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夫婦共有不動産持分権全部を妻に財産分与した家裁審判紹介

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平成30年11月29日(木):初稿
○ちと古い事件ですが、離婚に伴う財産分与において、清算の対象となる不動産の取得のための借入金が未だ完済されていない場合に、夫と共に連帯債務者となつている妻が、主としてこれを支払い、離婚後も専らこれを弁済していく高度の蓋然性があるという事情を考慮し、かつ、離婚についての夫の有責性をも慰謝料的要素として考慮した上、前記不動産に対する夫の2分の1の共有持分全部を妻に分与した昭和62年7月17日大阪家裁審判(家庭裁判月報39巻11号135頁)全文を紹介します。



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主  文
申立人に対し、別紙目録記載の土地及び建物の相手方の各持分全部(各2分の1)を、いずれも財産分与する。

理  由
第1 申立ての趣旨及び実情

1 申立人と相手方は、昭和41年10月6日婚姻し、長男をもうけたが、相手方は賭事に耽り、そのため借金がかさみ、いわゆるサラ金に追われて、昭和59年7月離婚の意思を表明して家を出て現在に至つており、もとより生活費の仕送りはなく、遂に申立人と相手方は昭和60年1月長男の親権者を申立人と定めて協議離婚をし、申立人が長男を養育監護しているものである。

2 申立人と相手方は、昭和54年10月○○信用金庫から連帯して1700万円を借り受け、これらを資金として別紙目録記載の土地、建物(以下「本件土地又は建物」という)を買受け、申立人は現在これに居住してクリーニング店を営業している。その後、申立人の知らぬ間に本件建物の権利証が○○産業という不動産屋の手に渡つており、本件建物を買戻すために相手方名義で申立人が連帯保証して、○○信用金庫から500万円を借り入れた。さらに○○産業から取立屋を介して相手方の借入金債務50万円の弁済を求められ、これについても申立人は処理をした。しかし、相手方はこれらの借入れ金の支払分について、申立人に一切返済をしてくれない。もちろん相手方は本件土地、建物の購入に際しての借入金のローン返済をせず、このローン返済及び固定資産税は、申立人が長男を養育しながら支払つてきている。

3 相手方は、昭和61年2月ごろ、申立人と協議して、申立人との協議離婚に伴う財産分与として、本件土地、建物の相手方の持分2分の1を申立人に分与することを約しているが、登記に必要な手続に一切協力をしない。
 よつて、申立人は財産分与及び離婚に伴う慰謝料として、本件土地、建物の相手方の持分2分の1の分与を求める。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録中の各戸籍謄本、登記簿謄本、家庭裁判所の調査官の調査及び申立人の審問の各結果その他本件記録添付の各資料によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は、昭和44年12月2日婚姻し、二人の間には昭和49年2月13日長男が生れた。

(2) 申立人と相手方は、昭和41年5月から同棲をはじめ、同年10月に挙式した。しかし相手方に他の女性との交際などがあり、昭和44年12月2日婚姻した。婚姻当時、当事者双方は賃貸アパートに住み、相手方はクリーニングの職人として働いていたが、生活費を入れないことから、かねてより申立人は電器会社の工場などで働き、長男の出産ごろの2年間を除いて働きつづけた。その後昭和51年に当事者双方は、相手方の姉の夫Aが経営するクリーニング店「B店」に相手方はクリーニング職人として、申立人は事務員として勤務するようになつた。このころから相手方は収入を家計に入れるようになつた。

 しかし、相手方はもともと賭博に耽り、そのため借金をすることが多く、その度ごとにAの援助を得て、申立人が返済してきていたが、昭和58年相手方は多額の債務を負担し、そのためCなる人物に本件土地、建物の相手方の持分2分の1を640万円で売却する旨の買戻し特約付不動産売買契約を結んでいた。

