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未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定しない高裁決定紹介

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令和 3年 2月 5日(金):初稿
○「未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定した高裁決定紹介」を続けます。相手方の親族その他の第三者が未成年者を監護している場合、親権者と監護者の争いとして民法766条1項の子の監護に関する事項の定めを類推して家事審判事項になるかとの論点について、平成20年1月30日東京高裁決定(家庭裁判月報60巻8号59頁)は、否定説をとり、実務の指針としている裁判官もいましたが、私は不当と思っていました。令和2年1月16日大阪高裁決定(判タ1479号51頁)は、この東京高裁判決の結論を変更して肯定説を取り、妥当な判例です。

○さらに最近の肯定説判例はないか調べたところ、ありました。相手方が、抗告人(相手方の母であり未成年者の祖母)に対し、未成年者(相手方の子)の引渡しを求めた事案において、本件は民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判の対象となると解するのが相当であるとした上で、相手方の申立てを認容した原審判を相当と判断して抗告を棄却した平成29年11月29日大阪高裁決定(判タ1451号123頁)です。

○「未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定した高裁決定紹介」は、未成年者の監護者を祖母と認めたところ、本件は実母と認め、認めた監護者は異なりますが、いずれにしても、家庭裁判所において、第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされている以上、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判の対象(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当であるとして、前記平成20年1月30日東京高裁決定の結論を変更しています。

○原審平成29年9月15日大津家裁彦根支部審判(判タ1451号125頁<参考収録・原審>)は、民法第766条1項との文言を使用していませんが、本件は、親権者の第三者に対する請求であり、本来的には民法709条に基づく親権の妨害排除請求として訴訟事項ではないかとの問題もあるが、相手方は、上記1の経緯で事件本人を監護するに至った事件本人の祖母であり、その内容からすれば、本件は、非訟事件として審理判断するのに適するものと認められるから、審判事件として扱うことは相当と判断しています。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 別紙抗告状及び平成29年○○月○○日受付「相手方の主張に対する反論」と題する書面(各写し)のとおり

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原審判を相当と判断する。その理由は、次のとおり補正し、次項に抗告理由について補足するほか、原審判の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原審判「当事者の表示」欄及び理由中の各「事件本人」をいずれも「未成年者」と訂正する。

(2) 原審判1頁18行目の「相手方」の次に「(昭和39年○○月○○日生)」を、20行目の「申立人」の次に「(平成8年○○月○○日生)」をそれぞれ加え、22行目の「協議離婚後」を「協議離婚した平成28年○○月から同年○○月まで」に、23行目から24行目にかけての「実家での事件本人の世話は、申立人が行っていた。」を「この間、相手方が主として未成年者の世話をしていた。」に、25行目から2頁5行目までを次のとおりそれぞれ改める。

「(4) 抗告人は、相手方が何日も帰宅せず、夜間外出や友人宅への泊りがけの外出に未成年者を同伴させるなどしたことを問題視し、相手方と諍いになった。相手方は、平成28年○○月ころ、抗告人に未成年者の監護を委ねて実家を離れ、当時交際していた現在の夫(未成年者の養父)である当事者参加人C(平成9年○○月○○日生。以下「参加人」という。)の実家で暮らし始めた。
 抗告人は、その後、相手方の長姉の援助を受けながら、未成年者を監護し、相手方は、長姉宅において、未成年者と面会していた。

(5) 相手方は、平成28年○○月ころ、長姉宅から未成年者を無断で連れ帰って警察沙汰になり、その後、未成年者との交流が断絶したため、同年11月○○日、抗告人に対して未成年者の引渡しを求める前件調停事件を申し立てた。」

(3) 原審判2頁12行目の「現在の夫」及び同行、18行目、19行目、21行目の各「夫」をいずれも「参加人」に改める。

(4) 同3頁2行目から10行目末尾までを次のとおり改める。
「3 なお、本件は、親権者が第三者に対して子の引渡しを求めるものであるが、家庭裁判所において、第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされている以上、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判の対象(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当である。

2 抗告理由について補足する。
 抗告人は、①相手方が前夫と離婚後すぐに参加人と交際し、再婚して新たに子をもうけており、この間、就労せず、未成年者の監護を疎かにしたこと、②相手方と未成年者との交流が長期間にわたって断絶していることから、未成年者を相手方に引き渡すべきではないと主張する。

