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別居後財産減少財産を除外し別居時財産で財産分与を命じた判例紹介

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平成30年11月30日(金):初稿
○「夫婦共有不動産持分権全部を妻に財産分与した家裁審判紹介」の続きです。
この家裁審判では、「離婚に伴う清算的財産分与の判断の基準時は、離婚訴訟にあつては口頭弁論の終結時(最高裁昭和34年2月19日第1小法廷判決民集13巻2号174頁)、審判にあつてはその審判時と解せられ」と述べており、確かに34年2月19日最高裁判決は「民法771条によつて裁判上の離婚に準用される同法768条3項は当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、財産分与の額及び方法を定めると規定しているのであつて、右にいう一切の事情とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解する」と述べています。

○しかし、現在は生産的財産分与の基準時は別居時との考えが家裁実務の一般的見解です(東京家庭裁判所家事第6部『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情第3版』判例タイムズ社27頁)。ですから別居後に新たに取得し、或いは失った財産があるとしてもそれは考慮されないのが原則です。

○別居後40日たらずで離婚しかつ別居後に相手方の独断で短期間に財産の減少行為がなされている事案につき、別居時に存した財産を基準として財産分与額を算定した昭和43年3月15日長崎家裁佐世保支部審判(家月20巻9号95頁、判タ234号245頁)を紹介します。

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主  文
相手方は申立人に対し金49万6800円を支払え。

理  由
一 申立人は、相手方が申立人に対し離婚を原因とする財産分与として金55万円を支払うことを命ずる審判を求めた。

二 本件についての調査の結果および当事者間の当庁昭和42年(家イ)第160号婚姻等調停事件記録により当裁判所が認定した事実は次のとおりである。
(一) 申立人と相手方は昭和32年5月29日婚姻届出にかかる夫婦であり、長女君子、二女あゆみをもうけた。

(二) 相手方は現住所に借家して、昭和38年頃から母沢田ツルの営業名義をもつて旅館業をはじめたが、相手方の母は営業には全く関係せず、もつぱら申立人と相手方が協力し、営業は順調に伸びて、1ヵ月約10万円の純益をあげるようになつた。そして右収益をもつて家具調度備品等の購入をしたほか、家族それぞれを被保険者とする生命保険契約をなし、また家族名義で○○○信用金庫○○支店および○○相互銀行○○○支店に定期預金をなし、右預金総額は昭和42年10月23日現在で金259万円に及んだ。

(三) 旅館とはいうものの、いわゆる連れこみ客が多いので、営業成績は女将である申立人の働きに負うところが大きく、ことに相手方がバセドー氏病で約6ヵ月入院している間は、もつぱら申立人が経営全般にあたつていた。もつとも、右期間中売春防止法違反で捜索されたり、営業停止処分を受けたりして営業成績は振わなかつたが、退院後相手方は、右期間中の利益が少いのは申立人が売上金をごま化して隠したものとして申立人を追及した。また、右病気のためか気分がいらだち、些細なことを理由に申立人らに対して乱暴することが多くなつた。さらに昭和42年10月初頃、申立人が米国水兵と情交したといつて申立人を責めたので(調査の範囲では情交の確証は得られなかつたが、有夫の婦としての申立人の行為には軽卒な点があり、相手方が申立人を疑うのも一応無理からぬ事情がある)、申立人は相手方との同居に耐えないとして、同年10月23日長女、二女を連れて相手方のもとを去つた。

(四) 申立人は同年11月17日当裁判所に相手方との離婚および財産分与の調停申立をなし、同年11月30日離婚と長女、二女の親権者を申立人とする旨の調停のみが成立した。

(五) 申立人は別居時に現金14万円と定期預金証書三通(額面合計15万円)、テレビ、ミシン、夜具を持ち出したが、そのほか離婚後に相手方から給付を受けた後記現金、衣類等以外に格別の資産はなく、現在弟の経営する旅館業を手伝つて、長女、二女ともども事実上弟の扶養を受けている。

(六) 相手方は、申立人が家を出て後前記定期預金全部を逐次払戻を受けまたは解約してしまつた。相手方は、右金員を旅館の修理改築費や宣伝費、維持費、相手方の生活費に費消したと陳述していたが、その後に至つて右金員の一部45万円を架空人名義で再び定期預金にしている事実が判明し、右事実から推して他にも匿名による預金があるものと思われる。

(七) 申立人が別居したため、旅館の経営はその中心を失つてにわかに苦しくなり、相手方は第三者に経営を委託しようと交渉したが不首尾に終つた。
 そこで、相手方は離婚した申立人を使用人として旅館の経営にあたつてもらおうと考え、申立人の意を迎える意味も含めて昭和43年2月下旬頃左の金品を申立人に給付したが申立人は結局右申出に応じなかつた。
イ 同年2月19日頃現金20万円と指輪(12万円相当)および毛皮襟巻(2万円相当)。なお右金品を受けるのと引き換えに申立人は別居時に持出した前記(五)の定期預金証書三通を相手方に返還した。
ロ 同年2月21日頃現金15万円
ハ 同年2月末頃和服三着(合計12万9、700円相当)と代金4万3、500円の洋服注文権
 なお相手方は同時に長女の衣類二枚(合計1万1、800円相当)を贈つているが、これは長女に対する贈与とみるべきであるから、申立人の受給金品に算入しない。

(八) 申立人は既述のとおり家財を持つて家を出ているが、相手方居宅には右持出家財の額に相当またはそれ以上の家財道具、営業用備品等が残されていると認められるから、分与財産の計算に加えない。また申立人は離婚後相手方より生命保険証券三通を受取つているが、いずれも払込保険料の範囲内で保険会社から貸付を受けているから、解約してもさほどの利得にならないと思われるし、相手方も右同様の保険証券2通を所持していることを考慮すると、これも財産分与の対象としないのが相当である。

三 以上に認定したところによると、申立人と相手方が夫婦として協力して作つた財産中、現実に分与の対象とするを相当と認めるものは、別居時に存した現金14万円および定期預金259万円(ただし、申立人が別居の際持出して離婚後に相手方に返還した定期預金15万円を含む)である。

 財産分与をすべきかどうかおよびその額を定めるについては離婚のときを基準にするのが原則であるが、本件においては、事実上の離婚ともいうべき別居時より40日足らずで調停離婚が成立していること、別居後相手方の独断で短期間ににわかに財産減少行為がなされており、もし離婚時の財産のみを分与の対象とするときは申立人が不当に損失し、著るしく公平を欠くこと等を考えると、前述のとおり別居時に存した財産を基準とするのが相当である。


 そこで以上に認定した離婚の経過、申立人の前記財産獲得に対する寄与貢献の程度その他一切の事情を考慮すると、相手方から申立人に対し財産分与として相当額の給付をなすべきであり、その額は金130万円をもつて相当と認める。
 ただし、申立人が別居時に持出した現金14万円は財産分与の先給付と認めてこれを控除すべく、また離婚後相手方が申立人に交付した前記(七)のイ、ロ、ハ記載の金品合計66万3200円は、財産分与の一部履行と認められるから右分与額より差し引くべきである。
 結局、相手方は申立人に対し前記130万円より右80万3200円を控除した金49万6800円を財産分与として支払うべきものと認め、主文のとおり審判する。
 (家事審判官 藤野岩雄)

以上:3,134文字

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