 その後、相手方は昭和59年7月下旬B店を退職し、申立人と長男を残して出奔した。同日夜相手方が作成した借入金50万円の借用書を持つて暴力団風の者が訪れ、申立人に対しそれの返済を求めたことから、これも相手方の姉Dの援助により弁済をすませたものの、申立人は相手方との離婚を決意し、昭和60年1月21日A夫妻の仲介により、長男の親権者を申立人と定めて相手方と協議離婚をした。

(3) 離婚当時における資産としては、申立人と相手方の共有となつている本件土地、建物があるのみである。
 本件土地、建物は、昭和54年9月28日購入し、申立人と相手方が持分各2分の1で登記されている。この購入代金2400万円は、自己資金100万円のほか不足額を申立人と相手方が連帯でB店から1700万円、国民金融公庫から300万円、相手方の妹の夫三塚泰から300万円それぞれ借り受け、B店には本件土地、建物に抵当権を設定して、手当てした。そして自己資金は当事者双方の婚姻中貯えたものである。

(4) ところで、当事者双方の婚姻中における(3)記載の借入金の返済状況は、相手方が出奔するまでは、前記B店から支給される申立人月額26万円、相手方20万円の給与合計46万円の中から、B店と国民金融公庫には返済計画通り分割弁済しており、この間の支払額は、B店へ193万3245円、国民金融公庫へ208万円であつて、相手方の出奔時の残高はそれぞれ、1506万6755円と92万円である。しかし、出奔後相手方は一切これを支払わず、申立人がこれの弁済を続け、離婚時における借入金残額はB店が1481万7107円、国民金融公庫が68万円、三塚へは弁済をしていないため300万円であり、これらは当事者双方が連帯債務者として支払義務のあるものである。

(5) また、前述のように相手方がCに代金640万円で本件土地、建物を買戻特約付で売却していたことから、この代金640万円と諸費用合わせて700万円が入用となり、最終的には、そのうち200万円はAに用立ててもらい残金500万円は相手方が借主、申立人らが連帯保証人となつて○○信用金庫○○支店から、保証受託をした○○信用保証協会に本件土地、建物に極度額600万円の根抵当権を設定のうえ、借入れた。しかし、前同様に相手方は申立人と同居時に、申立人と共同で12万8000円を支払つたのみで、別居時の借入残額は487万2000円あり、相手方の出奔後は申立人のみが分割弁済及び本件土地、建物の公租公課の支払をつづけ離婚時の借入金残高は372万円となつている。

(6) 離婚後、相手方は住所が定まらず、表記の○○クリーニング紹介所を通じて日雇風にクりーニング職人として稼働しているようであるが、もとより前述の各借入金分割金の支払はしておらず、他方申立人は本件建物に長男と居住して、同建物でB店のクリーニング受付業を営み、月収は変動があるが20万円ないし50万円を得ており、そのうちから前記借入金分割金を支払つており、他に資産もなく本件建物に居住して、上記営業をつづけて生活する以外には方法もないことから、相手方の返済意思いかんに拘らず、上記各分割金をこれからも支払つてゆく決意をしている。そして離婚後も続けられている返済により、前記国民金融公庫の借入金は昭和61年6月をもつて完済し、昭和62年6月末現在の借入金残高は、B店が1352万4969円、○○信用金庫が250万4000円であり、個人からの借入れ分は現在のところ弁済していないので、そのまま残つている。相手方の状況からは、同人がこれら借入金を弁済する可能性は皆無に等しい。上記借入残金の分割弁済すべき月額は昭和62年10月分で合計18万5808円であつて、その後も順次額は逓減する。