 しかし、原審判を補正の上引用したところによれば、①相手方は、現在までに、参加人の収入を基盤として家事や育児に専念し得る環境を整えて生活を安定させており、同人の両親による支援も期待できるから、未成年者の監護に必要な態勢が備わっているといえるし、②相手方と未成年者との交流が長期間にわたって断絶している要因が相手方の側にあるともいえない。そうすると、未成年者の利益を図る見地から、未成年者を相手方に引き渡す必要がある。抗告人の上記主張はいずれも採用することができない。

3 結論
 以上によれば、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきである。よって、主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第9民事部


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平成29年9月15日大津家裁彦根支部審判(判タ1451号125頁<参考収録・原審>)

主    文
1 相手方は、申立人に対し、事件本人を引き渡せ。
2 手続費用は各自の負担とする。

理    由
第1 申立ての趣旨

 主文第1項同旨

第2 当裁判所の判断
1 括弧内標記の記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 相手方は、申立人の母であり、事件本人の祖母にあたる。(平成28年(家イ)第○○号事件(以下「前件調停事件」という。)調査報告書)

(2) 申立人は、事件本人の実父と婚姻したが、平成28年○○月に協議離婚した。事件本人の親権者は申立人となった。(同調査報告書)

(3) 申立人は、協議離婚後、事件本人と共に、相手方の居住する実家に身を寄せ、そこで同居して生活をしていた。実家での事件本人の世話は、申立人が行っていた。(同調査報告書)

(4) 申立人と相手方は、申立人の生活態度を巡って衝突し、平成28年○○月ころ、申立人は実家を出て、当時交際していた現在の夫の実家で暮らし始めた。以後、事件本人は、相手方が、申立人の長姉の援助を受けながら、監護養育するようになった。(同調査報告書)

(5) その後、事件本人の監護養育を巡って申立人と相手方とが様々衝突するようになり、平成28年○○月○○日、申立人が前件調停事件を申し立てた。(同調査報告書)

(6) 前件調停事件では、申立人と事件本人の交流場面調査等も行い、調停委員会としては、いずれ引き渡すことも視野に入れ、当面の間の面会交流を進めていくことを提案したが、相手方が面会交流の実施に当たって付けた条件や、面会交流の実施自体に積極的な態度を示さなかったこと等から、申立人は、平成29年○○月○○日、前件調停事件を取り下げるとともに、本件審判事件を申し立てた。(前件調停事件記録、本件事件記録)

(7) 申立人は、平成28年○○月○○日に現在の夫と婚姻した。あわせて、夫と事件本人とが養子縁組をした。(前件調停事件中の全部事項証明書)

(8) 本件審判事件については、調停に付されたものの、第1回調停期日に申立人が出頭せず、結局、調停を不成立とさせ審判に戻った。(本件審判事件記録)

(9) 本件審判事件の審理にあたり、申立人の現状等を調査したところ、申立人は、平成29年○○月○○日に夫との間の子(長女)を出産し、現在は家事と育児に専念していること、夫は塗装工として勤務していること、現在は義祖父方で同居して生活をしていること、将来は近くの義祖母方に移って生活する等の予定があること、義祖父母をはじめ夫の親族も本件に積極的に賛成する意向を示していること等を確認することができた。(本件審判事件中の調査報告書)

2 申立人は、事件本人の親権者であり、他方、相手方は事件本人を監護しているものである。申立人が、親権者として、事件本人の引渡しを求めることができるのが原則であり、申立人の上記1(9)の現状を踏まえても、事件本人の親権者としておよそ適格を欠くといった事情は見当たらない。
 とすると、相手方は、申立人に対し、事件本人を引き渡すべきである。

3 なお、本件は、親権者の第三者に対する請求であり、本来的には民法709条に基づく親権の妨害排除請求として訴訟事項ではないかとの問題もあるが、相手方は、上記1の経緯で事件本人を監護するに至った事件本人の祖母であり、その内容からすれば、本件は、非訟事件として審理判断するのに適するものと認められるから、審判事件として扱うことは相当と判断する。また、養父である申立人の夫も現時点では親権者となっているが、本件が親権の妨害排除請求権に基づく子の引渡請求であることからすれば、共同親権者の1人で子の引渡請求をすることもできるというべきである。

第3 結論
 以上の次第で、申立人の申立てには理由があるから、主文のとおり審判する。
 大津家庭裁判所彦根支部
 (裁判官 ○○○○)
以上:4,069文字

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