、同人に勧められて、相手方Bからストレッチをしてもらい、胸周辺を触られたことが嫌だったと説明した(以下「第1回面接」という。)。 (19) 未成年者は、同月11日、当庁において、調査官から、相手方Aの良いところを質問されて、相手方Bと会うまでのこと、相手方Aには、頭がよくなって、相手方Bと別れて戻ってほしいと伝え、申立人と現状の生活を続けたいと述べた(以下「第2回面接」という。)。 (20) 未成年者は、小学校1年時には英語検定の3級を取得し、相手方Aの○○に同伴してステージで歌を披露するなどし、いわゆる精神年齢は高く、現時点では、健康面や学業面に問題は見られない。 (21) 申立人及び相手方らは、第1回面接及び第2回面接において示された未成年者の意向が、現時点までの時間が経過したことによって、相手方らに親和的に変化したとは考えておらず、未成年者が上記(16)に係る人身保護請求手続における面会交流の実施によって、裁判所に約束を破られたと感じていることもあって、調査官による未成年者の現時点における心情調査は困難であると考え、未成年者の心情に配慮して調査も望んでいない。 (22) 申立人は、健康上の問題はなく、○○の仕事を行う有限会社M(平成4年設立)の代表取締役であり、経済上の問題はない。自宅は、10LDKである。 (23) 申立人は、平成30年2月22日、相手方Aに対し、未成年者の監護者を申立人に指定することを求める調停を申し立てた(当庁平成30年(家イ)第831号事件)が、同年9月13日、不成立となって審判手続に移行した(甲事件)。 また、申立人は、平成31年3月20日、相手方Bに対し、未成年者の監護者を申立人に指定することを求める審判を申し立てた(乙事件)。 当裁判所は、令和元年5月28日、乙事件を甲事件に併合した。 2 検討 (1) 本件申立ての可否について 本件は、未成年者の祖母である申立人が、親権者(母)である相手方A及び養父である相手方Bを相手方として、未成年者の監護者に指定することを求める事案である。 相手方らは、監護者の指定は「子の監護に関する処分」(家事事件手続法39条、別表第2の3項)の審判事項であるが、子の監護処分の根拠条文である民法766条は、離婚に際する子の監護処分を決めるものであって、同条の趣旨から、未成年者の祖母である申立人には本件の申立権が認められないから、本件申立ては不適法であるなどと主張する。 しかし、前記認定事実によれば、申立人は、未成年者の生後10日後頃から現在まで、監護養育全般を相手方Aと同程度に分担して、同人が仕事で多忙な間は同人以上に担ってきた実績があり、その監護養育に問題があったとはうかがわれないこと、相手方Aも申立人に未成年者の監護養育を委ねていたこと、家庭裁判所において、第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされていることに照らすと、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判事項(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当である。 (2) 申立人を監護者に指定することの当否について 前記認定事実によれば、申立人の現状の未成年者の監護に問題はうかがわれず、未成年者は、平成29年秋頃から心身の不調が見られたが、現時点においては、一応の落ち着きも見られる。 他方、未成年者は、成人男性との接点があまりなかったにもかかわらず、相手方Aから言われるままに相手方Bと3人で入浴したり、同人からマッサージを受けたことに嫌悪感を抱き、さらに同人の言動に不審を感じていた上に、相手方Aが相手方Bに追従していることに対して相手方Bだけではなく、相手方Aにも嫌悪感を持ち、平成30年6月時点では、調査官に対し、相手方Aに連れて行かれることを心配し、相手方Aには、相手方Bと別れて戻ってほしいと述べていること、相手方Aは、未成年者が相手方Bとの家族関係を構築することを急ぐ余りに、入浴やマッサージの件にしても、未成年者に事前に伝えることもなくG小学校の転校や相手方Bとの養子縁組をした件にしても、未成年者の心情に対する配慮を全く欠く行動を繰り返しており、このような行動が未成年者を心身の不調に陥らせたと言わざるを得ないこと、未成年者は、現在、相手方A及び相手方Bを拒否し、申立人と二人で生活することを望んでいること、未成年者の年齢(本審判時9歳)など、本件に現れた一切の事情を考慮すると、相手方らは親権者ではあるが、未成年者の福祉のためには、申立人を監護者として指定し、その安定した監護養育を継続させることが相当である。 なお、相手方らは、仮に申立人に当事者適格を認めるとしても、親権者が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところになると認められるような特段の事情がある場合に限って、そのような申立てが許されるというべきであり、本件には特段の事情がないから、本件申立てを却下すべきであるとも主張するが、本件において、申立人が監護者と指定されることが相当なことは、上記説示のとおりである。 相手方らは、申立人が誤った事実評価を押し付けて、未成年者の意思が形成されているとも主張するが、前記認定事実のとおり、未成年者は、相手方らを嫌であると思うところを具体的なエピソードを踏まえながら、一貫して述べているのであり、未成年者の年齢等に照らしても、未成年者の述べたところは真意であると認められる。 3 結論 よって、主文のとおり審判する。 大阪家庭裁判所家事第1部 (裁判官 安達玄) 以上:6,398文字
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