(7) 本件土地、建物の本件離婚時の価額は、まず土地は昭和61年7月現在1平方メートル当り26万1000円で、過去1年間における平均変動率は3.25パーセントであるから昭和60年1月現在の1平方メートル当り単価は261,000
(1+0.0325×1.5) = 24万8867円(円未満切捨、以下同じ)、したがつて同時期における本件土地の価額は248,867×68,23 = 1698万0195円である。本件建物については、3.3平方メートル当りの再調達価額を35万円、耐用年数を24年、原価償却後の残価率を10パーセントとみることができ、これによれば毎年の減価額は原価法により計算すると35万9000円となり、昭和61年1月現在の残存価額は、(350,000×90.16/3.3)-359,000×(5+1/3) = 764万7758円となり、結局離婚時における本件土地、建物の価額は合わせて2462万7953円である。

2 以上認定の各事実に基づき、本件財産分与請求権の有否及びその額又は内容についてみるに、申立人の本件申立ての趣旨に添つて、まず、申立人と相手方が婚姻中に得た財産を、離婚に際して、その形成及び維持に果した貢献を実質的に観察して、これを清算するいわゆる清算的財産分与から検討する。
(1) 前1(3)認定の事実によれば、申立人と相手方が婚姻中、その協力によつて得た財産は、本件土地、建物のみであり、したがつて清算的財産分与の対象となる財産はこれらのみであるというべきである。

(2) 上記認定事実によれば、本件土地、建物は申立人と相手方とが持分各2分の1で登記をしているものであるか、その購入代金は2400万円のうち殆んどを借入金で賄い、自己資金は100万円にすぎないが、この自己資金は申立人と相手方が婚姻中貯えたものであり、前1(2)認定事実によれば、この自己資金のうち少なくとも2分の1は申立人の収入及び家事労務によるものであるということができる。さらに申立人と相手方が同居中にB店及び国民金融公庫へ弁済してきた上記借入金の分割弁済金も、前1(4)の認定事実によれば、そのうち申立人の収入、家事労務によるものはやはり2分の1を下らないものというべきである。

 してみると、これら自己資金及び借入返済金のうち、相手方の収入など、同人の寄与によるのは、前1(3)、(4)の事実から合計250万6622円にすぎず、これをいま仮に相手方に有利な本件土地、建物の売買代金(現価は売買代金より高くなつている)に対する比率でみると、約10分の1に当る。

(3) そして、前1の(4)ないし(6)の事実によれば、相手方は申立人と別居後前記借入金は全く支払つておらず、そのため申立人は上記B店と国民金融公庫へ、昭和62年6月末日までに、合わせて246万1786円を弁済し、さらには相手方が買戻特約付売買をした本件土地、建物を取り戻すため買戻権を行使し、その費用500万円は○○信用金庫○○支店から相手方の名で借り入れて、本件土地、建物の逸失を防いだが、その借入金も申立人が昭和62年6月末までに249万6000円を支払つてきており、これら申立人のみによる借入弁済金と頭初購入時の自己資金のうち申立人の実質的支出にかかる額との合計は746万4448円、すなわち相手方支出額の約3倍にもなるものである。

(4) ところで、離婚に伴う清算的財産分与の判断の基準時は、離婚訴訟にあつては口頭弁論の終結時(最高裁昭和34年2月19日第1小法廷判決民集13巻2号174頁)、審判にあつてはその審判時と解せられ、また本件の如く、清算対象たる財産の取得にかかる借入金の返済がいまだ完済されていないような場合にあつては、その対外的な借入債務者が誰であるかはさておき、対内的には婚姻関係にあつたもののうち一方が離婚後専らこれを弁済する高度の蓋然性があるといつた事情は、民法768条3項にいう「その他一切の事情」に含まれ、離婚に伴う財産分与の額及び方法を定めるに当つて考慮されなければならないものというべきであり、仮に斟酌した事情に反し、他の一方が借入金の一部もしくは全部を弁済したとしても、対内的には不当利得の法理をもつて調整を図ることができるものである

(5) これを本件につきみるに、前1(3)において認定したとおり、現在未済の借入先であるB店については申立人も相手方と連帯債務者となつており、本件土地、建物を維持するため○○信用金庫から借入れた借入金については申立人には連帯保証人になつており、さらにこれらの借入金については、これを担保するため、あるいは○○信用保証協会の求償金債権を担保するため、それぞれ本件土地、建物に抵当権あるいは根抵当権が設定されているのであり、前1(6)認定の事実によれば、申立人は長男を連れ本件土地、建物以外に住居を持たず、本件建物でクリーニング受付業を営み、これによる収入を唯一の生計の資としているというのであるから、申立人自身上記各借入金の支払義務を負つていることはもとより、申立人と長男が生活してゆくためにも、相手方がこれを支払わない限り、申立人がこれを支払わざるをえないものである。

 そして、相手方は出奔後借入金を一切支払わず、申立人のみがこれを頭初の返済約束通り分割して支払を継続してきていることは前1(5)、(6)認定のとおりで、同(6)認定の申立人の収入と前記各借入金(個人借入は別とする)の分割弁済すべき月額とを比較すると、相当の困難は伴うものの申立人においてこれら借入金を分割弁済してゆくことは不可能ではない。

 これに対して、前1(2)、(6)認定のような相手方の過去の行状、現在の就労などの生活状況と申立人と別居後借入金を一切支払つていないことを綜合すると、相手方が今後もこれらの借入金を弁済する可能性は皆無に等しいということが推認できる。
 これら申立人と相手方の各事情を綜合考察すると、今後も上記各借入金はもちろん個人からの借入金も、相手方は弁済せず、申立人において支払つてゆく蓋然性が極めて高いものであるということができる。

(6) そうすると、本件土地、建物のうち相手方の借入金弁済に見合うもの(10分の1)以外の10分の9は、申立人と相手方との間の離婚に伴う清算的財産分与として申立人に帰属せしめるのが相当である。

3 ついで本件離婚による申立人の相手方の慰謝料請求権の有無及びその額についてみるに、前1(2)、(4)及び(5)の認定事実のうち、申立人と相手方の婚姻から離婚に至る経過、婚姻中における申立人、相手方の行状、生活ぶりに関する事実によれば、本件離婚に至つたについては相手方に帰責事由があり、この離婚により申立人は多大の精神的苦痛を受けたものであるということができ、この苦痛に対する慰謝料の額は、相手方の本件土地、建物に対する前記実質的持分ともいうべき割合である10分の1、すなわち前1(7)認定により本件土地、建物の本件審判時の価額は2462万7953円と認められるから上記割合は価額にして246万2795円となるところ、これを下らないものということができる。

4 以上のとおりであれば、清算的財産分与及び申立人と相手方との離婚に伴う慰謝料の合計額は、本件土地、建物の本件審判時の価額を超える額である。申立人と相手方が婚姻中に形成した財産としては、本件土地、建物以外にはなく、申立人は財産分与として本件土地、建物を分与されることを望んでいること、前述のとおり申立人と長男は本件建物に居住し、申立人は同所で営業していること、相手方は本件建物を出て、他所で居住しまた稼働していることに鑑みると、上記金額の財産分与の方法としては、申立人に本件土地、建物を分与する方法によるのが適切妥当であると判断する。

 なお、財産分与にあつては、いわゆる扶養的財産分与も含まれるわけであるが、以上認定、判断してきた、申立人と相手方の離婚後の状況、これまでの経過期間、今後の生活状態の予測及び本件土地、建物を申立人に分与することなどを考え合せると、申立人に対し扶養的財産分与を認めなければならない必要性はない。

 よつて、申立人に対し、実質的には本件土地、建物を分与するところ、前述のように本件土地、建物は相手方と申立人の持分各2分の1の共有となつているので、財産分与として相手方の上記持分を申立人に分与することをもつて足るので、本件土地、建物の相手方の持分全部を申立人に分与することとし、主文のとおり審判する。
 (家事審判官 岩谷憲一)
以上:6,653文字

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